極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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コズミック・イラ70年6月2日 サイクロプス起動

コズミック・イラ61年3月20日、ユーラシア連邦から東アジア共和国カオシュン宇宙港に向かう旅客船ノーチラス号がガス爆発によって吹き飛ぶ事件が発生した。

当時乗り合わせていた旅行客は避難船で大半が助かった故に船員が死して助けたという美談が語られている。

だが、実際は違っていた。コーディネイターのテロ事件である本件では船員は真っ先に狙われ全員が死亡していた。

テロリストはナチュラルの乗員を皆殺しにしようとしていたが、キャスバル等のザナドゥ創設メンバーが鎮圧していた。鎮圧したが船を扱える者も一人を除き全滅していた。

 

乗客を混乱させない為にノーチラス号の船員の振りをした一人の男がいた。

ザナドゥ創設時の一人、フェイト・マツシマ。ナチュラルの黒人男性であり当時24歳だった。

彼は持ち前のユーモアで客人を和ませ、コペルニクスへ向かうクシーを避難客に紛れ込ませようとしていた。

女子どもを優先させて避難船に乗り込ませていた。

だがその途中、テロリストの仕掛けた罠が発見された。ガスを充満させて自爆するようになっていた。

間に合わないと判断したフェイトは止めようとするクシーを突き飛ばして自分で扉を閉めた。

有毒ガスが船内に充満し、ガスに引火すれば爆発も時間の問題である。ただ閉めるだけでも多少は時間が稼げた。

 

フェイト自身も根拠がない賭けでもあったがクシーは自分へ扉を開けろと言うがこれが無駄とは言わないので正しいと判断した。

実際、クシーはフェイトの行為で逃げる時間はあると直感していた。フェイトはクシーとの付き合いから読み取れてしまっていた。

今避難船に乗り込んでいる皆が助かるだろう。だが、クシーにとってそれは仲間が死ぬ事を意味していた。

 

「紳士たるもの、常に女や子どもを守るもの。気にするなボーイ……」

フェイトはバットな表情をする小さな友人に優しく語りかけていた。

フェイトはお前は子どもなのだから早く行けと言うべきだった。だが中々それを言えなかった。

 

(神よ。最後の言葉くらい言う時間くらいは勘弁して欲しい。いや、本当は生きたい、まだ見たい。本当はワタクシも船乗りとして宇宙の果てを見てみたかった。だが、叶わない。だから、せめて……)

フェイトは言いたい事を急いで考えた。だが、残念ながら自分の脳はそこまで優れていないようだと悲しんだ。

フェイトは自分と違ってコーディネイターであるのにこの船で満足したテロリスト達を恨んでいた。

だが、恨みは残してはならない。輝かしい未来を歩む少年にだけはカッコつけていきたい。

 

「ワタクシが最後に残す…いや、託す……男がどう足掻くのか。気…なるが…あの世で見よう……だから、だから……なるべく…遅くに来い」

フェイトは有毒ガスで気を失いかけながらもリュリュに言葉を紡いだ。なるべく後で来い。

 

フェイトの言葉を受けたクシーは撤退した。安全圏ギリギリで旅客船ノーチラス号は爆発四散した。

跡形も残らず記録も正確に残らなかった。ただその記憶だけがいつまでも残っていた。

 

純粋な思いやりの言葉を託された少年は今なお足掻いていた。……フェイトがそれを望んだかは定かではない。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

コズミック・イラ70年6月2日、月面基地でサイクロプスが起動した。半日足らずで出来る事など何もない。

クシーはあらゆる手を尽くしたが、起動直前に無理やり回線をこじ開けられたが一歩遅かった。

 

「……」

クシーは報告を聞くまでもなく黙っていた。

遅かったとは決して口に出さない。メアリから引き受けた時点でわかっていた事だった。

仮に持てる全てを賭けても間に合わなかっただろう事は理性ではわかっていた。

 

「次の手を次の手を……そう考えているのはいつになったら終わるのか。あの日から変わっていないな。私は」

クシーは震える手を握りしめていた。

怒りか悲しみか恐怖か絶望か或いは全てかもしれない。だが、場に立っているからには諦める理由には成り得ない。諦めるならば最初から立たなければ良い。

クシーは間もなく更に地獄へ続くと知っていた。逃げる選択肢は遥か彼方にあった。あの日から遠くなってしまったが最後まで足掻くと決意していた。

 

「これからの地球連合軍は兵士が畑から取れるとザフトは言うだろう。このままでは地球連合軍も間に合わせの少年兵を使い捨てるようになり始める」

クシーはこれからの未来を推理する。あらゆる方面から報告は兵士が足りないに帰結していた。膨大な人員は行政の管理下から外れて暴れ出す。

そして、サイクロプスの被害により兵士という選択肢が出来た。大規模な徴兵が開始される。最早止められない。

 

「これが狙いだとして何故踏み切れた?何かあったか、いやそれよりも。この場合は……」

クシーは新型兵器の開発が進んだと仮定した。MSが開発できる目途が立ったというなら話は一気に変わる。

だが、ナチュラルが操作できるOSをどのように開発したのかがわからない。

大型のMAを複数で動かすならば可能である。南アメリカ合衆国で使用されたMA擬きは大したことなかったが改良すればそれなりに使えそうではあった。

だが、それなら投入しているはずである。アズラエルが南アメリカ合衆国への侵攻の際に用意していたのだから直ぐにでも戦場で暴れさせるはずだ。

 

クシーは大西洋連邦の出資者達がガワだけを見て判断したと推理し切れていなかった。

プラントやザフトが散々コーディネイターしか使えないとナチュラルを馬鹿にしていたのを無視していた。愚かしいが出資者達も急いでいた。

マリュー・ラミアス大尉ら開発者達がまだ出来ていないと主張しても碌に考えもせず見切りをつけていた。

 

「志願兵は15歳まで引き下げるか。……私は立派な兵士になれないようだ。兵役逃れの卑怯者だな」

クシーは人間の被害を考えた。命は尊いのだがザナドゥ本部で日々の対応で感覚が麻痺しそうになっていた。

だが、自分と同じ年齢にする事で無理やり等身大の感覚に戻していた。これまでの犠牲者を軽んじるような行為は断じて許さない。

 

「プラントの成人年齢と同じにするまで対抗するだろう。ザフトに出来て自分に出来ないわけがないと子どもを唆すのは簡単だ。……何も知らなければ私もそうだっただろうか?」

クシーは一人しかいない場所でただただ吐き出していた。

プラントのコーディネイターへの対抗心を利用して宣伝する事は簡単に出来るだろう。ブルーコスモス過激派でなくとも出来るのだからどうしようもない。

 

「志願兵なだけマシか、ここまで対策していなかったら15歳から徴兵制になっていただろう。後何億人も死んでいないから出来る余裕だ。……だからなんだ?」

クシーは救いを求めて考えて考えて救いがないことに行きついた。

 

「ああ、そうか。傲慢なんだな私は」

クシーは自分を責め立てた。……言葉はあまりにも悲痛さが滲んでいた。

 

「だが、倒れない。そうさ、何度でも立ち上がってやろう。だから、だから……」

クシーは自分の体に爪を立てていた事を理解した。傷程度は仲間のミケランジェロが作ってくれた薬で何とかなる。素晴らしい事だ。……だからまだ立ち上がれた。

クシーという記号ではなく彼個人の矜持である。仲間と共に築き上げたザナドゥが負けるわけにはいかない。

そんな彼でもどうしようもない感情だけはどうにもならなかった。クシーは誰も近寄らせなかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

同時刻、サイクロプスを起動した月面基地周辺。散らばる残骸が無造作に流れる流星のようになっていた。

 

「隊長!危険です!一旦離れましょう!」

クルーゼ隊で艦を預かるアデスが叫んでいた。明らかにおかしい。確かに恐ろしい光景だったしもうこの場から逃げ出したい。

アデスはサイクロプスの二度目が来ると錯乱していた。

冷静に考えればそんなわけないのだがアデスは人体が風船のように膨らんで破裂していく光景を目撃してしまっていた。

 

アデスの言う事が聞こえないクルーゼはいつぞやの二人組のメビウスのパーソナルマークを見つけた。

クルーゼは知らないがマイ少尉とジェイク少尉のものだった。逃げようとしたらしいとクルーゼは察した。

誰が逃げる暇を与えたかは大体わかる。どうせ君だろうとこの時だけは殺意が湧いた。

 

「君はこういうだろう。ああすれば戦争は終わる。こうすれば平和になる」

クルーゼは本心からうんざりした。何もならない結末だ。

何度も期待させてくれたのは感謝するさと吐き捨てた。……それが八つ当たりなのは理解していた。

 

「だが、現実はこれだ。人類が発明した数字でしか物事を推し量れない者達が終焉への道を切り開いている」

クルーゼは二人の残骸を蹴散らして言った。サイクロプスを起動するのは合理的ではない。

地球連合軍は物量でザフトを停滞させていた。ザフトの被害も甚大だ。だが、地球連合軍の方が圧倒的に被害は大きいだろうとクルーゼは看破していた。

戦っていた自分が一番理解している。敵である以上は感傷するのもおかしいだろう。

だが、簡単に捨てた。クルーゼはクローンの失敗作で簡単に捨てられた過去を重ねていた。

 

「ならば、今度は私が試してやろう。……一手違えば平和への道と破滅への道。その水先案内人になろうではないか」

クルーゼは決意した。次の手を。地球連合軍でもブルーコスモス過激派だろうが利用してやろう。

だが、クルーゼはどちらかに肩入れはしない。それがせめてもの礼だと思い、それが誰かは考えない事にした。

 

 

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