極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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第61話 思いやりの小さな花

コズミック・イラ70年5月31日、月面のエンデュミオン・クレーターでの地球連合軍とザフトによる熾烈な攻防戦からまもなく1か月が経過しようとしていた。

 

地球連合側はメビウスを主力にセイバーフィッシュを火力支援、アルカによる後方支援という当時としては堅実な布陣で戦っていた。

ザフト側もジンハイニューバをエースパイロット達に早期投入して確実に攻めていた。

政治的なしがらみを抱く余裕すらない最前線でザナドゥの兵器開発部門が開発した兵器達はようやく最適に等しい運用が可能になっていた。

……この状況を厄介に思うのは敵だけではなかった。

G兵器始めとした開発を主導する大西洋連邦首脳陣はザナドゥの独占もじり貧な戦況も一気に変えてしまいたかった。

オーブ首長国連邦のサハク家と内通した彼らは最悪な奥の手、サイクロプスの準備を開始していた。

自分達の有利になるように邪魔なユーラシア連邦海軍を壊滅させた大西洋連邦は連日の敗戦という結果よりも目先の権益を手にしようとしていた。

……ここまで愚かだとはザナドゥ代表すら思っていなかった。

今までの蛮行だけでなく人類は歴史を紐解けばそれ以上の愚行もしていたとクシーは反省した。後悔している余裕もなかった。

 

「妄執は焦りから生まれる。……役に立たない神に縋る前に手を打たねば」

クシーは独り言を溢していた。それは誰も聞かれる事はなかった。

 

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ナチュラル用OS問題が解決できないからMS開発が中々進まないという経験をザナドゥはしていた。

ザナドゥ代表クシーが忙殺されているとはいえザナドゥ海運防衛MS部隊、水泳部は未だにコーディネイターとハーフコーディネイターがパイロットであり水中に関してはコーディネイターOSを使っていた。

例外として、ナチュラルのカミーユ・ビダンがコーディネイターOSのMSゴッグで水中戦をしていた。

不十分さにキレてMSハイゴッグを作り始めたりしているがカミーユもナチュラル用OSは開発出来ていない。

ザナドゥ潰しから始まった側面の強い大西洋連邦主導のG兵器開発はまだOS問題の深刻さを把握しきれていなかった。

コーディネイターしか操作できないようにした欠陥兵器という認識が根強かった。

モルゲンレーテ社も大西洋連邦に媚びを売り、オーブ首長国連邦のサハク家の人間が使えさえすれば良いという極論がまかり通っていた。

第八艦隊のデュエイン・ハルバートン提督はG兵器強奪事件の際に以上の事を知り憤死しかけた。

ハルバートン提督も何かやらかす地球連合に警戒はしていた。

腹心の部下でもあるマリュー・ラミアス大尉を監視させるつもりで配置していたのだが、今後の地球連合軍の要になってくれればと教育し過ぎてしまった。

 

ハルバートン提督は政治が少し不得手だった。将来的な展望を考え実行に移す力や戦術面においてはあのラウ・ル・クルーゼが称賛を送るレベルである。

しかし、G兵器開発でザナドゥ代表を頼るなら支援しないと言われて妥協したり、政治的な監視を気質的に向いていないマリュー・ラミアス大尉に期待してしまう等の点で判断ミスをしていた。

ハルバートン提督はマリュー・ラミアス大尉の経歴などから自身の師ビリー・カタギリを重ねていた部分もあった。何かに固執する以前のカタギリをハルバートン提督は未だに尊敬していた。

更に挙げればマリュー・ラミアス大尉はコーディネイターの特殊部隊を壊滅させたり、PS装甲という新技術を導入させたりと極めて優秀であるので期待してしまうのもわからなくもない。

ハルバートン提督でなくともザナドゥ代表に全賭けするには平和活動で反戦を唱えているので反発する層も多かった。何よりもハルバートン提督は大人が子どもにこれ以上負担を掛けてはならないという想いがあった。

ハルバートン提督のG兵器関連の敗因はコズミック・イラで人格者過ぎた事だった。

再構築戦争で活躍した表向き最後の改造人間ミスター・ブシドーという存在がコーディネイターを許容する世界になり得たかもしれないとハルバートン提督は偶に考える事がある。

大西洋連邦内では最後の核に準ずるアイデンティティを私的な欲望で使う邪悪な技術と嫌悪した。それ以外の嫉妬も憎悪も合わさって現在のコズミック・イラとなり果てていた。

誰よりも存在感のあったミスター・ブシドーのことをビリー・カタギリの子孫すら覚えていなかった。

 

後に諸事情を知ったクシーはハルバートン提督を非難する事は人の善性を否定するようで気が引けた。言いたいことはあるが努力した結果に同情してしまった。

故に、ザナドゥ代表クシーは幼少期の恐怖であるゴリラへ文句を言う覚悟を決めた。

当時五歳のクシーにとってのマリューは唯一自分を恐怖させた存在である。

クシーは万が一の引継ぎでマリュー・ラミアスがゴリラで優れた技官だとベラに伝えていたがそれ以上は殆ど言っていない程度にはトラウマである。

マリューからすれば相手が子どもだと思わないので全力の暴力を見せつけていた。

そこまで恐怖してもクシーは即切り替えて真の敵に対処する為の共闘を持ちかけていたのもあり、マリューはクシーへトラウマを与えたという認識はない。

 

だが、クシーが本気で恐怖したナチュラルの女士官の噂はザナドゥ内で噂されていた。

表面的にはやりたい放題に見えるクシーに一撃与えたのだから勝手に広まった。

クシーへ直接聞いた者は凄まじい暴力と殺意の描写の数々にそんなナチュラルいてたまるかと思ったが明らかに語り手が本気なのでしばらく雨の側溝を見かけると恐怖した。

ザナドゥシンパのムラノフ中佐はムウ・ラ・フラガ中尉(当時)にこんなヤバいナチュラルの技官がいるらしいと酒の席で盛り上がっていた。

ムラノフ中佐は硬派なようでクシーが童貞だとザナドゥ内で広める等天然で畜生行為をする事があった。

ムウ中尉はヤバいゴリラと爆笑していたが後にそのゴリラの艦で戦う事を知らない。

変わり種でペニーワイズとジョージのMAD動画がザナドゥ芸術部門で流行っていた。

クシーはこれまでの仲間から勇気を貰った。

トラウマを乗り越えマリュー・ラミアスが更なる進化を遂げたスーパーゴリラだとしても立ち向かえる勇気を貰っていた。段々馬鹿になっていた。

 

諸々の経緯を理解したミスター・ブシドーことグラハム・エーカーはクシーの馬鹿騒ぎを見て残すならこれくらいが良いと笑った。

 

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5月31日、グリマルディ戦線、月面のエンデュミオン・クレーターにて。

ザフトのラウ・ル・クルーゼはジンハイニューバで自らの隊を率いてメビウス及びセイバーフィッシュ等を狩っていた。

そこへ一機のメビウスが突撃して来た。以前のような特攻ではなく、無策ではない意思を感じたクルーゼは相手にすることにした。

 

「……頼んだぞ!マイ!」

ジェイク少尉の操るメビウスがバルカン砲を放つ。バルカン砲で新型ジンにダメージは通らないが無反動砲等を使えば誘爆でダメージが入る。

地球連合軍側は正式名称のジンハイニューバではなく新型ジンで通っていた。

ジェイク少尉はクルーゼをけん制していた。血のバレンタインで生き残った彼は相棒のマイ少尉に託していた。

惨劇を乗り越え彼女に惹かれていたが今は流石に不味いと気持ちを切り替えた。

 

「ええ、これで!」

マイ少尉がリニアガンで狙いをクルーゼへ定める。

他の仲間から切り離されたエースパイロット、ここで仕留めなければ死んだ仲間に申し訳が無い。

マイ少尉はジェイク少尉の覚悟を無駄にしないと引き金を引いた。

ちなみにマイ少尉はカナードにお熱である。アイドルの追っかけに近い。

カナードは命の恩人であった。マイと再開したときも顔と名前を覚えていてくれた。

カナードはクシーが自分の関わった死者全員の顔と名前、経歴までを覚えているのもあり真似していた。カナードは辛くなり途中で辞めたが少尉クラスは把握していた。

カナードはクシーに辞めろとは言えなかった。……ジェイクは泣いていいしマイを邪な道に勧誘した豚野郎マッド少佐を許してはならない。

 

「伊達にエースではないのだよ。……リニアガンで確実に仕留めるならわかりやすい」

クルーゼはジンハイニューバに増設されたクラスターを開放した。

旋回機能が一時的に増加してリニアガンは回避された。

クルーゼの持つ優れた空間把握能力と急速な緩急による敵への誤認を誘発していた。

無反動砲はバルカン砲の斉射で暴発する可能性はあるが、機銃であれば暴発しない。

クルーゼはバルカン砲から庇った機銃を向けていた。

 

「なっ……逃げろ!ジェイク!!」

マイ少佐は思わず叫んだ。回避できるわけがないが一刻も早くとせかしていた。

 

「畜生!!」

ジェイクは死を覚悟して叫んでいた。

だが、肉体に染み付いた動作がジェイクを助けた。脱出装置がクルーゼの機銃より早く起動していた。

 

メビウスやセイバーフィッシュを撃破してもパイロットが生還してしまう事例が多数報告されていた。クルーゼ他も確実に止めを刺すように指導を受けていたが混戦だと見逃してしまう事も多々あった。

戦略・戦術目標を最優先しているのでクルーゼらは問題ないのだが、士官アカデミー卒の若いパイロット等は無力化された脱出ポッドを積極的に狩るなどしていた。

虫の羽をもいで遊ぶ残酷な子どものようでありクルーゼは自分の隊には控えさせていた。

クルーゼは士気やイメージの低下になるので積極的にやらないだけと無意識に言い訳をしていた。

ザナドゥ代表クシーのコア・ファイター構想がセイバーフィッシュで完成され、メビウスにも反映されていた。

地球連合軍の兵士達はじり貧ながらも自分達を見捨てないで戦える環境に希望を抱いていた。

……このような思想で製造した少年は絶望的な状況で僅かな希望の芽を見つけていた。

残酷な世界では簡単に消し飛ばされる事になるが、その瞬間には確かにあった。

 

「……厄介だな。アルカを狙うのが一番早いのだが、人命救助というイメージがついてしまっている」

クルーゼは脱出ポッドを引っ張るメビウスを見て言った。

脱出ポッドからアンカーが射出され、それをメビウスが引っ張って撤退していた。

重荷になる武装は全部廃棄し、仲間の救出に全力を注いでいた。……アルカが兵装を補給するから出来る事だ。

エイプリルフールクライシスで地球が瀕死であっても戦争を継続できる程の物資が潤沢という証明でもある。

クルーゼは逃げる奴らを機銃で狙えば殺せたし、独り言を言う間に重斬刀で切り捨てれば良かった。

だが、自分が気を取られている間に自分の部下が対処しきれず仕方がなく彼らを見逃した。

 

「私が行くのも考えたが、アデスは間違いなく反対する。エリート部隊だからこそ口に出せなくなるとは」

クルーゼは大体片付けたので独り言を続けた。戦力的には雑魚であるアルカが邪魔過ぎた。邪魔だが排除するとイメージが悪くなる。クルーゼ自身は良いのだが部下はどう思うか悩ましい。

クルーゼは目的にそぐわない事にため息を吐いた。部下たちに関しては時勢にしては良い部下を持てたと認識していた。クルーゼは自分の欲望より部下の心情について考えていた。

アンドリュー・バルトフェルドからは仮面被って怪しいと言われているが優れた管理能力を有する良い上司ではあった。

 

「ここまで考えていたとしたら人知を超えている。まぁ、そうではないだろうがな!」

クルーゼはアルカやらの開発者について述べた。考えて対策出来ていたらもっと救えていただろう。

そうすると前線の兵士達が味方を救う為に考えた事になる。クルーゼは大したこと無いなと嘲っていた。

クルーゼは無意識だが人間が助け合う光景を否定しなかった。

……そしてそれが消し飛ぶのを最前線で見る事になった。サイクロプスはクルーゼに芽生えた希望を完全に消し去る事になる。

 

「……アデス。すまない。少し聞きたい事があってだな。アルカを優先して狙うのはどう思う?」

クルーゼは一応、アデスに聞いてみた。やれるならやりたい。やれないなら仕方がないなという面倒くさい男である。

 

『……戦略的に有効なのは認めます。私個人としては気乗りしません』

アデスは大人の対応をした。クルーゼは多分乗り気でないのを自分のせいにしたいんだろうなと察していた。言うと面倒なので言わない。

 

「だろうな。私も気乗りはせんよ。……だが、理由があれば躊躇わないとだけは思っていてくれ」

クルーゼはアデスに上司として振舞っていた。アデスの気遣いには気づいていない。違和感を抱いてはいたので考えていた。

 

だが、

「……この感覚!あのメビウス・ゼロか!すまんが前に出るので後ろは任せた」

クルーゼはアル・ダ・フラガの息子の気配を察した。最優先で排除する思考に切り替わった。

ただでさえうっとおしいのに部下達もやられていた。クルーゼは次こそは殺すと決めていた。

 

『ご武運を。隊長が帰還される艦は守り抜きます』

アデスはクルーゼを見送った。頼りになる上司なんだけど面倒くさいところあるよなと思っていた。

 

「言ってくれるな。……オロール、私に着いてこい!ただし、ガンバレルの挙動を見誤るな!」

クルーゼはアデスに後で問い詰めることを決意した。クルーゼはムウ以外のパイロットの存在も直観で理解した。二対一よりはと考え部下であるオロールを呼んだ。

 

『了解!……隊長も自分の世界に入り込まないでくださいよ』

オロールは軽口を叩いてクルーゼに付き従った。

目標はムウとは別のメビウス・ゼロである。オロールは知らないが相手はトンプソン中尉であった。

トンプソン中尉とオロールはここからヘリオポリスに至るまで戦い続けるライバルとなる。

 

「……気を付けよう。それとオロール、人が傷つくことを戦場で言うな……チィッ!切ったか」

クルーゼはオロールの軽口を真に受けた。クルーゼはオロールに話の途中で通信を切られた。戦闘に入ってしまったのだから仕方がない。クルーゼは自分に言い聞かせた。

 

「おのれ、ムウ・ラ・フラガ!……絶対に許さん!」

クルーゼはメビウス・ゼロに向かって叫んだ。完全に八つ当たりである。

ムウ中尉はいつもより動きの粗いクルーゼのジンハイニューバによって今回もギリギリ生き残った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ところ変わって、同時刻のオーブ首長国連邦の一室。そこには長髪の美男子がヘリオポリスからの報告を受けていた。

彼の名はロンド・ギナ・サハク。オーブ首長国連邦の暗部を牛耳るサハク家の次期当主候補である。

ギナは双子の姉ミナと共に支配者による統治世界の構築を目指していた。

大西洋連邦と組んでヘリオポリスでMS、G兵器を開発していた。ウズミに気取られぬように細心の注意を払っていた。

だからこそ、とある異変に過剰に反応していた。

 

「『マカロニサラダからヤンバルクイナまで取り扱っております』?どう考えてもあの傀儡子がやる事だろう!?」

ギナは報告書を叩きつけた。あまりにふざけた内容である。揚げ物に絶滅したヤンバルクイナでも使うとでも言いたいのか。そう考えるだけで本気で腹が立った。

マカロニサラダは良いのかギナと後に聞いた姉のミナは思った。ツッコむところはそこではない。

 

「未来に対して大志があれば、今はどんなに卑怯に振舞おうと問題ではない。だが、支配者にすら立とうとせぬ者に好きにはさせぬ」

ギナは自分勝手な義憤に駆られていた。ザナドゥ代表クシーはギナ達と違い世界を牛耳ろうという野心がないと見切っていた。

地味に殆どの陣営が怪しんでいる中でサハク家の双子は真実に到達していた。自分が世界征服を本気でしようとしているからという酷い理由からである。

クシーが自分達を邪な者と思い込んでいるのも悟っている。実際、邪な目論見で行動しているのでクシーが正しい。

 

「同志であるシロッコとの計画もとん挫した今Gは完遂しなければならない。……ミナ、少しばかり人を使うぞ」

ギナは手勢を動かす事にした。一体誰の仕業かと新たなる存在に若干心が揺さぶられていた。

 

「そうか、工科カレッジ……3500人動員。貴様が私たちのワルツを阻む存在の名か!……トール・ケーニヒ!」

ギナは自分達を怪しんだ工科カレッジ生の名を確信した。

揚げ物ごときに3500人の動員はあり得ない。何より揚げ物店はシロに近いと調べがついた。

だが、G兵器のOSを担当しているカトウ教授の下で学んで勘づいたイレギュラーによる挑戦は見破った。

ギナはトールを自分達の好敵手になるか仲間になるか思案する事になる。

ミナは微妙に違う気がしたが3500人も動員できる人物が只者ではないという点には同意していた。

 

クシーは笑い死ぬかと思ったと後に語った。

 

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