猫の命も9つまで!    作:継木

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翳り

 

 ――――それは、途方もない悪意。

「何だアリャ!?また入試ン時みたいな――」

「動くな!あれは敵だ!!!!」

 

 ――――プロが()と戦っているのか

()()()()()教師側のカリキュラムではオールマイトがここに居るはずなのですが…」

 

 ――――()と、向き合っているのか?

「平和の象徴…、居ないなんて…………

 ―――――()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 奇しくも命を救える訓練時間に現れた(ヴィラン)は、平和の象徴(オールマイト)を殺す。と宣うじゃないか。それが出来る出来ないにせよ黒いモヤの中からはまさか味方――でもなし、(ヴィラン)ゾロゾロ出て来てい(ポップしてき)た。

 学校自体にではなく、隔離空間に。この授業(ヒーロー基礎学)中を狙った理由はと考えると、確かに

 

「奴らバカだがアホじゃねえ。…これは用意周到に画策された奇襲だ。」

 

「お前バカなのか。捕縛布も体もひとつなのに」

「あんな数じゃいくら『個性』を消すって言っても…正面戦闘は厳しいんじゃ」

()()()()()()()()()()()()()()()13号!任せたぞ」

 

 

 敵を縛り、ぶつけ合い潰す。一瞬で(相手)との距離を詰めて的確に個性を消し(使い)、殴り飛ばした敵に捕縛布を引っ掛けて殴り掛かってくる敵にぶつけて潰す。

 敵をも利用して連携を乱し、まさに八面六臂の活躍と言ったところで。それは確かに一芸だけじゃないと言っていいほど習熟した動きだった。ただ、

「嫌だなプロヒーロー。有象無象(モブキャラ)じゃ歯が立たない」

 

 それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 あいつはドライアイだ。そうずっと目を開けていられない。13号が個性を使う暇もなくねこ達を黒いモヤが覆って…

「あ?!」

 ねこは中空に放り出された。

 周りを見渡しても同じように落ちてるのは居ない。ちょっと待ってくれ、いくらねこでも高すぎる!USJ全体が見渡せるくらい高くにほっぽり出されてどうしろというのかどうしようもないよこんなのー!!

 馬鹿でも煙でもにゃんけど高いところは忌避感が働かない。しかしさすがにこの高さはねこでも死んじゃうかも…と危機感を覚える高さだった、雄英の校舎も優に見えたものだったから。

 ねこは空中で方向転換なんて慣れたもので、下を向いてるのも死の恐怖が自重の分だけ襲ってくるし仰向けになっていてもかえって恐ろしい。怖いものみたがり(どっちも最悪)だ、情報がないよりはあった方がいいし建物の影も何も無いよく晴れた空と翳りない太陽は眩しすぎる。産まれてこのかた建物か何か…なくても木の枝や電線など様々な視界に入るものがあった。つまりは慣れてない。

 

 体を圧迫する空気の塊、否応なく重力に従う自身の身体、ジャケットのボタンは閉めたけれどそれでも裾はたなびいて航空帽も留めていなければ外れているのは違いない。びゅうびゅうさす風の冷たさや黒い戦闘服にさす日差しの暖かさ、何もせずとも景色は変わる。そして死ぬ。もうそれこそに浮遊感どころか落ちていってるんだから間違いなく死んでしまうようなところだったけれど…。

 

 

 幸いにもねこが現れた場所は、平面だけで言うならUSJで1番高い木のある座標。つまりだ、

 

「あ゛あ゛あ゛ヴに゛ゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

 

 梢にぶっ刺されてあぼんするのを気合いで身体を捻って避けたねこは枝の間をポン、ポン、ポンと鞠のように跳ねて…しかしギリギリのところで死ななかった。

 骨折は数え切れない、複雑骨折三ヶ所、脳震盪に無数の打撲etc.でなにか違っていたら半身不随どころか死んでてもおかしくはなかったらしい。

 コヒュー、コヒュー、と全身の痛みに喘ぐねこは、もっと幸運なことに(ヴィラン)が全くいないところに落ちていた。絶ッッ対に許さないからなあのクソモヤ…!!!呪いながらも、ねこの意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

「16…17、……18…19。()()()()()()な。君たち、心当たりはあるかな」

「……!!ねこが居ないです!」

「…ねこ?」

「はい、えっと、僕の兄妹で…痛ッ―」

「きみは早く保健室に――」

「とりあえず、今いる生徒たちには教室へ戻ってもらおう。すぐ事情聴取ってのもいかんだろうし…」

「刑事さん。先生方は…」

 不安そうに尋ねる生徒に、塚内はスマホを取り出しどこかに電話する。なにかの許可が取れたのか、そのままスピーカーにして…

 

両腕粉砕骨折に顔面骨折。脳系の損傷は見受けられませんが眼窩底骨が砕けており…後遺症は残るかと

「…だそうだ。」

「13号の方は背中から上腕にかけての裂傷が酷いが命に別状はなし。オールマイトも同様、彼に関してはリカバリーガールの治癒で充分対応可能だそうだ。」

「ねこちゃんにデクくん…」「緑谷くんたちは…!?」

「緑…ああ、彼は今から保健室に行く。」

「ケロ…緑谷ちゃん…、ねこちゃんはどうかしら。」

「現在捜索中だ」

「……………!!」

「捜索に長けたヒーローがいたら良かったんだけど、生憎ここには来ていないんだ。だから人海戦術をやる(みんなで探す)しかないんだよ」

「校長先生…」

「セキュリティの大幅強化が必要だね。」

「ワープなんて『個性』、ただでさえものすごく希少なのによりによって敵側…」

 

「塚内警部!約400m先の雑木林で…」

「緑谷少女は…」

「それが――…」

 

 

 

 

 

 その後ほどなくして見つかったねこは緊急搬送されてICU(集中治療室)に入った。勢いよくぶつかりながら落ちたような、内臓破裂をしていないのが不思議なくらいに全身グチャグチャの打撲痕塗れだったので運ぶのも細心を期したがなんとか一命を取り留めた。特に四肢が酷く、この個性社会においてすらギリギリ間に合っていなかったら義肢になっていたと言わしめるほど酷かった。右腕と両脚だ。

 引子がそれを伝えられた時なんか大急ぎで車を飛ばしてICUの扉のすぐ近くにあるベンチで号泣しながら愛娘の無事を祈っていた。

 

 だって、愛おしいこども達だ。無茶なんてしないで欲しいし、怪我はもっとしないでほしい。私よりも長生きをして、平穏無事に生きていてほしいというのは純朴(平凡)祈り(願い)だ。

 出久も、雄英に受かってからは無茶をして四肢を壊しては治癒されている。と伝えられているのでことさらに彼女はその、小市民的な(ありふれた)ごく一般的(極めて普遍的)な子を想う気持ち…親心を痛ませて無事を祈り、泣いて、泣いて、泣いて泣いて泣いて泣いた末の8回目の脱水による気絶で、きゅうとベンチに横たわった。

 

 

 

 彼女が起こされたのは、日もとっぷりと暮れたくらいの事だ。

「寝子は――あの子はどうなりましたか!?」

()()()()()()()()()()()()()()。」

「――――――。〜〜〜〜〜ッ!、!!!!」

 わーんと安堵のあまり声を上げてへたりこんだ引子は、医師から経口補水液を貰いそのまま病室へと案内された。

 まだ気を失っており、全身を包帯やギプス、ガーゼなどで固定されて必要なところは1度切開して縫って…と処置された姿は痛々しく見えて引子はまた卒倒しそうになったが気合いで堪えて我が子の下へ駆け寄る。

 

「一時は危ない容態でした。緑谷寝子さんは傷が塞がるのが()()()()()ですね、細かな傷はもう塞がり始めていたし。複雑骨折もありましたが…このままだとふた月程で完治するでしょう。こんな酷い傷も完治するのが早いなんて、ヒーローに向いてますね」

 

 引子はもう、泣きそうだった(泣いているけれど)。我が子を送り出して、一時は命も危ないという状況になったのに掛けられる言葉が()()()()()()()()()()()

 

 

「………違います

ウチの子は、ヒーローになるために産まれてきたんじゃない。なにかにならなくてもいいんです、ただ元気でいてくれれば……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方それより少し前、保健室はお通夜のような状態だった。(ヴィラン)側の『個性』によってバラけさせられていたので仕方はないというのは言い訳だ。緑谷寝子が重傷で倒れ伏している間に、(自分)は何をしていた?「私が来た」と宣いながらも、そこそこ苦戦させられていた平和の象徴は、彼女に何をしてやれた?

 今となってはもう遅いけれど、何をしてやれたのだろうか。あの混乱の中ひとり孤独に、全身に痛苦を抱えて、それでも生命を繋いだねこくんに。

 

「私は、無力だ…………………」

「そんな!オールマイトはすごいですよ、あの黒い…僕たちが手も足も出なかった敵を倒してしまったし、あなたのおかげであの敵たちも逃げていった」

「いいんだ緑谷少年。…やはり衰えた。緑谷少女が絶望に喘いでいる時、私が何をしてやれた?あの、脳無という敵にいいようにしてやられていただけだ。」

「まさかそんな、」

「違いはない、…平和の象徴がなんだ。きっと絶望の只中にあった少女ひとりですら救えやしない。」

 

 

 沈痛な面持ちでとつとつと語るオールマイトに反論しようとするも、緑谷出久はやはり何も言えなかった。感情面ではそれを否定したいのに、彼の言う事実は何も違えたところがなく何も言えなかったんだった。

 リカバリーガールはというと、1ーAの教室に出向いて、細かな傷を治癒しに行っている。もちろんある程度の傷は自分自身の治癒能力に任せた方がいいのだけれど、顔の傷や、気付きにくい見えない場所にあるような傷のチェックも兼ねているのでこの場に居なかった。塚内はとっくに帰った。未だ授業中の時間なので正真正銘、このふたりだけだった。

 

「でも、オールマイト。あなたが来た時、あの瞬間。たしかにみんなは笑いました。」

「…………」

平和の象徴が来た(もう大丈夫だ)って!安堵して、貴方に希望()を見たんです!」

「………。」

オールマイト(平和の象徴)のやってきた事は確かに積み上がって来てい(誰かの希望になって)るんですよ!」

「……………!」

 

 ピクリと身動ぎしたオールマイトはなにか言おうとして、開いた口を閉じて…それから逡巡の後…「明日の朝にはねこくんの見舞いに行こうか。」と小さな提案をひとつあげた。

 

 

 

 

 

 翌日は臨時休校と相成り、無事快癒したふたりはねこのお見舞いに来ていた。ねこは全身固定されてて、寝返りすらうてないというのは酷だと思ったけれど聞いた重傷具合に2人して絶句した。

ほぼ全身が複雑骨折…!?

()()()()()()()()()()()()()()()()……って、ねこ、ほとんど(見える範囲では)無くないか」

「それが、…そのぅ」

「ねこさんの自己治癒能力はすばらしい!細かな傷などは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()おり、それでも残っていたものは…点滴をしてひと晩過ごせば()()()()()()、大半は瘡蓋が出来ていて1部は剥がれる程にです。」

「「…………」」

 そんなのってアリ?僕の思ったよりも、ねこは重傷だったらしいけど…でもそれ以上に回復も早かったそうだ。

 

「確かにこの子は擦りむいた翌日に瘡蓋をいじって剥がすような子でしたけど……………」

「やせいパワー」

「そう言うなら家ねこパワーじゃないの?」

「はっ、確かに…」

「してねこくん、君のその傷はいったいどんな(ヴィラン)に襲われたら…」

 

()()()()()()()()()()()

 

 

 ねこだけど、高すぎるのはNG。ラッキーなことに高い木が近くにあったから、多少衝撃は和らいだけど…と話すねこはこれといって何も無く。ただ事実を述べてるだけ、と実にケロッとしていた。

 

「大体どのくらいまで落とされたかは分かるかな、緑谷寝子さん。」

「知らん。でも、あそこの全景と、校舎はねこに見えたよ。」

 片っぽ欠けた耳をピコピコ動かしながら相当の高さから落とされたと伝えてくる。確かUSJと雄英校舎との距離はおおよそ3kmだ。バスを使うだけはある、シンプルながらもほぼ確実に死ぬであろう高さから落とされたんだった。

「というか、あの黒モヤぜェ〜ったいに許さない。ねこが必ずしも高いところが好きだなんて訳ないよ。まあ嫌いでもないけど、でも――――」

 

 治癒能力が高そう、というのはまさに正しく。怪我の度合いに反してねこは実に饒舌に語る。むしろ身体が動かせない分フラストレーションが溜まって3割増くらいでペラペラと話している。

 

 

「…これ、明日にもリカバリーガールにお世話になれば」

「治癒しそうな勢いだね…………………」

 そしてその通り、翌日リカバリーガールが病室を訪れた。治癒しても問題ないか調べてからねこに『個性』を使えば骨折なんて6割が完治。複雑骨折から骨折に変わった程でリカバリーガールもこんな生徒は()()()()()の個性持ち以外では見たことない…と舌を巻いていた。

 

 クラスメイト達が訪れた時間帯とはわざとズラし、再びオールマイトと出久はねこの居る病室まで訪れる。

 ――――ねこも、ふたりの『個性』に関わっているために知る権利がある。と考えたためだ。雄英体育祭も迫っているので、その話もしたい。…そんなふうに個室を訪問したふたりは、ねこがもう松葉杖をついて立ち上がれることに度肝を抜かれた。

 

「昨日の今日で!?!?!?」

「ンンーーーッ!早いね!」

 オールマイトなんかビックリして喀血した。

ねこの生命力は53万。つまりそういう事だ…」

「どういうこと?!」

「要件は分かるよ。当てよう…体育祭だ!」「そう。それと…平和の象徴の時間制限(タイムリミット)も、君に伝えに来たんだ。」

 

 

 

 重なる無茶(事件)に次ぐ無茶(襲撃)でもう活動時間は一時間を切り、平和の象徴(無敵のヒーロー)というハリボテ(偶像)が大きく音を立てて、あるいは静かに倒れること。

 象徴の卵(緑谷出久)…言うなれば次世代のオールマイト(平和の象徴)を、二週間後に控える雄英体育祭で認知を広げさせる。ということを、ゆっくりと話した。その間なるべく誰も近づかせないようにと頼んであるし、引子さんは車で出久を待っていた。

 

 しかし、やはり出久は前を見れなかった。そっくりな双眸(かお)を、でも確かに違うとわかるその()を直視出来なかった。救えなかったんだ。…その事は彼の心に、まるで死の陰の谷に遮られたように、色濃く陰を落とした。

 

 

 

 

 ――――雄英体育祭まで、あと二週間。







 ウッヒョ〜〜〜〜!!7割くらいを5時間で書き上げられた筆の速さが怖いです。筆が乗りすぎ(エタるのは嫌だ!エタるのは嫌だ!)ルビ芸で遊んだり校正してると30分くらい過ぎてます。なんでぇ…?
 実は曇らせも大好きです………………ブギウギな例の作品もウキウキで読んでいます………
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