極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年4月17日、第1次ヤキン・ドゥーエ攻防戦が行われた。
……将が将だけに地球連合軍の敗戦が決定していた戦いだったが、地球連合軍は勝つまではいかなくとも善戦するだけの手札は持っていた。
フォーク准将は判断を誤りその手札を失ってしまった。それ以降は誰がやろうが如何に負けるしかない戦いだと後世からは評価される事になった。
敗戦する戦いに駆り出される兵士達は、意外な事ではあるが開戦当初は善戦していた。
……第5艦隊が運用するセイバーフィッシュ部隊は防衛側に取って火力が高く厄介だった。
そして、それが唯一地球連合軍に残された活路であり、手札だった。
「優先順位を変更する。……メビウスより先に仕留めろ。アレは要塞潰しだ」
ザフトの司令部はセイバーフィッシュの火力を見て全体に通達した。
地球に攻め込んだ際は機動性の低さ等が目立っていたのでメビウスの方が脅威だった。
しかし、ザフト側が防衛する立場になると評価が逆転した。
「ザフトの攻勢においてセイバーフィッシュはミサイルランチャー等の強力な火器があった。……それは当たらなければ良かった」
司令部は説明を求めるMSパイロット達にわかりやすく説明した。セイバーフィッシュは戦闘機の発展型だった。従って、攻撃する方向も限定された。
その為、攻勢の際には不注意さえしなければ問題なかった。極論を言えば当たらなければどうということもなかった。
「だが、ザフトの守勢のこの戦い。セイバーフィッシュの火力を要塞そのものに向けられれば不味い。……来られる前に狩り尽くせ」
司令部はザフト全体に通達した。対MSでいえばメビウスの方が脅威といえた。だが、セイバーフィッシュが防衛圏を突破すれば不味かった。
「これは……軍司令部に伝えろ。セイバーフィッシュが優先的に狙われていると」
地球連合軍第5艦隊のセイバーフィッシュ部隊を指揮する現場指揮官はフォーク准将へ現状を報告した。
地球連合軍はメビウス部隊が活躍する一方、セイバーフィッシュ部隊が撃墜されていった。
現場指揮官からすれば総合評価では上なメビウスが後回しにされているように見えた。
「パイロットを確実に葬るよりもセイバーフィッシュを一機でも無くすのが目的に見える。これは明らかに敵は目的意識があって動いている」
別の部隊指揮官もフォーク准将へ通達した。セイバーフィッシュ部隊を率いている経験則的に明らかにおかしかった。
南アフリカ統一機構からのパイロット達が緊急脱出してMAアルカに回収されていた。
……不幸中の幸いにしてはケースが多すぎた。戦艦、その次にセイバーフィッシュという順番で動いているように見えた。
「メビウスが残っているのなら問題ない。そのまま攻勢を続けろ」
フォーク准将は現場の声を無視した。……ある意味正しくもあるので兵士達は従っていた。
地球連合軍側はザフトがセイバーフィッシュを要塞潰しの火力要員として運用される事を恐れていると察していなかった。
局所的の気づきを集めれば全体がセイバーフィッシュを優先的に落としているとわかる。
戦死した第5艦隊前任司令官・コンスコイ中将ならばセイバーフィッシュの火力を恐れていると即座に判断できた。
コンスコイ中将ならばこの報告を見て即座にメビウスを前面に押し出してMSジンと交戦させ、セイバーフィッシュを温存させる方策に切り替えられた。
この判断が出来ない時点で既にフォーク准将の計画と評する物は破綻していた。
元々論外だが、フォーク准将はそれを実行する能力すら無い指揮官であると優秀な者達は断言できた。
察しの良い佐官は情報が集まるに連れてこれは負けると判断出来た。
彼らはアルカの撤退支援と評して下がる準備を始めていた。マケイン少将はフォーク准将のご機嫌取りに奔走し、撤退する彼らに続くように誘導していた。
……フォーク准将が認めなくとも第6艦隊のマケイン少将を言い訳にすれば何とかなった。
マケイン少将は死ぬ覚悟で道化を演じて軍全体を誘導していた。
マケイン少将は戦わない事が出来ないのであれば自分とフォーク准将の首級を敵に捧げる計画を立てていた。
将官自ら死ぬつもりの道化だとは敵味方の誰も思わなかった。
結果としてマケイン少将は自分の評価を地の底に落とす事と引き換えに味方を撤退させる事に成功していた。
マケイン少将は敗戦濃厚になった際、フォーク准将の我儘に巻き込まれて徒に死ぬ兵士を減らす努力を行っていた。
敗戦の原因であると徹底的に貶められたマケイン少将の真意を気がつく事が出来たのは少なかった。
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『先ず敵を攻める。そして高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する』
ヤキン・ドゥーエ戦に際して地球連合軍第5艦隊司令官のフォーク准将が示した方針である。
要するに行き当たりばったりであるが、この考えそのものが悪い事ではない。
戦場では想定不能な事態が多々発生する。柔軟性を持たせて臨機応変に対応できる事は寧ろなるべく推奨される事でもある。
歴史に名を残す軍人達もフォーク准将の言う戦術ならば似たような事を行ってきた。
……問題はこの方針は前提があって初めて機能する事だった。
明確な軍事的目標があって行われる戦術論であり、断じて軍事的な目標ではない。フォーク准将の言う事は順序が逆だった。
士官教育で華々しい戦術しか学んでいない事が明らかであった。フォーク准将は机上の空論をそのまま引用していた。
だから実戦に投入されるまで、看破出来る者達からは口先だけと非難していても完全に排除はされなかったし、出来なかった。
……将官として論外の極みみたいなところである。コズミック・イラ70年間で大規模な戦争がなかった為に生まれたモンスター、その集大成がフォーク准将という男だった。
フォーク准将がこの方針を説く前にやることは本当に基礎の基礎であった。
ヤキン・ドゥーエを攻め込んで資源衛星を制圧するのか、奪い取らないまでもザフトの戦力をプラントに留めるように牽制するのか。
或いは無謀かもしれないがそのままプラントへ進軍して軍事施設にダメージを与えるのか等。……このような最低限の目標があるだけで大きく違っていた。
軍事行動に際してどこまでが目標で、どこで損切りするのか判断する大枠は最低限度は必要だった。
その為に将官という存在がいた。冷静にどこまで行うか判断し、作戦を立案する。
それがない軍隊というのは負けるまで突き進む暴徒と本質的には対して変わらない。
フォーク准将の言動はその場の判断で全部やるという結論に収束していた。このような無謀な方針で地球連合軍の大事な戦力である艦隊を動かしていた。
フォーク准将の性質が悪いのが、序盤のある程度までは勝てていたように見えてしまう事だった。
現場の判断で勝てると思えば攻め込めた。これは良くも悪くも局所的には優れていた。
反面、全体を顧みないで進んだ結果として他が負けても援護や連携がし辛い。
……その為の方針がない以上は全て総司令官が行わなければならない。
ナポレオンの各個撃破の機動戦術は動き続ける才能があってこそ機能する戦争芸術とも言えるものだった。
フォーク准将が掲げる方針で勝利を達成するには最低でもナポレオン以上の才能があり、かつ前例の薄い宇宙規模で行わなければならなかった。
……軍事に関わるものからすれば机上の空論も甚だしいものだった。
地球連合の首脳陣やロゴスは高級将校でもないのでフォーク准将が如何に無謀な事を言っているのか理解しきれていなかった。
更に最悪なのが、その統制するための将官であるフォーク准将がそれを認識していない事だった。
彼はそれ以上の才能があると思い込みつつ、現場に丸投げしていた。つまりは最初から責任を放棄していた。
マケイン少将がフォーク准将の本質に気がついたのは第13艦隊やザナドゥの存在を敵視していただけでなく軽視していたからだった。
ザナドゥを敵視するのは兎も角、軽視するような軍人が戦争芸術とでも言うべき無理難題な運用が出来るはずがない。
補給網に軍事技術、世界各地の要所を抑える手腕を十年未満でやってのけている組織である。
ブルーコスモス・過激派ですらザナドゥを軽視するのは論外だった。
フォーク准将はそのようなアズラエル等からして見切りつけたくなるような過激派達未満なのが気づかれないままに将官となっていた。
勝っているところは自分の戦果、負けているところは努力不足の足手纏い。
敗戦して生き残らせればブルーコスモス・過激派の擁護もありフォーク准将の言い分がまかり通ってしまった。
フォーク准将は高級将校としてあってはならない要素の塊であり、悪夢のような人材であった。
せめてもっと下の階級であればそれなりに活躍出来たかもしれない。
だが、フォーク准将は地球連合軍の責任ある将官として存在していけないとマケイン少将は断言できた。
マケイン少将はフォーク准将をここで自分と共に戦死させると決めていた。
後世の評価が大戦犯ではなく、理論だけの頭でっかちとして死んでくれとマケイン少将は心の底から願っていた。
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第1次ヤキン・ドゥーエ攻防戦、その敗戦を聞いたザナドゥ代表・クシーは地球内の復旧作業に掛り切りだったが、一時手を止めて確認した。
「……第5艦隊・総司令官フォーク准将が戦死。あいつは全力で生き残る為に逃げるぞ。間違いないか?」
クシーは報告を受けて確認した。フォーク准将は良くも悪くも安全地帯を確保するタイプの軍人だった。
あのセオドア准将は逃げるが逃げられないと判断すれば自爆するタイプである。フォーク准将はその最低限すらないタイプだと分析していた。
……クシーは忙しすぎて軍事面では後手になっていたが、ヤキン・ドゥーエ攻防戦の後に言い訳出来ないように潰す策を頭の片隅に入れていた。違和感があった。
『フォーク准将に傾倒しているマケイン少将が不良と判断した軍人を下がらせ、防御が薄くなったのが原因のようです』
ザナドゥのシンパであるムラノフ中佐はクシーの問に答えていた。
以前、東アジア共和国の超人機関に関して密告したムラノフ中佐は何とか逃げおおせていた。ザナドゥに亡命するかクシーは提案していたが、自分は残るとムラノフ中佐はスパイ活動を継続していた。
なお、地球連合軍内の暗部では不死身のムラノフという二つ名が付けられていた。ムラノフ中佐はクシーにこそ相応しい二つ名だと思っている。ムラノフ中佐が知る限り、クシーはどうやったら殺せるのか意味不明な生態をしていた。
『マケイン少将はアルカに乗せた部下達を逃がした後にフォーク准将と合流し、その後同様にアルカで撤退しようとしたフォーク准将と共に逃げ遅れた……と分析されています』
ムラノフ中佐はこれまで出てきている情報を分析し、軍内での結論をクシーに報告した。
第6艦隊のマケイン少将はそこまで落ちたかとムラノフ中佐は少し失望していた。
「……逃げ遅れたのではないな。フォーク准将を殺すために残ったのが正しい」
クシーはムラノフ中佐の報告を否定した。軍内の結論は幾ら何でも都合が良すぎた。
フォーク准将はそこまで自分の防備を手薄にしない。というよりも出来ないとクシーは見切っていた。
地球へのNJ投下により大分後手になってしまったが、フォーク准将の厄介さを理解したクシーは対処するために政治工作を計画していた。脳内で霧散したと同時にまた失ってしまったと悔いた。
「フォーク准将が調子の良い時に果物の皮でも剥くように手勢を削ぐ。最終的にマケイン少将がフォーク准将の逃げ場を保証する形に持っていけば可能だ」
クシーは淡々と考察を進める。マケイン少将という人物の成した暗殺である。
クシーとしては確実に殺すという意思、これ程までの殺意は早々ないと評価出来た。
「最後までフォーク准将の下僕のように媚びたのだろう。大した道化だ。……マケイン少将か、会ってみたかったな」
クシーは証拠も何もなく敗軍の愚将として成し遂げたマケイン少将の偉業を讃えた。
最初からこの能力があればザナドゥと手を組むなり出来た。故に戦いを避けられない何処かの時点で覚醒したのは間違いない。
……何処で覚醒したのかわからない。兵士を巻き込んだ事は非難されるべきである。
だが、自分を貶める事を前提に敗北を利用してまで実行するのは常人には到底出来る事ではなかった。
『…………』
ムラノフ中佐は突拍子もないクシーの推理が辻褄が合うのを察して黙り込んだ。
……そうなると地球連合軍はマトモな人材を失ってしまった事になる。
ムラノフ中佐はもっと前にクシーに報告すべきだったかと悔やんだ。
だが、クシーは忙しすぎてキャパシティを明らかに超えていた。
ムラノフ中佐は自分の至らなさから歯ぎしりをしていた。
「飽くまで私の推測だ。……済まない。ムラノフ中佐」
クシーはムラノフ中佐の責任感を気遣えなかったと謝罪した。余計な事を言ったと思った。
クシーは自分の胸の内で秘める事がストレスになっていたと察した。
『いえ、勿体ない言葉です。……私も聞けて良かった』
ムラノフ中佐は正直に告白した。マケイン少将は個人的に合わない人間だった。
だが、あそこまで落ちるような人物ではなかったとムラノフ中佐は自分が彼を評価していたのだと悟った。
納得いかないが故の憤りが嫌悪に繋がったと自己分析出来ていた。……ムラノフ中佐はクシーの余計な一言である意味救われていた。
「……そうか」
クシーはムラノフ中佐がマケイン少将と過去に何らかの関わりがあったのだと察した。
友人ではないが気にかかる程度の間柄が納得できない死に方をすればこうなると分析した。
男同士だからこそ共感出来る沈黙はマケイン少将への黙祷になっていた。
なお、ムラノフ中佐はクシーが精神的に追い詰められていないか少し心配になった。
……女性のいる店でも紹介出来れば良いのだが、言えば怒るのは確実である。
良く言えば貞操観念の強い、悪く言えば童貞を拗らせたようなクシーに対してかける言葉が思いつかなかった。
ムラノフ中佐もかつての上司から無理やり付き合わされた口だったので自分からは不得手だった。
こうしてザナドゥのシンパの中でクシーの童貞拗らせ問題は浸透していった。
後日、ザナドゥのシンパであるユリカ少佐と会話した際に童貞なんですかと直接聞かれたクシーは激怒した。
横で聞いていたベラは思わず吹き出した。誰だこんな愉快な事をしたのはと思った。
……ベラはムラノフ中佐を生真面目な軍人として知っているので発生源とはわからなかった。
ムラノフ中佐、彼もまた生真面目な童貞だからこそ噂の発生源となっていた。