極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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第53話 良く考えたら面倒とはいえ姉を呼ばなかったのは後で怒られそうだ。……どうしよう?

コズミック・イラ70年4月20日、ユーラシア連邦ウラジオストク軍港にアガメムノン級宇宙母艦オルテュギアが入港した。

 

同日、傭兵部隊Xの隊長であるカナードがザナドゥ本部へ来訪した。ザナドゥ代表・クシーは手続き等の事務的な事を多少後回しにして会いに行った。

同時にカナード達の祝いの席を今更ながら用意していた。最近暗い事ばかりなのでザナドゥ内部で何かしら言い訳をつけて飲みたいユーラシア連邦人達の意見を採用していた。クシーは未成年だが飲み会そのものは否定しない。

やれるとしても2時間程度であるが、緊急事態が無い限りは大丈夫だった。

 

そのように素直にカナードを歓迎する気持ちもあるのだが、ザナドゥ代表として前線で戦っていたカナードからの生の声を聞いておきたかった。

最近は通信越しの会話が多く、また復旧の為にリソースの大半を注いでいた。

ザナドゥが完全な民間組織でかつ人命優先であるならば良かったかも知れない。

だが、軍事的な伝があるにも関わらず結果として、第1次ヤキン・ドゥーエ攻防戦と第5・第6艦隊の人事の件といい後手になっていた。

クシーとしては第6艦隊のマケイン少将は汚名を雪ぐ機会も得られず戦死した事は悔やまれたし、フォーク准将関連の事はカナードにでも聞けば一発でわかったはずだった。

 

 

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「すまない、カナード。……私とした事が帰って来ておかえりなさいというのが先だろうに」

クシーはカナードと体面し、最近の情勢に関して根掘り葉掘り聞きそうになっていた事を謝罪した。

そのような自分を自分で殴ったクシーはベラにハンカチを渡されて口内から出そうになった血を拭った。

ザナドゥという組織が出来た結果、現場に出るより後方で指示出しした方が人が多く救えるのを理性ではわかっていた。

それでもどうしても手が回らない現実にクシーはどうしようもなく苦しんでいた。

 

「……クシー。それは……」

カナードはクシーと少し話しただけで察した。カナードから見てもクシーは大分おかしくなっていた。

クシーは自罰的になっていた。クシーはこういう事を思っていても口には出さない。

 

「……何時もの彼なら手が届かない事を傲慢だと自嘲する事はあってもこのような事はしないわよね?」

メアリはカナードの反応を見て言葉を溢した。

……カナードは何故ロンドン支部長のメアリ・クリスティがいるのかと思ったが少し逡巡してから頷いた。

 

「クシーは少し休んだ方が良い」

カナードは混乱しつつ結論を下した。カナードはクシーを絞め落とす事にした。

ここで肉体言語が出る辺り、カナードはクシーに脳を汚染されていた。

ベラはある意味正しいが無理ゲーだと匙を投げた。メアリは紅茶を飲みつつ観戦を決め込んだ。

カナードはクシーに大分汚染されているのでこうなるとメアリは読んでいた。

……押し倒すのが物理的に無理ならば殴った方が為になる。だが、肝心の殴れる相手がいなかった。

 

「……カナードが私に挑んでくるのは何年ぶりだろうか。時間はあるな。素晴らしい」

クシーは力でわからせに来たカナードを見て気分が切り替わった。

年頃の女性を傷つけたくない気持ちはあったが、手を抜く事が無粋だと感じさせる程にカナードは覚悟が決まっていた。

 

 

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東アジア共和国の資源衛星『新星』から採掘した資源は東アジア共和国・台湾のカオシュン基地から世界各地に運ばれていた。

 

復旧作業等の為に大よそは加工してから輸送される事になっており、ザナドゥの民営工場や工廠にも運び込まれていた。

オルテュギアが入港したのもその一環である。……ザナドゥが加工した物資を支部を通して全世界に届ける。

資源を戦時利用する方針の地球連合とは僅かにズレる。ザナドゥは地球連合加盟国だけでなく無視を決め込んでいる赤道連合等の中立国にも支部があった。

だが、新星の優先採掘権をザナドゥは所持していた。それにザナドゥの方針に表立って反対する者はブルーコスモス・過激派と軍事しか見ない将校くらいである。

ザナドゥの行為を利敵行為と唱える者も居なくはない。だが、ザナドゥ代表・クシーは敵対しているわけでもない国に復旧支援する事は国際協調の一環であるとして退けた。

 

地球連合はザナドゥと資源を巡って表沙汰にならない水面下で政争を繰り広げていた。

 

最終的に南アメリカ合衆国の件等もあった地球連合が政治的に妥協した。

国際的な信用が国力で押し切る事に不安が見えた事、ザナドゥの協力無くして今回の大規模資源輸送作戦も上手くいかなかったのが挙げられた。

 

全世界が被害に遭っている為、世界中の工場が稼働していたと言っても過言ではない。

投下されたNJは膨大な数に及び地中深くに埋まっている為、NJを掘り出す余力は無い。

それでもザナドゥは世界各地の公共施設やインフラの復旧を全力で取り組んでいた。

 

 

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「貴方は十分すぎる程に働いている。……これ以上誰が出来たか!?」

カナードは客観的に見たザナドゥの行動をクシーに指摘した。

掴みかかりそうになったのでバク転しながら回避しつつサマーソルトキックを選択した。

 

「無粋な事を……戦うならば勝ってから言うべきだ」

クシーはカナードにごちゃごちゃ煩いと一蹴した。

カナードのサマーソルトキックは半歩後退りして回避した。ギリギリであり、鼻に掠めた。

 

「……そういえば親衛隊とかはどうしたんでしょうか?」

ベラは格闘ゲームの攻防が生で見られるので観戦していたがふと思った。

小規模な歓迎会を準備していたが自分が用意しなくて良いのでベラは珍しく素で忘れていた。

 

「事務手続きが終わる頃よ。そろそろ来るのではないかしら?」

メアリはベラが把握していないのを珍しいと思いつつ答えた。

現在、カナードとクシーが徒手空拳で戦っている。滅茶苦茶であるが、ザナドゥだと昔は偶にあった光景である。

騒ぎを聞きつけた構成員達が出てきたが、ベラはこれは何時もの事だと下がらせていた。なお、ベラはついでだからポップコーンとコーラを持ってきて貰っていた。

 

「チトが居た頃を思い出しますね。……主がまだバグっていない頃はユーリがカナードをノシてましたが」

ベラは今は亡き仲間の命日に丁度よいとコーラを一本開け、適当な窓辺に置いた。

チトはコーラでもビールでも酩酊した状態になった。そして、酩酊すると喧嘩を止めないどころか応援しだす。

 

「チト?……ああ、なるほど」

メアリはチトという人物を知らないので一瞬考えた。だが、脳内で検索をかけて一件該当があった。

かつて大西洋連邦でブルーコスモスが激化した時に亡くなったコーディネイターにそのような名前があった。不起訴から一応裁かれ執行猶予付き判決が出ていた。

あの件はザナドゥが関与していたと推理していたが、クシーの個人的な意思もあったのかと思った。

 

そんなカオスな状況に第13艦隊のカナード親衛隊他多数の客人までやってきた。

 

「宴会芸みたいなものだから。見ながら飲もう」

古参のザナドゥのシンパや構成員はカナードの歓迎会の料理とビールを持ってきて勝手に飲み食い始めた。

カナード達が帰って来るという事で祝いの席を用意しようとクシーは軽く用意していた。ついでだからとザナドゥの構成員達は追加も用意していた。

最近は暗いことばかりで彼らもやっていられなかった。そして、こういう準備はクシーは大体喜んだ。

許可される空気になったらやるつもりだったが、代表が喧嘩するならもう良いだろうと酒瓶を開いていた。

 

「いや、流石におかしいだろ」

マッド少佐はツッコんだ。カナードの攻撃はザナドゥ代表に尽くいなされている。

前に双子の少女を見ていたマッド少佐は衝撃こそ少なかった。

 

「でもなぁ、一発くらいは……」

マッド少佐はツッコんだが、段々いなされているカナードが一発当てる事を願うようになってきた。

 

「良いぞ!カナード、代表に一発当てて見せろ!」

ザナドゥの連中は二人を止めないで酒盛りし始めていた。

ザナドゥではカナード達を迎える為に事前に準備をし、小規模な祝いの席を用意していた。

マッド少佐達、カナード親衛隊はザナドゥの空気に当てられていた。

 

「蹴りは鋭いが実践的とは言い難い。45点」

クシーはカナードの蹴りを躱しつつ評価していた。

見切ったので採点していた。なお、クシーは自分が蹴られたり殴られる気がまるでない。

 

「……っ!」

カナードは久しぶりにクシーにキレた。

カナードがキレたのは点数が低い事が理由である。クシーを心配しているカナードの気持ちを考えなかったからではない。幼少期のようにカナードはカッとなった。

 

「そうだ。蹴りは回避されたら基本的に防御し辛い。……だからこそ一撃一撃に必殺を込めて放つ」

クシーはカナードの蹴りに殺意が混じり始めたのを褒めた。

蹴りは拳と違って一撃の威力が高い反面、外れると隙が出来る。その分だけ一撃に殺意を込めるべきだというのがクシーの持論だった。牽制や誘導の蹴りならばまた別である。

 

「先程のサマーソルトキックは後退しながら放つ美技であったが、根本的に殺意が足りない。鼻を削ぎ落とす勢いであれば私も危うかった」

クシーはカナードの技を評価した。技術は高いが殺意が足りないというのが減点理由である。

クシーからすればあれならば昔の荒れていた頃のカナードの方が良いまであった。

 

「代表の鼻を削ぎ落とせとかイカれているのか?」

ザナドゥの新参シンパは思わずツッコんだ。なお、周囲の者達は止めない。

寧ろこの光景を酒のつまみにして飲んでいた。最近のザナドゥでは珍しく祝いの席なのもあり、止める者はいなかった。

 

「カナードちゃん!負けるな、殺れ!そこだ!」

カナード親衛隊の面々は全力でカナードを応援していた。マッド少佐等どこから取り出したのか団扇まで用意していた。

……ザナドゥのイカれた空気に慣れていない新参者は古参のシンパから鳥の唐揚げを口にツッコまれた。

 

「野蛮で騒がしいけど、まぁ良いかしら?」

メアリは想像していたよりも大分ノリが良い現在のザナドゥを見てそう評価した。

……馬鹿やれるようになれただけ大分良い傾向だとメアリは分析していた。

 

「賭け……に出来ないですね。主ではなくアズ中尉ならいけそうですが」

ベラは盛況具合から賭場を設けるか悩んだが賭けにならないので辞めた。

対戦相手が主ではカナードに勝ち目がない。

かといってカナード相手に互角にやりあえそうなのは早々いない。

 

主の姉シグネか、最近引き取ったアズ・グレイヴァレー元中尉は賭けになりそうだった。

だが、今はどちらもシグネの家にいる。アズ元中尉はミンキー◯モに拉致されたロリコンの代わりに引き渡されて仕事をしていた。

……シグネからアズはあまり優秀ではないとクレームが来ているが主は人手が足りないので我慢しろと言っている。

プラントの取り調べで自分を罵倒したアズの意思は後回しである。クシーも今は忙しすぎて安全地帯がそこまで用意できない。

その数少ない場所がよりにもよって姉のいる自分の元実家くらいしかなかった。

 

主が自分を警戒していなければ姉共々呼べただろうにとベラは若干惜しんだ。

……クシーからすれば面倒な姉がいない時にカナードと会いたかった。

とはいえ、小規模とはいえ身内の祝いの席に招かないのもどうかと思ってもいた。

クシーがそこまで気が回ったのは暴れてスッキリしてからであった。

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