極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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閑話 男の矜持

コズミック・イラ70年6月1日、月面のグリマルディ戦線が膠着して約1か月になろうとしていた。

地球連合軍はサイクロプスを起動させて味方ごと自爆させてザフトを壊滅させようと目論んでいた。6月2日、サイクロプスは起動し目論見は成功する事になる。

だが、それは見えない闇の最後の枷を外す事になるとは誰もまだ知らない。

 

ザナドゥ本部、大西洋連邦ロンドン支部長メアリ・クリスティの執務室。

大西洋連邦ロンドン支部長はコーディネイターである。迫害が原因でザナドゥ本部に来ている事になっていた。

実際はミケランジェロこと元一族の長であるマティアスとともに一族の対策をする為に避難していた。

メアリは衝動的に一族のマティスを殺そうとして失敗していた。

今思うと大分考え無しで頭に血が上っていたとメアリは反省していた。マティスは未だにメアリの幻影に怯える程度には影響があった。

メアリは変装していたので名前も顔もマティス側からは正確には把握されていない。

マティスから日本に向かわされた一族のエージェントが日本にはほぼ確実にいないと報告していた程度には迷走していた。

 

メアリは一族以外に通常業務も熟していた。コーディネイターであるのでナチュラルよりは業務量を増やせたがそれでも大分多かった。

 

「色々考えたけど……これは伝えない方が……」

メアリはクシーへ提出する資料を纏めていたが手を止めた。

大西洋連邦から送られてくるさまざまな資料から月面でのサイクロプスを使用した自爆作戦を導き出していた。

どれもが些細な情報である。司令官の友人関係、地球連合軍参謀本部のルーティンと些細な変化、物資運搬の記録等一つ一つは無価値な情報から価値のある情報を抜き出していた。

決め手になったのが大西洋連邦軍のとある高官が電子レンジを買い替えたという情報であった。……これだけでは何もわからない。

ザナドゥを排除したい勢力と関わりがあり、電子レンジの買い替え前に卵を品定めするように見ていたという証言があった。普段はスーパーなど見もしない上級国民気取りがである。

推測が多く不明瞭で動かす程ではないが、不自然な差異からメアリはザフトどころか地球連合の大部分が把握していない機密をほぼ完ぺきに見抜いていた。

どう考えても近日中に行われる。間に合わないメアリはペンを握りしめた。

諦めたくないがこれを伝えてクシーがこれ以上追い詰めるよりは最初から無い方が良かったのではと考えてしまっていた。

 

「厄介ね。……より多くの事を考えられるという事は」

メアリは髪を軽く弄りながら少し気分転換の為の紅茶を飲んだ。ビルダーズティーである。

メアリは以前クシーに入れられた安物の甘い紅茶を用意していた。

もっと美味しい紅茶は幾らでもあるし、クシーは糖分補給くらいにしか考えていない。……メアリは考えるのを辞めた。

 

メアリはミケランジェロと共に一族の蛮行を見張っていた。一族は最低10億人の間引きと並列してザナドゥを排除しようとしていた。

同時にやろうとするので失敗していたが片方だけに専念すれば危険だった。

 

「ミスター・ブシドー。コーディネイター以前の改造人間、再構築戦争の倫理観から生まれた……珠玉の瓦礫に在るが如しというべきかしら?彼は掃き溜めに鶴とか無粋な事を言いそうだけど」

メアリは先日突然湧いてきたミスター・ブシドーに関して述べた。メアリも状況的に掃き溜めに鶴の方が適切だと思うが品のある言い方を好んでいた。

 

改造人間ミスター・ブシドーの蘇生は間違いなくザナドゥの危機手前の行為だった。

タイミングも完璧でありメアリは悪辣だと思うが敵を評価せざるを得ない。……選んだのがミスター・ブシドーなのは馬鹿でないかと思っている。

ガトー辺りにしていれば暗躍してイゼルカントを唆したりしただろうとメアリは推測している。

こうなると本当に危なかったしメアリならガトーやデラーズを手駒にする。

ギレンはどちらに転ぶかわからないので除外する。推理できるギレンならば一族を秒で見限り第三勢力を作りそうである。

一族の馬鹿はカタログスペックだけ見てないか。メアリは相手が馬鹿だと予測しきれない事を仕出かすと知っていた。

何ができるのかわからない相手が更に不安になった。馬鹿が実質的に世界を牛耳っている上に自分達を消そうと企んでいるのだからメアリのストレスになるのは当然だった。

 

「グラハム・エーカーの依頼、ビリー・カタギリの捜索。分からなくはないけど失踪から25年経っている今だと安楽椅子探偵は厳しいわ」

一旦サイクロプスの資料をしまったメアリは別件の調査依頼を机に並べていた。親友のその後が知りたいらしい。

ミスター・ブシドーとこグラハム・エーカーの依頼である。クシーからも頼まれていた。

対応しないとグラハムは碌な事しないとクシーは確信していた。今のグラハムはジャミトフの士官教育で時間を稼げているから急ぎではないと言葉を添えていた。

精々1か月が我慢の限界である。メアリからしたらそこまで余裕があるわけではなかった。

 

「今ある材料で推理できた事を後で送ろうかしら……大西洋連邦に行かれても困るもの」

メアリは何もしないよりはマシであるので現状分かっている範囲での情報の精度を増して提出する事を決めた。

一族が持て余して封印したというゼロシステムの事は書かない。……ゼロシステムを使えばどのような未来が見えるのか。メアリは自身の欲望と成り得る好奇心を振り払った。

 

メアリは冒頭のサイクロプスの仮説に戻ってしまっていた。流石にこれ以上はどうにもならない。

メアリはクシーに伝えたところで何も変わらないだろうと結論が出ていた。伝えてもお互い傷つくだけである。そう思っていたが、理性と感情は違う。

 

「これは……私の意思で……」

メアリは処分する事を決めていた。いつもならば秒で処理する。だが、月面で戦っているのはザナドゥに近しい面々だ。

知っている仲間もいるだろう。無理に手を割くより他に回すのがどう考えたとしても良い。

自分もクシーもこういう事は無理やり自分を納得させていた。だが、それは。

メアリは解決策が無いと理解しているからこそ自分が楽になりたいから誰かに吐き出したいのだと悟った。

世界規模の災害と見えぬ恐怖がメアリを僅かに揺るがせていた。普段なら割り切れたし今回に関しては諦めたくないという認識になっていたのも大きい。

 

敵ではない存在の隠密に気づかない程度にメアリは一時的に注意散漫になっていた。

コツコツとメアリの執務室に男が堂々と入ってきた。

歩みを止まることなく真っすぐに向かう。それは決意した者の歩みだった。

 

「メアリ、出せ」

クシーはメアリの両肩に手を置き、両目を合わせた。

クシーは殆ど顔が重なる程に近づいてメアリに命令した。

 

クシーはメアリの抱える悩みを理解していたわけではない。

クシーの勘がこの件に関しては何も出来ないと叫んでいた。

これは徒労に終わるし得られる物はなく傷つくだけだと理解していた。

クシーは誰よりもメアリ・クリスティという存在を評価していた。

そのメアリが出来ない事は限りなく不可能に等しい。

それでも目の前の女を悲しませるよりは遥かにマシである。

 

「……はい」

メアリはサイクロプスの仮説を渡した。感情がぐちゃぐちゃになりながらも男の覚悟に当てられてしまった。

メアリは間違いなく後悔する事になる。しかし、この瞬間だけは永遠に忘れないと断言できた。

 

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