極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年4月18日、ザナドゥの兵器開発部では副主任のルリや助手達、元ハービック社の技術者達によりセイバーフィッシュの改修案が議論されていた。
ハービック社の既存の戦闘機パイロットの転換訓練が短く済み、パイロット達が速やかに戦力として運用できる機体。
そのコンセプトによりセイバーフィッシュは作られていた。地球連合加盟国が行う地球連合軍の規格統一の弊害を少しでも軽くするという側面もあった。
現に南アフリカ統一機構等の整備士達の中には地球連合軍の規格に合わせるのがキツい者も多かった。
そこに航空機の老舗であるハービック社が関わった事によりセイバーフィッシュの整備で旧来の規格と新規格を慣らせた結果、廃業せずに済んだ者も多かった。
セイバーフィッシュは火力はメビウスよりも高く、機動性も悪くない。しかし、MSの動きに対応するのにやや難があると報告を受けていた。
メビウスは宇宙専用MAである分、従来の戦闘機よりも機動性が高く能力も優れていた。
他方、セイバーフィッシュはクシーの提唱した『多用途戦闘機』構想を取り入れた画期的な戦闘機型MAでもあった。
換装さえすれば大気圏内、宇宙空間でも運用が可能である。航空機乗りが宇宙戦闘機のパイロットになれる。
セイバーフィッシュはスピアヘッドとメビウスを両立した機体であった。……その先進的なシステムが故に課題があったのは確かだった。
開発時期でいえばセイバーフィッシュの方が遅いが総合的な戦闘力でいえばスピアヘッドやメビウスが高かった。
汎用性で言えば地球でも宇宙でも運用可能なセイバーフィッシュが上回った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ザナドゥ兵器開発部は現在、ザナドゥ代表・クシーの方針で各種MSの開発に力を注いでいるが、既存のザナドゥ産のMAを無視するわけではなかった。
大勢の兵士達に使われているMA等を改善して犠牲を減らすのはザナドゥの方針でもあった。
例えばミストラルである。地球連合軍の兵器なのでザナドゥ産ではないが改修機を出していた。
世界樹攻防戦において第13艦隊の旧式艦隊『鉄屑艦隊』は特殊弾仕様のミストラルを使用し、ジンを行動不能に追い込んでいた。
だが、遮蔽物等でジンの攻撃を躱せるような特殊な状況を作らない限り戦力にならなかった。
メビウスが主力となった結果、大量に余ったミストラルを活用できないか考えられた物だ。
現在ミストラルはそこまで余力のない中立国や民間輸送等の自衛用に使われている。
核動力がNJで封じられた事もあり、地球連合軍では旧式艦隊とミストラルの部隊も一部残っていた。
また、作業用MAとしてミストラルは優れているので非常時の物資運搬等に使う為に現在でも軍艦内部にミストラルは一応配備されていた。
それらはザナドゥで改修したミストラルに置き換わっていた。中破したジンならば攻撃が通じる程度の火力が底上げされた機体であった。
ミストラルの火力が多少上がったところで真正面から戦えば瞬殺されるので最低限の自衛と時間稼ぎでしかない。
しかし、改造ミストラルはコロニーの防衛用としては優れていた。
相手を無効化することに主眼を置かれた特殊弾仕様のミストラルはコロニー外壁等を傷つけることのない。ヘリオポリス等では売れていた。
ただし、ここまで普及している改造ミストラルに関して利益がザナドゥにそこまでなかったりする。
ジャンク屋組合は撃沈した第13艦隊の改造ミストラルを火事場泥棒して技術を盗んでいた。
今、ザナドゥで製造された改造ミストラル関係の技術で一番儲かっているのはジャンク屋組合であった。
技術盗用されたザナドゥは勿論、地球連合軍産のミストラルの改修機なので地球連合軍はキレた。
結果、ザナドゥのブラックボックスやセキュリティは解析する難易度が更に向上していた。盗用されない為にガチになっていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そんなザナドゥ兵器開発部の今回の議題はセイバーフィッシュに関する現場の声にどう答えるかである。
もう少し機動性を改善して欲しい。小回りが効くようにして欲しいという声だった。
……機動性の改善は兵装を減らせば出来なくもなかった。
セイバーフィッシュの兵装は機関砲4基にミサイルランチャー12基等がある。
メビウスの有線誘導式対艦ミサイル4基に比べてもわかるように火力が高い。
メビウスのような機動性は無理だったため、MSジンや戦艦を仕留める火力を確保する方向のコンセプトで設計されていた。撃てる数だけみれば3倍である。
機関砲やミサイルランチャーを減らせば機動性の問題は若干改善する。
「有線誘導式対艦ミサイルの方がMSの動きに当てられるのは確かですが、やはりセイバーフィッシュのパイロットは有線ミサイルが使いづらいとの事です」
元ハービック社の技術者はルリ達へ報告した。有線ミサイルは機動するMSに有効ではあるがパイロットに求められる技能が高かった。
ミサイルランチャーを有線ミサイルにするかはセイバーフィッシュの設計の段階でかなり議論されていた。
「有線誘導式対艦ミサイルはMSの動きを考えながら操作する必要がありますし、既存の戦闘機パイロットは誘導装置で狙い撃つ。この感覚を直すだけでも中々キツイでしょうね……」
ルリの助手がナチュラルとして補足した。戦場ではNJの効果により電波障害が発生していた。従って電子誘導装置の類が機能し辛い。
メビウスはミサイルを操作しながら機体も操縦する。……これがナチュラルのパイロットにはハードルが高かった。
「補助AIやOSの最適化を進めていますが、それでも厳しいですか?」
ルリは自分の感覚とのズレを無くす為に確認していた。
セイバーフィッシュとメビウスだと新規のパイロットは同じ程度の訓練で済んだ。
補助AIやOSが大分改善されているので初期のメビウスよりは遥かに取得難易度が低い。
「……ザナドゥの構成員は皆、車の免許感覚でスピアヘッドやメビウスのパイロット免許を持っていますからね。感覚がおかしくなるのもわかります」
元ハービック社の社員はルリの言葉にザナドゥがおかしいのだとツッコんだ。
ナチュラルもコーディネイターも関係なくザナドゥでは受付嬢からマスコット、役員まで全員メビウスのパイロット免許を持っていた。
ハービック社の社員達はザナドゥの構成員が車感覚で操縦出来る状況にドン引きした。コイツらは一体どこと戦争する気だと思っていたが最近慣れてきていた。
「……有線誘導式対艦ミサイルは一旦保留にしましょう。昨日のヤキン・ドゥーエ攻防戦にてセイバーフィッシュの火力が大きく戦局に関わった事例が報告されました」
ルリはクシーが馬鹿みたいに免許を取らせているのはやはりおかしいと再認識した。ある意味、ズレが直ったので少し話題を変える事した。ヤキン・ドゥーエ攻防戦で興味深い報告がなされていた。
「ううん……では、昨日の報告からどういった経緯でセイバーフィッシュが……」
ルリは軽く咳払いをして説明を開始した。小さな少女が可愛らしく大人ぶる姿勢に会議に参加している面々は和んだ。
ハービック社の長老と呼ばれる老技術者は手持ちの飴をルリに差し出した。ルリは可愛らしい苺の包装紙を気に入って素直に受け取ってしまった。……傍目からすると孫娘を可愛がる爺であった。
「今回は資源衛星でしたが、ヤキン・ドゥーエは恐らく要塞化されるでしょう。……敵から警戒される火力は維持したい要素になってきました」
ルリは端的な説明を終えた。ホログラムでヤキン・ドゥーエを映し出していた。
資源衛星の状態のヤキン・ドゥーエならばセイバーフィッシュの火力で打撃を与えられた。
ヤキン・ドゥーエ攻防戦では火力が脅威と感じられて積極的に狩られたという情報がムラノフ中佐から経由で流れてきていた。
「……セイバーフィッシュの改善も可能ではある。だが、予想されている空中用MSの事もあるし新型を作るべきではないだろうか?」
ヤキン・ドゥーエ攻防戦を聞き、ハービック社の長老は言葉を溢した。正直、下手に改善するよりも新規MA開発に人員を割きたくなってきた。
「いや、それも良い考えではあるが。予想ではザフトの新型空中用MSは初期は軽装甲であるため、火力は十分という話だったはず」
ルリの助手は長老に同意しながらも話のベクトルが違う方向になると指摘した。
操縦性を上げる新機体を作るだと今度は火力が必要なくなった。
「セイバーフィッシュを改善する方向ならば火力要員としての需要を満たせる。……空中用MSに向けた新機体は別に考えるべきかと」
ルリの別の助手は同僚の言葉に補足した。そんなポンポン機体が生まれれば苦労しない。
「だが、MAに回す余力があるかは怪しい。ザナドゥ代表は儂ら元ハービック社の人間はMA開発に回してくれるという事だが、ザナドゥは基本的にMS開発に人を割いている」
長老は認めつつも反論した。ガチで人が足りないので新機体を設計し直したい。
……だが、火力を維持しつつ高機動性を持つ機体の開発は難しいと察していた。
白熱する議論。そこに電話がかかってきた。ルリの携帯であった。
……誰かと思えばMA開発の人材不足の原因であった。ルリはザナドゥ代表・クシーから電話だと部下達に伝えて席を離れた。技術者達は議論を休戦して聞き耳立てに行くことにした。
「はい。もしもし。今、会議中だったんですが」
ルリは苦言を呈しつつも若干機嫌が良くなっていた。……クシーが態々かけてくるのは久しぶりだった。
『……ああ、済まない。私とした事が。ええと、どうしような』
クシーはルリの言葉を真に受けていた。珍しいクシーの様子にルリは言葉を間違えたかとこちらまで慌てた。
『いや、セイバーフィッシュってあったじゃないか。折角なので私も新機体を設計したんだ。ちょっと昼休憩に書いたので精査して使えるところがあったら見て欲しかったんだ』
クシーはサラッととんでもない事を言い出した。……昼休憩で新機体の設計図がかけるなら世界中の開発者は苦労しない。
『本当に済まない。つい舞い上がってしまった。後でまたかけ直すが……データだけ送るね?』
クシーはルリの動揺に気が付かないで謝罪していた。クシーにしては余りにも感情の落差が激しい。何かあったなとルリは勘づいて訝しんだ。
「ちょっと待ってください!……ってコラ!逃げるな!!」
ルリはガチで通話を切りやがったクシーに怒鳴った。……気になって仕方がない。
「ザナドゥ全体が忙しい中で電話してきたのだからもう少し言葉を優しくした方が良かったのかなぁ……」
ルリはどうにももどかしくなり落ち込んだ。だが、すぐにその想いを消し飛ばす内容のデータが端末に送信されてきた。
「『レイヴン・ソード』。機体をコンパクト化しつつ、セイバーフィッシュ以上の総合性能を理論上とはいえ達成している。……凄い」
ルリはクシーが設計した荒削りながらそのまま作成可能な図面を読み込んでいた。
ルリ達の開発したセイバーフィッシュを徹底的に効率化した機体が映し出されていた。
求められる操縦能力もセイバーフィッシュと変わらない。有線誘導式対艦ミサイルは才能が無いと難しい部分があるので適性検査でレイヴン・ソードかメビウスかを見分ける等が記載されていた。……ここまで事細かに問題を解決している設計図を出されると脱帽するしか無い。
だが、
「……ただし、ビーム兵器非対応なのが課題だから没!?馬鹿なんですか貴方!?」
ルリはキレた。クシー的に書いていて無いと思っていたらしい。……走り書きの所感が酷すぎた。
ルリは開発部としての面子があるのでキレかかったが、怒りが一周して冷静になった。ここまでの物を見せられると才能が勿体なかった。
色々思考が整理されていく。……セイバーフィッシュの改善案としてレイヴン・ソードの要素を盛り込めば新造するよりもローコストであると判断した。
「設計図は飽くまでも理論上。……一から作るのは大変なのはそう」
ルリは新機体ではなくセイバーフィッシュの改修に使った方が良いというクシーの真意を汲み取った。
レイヴン・ソードはセイバーフィッシュの発展型なので機体のコンパクト化は兎も角他の要素は改修するだけで大体取り込めた。
セイバーフィッシュの生産ラインが稼働している以上は改修で済ませられる方が経済的に良かった。
「中々……自分自身が納得する答えにたどり着くのは難しいですね。貴方もそうなんでしょうね」
ルリはクシーがMA開発に人材を寄越せという自分の言葉を覚えていたのを察した。
頭の片隅でルリの要望に応えようと延々と設計図を書いていたのだろう。
……クシーが昼休憩で書いたのは本当だとルリは理解した。クシーは無意識かもしれないが考えていたのが纏まったので大分テンションがおかしくなっていたと推測できた。
「ですが、流石にもう少し。何と言うか……」
ルリは四六時中頭の片隅で自分の言葉を考えていた男を想像した。
……出してきたのが滅茶苦茶過ぎた。だが、それでもそこに至るまでを理解出来ると愛おしくなる自分が馬鹿みたいで恥ずかしくなった。顔が熱くなったルリはしゃがみこんだ。
「……おい、引くぞ」
長老は出歯亀した自分を棚に上げた。馬鹿共をルリに気づかれる前に戻した。
何か知らないが甘酸っぱい空気である。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死ぬというが、邪魔してなくとも見ていた事がバレたら多分死ぬと察していた。
30分後、彼らはザナドゥ代表からの送付された自分達の上を行く兵器の図面を見せられる事になった。
彼らはクシーが没する気だったらしい設計図を見た。衝撃を受けると同時に技術者として発狂した。
……それくらいクシーの才能は勿体なさ過ぎた。
これを開発する気がなく、ビーム兵器がどうこうで没にするとか頭がイカれているとしか思えなかった。
ルリの提案により、セイバーフィッシュの改善点をレイヴン・ソードから導き出して解決していく事になった。
なお、クシーは後でルリだけでなくザナドゥ開発部の技術者達からも怒られた。
……レイヴン・ソードを没にした理由は理解出来てもクシーは自分の生み出した兵器への扱いが第三者からすると酷すぎた。
クシーからすれば自分の設計したレイヴン・ソードはどこまで行っても人を殺す兵器だった。
従って、ルリの為に効率化として考えていても扱いは大分無頓着だった。
クシーは開発部の技術者達からのお叱りを聞いて反省した。
……兵器であっても産み出す人からすれば自分の子どもみたいな物であると再認識した。それを蔑ろに扱ってはそれは怒られて当然だと思った。