極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック70年4月22日、カナード・パルス達傭兵部隊Xとアガメムノン乗組員達はザナドゥの本部で物資運搬作業の手伝いの休憩をしていた。
当然ながら休暇なので任意の参加だがカナードファンクラブと化した乗組員は大体が参加していた。……家族に被害があったものはザナドゥが可及的速やかに対応していた。
プラントを憎む者も現れているがそればかりはどうしようもなかった。自分が死ぬ覚悟はしていても軍人として守るべき家族が戦争被害で亡くなっていた。
……この情勢でコーディネイターそのものを憎んでいないだけマシであった。ザナドゥは行き場所の無い憎しみをぶつけられていた。
なお、クシーはそんな行き場のない怒りをぶつけるテロリスト達をガンガン戦災復興に投入するがテロリストからしても大分滅茶苦茶であり困惑が勝っていた。
テロリスト側も意味わからないが被害者側も復讐心を滾らせていたら理不尽の権化に復興作業をさせられる羽目になった。復讐の連鎖が蔓延るコズミックイラにおいてクシーは更なる理不尽を体験させる存在であった。
そんなザナドゥのお手伝いだが軽作業(簡単ではない)であり軍人の彼らにとって重力慣れも兼ねられるので左程の問題はなかった。メリオル・ピスティスらナチュラルの女性士官が若干キツイと感じる場面も見られるが無理という程ではない。
そんな中、カナードはザナドゥ製の重機のプログラミングなどの細かい調整を行っていた。
このご時世で機銃程度でも自衛装備を付けた重機の需要が高まっていた。他方、テロリストに重機が利用される事例が散見されていた。
丈夫な機械というだけで民間人からしたら恐怖の対象であった。……クシーやアスランなら重機に武装した程度なら問題なく対処できるがそれはこいつらがおかしい。
ザナドゥは自衛装備付きの重機にセーフティをつけて一般向けに販売する事に決めていた。
ザナドゥ内で扱う重機に武装する事はあっても南アメリカ合衆国支部のヴィクトリア・シュティーフェルのように現地の判断で改造していた。
従って、ザナドゥの重機部門からしたら現地で勝手にやっている分は管轄外であり、一般向け重機への兵装やそのセーフティは門外漢だった。しかもそういった部分で頼れる人が皆忙しくクシーに厳しいと進言していたところにカナードが買って出ていた。
クシーに感謝されてカナードは嬉しかった。
カナードのファンクラブもとい親衛隊は微笑ましい光景を脳破壊されながら盗撮して全員カナードに蹴られていた。
だが、カナードは作業を続けているうちにもやもやとした気分になっていた。
兵器開発部に向かったということはおそらくはルリ副主任である。クシーに気があるのをカナードは知っていた。クシーは年下の女の子として扱っているような気がする。
これが肉体労働ならば考えなくて良い事だっただろうカナードは年相応に拗らせていた。
作業しているカナードにマッド少佐が声をかけてきた。休憩として小豆缶とダイエットコーラを手に持っていた。小太りのマッド少佐はダイエットコーラという無駄な抵抗をしていた。
「カナードちゃん、こればかりは仕方がないと思うの。流石に規模がヤバい」
マッド少佐は敢えて言った。ガチで仕方がない。本気でヤバかった。
宇宙にいた時に聞いた被害よりも遥かにヤバい状況にマッド少佐ですら絶句した。
地球生まれ地球育ちの自分でこれである。プラントにいる連中は理解していないのではないかと思っている。核よりはマシではあるのだが被害状況的に億超えそうと思っていた。
マッド少佐は一介の軍人であり今回の被災被害がどれ程かを読み切れていなかった。
最終的に3億人死者が出る。クシーが存在しない場合はエイプリルフールクライシスだけの被害で10億人以上の死者とはマッド少佐では考えもつかない。
ザナドゥ上層部、特にクシーはニュートロンジャマー、NJを看破して対策及び被害規模を推定できていても本来発生していた被害を知る術がないもあって更に精神的ダメージに耐えながら仕事をしていた。
唯一ミケランジェロもといマティアスは本来あり得た被害を知っているが説明できず、この状況で一族というか妹が細菌兵器でもばら撒けば10億では済まなくなる。相互破壊が確立できているような現状がギリギリ妥協点であった。
「2か月前も大分アレだったけど。今は取り繕う余裕もないくらいザナドゥ全体が忙しいよね」
マッド少佐はカナードにアレという言葉で感想を濁しつつ、忙しさを隠してカナードに向き合う姿勢は評価して感想を述べた。
文字通り全世界に対応しており資材の運搬だけで軍用モニターより効率化されていると察していた。同時にこれらを隠す余裕すらなかった。
一昨日の会話でクシーの大分アレな本音をマッド少佐に零していた。
やたら未来を先取りしたような内容を信じるかはともかくとして自分が信頼されているのだと確信できていた。
同時に自分たちがただの萌えブタであるというのは正しい認識なので幼少期のカナードの写真をもっと見せてもらいたかった。
……それはそれとして外部の自分達がザナドゥの現状をある程度察せるのは本来不味い。
「というか大分気にかけてくれているよ。脈あるよこれ…言っていてキレそうなんだけど。リア充爆発……」
マッド少佐は励まそうとしているのに腹立ってきた。私怨である。
「しっ!」
カナードは思わず足が出た。……カナードはリア充爆発の意味を知らないのでガチでテロる気かと捉えていた。ガチでやる奴がいるので洒落にならないが蹴りで済んでいるのは大分甘い。
「ありがとうございます!……あとごめん、やらないから。今のはシェイクスピアの引用みたいな誌的表現で……」
マッド少佐はうぶなカナードに感謝しつつ滅茶苦茶を言って誤魔化した。シェイクスピアはないだろうとメリオルは思った。
カナードのサポートをしていたメリオル・ピスティスは養豚場の豚を見る目でマッド少佐を見つめていた。もやもやするのはどうかと思うが自分では言えなかったのでそこだけは感謝していた。
そこへ30代前半くらいの黒髪の男性がコツコツとカナード達の方へ歩いてきた。
ザナドゥ職員が挨拶している辺り職員だろうとマッド少佐やメリオルは察したがどうもただの職員ではない。
「歴史を積むと糞みたいな僻みもこうなるのは凄いわね」
そんな30代独身の紳士マティアスではなくミケランジェロは独り言を零した。
ミケランジェロは基本隠れ住んでいたが出自故に膨大な人類史を把握していた。故に市井の人間の間で旧暦のネットミームが現在ではそうであると言われていると若干誤解した。
今のミケランジェロは元ネタの設定を知っているが二次創作は知らないみたいな状態であった。
ミケランジェロは己もそうだが所属していた一族の最もダメな部分だと考えている。同時に今回のようにマッド少佐の糞みたいな言い訳がましいミーム汚染を鵜呑みにする事が稀にあった。
「久しぶりね。カナード、今更だけど審査会入りおめでとう。……いや、ほんと遅くなってごめんなさいね」
ミケランジェロは用事のついでにカナードに挨拶しに来ていた。……クシーがいるとメアリと一族についての情報交換ができなかった。
仕方がないのでメアリにファントムペインの情報を提供して外してもらっていた。
ミケランジェロはクシーの為とはいえカナードから離れる事になったのを内心謝罪した。
「……ミケランジェロ、お前は私を随分警戒していたようだったが何の心変わりだ?」
カナードはいつになく殊勝な振る舞いのミケランジェロに尋ねた。
今の状況はこいつが悪いんじゃないかと思ったが流石に理不尽過ぎると反省した。カナードの勘は大当たりであった。
「か、カナードちゃん。……LGBT的に触れてよい人?」
マッド少佐はちょっと気になって小声で尋ねた。割とそこは大事である。
「聞こえているわよ。口調は家庭の事情でこうなって中々戻らないのよ。……ほんっとうに厄介だわ」
ミケランジェロはため息を吐いた。自身の口調からオカマ扱いする輩が多かった。
目の前でやられたのは若干マイナスだがザナドゥ及びカナードに関する事であると思えば中々に目の前の小太りの軍人は立ち回りが上手い。
「し、失礼しました!」
マッド少佐はミケランジェロに慌てて謝罪した。マッド少佐は自分の容姿で酷い目に逢ってきたのでそういう部分を気にしていた。どんな家庭だとも思っている。
マッド少佐は優れた観察眼で目の前の男が言いようのない異質さを感じ取っていた。
「一応、私はナチュラルよ。そういう意味では安心しなさい」
ミケランジェロはカナードと小太りの軍人に警戒を解くように話しかけた。
カナードと仲良くやっているしザナドゥに出入りしている時点で問題ないと思うが念のためである。
元一族であるミケランジェロ本人はコーディネイターより遺伝子弄ったような出自だと自嘲している。
「というかクシーが意味わからないでしょ。あれ多分世界で一番意味わからないわ」
ミケランジェロはガチの本音を漏らした。元一族であるミケランジェロ、マティアスは憶測が混じる部分を加味しても意味不明だと思っている。
ザナトゥ芸術部門のアカネが想像しているような方法、個人の意思を無視した効率的な配合の末に誕生したのがミケランジェロである。
クシーがコーディネイターで通じる程の美形なのは政略結婚を繰り返した結果ではあるがその程度である。
「……」
カナードは沈黙した。頷いたらクシーが悲しむだろうが否定するのは出来なかった。カナードは自身が完璧なコーディネイターを作る過程で生まれた失敗作であると知っていた。
未だに燻っている部分はあるがクシー以外にも説明不可能なナチュラルの才能を有するナチュラルも見て来ていた。
……何なら目の前のマッド少佐も大分おかしいとカナードは考えている。アガメムノン級宇宙母艦オルテュギアを正攻法で持ってきた時は本気で意味が分からなかった。
カナードの秘書官的立ち位置を獲得しているメリオルはマッド少佐へ当たりが若干きつい。カナードの近くにいる期間が長いブタはカナードファンクラブ全員から辛らつである。
「そういう可愛らしいところがまるくなればそれはもう大丈夫って思うでしょう?」
ミケランジェロはカナードにそう言って微笑みかけた。イケメンの笑みである。
マッド少佐は醜い嫉妬でキレそうになったがカナードに肘を撃ち込まれ、メリオルから嫉妬で睨まれた。
実際のところ、ミケランジェロもとい元一族のマティアスが知る歴史のカナード・パルスは男性であり、しかも落ち着くまで延々とキレるナイフみたいな奴だった。ミケランジェロはカナードを大分警戒していた。
ミケランジェロはカナードが女性である理由を探った結果、凄い些細な分岐である事が判明した。同時に誰にも共有できないと結論付けていた。
なお、クシーはカナードやキラが男性であっても異性的要素を除けば対応はほぼ変わらないがそこまではミケランジェロも知らない。
要するにイレギュラー過ぎてカナードを警戒していた部分があったが解決したので対応が柔らかかった。
「軍人さん方には失礼だけどこんな状況でも戦争しようってんだから酷いと思わない?」
ミケランジェロはカナード達にザナドゥの現状を見せつつ感想を述べた。
同時に人類を常に戦争させて管理するような糞一族へは一切失礼ではないと言い切ってもいた。
ミケランジェロも現在進行形で忙しい。ミケランジェロはザナドゥの医薬学部門担当である。……彼は本気で何徹目かわからないような状況が続いていた。一族の長だった時ですらここまで忙しくなかった。本気で愚妹を殺そうかと思っていた。
マッド少佐は凄まじい怨嗟を感じ漏れそうになった。マッド少佐は自分たちへの悪意はないと悟れる感覚の持ち主であるので何とか漏れなかった。
同時にミケランジェロが内に秘めた凄まじい怨嗟を感じ取れるので漏れそうになってもいた。