極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年5月15日、オーストラリア大陸のカーペンタリア基地が間もなく完成に差し掛かっていた。
そのような中、地球連合の事務総長オルバーニはザナドゥ代表クシーと秘密裡に会合を設けていた。
内容はプラントとの和睦に向けての話し合いであった。だがオルバーニ事務総長はクシーにまともに取り合うつもりは最初からなかった。
仲介を依頼するマルキオ導師に渡す前に平和活動しているクシーの名前があれば和平の空気の一助となるか考えていた。
……このあまりにズレたオルバーニ事務総長の認識は理由があった。
「率直に言おう。オルバーニ地球連合事務総長殿。これでは足りない」
ザナドゥ代表クシーはオルバーニ事務総長に望まれていない意見を述べた。
クシーはオルバーニ事務総長に呼ばれてのこのこやっていていた。
滅んだ国連を勝手に名乗って広報や停戦を延々と呼びかけているクシーにとって下手したら今後の活動に支障が出る可能性があった。しかし、自主的に停戦してくれるならばそれに越したことはない。精々自分の名誉が傷つく程度であるのでクシーは喜んで来た。
平和になるならと思ってから一気に落胆したがクシーはそれを表情に出さなかった。
更に、この案は問題あるがそれ以上にオルバーニの認識が実態とズレているとも確信していた。
クシーは自分に関してはもう戦争辞めてくれればどうなっても良いと考えているが、オルバーニの認識は修正しないと今後和睦の可能性もあり得ないと分析し、気持ちを切り替えた。
「……君は責任を負わない子どもだからそのように言えるのだろう。政治とは相手の言い分を丸呑みするものではないのだ」
オルバーニは子ども故の無知と無礼な振る舞いを多めに見て窘めた。オルバーニの認識ではコーディネイター並みの才能を偶々持ったナチュラルである。平和活動は地球連合では邪魔であるし世間一般の陰謀論が流行っていると認識していた。……オルバーニの認識は正しかった。
だが、陰謀論を全否定するとまともなザナドゥ代表クシーの情報まで無視してしまっていた。それを訂正できる者達はオルバーニ事務総長へ期待していなかった。
クシーが様々な別件で嫌がらせのように平和平和と捲し立てて地球連合本部に通い詰めてようやくオルバーニ事務総長は認識していた。
「……気を悪くしたならすまない。オルバーニ事務総長殿」
クシーは面食らった。今更このような事を言われるとはと思い、何でこんな状態で周囲は放置したのかと内心嘆いた。
……流石のクシーも地球連合の名目上トップであるオルバーニ事務総長と関われる機会がなかった。
クシーは崩壊した国連を名乗っている。国連を踏み台に出来た地球連合のトップである。クシーはオルバーニ事務総長が分かって自分に接触しているのか怪しいとさえ感じていた。
これは本気で不味いがクシーにとってか細い和平の道に見えてしまっていた。他に専念した方が良いと理性が叫んでいたが切り捨てるには惜しい。クシーは脳の叫びを抑え込んで表情に出さなかった。
「私の至らなさ故に言葉が荒くなった事は謝罪しなければならない。申し訳ない」
クシーはオルバーニ事務総長に深々と謝罪した。
国際連合云々などを考えれば立場的に地球連合事務総長へ簡単に頭を下げるのは不味いのだが、秘密裡の会合でありオルバーニ事務総長が認識出来ていないので一個人として謝罪した。揉めるのも不味い。
「ああ、いや。続けてくれ」
オルバーニ事務総長はクシーに話を促した。聞き及んでいる範囲内ではクシーは大層な癇癪餅である。オルバーニは賢しい子どもが反発するだろうと思っていたので拍子抜けした。
不良が善行しているのを目撃すると良い人と錯覚するようなものに近い。オルバーニはそのような人間心理を理解していたので飽くまで多少は理性あるのだなと認識を改める程度で済ませていた。
……オルバーニが情報さえあればある程度切り替え出来る人間である上に過剰には戻さない理性がある事を察したクシーは逆に頭を悩ませた。この返答だけでもクシーはオルバーニがどのような人間かを大体察する事が出来ていた。クシーは自らの経験から相手にどう伝わるかを必死で考えた。
「……翻すようになるが貴方の和平案というよりも譲歩案。確かに貴方の考えは交渉という点において間違っていない。開戦前よりは譲歩しているし、悪くない話でもあった」
クシーはまず褒めることから入った。基本である。基本過ぎて味気ないが相手はこちらを子どもと認識していた。だからまず当たり障りのない言葉で話を引き込む。
クシーはつまらないというような振る舞いをしながら、オルバーニに嫌悪感を抱かせない範囲内でほんの僅かに苛立つ状態にするために慎重に観察しながら話していたた。
「戦争はもう起きた。……勿体ぶった言い回しをすることが大人ではないのだよ。こちらはプラント視点の話を聞きたかったのだ。文句を言うだけならば……」
オルバーニは僅かに苛立ってクシーへ言った。そんなのはオルバーニも分かっていた。
エイプリル・フール・クライシスで戦争被害を受けている地球連合からしたら降伏したいけど降伏しませんという内容である。だが、話の叩き台が必要だった。そこを分からない子どもに言われたら何故か腹が立った。
「この譲歩案、要するに一部の自治を認めるもが理事国が変わらずにプラントを管理するという事だ。今でも一部は話に応じてくれるだろう。……今すぐこれを出せれば」
クシーはオルバーニの話を遮った。空気の読めないガキはこういう事をするとクシーは理解していた。相手の暴言を遮る形ですれば相手は怒りから一瞬だけ冷静になる。
そこで最も大事な内容を伝える。クシーは感情や体験を伴う記憶が人間に最も響くと知っていた。だからオルバーニの怒りを誘引してでも『今すぐ出せ』と伝えた。
クシーはオルバーニにこれが出来ないのは知っていた。……同時にザナドゥ代表クシーでは絶対に出来ない。
間接的に関わる事は出来るがザナドゥ代表クシー個人は飽くまで国連の代表であり、地球連合所属のザナドゥだとしてもせいぜいがオブザーバー的立ち位置で政策としては行使できない。
つまるところ、クシーではどうにもならない。無知で善良な大人を説得しても地球連合事務総長は影響力が大きすぎた。僅かな会話で生き残れるように伝えれば良いのかとクシーは無茶苦茶を考えていた。
どうすれば良いかあらゆる可能性を考えたがオルバーニが殺される可能性が高かった。クシーは言葉を待って更に考えることにした。この間の思考はコンマ001秒である。
「……」
オルバーニ事務総長は沈黙した。……こちら側の都合の良い要約だけ読んでいればと思っていたが全文読んだ上で話している。何よりこの譲歩案をプラントへ出せないオルバーニ側の状況を察している。
出せと言われても出せないのだ。オルバーニは交渉する相手の国や名前を思い出すだけで吐き気を催していた。意味のない内容でも文句が来るのはオルバーニも分かっていた。
吐き気と同時にオルバーニ事務総長はマルキオ導師が評価した人物評の全部が過大ではない事を悟った。
相手は子どもであると思っていたオルバーニはザナドゥ代表クシーが認めた譲歩案とだけ言えば良いのだと認識してこの場に臨んでいた。
オルバーニはクシーへの認識を改めたがクシーの求める想定外には至らなかった。戦争を止めたいという想いは間違いなくあるだけに惜しかった。
自分の命と平和のどちらが大切と聞かれて投げ出せるものはそういない。オルバーニは平和を望むが咄嗟になれば自分の命を取るタイプの人間だった。
オルバーニが無責任な大人だとクシーは思わない。……他は自分が死んでも戦争して殺したいというのだから酷いとクシーは思っている。ブルーコスモスに属するので本気で思っている奴らはたくさん見ていたクシーは自分が命懸けであることを棚に上げてそう思った。
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オルバーニ事務総長は現在の情勢下でもはや罰ゲームのように地球連合事務総長の椅子に座らされた男であった。
地球連合の大西洋連邦主導で動きつつも反発する構成国で事務総長の言う事など誰も聞かない。
勝っても負けても地球事務総長に関して後世の評価が低くなるのはほぼ確実であった。
誰もこんな状況でやりたがらない。オルバーニは僅かな使命感と諦観で引き受けて仕事に臨んでいた。
……これでも地球連合の政治家としては随分マシである。有事に際してのトップとしては大分微妙であるものの、まともな職業倫理観大人が自分の出来る範囲で最善の仕事を熟そうとしていた。
クシーは国連事務総長と比べて何たる事かと嘆いていた。流石に自身の友人と比べるのは酷かと思ってはいた。
だが、クシーからすれば同じ事務総長という肩書であるのに落差が甚だしかった。
クシーから見て前任者である国連事務総長は、オルバーニと比べて更に権力が弱く支持基盤等も脆弱でありながら戦争の早期終結の為にコペルニクスの会談を開いた。
その過程で発生したあらゆる暗殺者を(クシーから見て)平和的にぶん殴って磔にして臨んでいた。
国連事務総長は愛と平和の使者が暴力はいけないからと最後の2週間は愛用のヘリやショットガンの弾をプラスチック弾にして臨んでいた。実弾が混じっていたとしても誰が何といおうとも誤射の範囲内である。
更に、国連事務総長は自身に万が一があった場合に備え、国連崩壊時の世界各国へ引き継ぎ書まで用意していた。
クシーは本当に惜しい人を亡くしたと思っている。クシーからすると本当に真っ当に大人をしていた。当然ながら他からの評価をクシーは聞こえない振りをする。これは聞け。
国連事務総長はクシーの無茶苦茶さを『気に食わない奴をぶん殴る。大丈夫、皆やっている普通の事さ、兄弟!』と親指を立て笑顔とともに肯定しやがった無茶苦茶な爺である。
クシーにとっては孫娘を可愛がる慈愛に満ちたお爺さんであり、ザナドゥのゲーム会社の支店を自身の母国アフリカ共同体に建設してくれた地球上で唯一認めてくれた聖人だった。
アフリカ共同体ではコペルニクスの悲劇のせいで下手に潰せないから生き返ってもう一回死ねと惜しまれているが、ザナドゥ芸術部門では生前から神として神社へ祭られている。
……そんなザナドゥ代表クシーはこんな国連事務総長の無茶苦茶が世間一般に知られていないように正しく認識されていない。
滅茶苦茶さでも誹謗中傷や陰謀論の流布で大体間違って伝わっている。
南アメリカ合衆国が地球連合に侵略されそうになったりしたが大多数から見ればそれは膨大なニュースの一つだ。ロゴスも地球連合もプラントも全てがクシーの全ての努力をかき消すあらゆる雑多な情報で幾らでも誤魔化す事が可能だった。
従って、関心を持って調べるような人間でない限り変人くらいになっていた。戦時中で情報統制も敷かれていたのもそうなってしまっていた。
誰もが無視しているが、エイプリル・フール・クライシスへの対応という実績だけでもザナドゥ及びクシーは既に人類の大多数を救っている。……この時代のこの世界で生きていれば火星に住むマーシャンでもない限り何処かしらでザナドゥ及びクシーに助けられていたが気が付かない。
例えば、近所の土木工事の労働者の顔と名前を憶えている人間はそうはいない。
皮肉なことにそれらを全て覚えようとして忘れないのがクシーである。……そのような人間は歪であった。
地球連合のオルバーニ事務総長はザナドゥが強大な組織とはいえ裏に大人や組織或いは国が管理している……つまり、自分と同じお飾りだと認識していた。
というかクシーの、このような実態を想像するのはまともであれば余計に無理だった。
そもそもブルーコスモス代表のアズラエルすらクシーの現状がここまで酷いと思っていない。真っ当な商売人の成功者だからこそあり得ないと断ずる。
……あり得ないが可能な人間がコズミック・イラ世界の悪意に向き合った結果誕生していた。
オルバーニの思考はこの時期のこの立場の人間として考えればザナドゥを軽視するような大分愚かしい事である。だが、クシーは高々15歳である少年だ。だが、異常でもあった。
寧ろオルバーニは世間の無茶苦茶な罵倒や偏見に惑わされずにクシーを見ようとしていた部類であった。
極めて真っ当な態度だけにクシーを軽んじていた。仮に風評通りの傑物だとしても相手は子どもであると認識していた。
皮肉なことに今回だけはコーディネイターへの憎しみがあるブルーコスモスの方がクシーと認識を同じに出来ていた可能性が高かった。
まともな価値観の大人ならばクシーがザナドゥと関連組織を本当に支配下に置いているような存在だとは思わない。
ここに至って陰謀論に振り回されている馬鹿の方が今の本当に真っ当なオルバーニの常識よりも正しい認識となっていた。
そしてオルバーニの認識の社会道徳的正しさはアスランやキラでも似たようなものであった。
なお、アスランはプラントの体制側の視点で幼馴染の奇行を判断できるので納得して秒で理解するのでオルバーニの状態にはならない。友人として会えば間違いなくぶん殴る。
この時代におけるザナドゥ及びクシーとは客観的に事実を列挙し、ある程度実情を把握できる立場で冷静に分析して初めてまともに気が付ける面倒な存在であった。
……地球連合もプラントもまともに関わると戦争できないが完全に無視もできない本当に目の上のたん瘤のようになっていた。
排除されないのはザナドゥの兵器開発やプラント含めた各国への政治的工作の数々である。
クシーが特にMS開発を進めているのは正式採用されなくても作って運用できる技術があるという事実で地球連合と敵対しないように立ちまわっていた。
……クシーは核兵器よりは大分マシなので許容範囲内だと自分を納得させていた。
従ってザナドゥは核ミサイルを武装にするような事はしなかった。ブルーコスモス内のザナドゥは。