極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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第一話 ミスター・ブシドーの復活(閑話)

コズミック・イラ70年5月26日、ザフトのホール・パイソンによるモロッコ虐殺の前日。

ザナドゥ代表クシーはブルーコスモスの別団体であるコミット・ブルーコスモスの代表達と面会することになっていた。

コミット・ブルーコスモスは元ブルーコスモス環境保護派であった。

ジャミトフやイゼルカントのような過激なエコテロリ……行動派ではない本当に真っ当な環境保護活動家である。

ブルーコスモスの後援者であるアズラエル財団がコーディネイター問題で方針転換した際に反発し脱退した一団であり、むしろ自分達こそがブルーコスモスの本家本元と名乗る気狂い……クシーが大好きなロックな団体であった。

 

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ザナドゥ本部直轄の病棟の一室にてイゼルカントはセトナと共にいた。

御年99歳のイゼルカントは気合で余命を伸ばしていたが連日の被災状況で流石に気がめいり倒れてしまっていた。

 

「コミット・ブルーコスモスか、久しぶりに聞いたな」

イゼルカントはクシーから許可を求める書類を見てぽつりとつぶやいた。

コミット・ブルーコスモスはブルーコスモスから最悪な形で抜けたので老人ホーム…環境保護派が更に力を失っていた。それに関してはジャミトフやイゼルカントは今でも根に持っていた。

環境保護の考えは共感できるがもう少し待つか相談して欲しかった。今更言うのもおかしいので蒸し返したりはしない。

 

「……コミット・ブルーコスモスですか。こう言っては失礼かもしれませんが本当に居たのですね」

セトナはイゼルカントが懐かしみながら語るのを聞いて言葉を溢した。

クシーは自分がこれに近い、寧ろもうこれでいいからブルカス(※ブルーコスモスの事、マーシャンのセトナにだけ言う酷い略称)から抜けて参加したい。

余生過ごすならここがいいなどとセトナに語っていたのだがどことなく空虚な印象を抱いていた。

……セトナはクシーがやりたくない事に一生を費やすつもりなのではないかと気づき始めていた。

 

「まぁ……な。関係ないが男というものはどんな年齢でも見栄っ張りでな。いきなり否定されると正しくても反発するものだと老人は言っておこう」

イゼルカントはセトナに語り掛けた。少女が何かしそうだと気が付いたが死にかけの老人である自分の理想を押し付けるのも違う。これが3月頃ならば言いくるめて止めただろうとイゼルカントは自分が死ぬのだと悟っていた。……なんかこれ既視感あるとイゼルカントは思った。

 

「……はい。ありがとうございます」

セトナはイゼルカントの忠告に本心から感謝して受け止めた。

セトナはクシーが自分のことを子どもと認識していると知っていた。そこから取り入れば良いと判断した。クシーの方はそういうのは本気でやめて欲しいと思っていた。……実に冷静で的確な指導者らしい分析である。

子どもが素直に疑問を投げかけるような事にクシーは弱かった。悪い事してないのに罪悪感湧くとクシーは思っている。……悪い事はしてなくても悪人相手に酷い事は滅茶苦茶している。

 

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クシーは自分が子どもの癖に子ども相手に弱かった。

人間としてはかなり歪んでしまっているが、クシーは子どもに自分と同じ目にはあって欲しくないという理由で無理やり活動していた。限界はとっくに超えている。

そんなクシーでも中東最大のテログループが自分へ子どもを人間爆弾にして送り込んできた時はしばらく悪夢で魘された。クシーがザナドゥで保護すると決めた少年をわざわざ拉致して爆弾にしていた。

クシーが来なければこうならなかったと教えられた子ども達は怨嗟の中で散っていった。

これで体に傷でもつけば良かったのだが、子どもの拙い技術ではクシーには軽傷にもならなかった。

心に傷ついても怒りに変換して戦い勝利出来てしまった。

当時はまだ秘密結社であったザナドゥが表舞台に乗り出す契機となった戦いの裏で名声を得たはずの少年はこれ以降泣くことを辞めた。

あらゆる人的資源を活用するザナトゥ代表クシーが唯一再利用しなかった組織である。

クシーは中東最大のテログループとして名前すら残さない勢いで解体した。

前科1200犯の犯罪者すらドン引きしてクシーに寝返りする程度にはヤバかった。これ以降、ザナドゥ内で大人しくしているので東アジア共和国は枯れ中年が死んだと思っている。

枯れ中年から『何かムカつくから多分ぶっ殺します』とお手紙を送られていた国主の李は枕を高くして眠ることが出来るようになった。

 

クシーはいつも通りに手が足りないと再利用していれば後1000万人助かったかもしれないと後悔と悪夢に未だに魘されている。子ども達の怨嗟に否定できないので黙って聞いていた。

 

ちなみに義姉シグネも弟以外の子どもには非常に優しい。クシーは姉のこの部分だけは好ましいと常々思っている。

……ベラはあの捻じれきったコンプレックスがなければ色々解決できたと常々思っている。ベラが知る限り、姉の歪みに向き合った結果弟の方までおかしくなっていた。

元家令とはいえもうリューリク家は滅んだ方が良いと判断してコペルニクスで活動したりしていた。いつのまにか主に組織ごと乗っ取られてザナドゥに吸収されてしまった。ベラは主が気にしないならまぁいいかとそれ以上は辞めていた。

シグネは次の当主である自分に対して不忠にも程があると思っていたが義父母に対して良い印象は皆無なのでリューリク家を滅ぼすことは別に構わなかった。

……クシーの両親は家の為に実の息子を捨てたがそこまでして継がせた義娘も家に価値を見出していなかった。皮肉にも実の息子の、肉親の情で続いていた。

 

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イゼルカントは病室でセトナに過去のあれこれを話していた。……コミット・ブルーコスモスとの関係、コミット・ブルーコスモスの亡くなった元代表に関して。

そして再構築戦争と環境保護派に関して。

 

「懐かしいが『アレ』の縁者だからな。今なら納得しかないが……はぁ」

イゼルカントは時間が経ち冷静になれていた。小僧……今はクシーには申し訳ないが希望があるのでおかしくならずに済んだと思っている。

押し付ける希望がどれほど酷いかイゼルカントは知っていたはずだった。

 

コミット・ブルーコスモスに関しては今考えると遠縁とはいえミスター・ブシドーの縁者ならそらキレるだろうなという諦観があった。

再構築戦争終盤に現れ閃光のような人生を駆け抜けた改造人間、正式名称『ブシドー・Mark1』。

大西洋連邦の誇りとも言うべき人間が生まれた国でよりによって反コーディネイターなるものが蔓延したのかというジャミトフの慟哭をイゼルカントは今でも忘れられない。

ミスター・ブシドーはジャミトフにとって永遠の好敵手でありドゥガチにとって艱難辛苦を共に歩んだ親友であり、イゼルカントにとっては……意味わからない存在だった。

なんというか少なくとも友人ではない。だが誰もが頷くような善人ではある。正直、イゼルカント的には距離置いて欲しい人間だった。

風貌が爽やかな美男子なのに言動・行動が何故か気持ち悪いのだ。なんというか行動も言動も一貫して清々しいのだがなんか生理的に嫌だった。特攻しても生きてそうであった。

……自分も確認したし確実に死んでいたのだが、あれで死ななかったら気持ち悪いという理由で生きてそうな気がしていた。

 

「だ、大丈夫ですか?」

セトナは慌ててイゼルカントに呼びかける。ため息を咳と勘違いして水を用意し始めた。その振る舞いは善意であり含むものは無い。

火星の指導者とも言うべきセトナからすればイゼルカントは火星初期の大英雄であった。

自分の出自を打ち明けるにしても、事故で冷凍ポッドが宇宙を彷徨ってましたとは今更言えない雰囲気になってしまっていた。

 

イゼルカントはセトナがマーシャンである以上の事は知らないので機密以外に関してはベラベラ喋っていた。妙に親近感抱くなこの娘と思っている。

当時のイゼルカントは火星指導者候補であった。

イゼルカントが語った内容はクシーに自分達で片付けれれなかった負債を押し付けることになった後悔なども含まれている。

……過去の大英雄が現在の指導者に言って良いラインを超過していた。イゼルカントを擁護すれば機密は守っているので一般人やある程度の地位のマーシャンまでなら全く問題ない。

 

余談だがコミット・ブルーコスモス離脱前のイゼルカントやジャミトフたちは代表であるアズラエルすらも対象にした大粛清を旧暦のソ連全盛期レベルで実行するつもりであった。

当時はあのドゥガチが健在であったので自分達ならやれるとほぼ確信していた。

だが、再構築戦争の英雄ミスター・ブシドーの縁者である当時のコミット・ブルーコスモス代表がブルーコスモスを脱退したのもあり不発に終わってしまっていた。更にドゥガチの認知症発症も合わさり環境保護派は老人ホームと揶揄される程にまで影響力を失った。

大規模破壊兵器の無い連合・プラント大戦とでも言うべき挨拶が核弾頭な頭Falloutの再構築戦争を生き延びた爺共である。

今でこそクシーやセトナ等の若い仲間達に絆されているが死生観がバグっていた。

 

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「ああ大丈夫だ。……気のせいか、何かやかましい奴の気配がする。ああ、そうか迎えに来たのか」

イゼルカントは段々眠くなってきていた。3か月持たなかったかと悔いた。ジャミトフには色々託す形になるが済まないと謝罪した。

この眠気は薬のせいである。老人が働き過ぎだった。

 

「な、ナースコールを」

セトナは真に受けた。イゼルカントが本心であるからそうもなった。

そして急に、唐突に不審者が病室に入ってきた。

 

「我が友イゼルカント!やはり私と君は運命の赤い糸で結ばれているようだ!!」

何か聞き覚えがある声だ。イゼルカントは眠気に耐えて目を開けた。

そして、完全に目が覚めた。

 

「どうか私が私であると証明してくれ!そもそもコズミックイラとはなんだ!?西暦はどうなった!?」

不審者の死ぬ間際の認識ではまだ西暦だった。コズミックイラとかいう年号は知らない。

核の炎で焼き尽くされたガガイの荒れ地は森林となっていた。

自分は孤児なので縁者などいるはずないのだが、コミット・ブルーコスモスは良くやったと褒めてやりたい。素晴らしい。

 

「しかし、良くない事になっているという話は少年から聞いた。私からすれば大分マシではないか。……正直、私たちの青春である再構築戦争の方が遥かに酷いぞ!大丈夫だ!」

不審者は返事が無い事を落ち込んでいるのだと解釈した。年老いても魂は同じと考えブシドーは変わらずに語り掛けていた。やかましい。

 

「ち、ちょっと待ってください!……病室です」

捲し立てる不審者に声を小さくするように話しかけた。イゼルカントが話していたミスター・ブシドーそのままの変人がやってきたように見えた。見えたではなくその人である。

 

「……むっ、すまん、そうか孫娘が生まれたのか。センチメンタルさを感じる」

不審者はセトナに謝罪した。勝手に一人黄昏つつもイゼルカントには謝っていない。

 

「間違いない、この厚かましさ、うるささぁ……ううすまん」

イゼルカントは薬の影響ではなく心労で倒れた。死者蘇生でもしたというのか、イゼルカントはよりにもよってこいつ蘇らせたのは誰だと呪詛を吐いた。

 

一族はカーボンヒューマンという技術を持っていた。再利用できる兵士として裏で運用していた。

ただし、改造人間経験があり人の言う事を利かないでやることなすこと滅茶苦茶なミスター・ブシドーは制御できるわけがないとは知らなかった。

……世界再構築戦争の英雄は語られる程品行方正ではなかった。美化されている英雄像と実像がそこまで乖離していないのも罠だった。

 

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