極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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第52話 誰も認識していない相互確証破壊の実例

コズミック・イラ70年4月20日、ザナドゥ代表・クシーはカナードと会う時間を増やす為に部下達に雑務を振っていた。

 

……4月1日のザフトによる全世界へのNJ投下から漸くマトモなスケジュールを組み立てられる余裕が出来る程にザナドゥは回復していた。

 

それまでは降って湧いてくる世界各地の情勢とそれらへの対応に苦心していた。

ザナドゥは今や非核動力で世界規模のインフラ網を握っていた。

ザナドゥ代表という立ち位置は4月1日から暫くの間は世界中の国々の生殺与奪すら可能な状況であった。

ザナドゥ代表ともなれば一挙手一投足の全てが世界に与える事に繋がるストレスは尋常ではない。

 

ザナドゥが復旧の為に私利私欲が無く行動すると説明しても、復旧の邪魔するなと言ってハイそうですかと納得出来ない者達は当然いた。

というよりも世界各地で活動する組織であるので国防の観点等からすれば警戒するのは当たり前である。

そこは緊急時でも平時でも同じであった。違うとすれば核動力炉が停止し、エネルギー供給に深刻なダメージを負っていた。

 

故にザナドゥの復旧活動を一分一秒でも早く受け入れる事が万単位の人命に関わっていた。

この非常時で地球連合に宣戦布告でもするのではという流言が飛び交いパニックになる人々も発生していた。

それらの人々を無理やりにでも黙らせる許可を国の代表等から得るのはザナドゥ代表しか出来ない事であった。

 

これらの流言の原因はザナドゥ側にもあった。

これまでザナドゥは戦争反対や停戦を表明しており、反地球連合的言動が目立つ組織である。

地球連合へ恣意的な介入が無いと否定できるかと言われればクシーのさじ加減次第であった。

ザナドゥの構成員すらクシーがその気で命じる可能性が頭の片隅に入っていた。

 

そう認識されるとしてもクシーの行動には絶滅戦争になりかねない前提があり、戦争を止める意思を内外に示さなければならなかった。

予めスタンスを表明してそれを変えない事は未来を考えれば必要な行為であった。

世界各地に存在するザナドゥの構成員の中には戸惑う者も想定された。

先んじてクシーは3月20日に演説していたように覚悟を決めさせる必要があった。

今を生きる為にはザナドゥで働き続ける他ないと言い訳を用意させた。

実際、クシーの演説により今更ザナドゥから切り替えても碌な事にはならないと判断した者もそれなりにいたので懸念は正解だった。

 

クシーはNJ投下後、反コーディネイターの憎悪を無関係な者に向けられないようにヘイト管理もしていた。

世間的にプラントを擁護している組織だと一部から憎まれようがザナドゥの方針がブレればこれまでの行為は全て無駄になってしまった。

そして、NJ投下後のコズミック・イラにはあらゆる意味でマトモなブレーキ役がザナドゥ以外に最低限でも機能していないという最悪な情勢に移行しつつあった。

一応、マルキオ導師達や中立国等があるにはあるがザナドゥ程の影響を持つ組織は存在しない。

有線通信網整備での現地の富裕層とのコネクションや4月1日以降のザナドゥの活動実績等が目に見える形で積み重なってきた。

結果としてザナドゥ代表の立ち位置は場合によってはその国の大統領よりも重い物になっていた。地球連合だけでなく立場が曖昧な中立国に復旧の為に支援出来る組織は他にない。

ザフトの地球侵略が進めば変わってくるだろうが、ザフトは大洋州連合を制圧した状態で地球侵略は始まったばかりであった。

 

クシーはこの状況をザナドゥという組織を作る上で最初からほぼ予見しており、自分から覚悟して受け入れていた。

外れてくれと想いながら行動した尽くは無に帰し、最終的にはコペルニクスの悲劇で自分が開戦の象徴になるというこれ以上ない尊厳破壊を受けていた。

もう既にクシーはどれ程予期していようが、本人への負担が大きすぎた。

幾ら預言者のように行動していても、化け物染みた能力を持っていようがまだ15歳の少年である。

 

本人は偶に思い出したかのように自分の年齢を持ち出して異性愛に対して責任だのなんだのと言う。しかし、クシーはある意味で自分が最も理解出来ていなかった。

誰かに八つ当たりするわけでもなく粛々と仕事に没頭する様を見ていれば誰でも気がつけた。

客観視があれば捌け口でも良いから支える者が必要と考えるのは寧ろ自然であった。

クシーも自分でなければ理解は出来た。自分だから理解出来ていない。

クシー本人からすると余計なお世話であり自分で何とかなると思っているのが近くにいるベラが一番良く理解出来ていた。

 

……それは見ていて余りにも痛々しかった。近くにいれば居るほど今にも崩れ落ちないか不安にもなった。

クシーは世界規模の災害から如何に人命を救うか、その為にザナドゥの方針を維持しつつ相手を警戒させないか等の事で思考の大部分が割かれていた。

 

それまでならばザナドゥ芸術部門というある種同類と馬鹿やる事も出来ていたがそれも業務的になっていた。

クシーは自分の意思と人命ならば後者を取る。ザナドゥゲーム公式声明はかつて無いほど真っ当な内容だらけであり、第三者視点でも大分自重していた。

……それでも糞みたいなゲームを発表するのはクシーが素で頭がおかしいのもあるが、自分が自分であると内外に示す為の発露でもあった。

クシーはこの時、身内から見た自分という客観視が大分覚束なくなっていた。

 

もしもにはなるがキラやラクスがいれば違っていた。もしくは亡くなったザナドゥの初期メンバー達がいれば大分軽減されていた。

キラならば素の自分を知る相手に泣き言を溢しただろうし、ラクスならば適切な対応を見計らう事ができてかつ能力的にも頼る事が出来た。

今は亡きザナドゥ初期メンバーの相手によってはクシーも無茶苦茶な暴言を吐く事が出来た。

ベラはクシー本人からもういっそザナドゥを恣意的に運用してやろうか等という物騒な事を聞かされたがそういう事を吐き出す相手がいる状況である。

ベラの認識ではチト辺りが生きていれば大分無茶苦茶を言ってツッコまれるクシーの構図が見えていた。

チトはザナドゥの初期メンバーで唯一常識があるとクシーに評価されていただけあり、非常識な相談のある程度は吐き出していた。

チトの生前はザナドゥが軍事産業に進出しないでいた事からも明らかである。

 

クシーは自分自身へのメンタルヘルスの必要性を自覚していたがそれをする暇がなかった。

だからこそ無理やりな提案をベラ等はしているが理解しきれていない。

クシー本人もある程度は理解しているが、真の意味では理解しきれていなかった。

能力の全てが常人以上あっても理外の経験値が積み重なっても年齢は15歳である。

 

チトならばその辺りで先ずツッコんだ。チトならばクシー相手でも子どもが無理すんなと引っ込めたまである。

ベラは仲間の内、ある意味で最も喪いたくない人物が初期の初期で亡くなった事を惜しんでいた。

軒並み平凡でありながら一番必要とされる能力を持っていたとベラはチトが亡くなって散々実感していた。

反面、クシーはチトが生存していればザナドゥはここまでは出来なかったと理解出来るようになってしまった。

亡き仲間に対してそういう思考に陥る時点で大分クシーは危うかった。

たとえそれが事実であったとしても、クシーが亡き仲間へそう思う事は心の傷になっていた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

先日、ブルーコスモスの盟主アズラエルが公式でザナドゥ代表を擁護するような異例の発言をしていた。

同時にザナドゥが地球を裏切れば報復もすると警告もしていたが、そこはロゴスからすれば前々からそうなのだろうと思い込んでいるので大した差はない。

ちなみにアズラエルが過激派に手を焼いているブルーコスモスの細かい事情を把握出来ていたらロゴスも発狂待ったなしである。ロゴスはブルーコスモスを制御出来ていると思い込んでいる。アズラエルも態々身内の恥をバラすメリットが皆無なので言わない。

最終的にはザナドゥという抑止力を行使しないでやり切る事を明言したアズラエルの覚悟の重みは当人とザナドゥ代表等しか把握していない。

強いて言えばザナドゥの審査会の面々の一部はアズラエルが相当苦労していると察しているのでそこだけは同情している。

戦闘用コーディネイターの製造等、現状ザナドゥ内で明らかになっているアズラエルの所業そのものは論外である。

潜在的な敵対関係者であるザナドゥ内しかアズラエルの心労を理解していないという奇妙な構図になっていた。アズラエルも家族にすら言わないというか言えない。

アズラエルは胃と頭髪に結構なダメージを負いながら今日も過激派共を内心罵倒しながら調整して悪事を働いていた。

 

ザナドゥの復旧作業を阻害する事は地球連合にとってもブルーコスモスにとっても損しかない。

ザナドゥが地球連合と敵対する意思があろうとも地球連合は戦争する余力があった。

それはロゴスという世界の流通から何まで支配している巨大な組織があるからである。

何より、NJ投下という暴挙で怒れる地球の民衆が抱く報復感情だけでも戦えた。

ザナドゥにかなりの数の富裕層が関与した有線通信網等の事業は殆どそのまま軍事にも転用出来た。

 

何よりロゴスが本気になれば国家反逆罪等でザナドゥが持つあらゆる権利を理論上停止する事も出来た。

その場合にはザナドゥをどれ程甘く見積もっても地球連合にも地球にも深刻なダメージを負う事になる。

従って、資本主義の権化たるロゴスはそこまで踏み込めない。しかし、可否を問えば理屈的には可能であった。

 

……要はロゴスも地球連合もザナドゥと争っても無益過ぎた。ザナドゥが地球各地で愚民の為に復旧や復興に尽力すればその分だけ地球内部の国力も回復する。

世界各地のインフラを抑えている組織が自爆するだけでも最低10億近い人々が死ぬだろうが、逆に言えばその程度である。

ロゴス内での取り決めであるが、この戦争においては大西洋連邦という国家を賭けの担保にしていた。

その犠牲を踏み倒して実行するならば地球連合も流石に危ういがザナドゥはその選択肢は取れない。

 

「詰まる所、ザナドゥのあの小僧と我々の間には相互確証破壊が機能している。……現在のロゴスには無益な扇動を自ら進んでする者は居ない」

ロゴスに所属する世界各地の主要企業全ての大株主である老人は部下の懸念を一蹴した。

懸念とはザナドゥの暴走についてである。老人からしても理外の存在ではあるが暴走するならとっくにしていたので放置する。

ザナドゥが暴走したらロゴスも本気でクシーを排除して戦争する他ない。正直、ここまでになると地球連合が勝っても負けても致命傷になりかねない。

 

「最低でも戦争の推移が判断出来るまでは放置だ。……ザナドゥが保有する利権を手放す意思が僅かにでも見られたらどれ程の値でも買い占めろ」

老人は部下に改めて命じた。ロゴスはザナドゥに経済的に勝っている。

強いて懸念する事を挙げれば現段階でザナドゥの方が愚民達の生命線を握っている事である。

他のロゴスの面々はクシーに恐怖している者もいるが、採算度外視にすればザナドゥはどうにかなると老人は分析していた。

 

「最悪、愚民が10億でも50億でも死んでも良いと割り切れば良いだけだ。……それを出来ないのは損切りをして来なかった儂にも言えるが」

ロゴスは資本主義の権化である。それ故に資力を担うインフラに深く食い込んでいるザナドゥを排除する事は論外だった。

海上覇権をユーラシア連邦が握り、インフラはザナドゥが担いつつある現場を老人は嘆いた。

民衆など何億死のうがまた湧いてくる。老人はロゴスにとっての未来の為に耐え忍ぶ事を選択していた。

ザナドゥはクシーという個人で成り立っている。隙を見せればザナドゥの全てを奪い取ると老人はロゴスの一員として使命感を抱いていた。

……それの使命感が誰かに関与されていたとしても気が付かなかった。老人はこれまでの人生を全て自分で選択したように思っていた。

 

 

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一族という存在はロゴスを裏から支配していた。故にこのような常軌を逸した狂気に走らせる事も可能であった。

……本来ならばロゴスの一人ではなく全員をこのような状態に出来た。

だが、現在ではクシーやキティ、それに恐らく元姉まで動いて暗躍していた。

一族の当主であるマティスはこの時代で起こり得ないイレギュラーが多発し過ぎていると察していた。巫山戯ているのかと憤慨していた。

 

なお、キティことメアリ・クリスティはクシーの邪魔になるから消したいだけなので邪魔しないならば放置して置きたい気分だった。

……クシーはメアリが動くと察して任せて来たのは嬉しかった。

だが、未来予知能力者相手に立ち回るのは大変過ぎた。メアリはマティスさえいなければ速攻でクシーを落としていた。

現在、ザナドゥ本部に住み込んでいるにも関わらずメアリはクシーと話す頻度が増した程度であった。

……メアリはマティスが勝手に転んで今すぐに死なないか等という妄想を考え始めていた。

クシーと協力出来ればマティスを確実に殺せるだろうが、現状のザナドゥにはそのような暇も余裕も無い。

ミケランジェロことマティアスもただでさえ感じている責任を悪化させて現当主の妹諸共自爆でもしかねないのであまり事を大きくすることも躊躇われた。

 

何だかんだでミケランジェロがザナドゥの大事な仲間であるという意識はメアリにもあった。

代表であるクシーならば尚更である。メアリは一族がザナドゥへ邪魔が出来ないように牽制しつつ隙を伺っていた。

……ロゴスの幹部がザナドゥへの制裁が発動した瞬間にメアリによって一族が滅ぶくらいにはなっていた。

 

相互確証破壊は世界に暗躍する者達の間で構築されていた。

故にエイプリル・フール・クライシスの死者が3億人しかないのを一族は多少の邪魔はしても基本的に見ている事しか出来なかった。

一族は発生するはずだった7億人の口減らしをザナドゥを滅ぼしてからやる必要になった。マティスは一族史上最大の難問を突き付けられていた。

ザナドゥを存続させたままの状態でかつ歴史の分岐点で安定して人類を殺戮出来そうなのはブレイク・ザ・ワールドくらいであった。当然ながらこれだけではまるで足りなかった。

 

「キティを始末して、ザナドゥという異分子を歴史から排除して……」

マティスは歴史を修正して正しい世界にするために策を考えていた。……ただ殺せば良いというわけではないので困っていた。

一族にとってザナドゥという組織は意味不明なエラーであり、空前絶後とも言えるイレギュラーであった。……少なくともマティスがどれ程調べようが何処から湧いてきたのかまるでわからなかった。

 

一族にとって幸いなのがまだ基本的には歴史に沿って世界の修正力が働いている事だった。

この戦争は憎悪の連鎖で既に止まらない。一応再度確認出来たキラ・ヤマトの運命に関しても大きくは変わらない。

一族はこの点だけは安堵していた。……スーパーコーディネイターであるキラ・ヤマトの運命まで大きく変われば箱庭の管理はマティスから見ると完全に修復不能になっていた。

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