極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミックイラ70年4月22日、ユーラシア連邦シベリア・クラスノヤルスク基地にてザナドゥ代表クシーと兵器開発部のトップ二人が密室で会談をしていた。
他の兵器開発部の面々は機密保持の為立ち入り禁止となっていた。
……ザナドゥの最重要機密である兵器開発部主任に関して探ろうとした他組織のスパイは基地内の営倉にぶち込まれていた。
スパイの隣の牢には処遇が保留にされたロリコンがショートケーキをつまみに酒をあおっていたりするが特に関係はない。
邪悪なるミン〇ーモモとその手下の薔薇騎士達がいる地獄の星から舞い戻ってきたのに仲間外れにされて不貞腐れているだけである。
「坊から今回はお前の分のケーキがあると言われたが違うのだ。何というかだな、皆でケーキを食べる空気が良いのであって……別にケーキが好きなわけではない。分かるか?君」
自棄酒しているクワトロ大尉は隣の独房にいるスパイにグチグチ女々しく絡んでいた。
そこに営倉に入って来る足音が聞こえてきた。幼少期のクシーが父親に良くぶち込まれていたのと同じ地下牢スタイルの営倉である。
足音が上から伝わる事で下の牢に居るもの達へ恐怖感を演出している中世以来洗練されたロシア式でもあった。
「だ、出してくれ!いや、せめて別に、こいつともっと離してくれ!……なんでこんな奴の隣なんだ!拷問より嫌だ!」
スパイは足音に懇願した。……拷問を耐える覚悟はあるが地味に嫌だった。本当にスパイ自身もわからないが口から出ていた。
世界が違えば宇宙の歴史に影響を与えそうな気がするクワトロ大尉のスパイ相手に全く配慮のないウザがらみである。さもありなん。
「……はぁ」
女性と思われるため息が営倉に響いた。そして足早にクワトロ大尉の下へ向かった。無駄に入り組んだ営倉内を迷う事なく進んでいた。
「……!この感覚はまさか」
クワトロ大尉は脳内に響くフレクサトーンの音と同時に相手が誰なのかを本能的に理解した。
あの邪悪なミンキーモモ宅からの脱出の際に開花した異能とも言うべき超直観である。クワトロ大尉はクシーもまだ知らないだろうからからかってやろうと思っていた。
コズミック・イラではこの現象についてマティアス以外誰も知らなかった。
マルキオ導師が薄々気づき始めているくらいである。マルキオ導師はラスボスの才能があった。
そんな事は無視してセイラ・マスはクワトロ大尉の前に来た。……牢の鍵を開けた。
「久しぶりだなアルテイシ、ァァア!!」
クワトロ大尉は堂々たる兄の威厳を感じられる姿勢からセイラに思いっきりビンタされた。
……内心は汗まみれであり、なんでこんな場で再開させたのかふざけるな坊とクシーへ呪詛を吐いていた。
「この、軟弱ものが!!」
セイラはクワトロ大尉、兄キャスバルが床に転がるのを見て吐き捨てた。
……なんだろう自分はこれをやりたかった気がする。セイラは兄の姿を見て何故かスカッとした。セイラはザナドゥの衛生管理部の看護師として働いていた。キャスバ……クワトロ大尉と鉢合わせたのは完全に偶然であった。
セイラはビクトリア攻防戦でやらかして以来代表クシーとはかなり仲良くなっていた。共通する身内の恥の処分としてミンキーモモへの輸送も携わっていた。
何かやりたそうだからとセイラに鍵を渡してきたクシーの行動は意味不明であったがセイラも良く分からないが多分そういう感覚なのだろうと察した。セイラはクシーの内にある意味不明な衝動をわずかに理解していた。
なお、マルキオ導師は『ヒトと世界が融和しうる認識力の変革』が存在すると提唱していたがこの光景は違うと主張する。
マルキオ導師が想定しているのは今回で言えばセイラとクシーのようなやりとりである。……それも大分酷いが。
「えぇ……」
スパイは目の前の光景にドン引きした。彼からすれば本当に意味が分からなかった。……これがザナドゥなのかと合っているが間違っている誤解をしていた。
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視点を兵器開発部の二人とクシーに戻す。三人は年相応に見え段々ぶっちゃけた話をし始めていた。
飲食物を運んだり摘まんだりしているベラは兵器とは関係ないがまぁ良いかと適当にサボっていた。
非常時なので緊急対応だけ受け付ける事にして他に投げる事にした。……ベラも大分休めていないので本気で休みたかった。
その分ミケランジェロもといマティアスに被害が来ていた。だがクシーの方が遥かに忙しかった。
今は大人が頑張れと応援にもならないことをベラは思った。そしてエイプリル・フール・クライシス前に大量に取り寄せていたヨーグルト味のポテチを食べ始めた。
「軍人は物事の良し悪しなんて関係なく上官に従うんだろ」
兵器開発部主任カミーユは兵器を扱う対象である軍人について文句を言っていた。
それだけで気に食わないがそういうものだとカミーユは理解していた。
「いや……まぁそうですね」
兵器開発部副主任ルリは同意した。言い方がキツいがその通りだ。だが、ザナドゥはなんだとも思って言葉を濁した。
「ぶっちゃけザナドゥ所属の軍人さん方がおかしいんだ。カナードファンクラブの豚……もといマッド少佐は変態だがあれでまだわきまえている」
クシーはルリの困惑を察して口を挟んだ。ザナドゥは人の心の弱みに付け込んでとんでもないカルトを生み出してしまったのではと内心思っている。
マッド少佐がただの極まった変態だったのでクシーは変になごんでしまっていた。カナードには悪いが。
「ブルーコスモスも大概では?」
ルリはツッコんだ。ルリはブルーコスモスに当てはまる事だからどうなんだと思ったことを直に言っていた。……ルリはカミーユやクワトロ大尉の直接言葉も交えて殴り合う空気に汚染されたと反省した。ここまでは普段は言わない。
「……」
クシーは幾らでも取り繕って反論できるけど身内に言うのも違うと悩んだ。言葉にしなくても伝える術があれば良いのにと思ったが人間だから言葉にしようと考えていた。
「地球連合は嫌いだし、ブルーコスモスはもっと嫌いなんだよ!」
カミーユは話を続けた。ザナドゥ初期組であるカミーユは当時のクシーのレスバ力から沈黙を肯定と受け取った。間違ってないのでクシーは気持ちを切り替えた。
「うん。実は私も嫌い。環境保護派の爺様方には悪いけど。オフレコでお願い」
クシーは同調した。もういいわちょっと昔に戻そう。クシーは一時的に気持ちを切り替えた。
……簡単に戻れない程度にはクシーの心身は擦り切れているが一時的にほんの少しではある。
「えぇ……。何でカミーユはここにいるんですか。こっちは聞かなかったことにします」
ルリは聞かなかったことにしてカミーユに話題を振った。ルリはカミーユ主任がカミーユで良いというので呼び捨てにしていた。
ここまであからさまなクシーの内心を初めて聞いたがルリからすればそう思っているのは納得しかないのでスルーした。
この時、運の悪い事にベラは疲れ果てて寝ていた。いつもなら起きているが仕方がないとクシーは自分の羽織を被せた。
「僕とファ。……ついでに両親を保護してくれたからだよ。そこは感謝しているんだ。……こういう事を最初から教えてくれれば手伝ったよ!子ども扱いして!!」
カミーユはクシーの行動を見て声を抑えようとした。したが駄目だった。
というかあの親達はもう知らんとカミーユは思っている。割り切れない部分もあるが彼らは親である前に自分の欲求に正直過ぎた。
父親はブルーコスモス過激派に自分を売り込んで愛人と出て行ってしまっていた。カミーユは余計にブルーコスモスが嫌いになっていた。クシーもカミーユにどうするか聞いていたりしたが余りの酷さに流石に呆れ果てていた。
それでもカミーユは恩義を感じてはいたので最初から言えとキレた。何より中途半端に気を使われたことが気に食わない。
「そこはごめん。いや、だって医者になるって言っていたし。あんまり深入りさせるのもなぁって」
クシーはカミーユに気圧された。そもそもクシーは父親であるフランクリンに頼もうとした。
なのに才能は凄まじい癖に父親としても人間としてもクズ過ぎた。言って悪いが父譲りというか超える才能を持つカミーユがここまで善性である方が凄い。
クシーは完全に自分を棚に上げて良くあの家庭環境でここまで良い子になったなと思っていた。クシーの家庭環境はフラガ家以上に糞である。
「北極海の島で兵器開発しろって方が酷いでしょ。バカなんじゃないですか」
ルリはクシーにツッコんだ。ルリは機密を優先して思春期の少年に酷いのではないかと自身の境遇的に若干思うところはあった。ルリはカミーユの父の裏切りやその他諸々を知らない。
「戦争起きるから平和な方がいいじゃん」
クシーはルリの認識を肯定した。人の心わからないように振舞う事でカミーユの諸事情を悟らせないように考えていた。自分の好感度も下がるし一石二鳥である。……クシーは本気でそう考えていた。
だが、
「そうじゃないだろ!お前が僕より年下の癖に大人みたいにカッコつけるから僕は怒っているんだ!!」
カミーユはキレた。本気でキレたのでぶん殴った。お前呼びもするくらいキレていた。
カミーユは勘が異常に鋭いのもありクシーの嘘が理解出来ていた。
……父であるフランクリンはザナドゥからブルーコスモス過激派に鞍替えした挙句、息子のカミーユを売っていた。その為にファや自分、一応母も北極海の島まで避難する羽目になっていた。
人殺しの兵器開発等を続けたくないと言えば他の事で暮らしていけるようにと戸籍諸々まで手配して貰っていた。
……そこまでして自分の為に嫌われるというのは腹が立つ。カミーユはクシーの為に怒っていた。
「それに引き受けた事をやらないのは人間失格だろ!そんな当たり前なことが出来ない無責任な大人がこんな世界にしたんじゃないか!」
カミーユはぶん殴ったクシーへそう叫んだ。まともな大人がいないからこうもおかしくなる。
カミーユも精神的にギリギリであるので誰かの為に癒えないし言えないがそれでも叫んでいた。
「……」
ベラは騒ぎに目覚めて聞いていた。……こういうことが出来る人間はコペルニクスの悲劇でほぼ全員死んでしまった。
クシーが北極海の島に移したのは正解だった。酷い言い方をすればザナドゥの面々は全員クシーに恩という名の弱みを握られているに等しい。これを無視してぶん殴れるのはチトなどの初期に加入したメンバーだけだった。近くにいるベラですら殴れない。……殴ろうとしても躱すのだ。
「カミーユ……」
クシーは起き上がり名を呼んだ。大分痛かった。
「でも組織に一人で対抗するのはただの馬鹿だ。世界をなら漫画の読み過ぎか神になりたい愚か者だ」
カミーユは言葉を続けた。クシーにお前頭大丈夫か?というか馬鹿なのかと指摘した。
「さっきから耳が痛いんだが。ザナドゥ初期組だいたいこんな感じだったんだよ。ルリはどう思う?」
クシーはこんな感じだったなぁとしみじみ懐かしんだ。ベラは何か怖いのでルリに話を振った。
「もっと言ってください。カミーユ」
ルリはカミーユを応援した。多分、何か言えない事情があって島へ避難させたんだろうなと察した。
そうなるとあの言い方で自分の心を遠ざけようとしたのだからルリもキレた。
しかし、
「……考えてみれば僕みたいな年齢の子どもが戦場に出るのは異常なんだ。世界がダメなんだよ!」
カミーユはガチでキレた。というか自分だって悩んでいる。クシーがこういう状態になっているのも大人や世界が悪いんじゃないかと本心からキレていた。
「それはそう。本当にそう。マジでアニメだけにしろよ、ふざけんな世界!!アイツまで軍人になっちまったんだぞ!ふざけるな!!親なら止めろ!あの親子そろってハゲろ、バーカ!!」
クシーはカミーユの感情に当てられた。ガチでキレてうっかりアスランがアデランスされろとも叫んでいた。
キラにも言えないがクシーはアスランがそうなるのも分かるので誰にも言えなかった。
「はぁ……」
ベラはどうするか考えたがため息が出た。もうこの方向のストレス発散でも良いかとスルーする事にした。ルリも大体似たようなことを考え二人をキレたままにさせた。
「命は、世界を支えている力なんだ。簡単に失っていいわけがない!」
カミーユは世界の殺し合い憎しみ合いにキレた。……キレてばかりであるがそうもなるのがコズミック・イラという世界である。
「そうだそうだ!殺すなら働け!ザナドゥの幹部連中の大半は働いて死にそうなんだぞ!」
クシーは経営者目線で微妙にズレたキレ方をした。現在進行形で人手が足りないのに皆暴れていた。
「なんで空腹より怒りを優先するんだ!何故、腹が膨れたらまず殺すんだ!そんなだから、そんなんだから……」
クシーは本心から言葉を紡いでいたが言葉に詰まった。ここから先はどうにもならない感情の堰だった。カミーユはクシーの突然の感情の変化に若干困惑した。
これを処理しきるには世界にはクシーを休ませるだけの余裕、何より時間が無い。
「……」
ベラは世界よりも主を優先する。だから黙ってその先の言葉を続けさせようとした。
だが、クシーは沈黙を求めていなかった。
「……私ももっと働いた方が良いんでしょうか」
ルリは言葉を漏らした。……この時のルリはクシーが危機的な程に思い詰めているとは知らなかった。
「「それは辞めろ!」」
クシーとカミーユが同時にツッコんだ。実際、これ以上働いたら良くない。労働基準法は大事というのはザナドゥ内ではしっかり周知されていた。なお、クシーやミケランジェロ等の一部にはない。酷いがミケランジェロの代わりはどうにもならなかった。
これから戦争によって在野の才能ある傑物が台頭していく時代が加速していく。クシーはそれを認めなければならなかった。
言葉にするという事が如何に難しいものであるかとクシーは振り返った。
仕事に戻る事を改めて決意した。それは間違いなく世界の為であった。
ただそれは自分の為ではなかった。