極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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第55話 憎悪の時代

コズミック・イラ70年5月3日、ザフトが月の裏側にあるローレンツ・クレーターに前線基地の建設を開始した。

月面のザフト基地は地球への橋頭保の確保及び地下資源の確保を狙ったものであった。

 

……この時代を象徴する出来事が発生してもいた。余りに個人的な動機から来る行為を防ぐには宇宙という空間は広すぎた。

 

5月3日、建設開始前のザフトへ地球連合軍のメビウスが命令を無視して後先も考えずにツッコんできた。

多少の攻防戦で現状の戦力では徒に戦力を消耗すると判断した地球連合軍はある程度引き、後日の攻勢の為に温存を考えていた。

 

だが、

「地球の、皆の仇だ!死ねぇ!!青き清浄なる世界のために!!」

そう叫んだメビウス12機の編隊が基地建設地へ特攻した。……そう、一機ではなかった。

エイプリル・フール・クライシスはコーディネイター・ナチュラル問わずこのような人間を大量に生んでいた。

 

「……やはり、こうなるか」

月面基地建設の為に駆り出されたクルーゼは率いた隊員に聞こえぬように呟いた。

クルーゼは部下と共にMSの機銃である程度の狙い定めて掃射した。クルーゼは直情的で愚かな特攻をしかけたメビウスを6機撃ち落とした。

残りの5機は部下達が撃ち落としたが、1機は撃破しきれず基地建設用の重機へ突っ込む形で直撃し爆散した。

重機の操縦席の人員は避難済みでありザフト側に人的被害は無い。……命を懸けての特攻は完全に無駄死にであった。

これが地球連合軍が計画したものであればかなりの損害が出たことは容易である。爆薬でも積んでいたらクルーゼも危ういが積んでないと直感で理解して引き受けていた。

無駄かといえばそうではない。ただブルーコスモスはこの特攻を美化し続いていく馬鹿は増えるだろうし、ザフトは警戒しつつも無傷の現状故に嘲笑してまともに分析しない。

……これは分かる者からすればただの愚行でしかない。

 

クルーゼが乗るのがただのジンでは無傷は難しかっただろうが、今回クルーゼが乗っていたのはザフトが新しく現場に配備したジンハイマニューバだった。

本来は新機体ゲイツの繋ぎとして6月に配備予定だった。ジンハイマニューバはメビウスの性能と生存性向上により僅かに早く配備されていた。クルーゼはザナドゥの関与が原因であると看破していた。

……せめて無傷でなければ色々双方考える契機に利用できただろうがこれで無駄だとクルーゼは特定人物に対して嘲笑した。

 

「本当に戦争を止めたいならば君が戦場に来るしかないだろう。……何をためらっている?コーディネイターさえ気にしなければどうにでもなる筈さ。勝てたとて世界がどのような地獄になるか知らんがね」

クルーゼは意地の悪い笑みを浮かべ私見を述べた。……クルーゼはザナドゥが本気で動けばプラントには勝てると確信できた。

クルーゼはクシーがMSを操縦できるとは知らない。だが、種族的にはナチュラルであるクルーゼが可能であるので出来るとほぼ確信していた。クルーゼは無意識にそうであって欲しいと思っているが気が付かない。

 

だがクルーゼはザフトには勝てないと看破していた。この場合のザフトは組織ではなく思想としてのザフトである。

クルーゼは憎しみの連鎖でどうにもならない俗物達がザフトに集まっていると察していた。

クルーゼはアスランの理不尽教育前の士官アカデミーしか知らないし、理不尽卒業後の士官アカデミーしか知れなかったが全体的には影響は少ない。

アスランの件を知っていたとしても、今ザフトにいないものもザフトを名乗り始めるだろう本当に誰にもどうしようもないとクルーゼは確信していた。

そうなるとすべてのコーディネイターは地獄を見るだろうし地球は今以上の地獄となった。

 

「どう足掻いても人の悪意は止められんよ。捕虜や提言などと美談を重ねたところで憎悪の解釈は自由だ。……それこそ君の言う表現の自由だ」

クルーゼは脳内で色々言い始めるクシーの戯言に対して事実で返した。そして、クルーゼが表現の自由を持ちだした瞬間脳内は静まり返った。

 

……クルーゼはストレスからか脳内でクソリプする野郎が偶に出て来ていた。クルーゼはデュランダルに薬を貰えないか真剣に考えていた。

クシーは稀に出現する脳内クルーゼに嬉々として対応しているがまともな精神構造ならコズミック・イラ史上最強のレスバ王決定戦が脳内で繰り広げられるのは嫌だ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ローレンツ・クレーターの基地建設を何としてでも阻止すべく、何よりも第二のエイプリル・フール・クライシスを阻止すべく地球連合軍の兵士達は士気を高く戦場に赴いていた。

……現場の兵士達からすれば核でないだけである。核よりはマシだったとなる冷静になれるまで余りに時間が足りなかった。

なお、ザナドゥシンパは論外である。常日頃から毒電波垂れ流す代表 —恐ろしい精度のコズミック・イラ世界の未来予想の一部— が現実になってきていると実感していた。

コズミック・イラという時代の熱狂に当てられる前に氷水をぶっかけられていた。

 

この時代にいながらもブルーコスモス過激派の大義に狂えないザナドゥシンパにとって地球連合軍の軍人という義務感では安心できなかった。……良くない傾向であるが時代が軍人だけでなく思想を求めていた。

時代と戦争は過去にも存在した。第1次及び第2次世界大戦は政治思想が戦いを誘発した部分は否定できない。

現在のコズミックイラにおけるブルーコスモスやコーディネイターがそれにあたる。ザナドゥというよりもクシーは古臭い優生思想が最悪の形で再興したのだと認識している。

 

ザナドゥシンパ達からすれば戦争前から現在もなお有限無限問わずに唯一まともに対策し動いているのはザナドゥだけである。彼らは地球の引力が如くザナドゥのクシーという存在に惹かれていた。

ザナドゥ代表クシーからすれば自分より前に平和活動をしているマルキオ導師やクライン派の一部等がいたのでそちらにも目を向けて欲しいと思っている。

……クシーからすればコーディネイターとの融和をするならば本当に知っていてほしかった。クシーからすればシーゲル・クラインやウズミ・ナラ・アスハ等の思想は自分よりは大分まともに見えていた。正しいかは別としてクシーは本来自身の思想が時代に適合するものではないと悟っていた。

どれだけ足掻いても戦争が止まらない現在の人類ではクシーの夢であった人類の外宇宙進出すら遥かに遠い未来の絵空事であった。

 

クシーはキラやアスランやザナドゥ初期メンバー達とまだ見ぬ世界、新時代を見たかった。これはもう叶わない。

クシーのコズミックコスモポリタニズム、新時代提言とはかつての夢の残骸であった。

……まだ諦めていないので深宇宙探査機構D.S.S.Dに支援していたりしたが、金だけ渡して以降完全に拒否されていたりする。カミーユらにブルーコスモスが嫌いと零したのはブルーコスモスという理由で本気で拒否されたからだった。

D.S.S.D側も宇宙に進出しているプラント及びザフトとの提携の為にブルーコスモスの一派であるザナドゥと関わるわけにはいかなかった。オーブ連合首長国のモルゲンレーテ社の技術協力などの秘密協定もあるので地球連合軍の兵器作っているクシーはアウトである。

……クシーの新時代提言を文字通り受け取れば完全にD.S.S.Dの理念と合致していた。だが、アズラエルの政治的な圧力により撤回していたのもあり一読すらされなかった。

 

想いをどう解釈するかは当人のいない時代の課題となる。クシーはジョージ・グレンが引き起こした諸々の反省から人類の成長に委ねていた。クシーがジョージ・グレンから学んだ事でもあった

ジョージ・グレンはおそらく自分のような優れたユーモアセンスが足りないのだろうとクシーは自身の芸術であるゲームを作ってばら撒いていた。……最近は本気で忙しいので芸術部門に任せきりであるが。

クシーは知らないが少し未来にゲームをプレイしたジョージ・グレンは真顔になった。

キャプテンGGとして自身を蘇生させたジョージ・グレン友の会に頼んでクシーの作ったゲーム等を取り寄せていた。

ジョージ・グレンはそのゲームの真意をダイレクトに受け取ってしまう程度には能力を持つが本人が自覚しているようにユーモアのセンスが足りなかった。

 

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