極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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第62話 自惚れさえも才能だが、明日は君次第だ

コズミック・イラ70年6月3日、月面基地プトレマイオスの営倉へムウ・ラ・フラガ大尉が訪れていた。

中尉から大尉へ昇格し、エンデュミオンの鷹という二つ名まで貰ったがそんなものに価値はないと叫びたいとフラガ大尉は内心を抑え込んでいた。

 

「ジン四機撃墜?それがなんだっていうんだ。皆死んだんだぞ」

フラガ大尉は営倉に向かう途中の誰もいない場で一人溢した。

 

営倉には自分の後輩…部下がいた。フラガ大尉は第七機道艦隊の隊長に繰り上げされた。

そんなパイロット達は大半が戦死、生き残った者も精神を病んでいた。

……名ばかりに等しい状況で今までの戦果を求めているのかと憤慨していた。

メビウス・ゼロのガンバレルを使用できる人材は空間把握能力が極めて高い。

故に、サイクロプスで仲間達が、人間が弾け飛ぶ様を目を逸らせずに見てしまえた。

フラガ大尉もそのような状態であり自分を保つ事で精一杯だった。

隊長も先輩も後輩も死に、唯一まともな状態といえる部下に会いに来ていた。

 

「フラガ中尉、いや大尉。……すみません」

営倉にぶち込まれていたフランク・R・トンプソン中尉は力なく敬礼をして謝罪した。

階級を間違う事は上官侮辱罪に成りかねない。親しい間柄でも公私はつけるべき。

トンプソン中尉は律儀に気を付けていた。そんな自分を真面目ちゃんとからかってきた先輩たちは死んでしまっていた。

 

「フランク……いや、お前は間違っていない。俺は……」

フラガ大尉は励ましに来たはずなのに泣き言を言い出しそうな自分を恥じた。

だが、上手い事言葉が出なかった。これが一人で気を張らなければならないなら軍人として振舞えた。

だが、相手は自分と同じ事を体験してしまった後輩だった。耐えきるのは無理だった。

 

「それを言うなら先輩も間違っていませんよ。今回は公になれば不味いから。僕はメビウス・ゼロを使えるから……」

トンプソン中尉はフラガ大尉を慰めるような口調で自嘲して語った。トンプソン中尉はセオドア准将をぶん殴って営倉へぶち込まれていた。

 

ほんの数時間前に遡る。トンプソン中尉とフラガ中尉(当時)は突然、表彰されていた。

サイクロプスから生き延びた他の面々も強制的に集められているのを悟った。

これは人質も兼ねた恣意的な見せしめだとトンプソン中尉は瞬時に理解した。

ムウ・ラ・フラガ中尉は困惑しておりまだ露悪的な見せしめだと気が付いていないとトンプソン中尉は察した。

どうやっても無駄でありこれは耐えるしかないとトンプソン中尉は無理やり飲み込もうとした。

 

だが、

『仲間達の死は無駄ではないぞ。トンプソン中尉……いや、大尉だ。おめでとう』

地球連合軍第3艦隊のセオドア准将は二人と遠巻きに見守る生き残りにこう言った。

セオドア准将としては若いトンプソン中尉へ激励の言葉をかけていた。トンプソン中尉は間髪入れずにセオドア准将をぶん殴った。

 

トンプソン中尉は耐えなければならないと分かっていたが、セオドア准将は間違いなくサイクロプスを知っていたと確信した。

無理やりな昇格をされたフラガ大尉は慌ててトンプソン中尉を止めた。

気持ちは分かるし自分も殴りたいがそのまま殺しかねない後輩を見て冷静になっていた。

トンプソン中尉は殴っただけで理性を働かせていたつもりだった。本人も気が付いていないが途中からセオドア准将を本気で殺そうとしていた。

 

こうしてトンプソン中尉は大尉への昇格は取り消されていた。トンプソン中尉はそんなものはいらないと吐き捨てた。

フラガ大尉は後輩から部下になった男を必死に庇っていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

6月2日、サイクロプス起動直前に突然通信が入った。NJで通信障害が起こっている状況で繋げられるのは近距離通信くらいしかない。

一応、繋げられる通信には光通信もある。誰だろうとトンプソン中尉は繋げてしまった。

不審な通信を不用意に繋ぐのは褒められた行為ではない。だがこれが彼を助けた。

 

『逃げろ!月面から一歩でも遠くへ!!もう私のせいにしろ!!』

ザナドゥ代表クシーが通信をジャックして繋げた。

 

これが出来たのはザナドゥのゲーマー達から粗大ゴミと呼ばれる低速の通信装置があった。

 

残念ながら粗大ゴミそのものは量産性に乏しかった。緊急時に誰かにでも伝われば良いという事で試行錯誤の末に量産出来た物は更に低品質な代物になっていた。

クシーは一人が知れば他に伝わるだろうという考えで組み込んでいた。

従って誰かに狙って出来る通信ではないし偶々拾えた人間が偶々逃げ出せていた。

一人は拾えてもう一人に伝えて逃げられなかったのがマイ少尉とジェイク少尉だった。

 

ザナドゥが開発したメビウス等にはブラックボックスの一部に粗大ゴミが組み込まれていた。

粗大ゴミの有用性が知られていない時期の機体にも改修等の機会に埋め込んでいた。

粗大ゴミは旧暦の技術で構成されており最低な品質でありながらも通信が可能だった。

量産が難しい欠点も地球連合軍主力兵器という利権に組み込むという無茶苦茶で解決していた。

量産体制にする価値がないのなら価値のあるものに巻き込んでしまえと言う発想である。

クルーゼは知らないが彼の惹かれたゲームの仲間達の絆が偶然機能していた。その事実を知っていたらどうなったかはもはや誰にもわからない。

そして、クシーすらもこれに意味があったかをまだ知らなかった。

 

「……何だこれは?」

トンプソン中尉はあまりの気迫に満ちた通信に困惑していた。

 

通信の相手が誰か知っている者達は即座に逃げようとした。

知らなくてもその切実な叫びを聞いて無意識に月面から遠ざかっていた。

無意識に取った距離でトンプソン中尉は助かっていた。通信相手はあまりに必死だった。

 

メビウス・ゼロのガンバレルを使用できるトンプソンは空間把握能力でその一歩を理解していた。

トンプソン中尉は自分が動いた一歩で助かっていた。残念ながら先輩に映像について尋ねる猶予もなかった。

……先輩に聞いていたら死んでいただろうと薄々気が付いていた。

 

トンプソン中尉はザナドゥ代表クシーの通信でギリギリ死ななかった。

これ以上騒ぐと謎の通信に関して漏らす可能性もあった。言えば通信相手に迷惑がかかるだろうと認識していた。

それでも自分達を死なせる気だったセオドア准将の軽率な一言にキレた。トンプソン中尉は気が付いたらぶん殴っていた。

 

ザナドゥ代表クシーがまだ追及されていないのを見るとごく少数の生き残りも漏らしていないかもしれない。もしくは証拠がないかどちらかだとトンプソン中尉は推測していた。

前線の兵士達は地獄みたいだと愚痴りあっていたが本当に地獄なのは味方である地球連合軍上層部だった。

軍人なら報告すべきだろうが今回だけは報告しない覚悟をしていた。

サイクロプスの生き残りは感謝しながらも感謝を伝えられない状況になっていた。その誰かと二人きりで話せる日は遠かった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

6月3日に戻り営倉で先輩後輩が会話している頃、老年手前の男性セオドア准将が人を遠ざけさせて自室に籠っていた。

 

「全く……寛大な私だから許されたのだぞ。何だあの反抗的な目は」

セオドア准将はぶつくさと文句を言いながら頬を氷袋で冷やしていた。

トンプソン中尉から殴られたが功績で無しにした。責めるとこちらも不利になるので機会があれば報復してやるつもりでいた。

セオドア准将は寛大な処置と直属の部下達から持ち上げられていた。

 

大半の部下達は第3艦隊の人員入れ替えで転属されて来た者達だった。

特に大西洋連邦出身で構成されていた。ザナドゥが関与できないように身辺調査も欠かさなかった。

教育してやろうというセオドア准将の姿勢に尊敬の念すら抱くものもいた。

セオドア准将のやらかしを知る者は追い出したり脅迫したりと艦隊をクリーンにしていた。

彼らは世界樹攻防戦での敗戦責任の事もサイクロプスの事も知らなかった。

トンプソン中尉が思い込みで上官を殴ったと激怒する者もいた。功績で許してあげた寛大なセオドア准将というイメージを部隊内で作っていた。

セオドア准将は悪徳政治家の才能があった。

命の次に重要な操舵手などセオドア准将が入れ替え出来なかった古参兵は薄々察していた。

古参兵は本心からセオドア准将を軽蔑していた。

だが、セオドア准将に逆らえば自分も家族もどうなるか恐ろしいので古参兵も口に出せなかった。

実際、セオドア准将は古参兵の家族等を人質にとっていた。逆らえばモルモットとして生体CPUにでもするつもりだった。

 

セオドア准将は表面上家族のような温かさで部下達と接する一方、冷徹に部下を使いつぶすような軍人となっていた。

自分の命が惜しいが死ぬなら敵を道連れにする覚悟はあるので厄介だった。核でもなんでも使うので下手に追い詰められない性質の悪い軍人の汚点ともいうべき人材でもある。

 

「フラガ大尉にすれば良かったか?……いや、仕方がないか」

セオドア准将はトンプソン中尉以外に広報受けが良さそうな兵士を考えていた。

セオドア准将はフラガ大尉が最初からダメだった思い出した。

フラガ大尉はメビウス・ゼロ開発の際にザナドゥ代表クシーと関わっていた。

 

セオドア准将は世界樹攻防戦でコーディネイターのMS部隊を死蔵していた。

活躍させたくなかったので投入せず自身と第3艦隊を守るためだけに使用していた。

艦隊を温存した結果、現状最も戦力を保持しているので裁かれていなかった。

セオドア准将は戦力という盾で身を守っていた。軍内外から憎まれようが力があった。

……セオドア准将はそれを完全に無視してぶっ殺し兼ねないクシーが怖かった。

ブルーコスモス過激派の急先鋒のウィリアム・サザーランド大佐すら表に出さないが怖がっていた。

セオドア准将からすると本当に怖かった。なんでアイツは裁かれないのか理不尽過ぎると嘆いていた。

セオドア准将を庇ってくれたアズラエルからもクシーは無視して君を殺しに来るので次は無いと思えと断言されていた。

 

アズラエルも殺したい程嫌だったがセオドア准将の価値を理解していた。ブルーコスモス過激派を使う事を決意したアズラエルは猶更である。

アズラエルはセオドア准将を自分が殺したいので真に迫っていた。

所業を知っても本心から仲間意識があるのはサザーランド大佐くらいである。

セオドア准将は追い詰めれば戦う政治も出来る軍人であるので切り捨てるには惜しかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

6月3日の同時刻、ザナドゥ本部にて月面のごたごたを処理しつつまだ落ち込んでいたザナドゥ本部に奇妙な連絡が来ていた。

ヘリオポリス揚げ物事件の滅茶苦茶を聞いて気分を取り戻していたクシーは何となく自分で対応していた。

 

「ヒルドルブをあるだけ欲しい?……使いこなせるなら良いが」

クシーはユーラシア連邦地上軍からの問い合わせに聞き返していた。

それは大分滅茶苦茶な依頼であった。

 

ヒルドルブはコズミック・イラ68年1月にザナドゥ本部を襲撃した戦車を元に改修した超弩級戦車である。全長は35m、高さは8.5mある。

NJで観測機器が死んでいるので使えないが35kmの最大射程を有するバケモノだ。NJさえなければ戦場をひっくり返すポテンシャルを有していた。

一機倉庫にある車輛には戦車形態と半MS形態が存在したが、量産機には変形機構はオミットされていた。

コーディネイターが改造して一人乗りにした機体を更に改修した機体であり、性能を引き出せれば強いがかなり貴重な人材であろう。国連事務総長のヘリみたいなものだ。

 

「とりあえず4両は出せるが……ちなみに予算は大丈夫なんだろうか?」

クシーは心配になって尋ねていた。MSバクゥに超弩級戦車で挑むというロマンは評価した。

ヒルドルブはコスト・整備・輸送・操縦難易度の全てが無茶苦茶な機体だった。

 

元となった機体はコーディネイターの神経接続で強引に動かしていたが、ヒルドルブは全てが手動で熟練の戦車乗りだけが使いこなせる。

ヒルドルブはロマン全振りで実用性はほぼ無い。クシーしか使わないのに量産しようとするなと怒られていた。

クシーはきっとこのロマンを理解してくれる人がと信じていた。……居たのだが相手も忙しいらしく話している余裕はなさそうである。

 

『気にするな!……戦車は地上の王だ。俺らはまだ戦える。……六両欲しかったがそれはまぁいい』

ソンネン少佐は戦車でMSを倒す覚悟を伝えた。スゲェ戦車があるという噂は本当だった。

 

地球連合軍に金食い虫の頂点と評された最高の戦車と共に戦える事を喜んでいた。

現状、効かないにしてもMSには戦車で対抗するしかないので戦車狂いはソンネン少佐だけではなかった。

ソンネン少佐達はナチュラルOSであってもMSの才能が無い。二次元での戦闘は抜群の適正を持つが三次元の戦闘は不得手だった。

ソンネン少佐達は自分の戦場が時代に取り残されると気が付いていた。だからこそバクゥに一矢報いてやろうと方々を駆け回って、ヒルドルブにたどり着いた。

 

ちなみに六両もいらない。ソンネン少佐と仲間には三両あれば十分であった。

ソンネン少佐たちはぶっ壊してもすぐに戦線に復帰できるパーツとして欲していた。

担当経理も整備が大変であるので多少は理解出来ると認めた。だが、見積もりだけで高すぎるので経理はキレた。

コズミック・イラ世界の地上の王バクゥに時代遅れの産物で挑もうとする彼らは最高に楽しんでいた。

 

クシーは楽しそうだしまぁ良いかとソンネン少佐へヒルドルブを引き渡す事を了承した。

クシーは底からなんとか持ち直せていた。ノリで滅茶苦茶をやらされた物流担当者達はクシーにキレた。

今忙しいのにこのような馬鹿戦車をノリで送る馬鹿がどこにいるのかという正論にクシーは落ち込んだ。関係者全員に金一封という名の謝罪が送られた。

 

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