極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年5月26日、ザナドゥ本部の機密会議室にて緊急会議が行われていた。
ミスター・ブシドー関係者が席に座り、そしてザナドゥ医薬学部門代表ミケランジェロことマティアスが壇上に立っていた。
クシーはマティアスとメアリに潜在する敵、一族に関して任せていた。だが、死者蘇生という厄ネタには流石に説明を求める事にした。
クシーはネタバレし過ぎると不味いのであれば言わなくて良いとあらかじめ伝えていた。
黒幕の所業を予め知ってしまうとそれに対処したくなって最終的に負けるというのは自分のゲームで良く仕込んでいた。
『良くできたクソゲーだ。次やったら貴様だけは殺す』と一般ユーザーから袋叩きにされた大人気のシリーズ物である。当然、続編でも仕込んでいた。
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「何故ここで説明するかはなるべく聞かないで欲しい」
ミケランジェロは前置きした。普段の女言葉は無しであり、本気で圧をかけている。
ミケランジェロの事を知らないコミット・ブルーコスモスのバレッドとザフトの脱走兵キャロルは息を飲んだ。
セレナはミケランジェロが一族として話すのだと確信し、下手に口を出さない事にした。
「……」
イゼルカントは沈黙した。何を言えば良いか頭で考えては霧散を繰り返していた。
色々聞きたいがそもそも死者蘇生に関して知れる人材がザナドゥに居た事に驚いた。
うっすら息子にもう一度逢えるのではと思ってしまった。
だが、病室で会ったブシドーが自分であることを証明して欲しいと嘆きを含んだ叫びをしていたのを見てしまっていた。明るく振舞っているが傷ついている。
ブシドー本人に自覚が無いだろうがイゼルカントは気づいてしまった。
イゼルカントは細かな機微を悟ってブシドーに接するのでソウルフレンド認定されていた。
「貴方はクローンではないだけどミスター・ブシドーの別人でもない。洗脳されたり妄想でもない。……カーボンヒューマンと呼ばれる存在よ」
ミケランジェロはマティアスとして告げた。謝罪の意も込めていた。
……制御する因子を組み込んだとしても愚妹は不安定な技術を簡単に使い過ぎていた。
策略は悪辣であり評価は上げた。ただでさえ低い好感度は地の底を抜け地球を貫通した。
「カーボン……ヒューマン?」
ミスター・ブシドーは困惑した。正直、クローンの方が分かりやすかった。未来の技術にしても面倒な事をしていると直感した。
「理解した。なるほど、レトロウイルスを利用したのか」
クシーはほぼ完全に理解した。素体にデータを流し込んで上書きする。レトロウイルスであれば理論上可能だと断定した。
コペルニクスの悲劇が発生しない世界において最高峰の医学者はミスター・ブシドーという現物とクローンやその他ではないという発言だけで答えに辿り着いた。
レトロウイルスをどう使うのかは全くわからないので再現は不可能である。
「……ノーコメント」
ミケランジェロは悩んだ末に絞り出した。メアリがいれば自分とクシーの間でちょうど良い塩梅に調整してくれただろうが今は依頼をしていた。
「ひょっとして奴らには私の技術ツリーは無いのか」
クシーは更に口にした。フレームは脳波や電気信号を取り込み出力するシステムである。……理論上はカーボンヒューマンの真似事が出来る可能性がある。
ミスター・ブシドーで死者蘇生が可能ならばこれも出来るかもしれないと今気が付いた。
クシーは墓場まで持っていくが敵対勢力は全く気が付いていないようである。
「ノーコメントよ!分かってやっているでしょ!」
ミケランジェロはクシーに辞めるように叫んだ。クシーがヤバい事に気づいたのを察した。
義肢技術フレームが第二のカーボンヒューマンにならないように対策する事を話し合う予定が増えた。ミケランジェロは仕事が増えたと愚妹を呪った。
「すまない。……結構苛立っていた」
クシーは謝罪した。自分でも面倒な事に気が付いてしまったと思ったが初期段階で気づけて良かったとも思った。……ブシドーを再起動させた組織が悪用したら不味い。
「貴様ら、まさかと思うが」
イゼルカントは声を震わせた。最悪な可能性だが、こいつらが黒幕かと思ってしまった。
……言ってからそれは無いと思ったがバレッドやキャロルの前で自重しろ。
「無いわ。私も知っているだけ。……この子がおかしいだけよ」
ミケランジェロはイゼルカントの発言を訂正した。微妙に知っているだけという風に思考を誘導した。知っているだけならやれとは言われない。
ミケランジェロ的にはキャロルはちょっと不味い気がしたがザナドゥに抱きかかえれば問題ないとクシーは判断したと察した。
……一瞬でここまで考えて行動するのは頭一つ抜けていた。推理力ならメアリのようにより優秀な頭脳はいるのだがクシーは平均値が高すぎる。
ミケランジェロは宇宙世紀におけるカミーユ・ビダンのように能力故に破綻しないか心配であった。
「ええい!わからんぞ!分かるように説明しなさいと上官から教わらなかったのか!?」
ブシドーは主語の無い奴らの会話にキレた。誰でも自分の進退の話で同じ事をされたらキレても良いくらいには置いてけぼりにされていた。
教わるのが親ではなく上官であるのが改造人間の孤児であるブシドーの価値観が出ていた。
「貴方が言うのかしら?」
キャロルは思わずツッコんだ。意味わからない話をされて思考停止していたが頷く事をブシドーが発言したので正気に戻った。
というかなんだ、コイツは旧暦の英雄本人なのかとキャロルは飲み込むのに苦労していた。
「すまん。……コイツは本当にミスター・ブシドー本人なのか?」
バレッドはハゲ頭を掻くように困り顔で尋ねた。
父にも自分にも似てないのはブシドー本人も生前知らないくらいには遠縁であるので仕方がない。
ミスター姓を国連から引き受けたという重みをバレッドは父から引き継いでいた。
これを引き継ぐとなるとちょっと……いや尊敬できる人格者なのは一緒に生活していたし分かるけれども……となっていた。
「バレッド!私も悪の組織が作ったクローン兵士かと思ったりしたが違うらしいぞ!」
ブシドーはバレッドに対して軽く非難するような口調で喋った。
バレッドは自分の話を微妙に信じ切れていなかったのだと察した。なお、バレッドは全く信じていなかった。
ブシドーはクローンでないなら遺体からそのまま蘇生させたのかと誤認した。レトロウイルスというのはバイオハ〇ードみたいなものかと認識を改めた。
「ごめんなさい。訂正前の認識で大体合っているわ」
ミケランジェロはブシドーに謝罪した。クローンではないがゾンビではない。
そして、クローン兵士というのは言い得て妙だ。一族の都合で使われる兵隊というのはその通りであった。ミケランジェロはブシドーが惨い現状と向き合っていたと悟った。
「な、なんだと!……そんな」
ブシドーはミケランジェロの発言にショックを受けた。
バレッドやキャロルが見たことが無いくらいには衝撃で落ち込んだ。無理もないのだが余りにも普段との落差があった。
世界と民衆の為に死ぬ覚悟はあっても死後に悪用されるのまでは覚悟していなかった。
クローン兵士ならば洗脳された自分がいるかもしれない。
尊厳を凌辱された感覚に陥っていた。……自分は即座に逃げたが愛すべき自分と同じ容姿の弟達はどうなるのか。
「……」
クシーはブシドーの生前に関して伝聞でしか知らないので何とも言えなかった。
ただの直観で本人だろお前とは流石に言いにくかった。
「映画のクローン兵士みたいに量産できるような技術ではないわ。同じ時代に一人いれば良いくらいよ」
ミケランジェロは落ち込むブシドーに真実を告げた。似たような体形だけでなく遺伝子まで整えなければならない。まして改造人間ブシドー・Mark1は人体改造されていた。
素体は確保できても手間がかかり過ぎる上に今回の脱獄である。再び作る事はまずない。
「……こんな事を医者が言うのはおかしいんだけど、貴方、魂まで本人じゃないかしら」
ミケランジェロは本音をぶちまけた。
カーボンヒューマンは遺伝子情報等を採取してレトロウイルスにより転写させる作業を繰り返す。故に生前とは多少の差異は発生していた。
だが、目の前の男はミケランジェロが閲覧した一族の管理するデータ内に存在した再構築戦争で活躍した人物と全く同じであった。過去の人物であるため幼少期等細かい部分までは流石に把握していない。
「慰めではなく本当にそう思う。この厚かましさや煩さは再現不可能だろう。……絶対に」
イゼルカントは断言した。自分のこれまでの苦労が魂で叫んでいる関わると碌な事にならないから逃げろと。
「ハハッ……ハハハ!感謝する二人とも!私、グラハム・エーカーは……」
ブシドーは二人の言葉に感謝した。改めて挨拶をしようと名乗ろうとして違和感に気が付いた。
「グラハム・エーカー?……私の名だな。ふむ、改造前の記憶まで戻ったようだ」
ミスター・ブシドー改め、グラハム・エーカーは失われた記憶から名前を取り戻した。
自分の名前だが知られていないならこちらを使えば問題ないなと良い気分になった。
偽名を名乗るのは自分の名乗りに反する。上官から武士道を学んだグラハムは挨拶と名乗りを大事にしていた。
「メンタル強いな。この英雄」
クシーはグラハムを見て溢した。自分でも結構引きずっていた。英雄というのはこういうものなのかと思う反面、自分は英雄には到底なれないなと感じていた。
大切な人の大事な場面では役に立てなかった。
「細胞に刻まれた記憶を呼び起こすのなら……?」
ミケランジェロは名前を取り戻したグラハムに聞き覚えがあった。
クシーが理想とするだろう偉業を成した世界線だ。一族とイオリアは決裂し、遥か前に分岐していた。
「ミスター・ブシドーってそういう事!?貴方、ELSと同化してないわよね!?」
ミケランジェロはパニックになり問い詰めていた。
ELSは本当に不味い。コズミック・イラであんなのが来たら人類滅びる。
自分より何代か前にELSと一族は交渉済みであったが何故かグラハム・エーカーが存在していた。
「ELS?何のことだ?」
グラハムはミケランジェロの勢いに押された。本当に意味が分からないが必死なのは伝わったし悪い人間ではないのは確信していたので無下には出来なかった。
「待って!……今はザフトと地球連合の戦争中よね!?無茶苦茶なオカルト前提で話しているのよアンタ達は!?」
キャロルは叫んだ。意味が分からない。茶番にしては力が入り過ぎていた。
だが、キャロルは凄惨な現場から絶滅戦争手前だと認識していた。その事を話し合いに来ていた。オカルトの話をしに来たわけではない。
「キャロルには申し訳ない。勿論、この後話をする。だが、滅茶苦茶な状況に巻き込まれた以上は巻き込まれていただく他ない」
クシーはキャロルに精一杯謝罪した。同時に諦めろと諭した。上目遣いで手を握り相手の事を本心から労わるように振舞っていた。
キャロルは文句を言いたいが年下の子どもに言われると黙ってしまった。
相手はスタイル抜群の美女である。クシーはそういう行為を躊躇わないのかとセトナはイラっとした。
ベラはアレが酷いと経験で知っていた。クシーは自らの美貌をフル活用していた。顔面偏差値のゴリ押しだった。
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全員が落ち着きクシーは会議を再開させた。本気で忙しいので手早く終わらせたいが誠意に欠けるので予定を後回しにしていた。しばらく残業必須である。
「死者蘇生しているのだから信じる他ない。どう対策するのか悩んでいたが……このカーボンヒューマンはそこまで万能ではないな?」
クシーはミケランジェロに確認した。グラハムの対応でおおよそ察しはついていたが後で面倒にならないように、特にイゼルカントの前で明言させておきたかった。
「ええ、クローン技術が未発達なコズミック・イラ世界では素体を用意するのは至難。そもそも再現する人物の遺伝子を始めとしたデータを十分に確保できる必要があるわ」
ミケランジェロはイゼルカントを察しつつ断言した。カーボンヒューマンでもフレームでもイゼルカントの息子であるロミは生き返らない。
「そもそもこのオカマはなんで知っているのよ。意味わからないわ」
キャロルは逆らう気はないが独り言を溢した。全員がミケランジェロの言う事が合っている前提で話していた。
クシーとしてはそこら辺話し合うべきと思っているがどこまで聞いて良いのかなどの調整が厳しかった。
「オカマではないわ。……次は無いぞ、小娘が」
ミケランジェロはキャロルの言葉を警告した。好きでやっている口調ではないのでオカマと言われると腹が立った。
「うっ……」
キャロルはあまりの迫力にやや怯んだ。ミケランジェロもちょっとやり過ぎたかと思ったが悪い警官役は自分が、良い警官役は別に任せる事にした。
「大変つらい想いをさせて本当にごめんなさい。(グラハムのことを)これからもよろしくお願いしますね」
クシーはキャロルの手を取って丁寧に頼み込んだ。ミケランジェロのボールを見事に受け取って最大限利用した。普通に最低である。
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キャロルの好感度を無理やり稼いだ最低な男は反省しつつ次は好感度下げないと誰かに刺されると確信していた。
空気を戻して話を再開させたが、ふとこの場にいない爺に関してどうするか悩んだ。
「……ジャミトフにどう説明すれば良いと思う?」
クシーはブシドーのライバルともいうべきジャミトフに関して軽く話を振った。
古なじみに関しての世間話を兼ねていたがブシドー視点では少し違った。
「……ジャミトフ?もしや、ギレンの野望をまだ実行する気なのか!?いや、私たちの仲間ではあったのだからそれはないか」
グラハムはブシドーに戻って尋ね返していた。再構築戦争でアクシズを落そうとした奴らである。グラハムとしても本気で警戒していた。
「ガトーやデラーズが最後までアレだったからな。……中々に劇物を抱えているのだなザナドゥという組織は!」
グラハムは過去の事を振り返りつつザナトゥ代表クシーに断言した。ヤバい組織だから大変だぞと労っていた。
クシーは苦笑いした。ベラは今日は珍しい顔ばかりするなとクシーを隠し撮りしていた。
「……ジャミトフに言うなよ、それ。というかお前そんな風に思っていたのか」
イゼルカントは顔を引きつらせて言った。確かにヤバい奴らと組んでいたがアイツは止める側だった事をグラハムは知らなかったと思い出していた。フォローしておくかと思っていた。
だが、
「……メアリから連絡が来ています。爺が戦闘機に乗ってザナドゥ本部に襲撃しようとして止められたそうです」
ベラは会議でジャミトフの蛮行を報告した。意味が分からないがグラハムは一人だけ正確に汲み取った。
「ジャミトフらしいな!偽物が敵の手に渡るなら殺すという考えだろう!」
グラハムは快活に笑っていった。死者蘇生はあり得ないならそういう思考で奴は動くとグラハムは懐かしさを覚えていた。
ドゥガチは60年後の現在では流石に亡くなっただろうか。グラハムは少しセンチな気分になった。