極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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閑話 割りと似たもの主従の過去話

コズミック・イラ61年3月。その日、外は雨が降っていた。

 

薄暗い屋敷の中で少年と私が話していた。家から見放され立場を失くした少年である。

最早私との縁もなくなる。惜しい逸材であるが家の方針であれば従う他無い。

そう思いつつ私は最後まで側にいた。

 

「この珈琲を飲み終わったら私ではなく”姉”が当主なので支えてあげてください」

そう言って眼の前の少年は珈琲を飲む。…苦いのか砂糖を足している。

 

角砂糖を3つ、4つ…入れすぎてザラメのようになっていく。

 

「チェルベサですね。苺のような甘い香り」

溶け切らない砂糖をかき混ぜ、それを一気に飲み干した。

…当たってはいるが味わう風情もへったくれもない飲み方である。

いつもならば気にする作法等一切気にしない。…私が状況を飲み込む前に関係を終わらせた。

 

「質問を」

私がそういうと少し意外そうな顔をした。

 

私だって彼に2年も仕えていたのだから虚をついて場の空気を壊したことくらいは察せる。

彼は軽く頷いた。…私の質問を聞く気があるようだ。答える義理は彼が飲み終わった時点でない。

彼がこういう行為をする意味はそういうことなのだが、これで最後ということなので気が向いたのだろう。

 

「血の繋がった両親からも家から否定された。否、貴方はそれを受け入れなかった」

私は愚かな選択に問う。確かに相容れない主義主張に従うのは苦しいだろう。

 

だが、それよりも遥かに家族から拒絶される方が辛い。

 

全く愛がないならともかく彼には少なくとも家族への情くらいはある。

…叩き潰せない程の自我と桁外れの才能を恐怖した我が主人達にはわからないだろうが。

 

「何故、そこまでして抗うのでしょうか?…その先に何を望まれるので?」

私は家令としてではなく、個人として尋ねた。

年齢に見合わぬ知性と精神の怪物とも言える少年に。

 

雷が落ちた。外の雨は激しくなる。

 

 

「世界が狭いから。外を見たいから。ただそれだけだ」

それだけ言って外を見る。外の荒れ模様を見てそんな事を言うのは彼らしい。

6歳程度で世界を言うか。…それだけの能力はあるのだが。

 

それが最後と言わんばかりに話を打ち切った。最早私も他人である。

荷を整えて出ていくつもりらしい。…思うところがない訳では無いが、付き従う理由もない。

 

何人かはついていくだろうが私はこの家に仕える家令である。

その地位を捨ててまで着いて行く理由にはならない。

 

だが、その後に続けた言葉を私は運良く聞き逃さなかった。

 

 

「…我慢するときは我慢するのが生き方だろうが。それではお互い不幸になるだけだから」

彼はそう溢した。特に気にしていないだろう言葉。

 

…それを聞いてしまった私は決めた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

私はふと昔を思い出していた。ベラとの会話である。ベラは危険人物である。

 

私が良い感じで家を出たら何やら勝手に押しかけてきた。

 

それでベラはこんなことを言ってきた。

 

『今はまさに混沌とした時代です。やがて人は新しいリーダーを求めるでしょう』

『しかし、それは言い換えれば体の良い人柱、優れた生贄です』

『貴方はそれをなし得る能力があるでしょう。しかし、それに必要な手足がなければなりません』

ベラは私がやがて世界の導き手になり自分はその為に必要な人材だと宣った。

 

しかもそうなった私を生贄とか人柱とか言うのだ。逆に凄い。

 

由緒正しい家である実家の家令であるベラはそれ相応の家柄の娘であった。

オーブでいうならば五大氏族に仕える下級氏族だろうか。オーブの事情には詳しくない私の喩えであり、多分そこまでの権力差はないと思われるが似たようなものだった。

私の実家でコネを作りそれなりの男性の伴侶となるのが人生だと言える。聞いていてそれで収まるような奴ではないと思っていた。

おそらく能力がない旦那なら家を乗っ取り自分の好きなように采配するくらいはしただろう。

 

ベラの話は半分にして、当時の私は人や世界を導くつもりはなかった。今も正直ない。

やりたくないしやりたい奴は腐る程いるのだからならそいつに任せたい。

まぁ、ろくな奴がいないとは思っていたし、現在でもそうであると言える。

しかし、出ていく前からの対話を通して見た世界、言いたくないが末法を通り越した糞みたいな世界で生き辛さを感じてはいた。

なので、自分がやりたいことをこれからはやると既に決めていた。

そのため、ベラのこの主張も完全には否定しきれなかった。世界がより良くなるようにはしたかった。…その想いの程度こそ今とは違うが。

 

ベラはノリと勢いで言っていただけかも知れないが、彼女の言動というか思想はテロリストのそれである。

もうこのテロリストは私の手元に置いておかないと危険ではないか。それなりに付き合いも長いので情もあった。

 

ベラは能力はあるので私が引き抜いた人々の素性を隠蔽して貰ったり楽はできた。

…ベラに感染した連中が危険人物となり、色んな意味で危ない予備軍になってしまった。

やれることが増えて戦争回避若しくは被害縮小に向けて様々な施策を打っている現在ではなくてはならない存在だ。

 

色々あったが今現在やっていることに後悔はしていないしこれから先も多分ないだろう。

 

何せ私は鳥籠を自分で壊したのだから。それは誰の責任でもない私の決めたことだった。

 

過去の自分自身を殺すことも辞めることもできないのであれば、それを認めた上で状況を改善し続けなければならない。

過去に囚われて未来を憂う暇があるならば今手を動かすしか無い。それが今を生きるということだと私は思っている。

 

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