極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年4月22日、プラントに存在するとあるコロニーの一角にて諜報活動に関する会議が行われていた。内容はザフトの今後の方針に関わる重要な事だった。
『敵性ではなければ良いなら私のゲーム支店を地球連合本部に置きたいのですが。テナントみたいに空いてませんか?』
ザフトの特務部隊FAITHであるレイ・ユウキはブルーコスモス内で行われた会議の映像を流していた。
プラントの歌姫ラクス・クラインの平和を訴える歌を禁止する。プラント側の反応はナチュラルが如何に劣っているかの衆愚、地球連合の愚かな茶番ではあるといった具合である。
ユウキ個人としてはエイプリルフールクライシスの被害を考えるとプラントの全てが憎い者が出るだろうと察していた。同時にザラ派というよりもパトリック・ザラが唱えたような地球全土に核撃たれないだけマシでもあるのを知っていた。
それにしても酷いというかなんともいえない。これがブルーコスモスの一部とはいえ公開された会議なのだろうかとユウキは思った。
……現在自分が担当している生徒のアスラン・ザラと同年代の少年であるがアスランがこうだったらと思うとアカデミーに胃薬が絶えないだろう。今のアスランだけでも胃薬を常備している教師もいるというのに。
「えー……肝心なのはこの部分だ。地球連合軍の最上位機密である本部の所在地、これをザナトゥ代表が把握している可能性について。これは今後のザフトの方針に関わる重要な事案なのは違いないので留意して欲しい」
ユウキは気を取り直してスパイの持ってきた映像に関しての意見を求めた。
ユウキはザフト内でも中立的な視野で判断可能で優秀かつ地球の文化圏もそれなりに詳しいのもありザナトゥ関連の分析をパトリックに丸投げされていた。
「諜ぉー報活動ぅー、つまりはスパイをザナトゥに注ぅー力する否か。ということで?」
白衣を纏い顔に瓶底メガネの胡散臭い細身の中年男がユウキに確認を取る。
彼は広報部から派遣された正式な情報分析官なのにも関わらず、本名とは思えないふざけた名前も顔も存在も一挙手一投足全てが怪しいので定期的に監査が入っていたりする。現場ではプラントの能力主義で入れては不味い人材を寄こしやがったと思われている。
なお、これだけ怪しいのに本人は本当にただの優秀な文官である。プラントの能力主義が最適な人事を可能にした奇跡の産物である。
「ただの地球連合の本部ならば『テナントみたいに』というような抽象的な事は言わない。公開資料だけでも内部構造は一般市民でも把握できます。まして当人は何度も行き来しています」
別の情報官であるファビアンはザナトゥ代表の発言に違和感を抱く部分を強調した。
ここまでの機密は探らない手は無い。ザナトゥ内にいるスパイを使って拉致して薬でも使って吐き出させれば良いと考えていた。
当然だが不可能である。彼は担当して日が浅かった。クシー個人に関しては部分的な情報しか知らないユウキもそこまで聞いたら絶対反対する。
「でーすーがぁ!『テナントのように』というのは詳細を知らない。故にたーだ単に支ぃー店を置くのにあーん全な場ぁ所をもぉーとめただけでは?」
瓶底メガネは反論した。なお、本人的には仮に知っていたとしてもザナトゥの代表に時間を割くのは労力も資源も無駄なので他に注力した方が良いと思っている。
ただそれをそのまま主張するには地球連合軍本部の場所というのはあまりに大きすぎる情報だと認識してもいた。故に理由を提示してから説得しようとしていた。
そしてただでさえ本人の怪しい風貌とこの何かを庇うようにも聞こえなくもない言動によりザナトゥのスパイのように見えていた。後日、彼には再度内偵が入ることが確定した。
「現状でもスパイはいますが欲を出すとどうなるか未知数です。身内であるはずのブルーコスモス各派のスパイはおおよそが組織ごと壊滅しています」
更に別の情報官であるツボミは瓶底メガネの意見を汲み取り賛同した。ザナトゥだけならまだしも代表クシーに直接関わらせたらただでさえ薄い協力関係が破綻しかねない。
というか瓶底メガネが言うと逆に悪化するのでツボミは自然な形で遮った。
「なぁにより、現ぃ地の協力者はザナトゥのカウンターテロの懸―念……」
瓶底メガネは自然に遮られたので気づかずに発言を続けた。
同時に自分にこの職場あってないのではと瓶底メガネ自身が思い始めていた。仲良くなれる職場環境でないにしろ何故か自分はガチで避けられていると自覚し始めていた。
なお、やたら怪しいという面さえなければ当人の使命感や能力も含めて最適解であった。
ザナトゥならばクシーが怪しいが無実であると看破できる。クシーは自身の職員全員の事を覚えようとしているのでその際の懸念があれば本人や関係者にも伝える。
故に、ザナトゥでは怪しくても問題ない職場に配置が可能であるので大活躍間違いなしである。
ザナトゥの幹部の大半が何か怪しいので世間一般にも陰謀論が流行るのではと職員には思われている。ザナトゥの芸術部門、クソゲー開発部の代表アカネはザナトゥの幹部勢を見て『ラスボスの伏魔殿』と評していた。アカネもその一員である。
とはいえ仮にザナトゥ所属でも瓶底メガネは周囲から怪しいと思われれるのは避けられない。というかクシーが本人に初対面で言う。凄い失礼な奴である。
プラントは能力主義で最適な人材を配置できても正しく運用できるわけではない事例となった。
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その後、ユウキは戦争の機運で遠ざけられたクライン派の元情報官コーラント・ハイネに意見を求めた。
ザラ派から怪しまれていたが無実が証明されたのでザフト内での聞き取りを許可された。
瓶底メガネは彼と入れ替わりとなる事が決定した。本人の希望であるが実に怪しい。
シーゲルがプラント評議会の議長だが、戦争の戦略という事で教育・軍事担当のパトリック・ザラに人事権その他が優先された。
「……ザナトゥの最精鋭特殊部隊、『雲』が壊滅したからこそザナトゥ代表が目立つ事で防波堤になる方針に変えたか。コペルニクスの悲劇以降とは見せる印象がまるで違う」
コーラントは当時の状況を回想しつつ述べた。コペルニクスでは自分の娘より幼い金髪の少女も爆散していた。
それを知ったクシーが人目もはばからずに叫んでいたのはコーラントも覚えていた。
コーランドはコペルニクスの悲劇以降、クシーは完全に変わったと正しく認識していた。
「ザナトゥの拡張方針と雲の壊滅で情報戦において以前より遥かに脆弱になったはずだった。見苦しい言い訳になるが本来あそこまで壊滅した組織が現在のように機能するわけがなかった」
コーランドは求められてもいない事を口走っていた。それはコーランドの判断ミスでもあり後悔であった。
当時の状況を将棋で言えばザナトゥは飛車角落ちの状態になった。現在の地球連合加盟国側の認識も当時は同様だったはずである。
……だからこそプラントにおけるザナトゥへの優先順位を下げるようにとシーゲル・クラインへの報告に記載してしまった。
コーラント自身があの少年がもう戦わない世界であって欲しかった。そして私情に囚われて判断を誤ればプラントという国が亡ぶ危険性が高かった。
「……」
ユウキは沈黙した。ユウキはある程度自由裁量が可能な特務部隊FAITHに属している。
私情に流されない判断が求められた。それでも言葉に出来ない感情を待つ程度には融通が効くものだった。
ユウキが考える範囲ではコーラントは正しい判断をしていた。というより知った情報だけでも想定外過ぎて脳の処理が追い付かない。ユウキはクシーの実績に若干引いた。
「……この話は関係ないな。何考えているのかわからない首魁はどんな相手でも警戒しなければならない」
コーラントはユウキの反応に感謝しつつドン引きしたのを察した。……まともに相手するとイカれるので心配して大げさに言葉を振舞った。
コロニーであるプラントに雲は見えないが地球には雲が覆われているのだろう。コーラントは雲の見えないプラントの為に働く事にした。