極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年6月8日、ザフトはエル・アラメインを南下して支配地域を拡大させていた。
アフリカ共同体政府は親ザフトの方針であり、大枠は問題ないが地方によっては反発していた。
アフリカ北岸のサハラ砂漠にてその戦いは発生した。
この戦いのきっかけは戦いたいという動機で周囲を巻き込んだ身勝手なものとも言える。
勝算も薄い無謀とも言える挑戦であった。
だが、引けぬ男達の覚悟と誇りがこの戦いにはあった。
大局的には影響の無い語られる事もない戦いが始まろうとしていた。
「我らの友ザウート5輛、我らの宿敵バクゥ1機か……」
ソンネン少佐は敵の数を数える。一回きりの勝負になる。
ソンネン少佐達はザフトのバクゥらが通る道に隠れ潜み覗っていた。
ソンネン少佐達は敵の補給線や敵基地等の情報を参考にこれまで地球の戦車乗りがどういう経路を通ってきたかを分析し尽くしていた。
本当は地雷でも敷設しておきたかったのだが地球連合軍も使う経路になるので許可が下りなかった。揉めると軍内にいるスパイがかぎつけるかもしれない。
そもそもソンネン少佐達がヒルドルブを探し回っている事はバレている可能性が高かった。
一刻も早くに戦う必要があった。
輸送の際に自分達が協力という形で操縦は学んだ。素晴らしい戦車だった。
あのイカれた戦車を処分しなかったザナドゥ代表には感謝しかないが戦果で答えようと決意した。
一人であの巨体を動かす感激に比べたら多少面倒な操作等どうでも良かった。
コーディネイターの神経接続でMSを動かすならばヒルドルブは時代遅れの操縦法で勘と経験で強引に食らいついていた。
ヒルドルブを動かせるのは長年の経験と知識が成せる技であり、コーディネイターも簡単には真似できない極地にあった。一般的な戦車乗りが戦場で使えば操作を誤り激突して死ぬだけである。
地球連合軍が金食い虫の頂点と呼んだのは伊達ではない。制作当時は死ぬ事が分かり切っている戦車を試す馬鹿はいなかった。それなら安価で量産可能な従来の戦車を使用した。
クシーは作った自分が使えるのだから使える奴はいると主張したが相手にされていなかった。
時代の仇花として才能を開花させた戦車乗りであるソンネン少佐達が現れていた。
グラハム・エーカーは彼らに物凄い親近感を抱いていたがお前は座っていろ。
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バクゥ達とヒルドルブ二輛が接敵し交戦を開始していた。
両者とも当たり所が悪ければ即死の兵器を互いに有していた。
「2連装レールガン?流石に一発当たれば死ぬかもな」
ソンネン少佐はバクゥの飛びつきを回避しつつ次の手を予測して言った。
ソンネン少佐の仲間スレェイ少尉はザウートを3機……3輛撃破させていた。
最大射程距離35キロはNJで不可能だが、目視であれば通じていた。
ヒルドルブの30サンチ砲、有視界20キロからの狙撃である。この偉業を成した仲間スレェイ少尉は戦死した。
スレェィ少尉は地球連合軍の人材不足から曹長からの繰り上げされていたが尉官としての適正は無くこのまま腐っていくのかと嘆いていた。
『ああ、戦車で死ねるとは本望だ』
スレェイ少尉はザウートの砲撃で戦死した。ザウートはタンクモードであり戦車のように見えていた。厳密では戦車ではないがソンネン少佐達の間ではあれはザフトの戦車であり仲間だと勝手に親近感を抱いていた。
ザウートは遅いが火砲としてはとんでもないのでヒルドルブでもただでは済まない。……故にソンネン少佐達の誰が死んでもザウートを1輛でも多く削ることを決めていた。スレェイ少尉の位置にザウートが5輛来たのは不運でもあり幸運でもあった。
ソンネン少佐達は仲間の犠牲の隙に間合いに入っていた。
「だが、当たらなければどうという事はない!!」
ソンネン少佐はバクゥのレールガンをヒルドルブの最高時速110キロで回避した。
タンクモードのザウートに体当たりして味方への火砲も逸らした。
「すみません、ソンネン少佐!」
イーリン中尉はソンネン少佐に謝罪した。
イーリン中尉はソンネン少佐がバクゥとやり合っている間にザウート2輛を相手にしていたが、三機撃墜で完全に本気になっていた。嘗められているが流石にMSであり、硬く火力が厄介だった。
イーリン中尉はソンネン少佐が稼いだ時間でスモークディスチャージャーを起動した。
これは煙幕であり、火力が命のザウートが見つからない為の装備と同じものだった。
ここからはヒルドルブの機動力で煙幕の中戦わなければならない。敵は高火力のザウートだ。下手したら誤射で味方を殺す。
ソンネン少佐達は火力を躱して懐に入り込めたらそうすると決めていた。
ザウートを減らさないと間合いに入る前に死ぬし、ヒルドルブの主砲は近くでないとバクゥの機動力で躱された。
「こいつ等イカれているのか!?」
バクゥを操縦するテーエムは叫んでいた。煙幕を張るということはヒルドルブもお互いの火砲で死ぬかもしれないという事だ。ザウートを破壊した跡から推測してバクゥも耐えられるかは怪しい。
一発なら耐えるかもしれないが試したくはない。
テーエムはこれがナチュラルのバッテリー機である事が怖かった。テーエムの知るナチュラルの兵器であればバッテリーはもう持たないはずだった。
あの馬鹿デカい車体に巨大なバッテリーが仕込まれているなら話は別だ。そうなれば装甲が薄くなるはずであるがあまりに楽観視が過ぎる。テーエムはヒルドルブの装甲は見た目通りに分厚いと察していた。
テーエムはアンドリュー・バルトフェルドの影に隠れていたが極めて優秀なMS乗りであり操縦ならば勝てるとさえ思っていた。
だが、バルトフェルドとの差は各種兵器の地形効果の把握、戦術眼、何より引く勇気といった副次的な部分の欠如だった。
バルトフェルドならヒルドルブの火砲でザウートがやられた時点で即時撤退していた。
ソンネン少佐達は覚悟を決めた兵士達だ。死を恐れない戦車乗りが馬鹿みたいな戦車で戦おうとするならばただでは済まない。
テーエムはバルトフェルドへの対抗心で戦ってしまっていた。
「2連キャノン砲、こちらも不味いんだよな……分かっているじゃねぇか宇宙の連中も」
イーリン中尉はソンネン少佐が体当たりしたザウートのキャノン砲の威力を見て呟いた。
火力こそ正義といい、ザウートの思想的後継機をザナドゥで正式採用させようとか言っていた元ハービック社の老人は元気だろうか。
イーリン中尉はザナドゥで過ごしたのはつい先日の僅かな時間なのに懐かしんでいた。
ちなみに当然だが没にされている。ハービック社の長老、陳はクシーでも流石に認められない馬鹿機体を出していた。
陳はクシーの横暴(正論)を老人虐待だと泣いた振りをしたが通用せず、次の機体の参考になればと始めたザナドゥの戦車ゲームに嵌っていく事になった。陳は炎の匂いが染み付きむせていった。
「だが、バクゥもザウートもご自慢の火力ではヒルドルブの装甲をブチ破るのは難しい。素晴らしい。これぞ戦車だ」
ソンネン少佐はイーリン中尉を鼓舞するように宣言した。
バクゥの装備がレールガンでなくミサイルポットなら自分らが勝てていた。
バクゥの450mm2連装レールガンと400mm13連装ミサイルポッドはどちらかしか装備できない選択式だった。
赤外線センサーでの誘導ミサイルは最高時速110キロで回避可能であるし当たっても多少は大丈夫だった。
ソンネン少佐はもしもの勝利を確信していた。だが、次はヒルドルブも対策されるだろう。惜しいが仕方がない。
実際、バルトフェルドはミサイルポッドの時はザウートで対処し、無理なら逃げるという対策を提案した。
ザウートはここで役に立つかに思えたがヒルドルブは生産者であるザナドゥも増産出来ない。
ヒルドルブはこれ以降ほぼ出てこない。従ってその対抗策として提案されたザウートは更に役立たずとして語られるようになる。
ヒルドルブはザフトの兵站管理に被害を与える事になった。ザウートなんていらないが送る側の懸念は現場のバルトフェルドにも責任があった。
「知っているかな?自動車を運転すると性格が変わるものがいる」
イーリン中尉はオープンチャンネルを使ってザフト兵士達へ聞かせていた。
嫌がらせと言いたいから行う番外戦術である。死ぬとしても言ってちょっとやりたかった。
「あれは人間が自分を巨大な鉄の塊と錯覚するからだ。だったらMSで威張り散らすのは貴様らの見下すナチュラルと同じ穴の狢なのだよ」
イーリン中尉は自分の為にザウートを引いて一瞬止まったソンネン少佐への時間稼ぎの為にヘイトを稼いでいた。
超速機動を行えるヒルドルブでもザウートは轢き殺せないかと見誤っていた。ジンは出来たのでうっかりやってしまった。
バクゥと戦うまでの通り道にいたジンはヒルドルブでひき逃げアタックされていた。ソンネン少佐らの無茶苦茶な蛮行にヒルドルブを直した整備班はキレた。
ソンネン少佐達は忙しいしバレたらバクゥと戦えないので戦果を報告していなかった。
テーエム達がバクゥとザウート五機連れて来たのも行方不明機が虐殺でもしたら困る上に、敵にやられたなら更に困るので護衛も兼ねてザウートを五機も引き連れていた。
ひき逃げがこの戦いを生んでいた。ひき逃げの被害者が加害者と戦っている構図である。
「偉そうに……ならばお前のそれはなんだ!」
テーエムは激怒してイーリン中尉のヒルドルブに向かって叫んだ。
この怒りの隙にソンネン少佐はヒルドルブに備え付けられたジン・マシンガンのゼロ距離射撃でザウートを破壊し、機動力を回復させていた。
テーエムは一歩遅れて奥の手のビームサーベルを起動した。
ミラージュコロイドによる制御技術である。MS搭載型のビーム兵器が無い現状で兵器運用出来たのはザフトだけであり、最新機であるバクゥには備わっていた。正確には試作段階であり不安定な状態であった。だが、G兵器の奪取以前の不安定な試作ビーム兵装は旧来戦車の延長でしかないヒルドルブよりも先の未来を示す兵器だった。
このままでは死ぬと直感したテーエムはなりふり構わず使用していた。ザウートが残り一機であり味方を殺す可能性も減っていたのもあった。
テーエムは煙幕が目に入るような感覚になっていた。空気は正常で入り込む余地はない。焦っていると認識していた。
ザフトが誇るMS6機がたかが戦車3輛に負けるなどあってはならない。
まして、
「地上の王であるバクゥが負けるわけにはいかない!!」
テーエムは吠えた。残り二輛の機動は読めた。武装も把握した。
主砲さえ当たらなければ問題ない。バクゥと共に誇りを胸に時代錯誤のボロ鉄に向かっていく。
「そうだ。それが我らにとっての戦車なのだよ」
ソンネン少佐はテーエムの叫びに呼応するように宣言した。
「誇りと信念にこれ以上の会話は無粋。決めようではないか。コズミック・イラ世界で我らの意地とお前のホコリを!!」
ソンネン少佐はイーリン中尉と共に叫んだ。バクゥのビームサーベルは当たれば死ぬと直感していた。
ソンネン少佐はビームサーベルを見て懐に入ったのは失敗だったかと一瞬考えたが無粋とねじ伏せた。
「少佐、お供しますよ。どこまでも」
イーリン中尉は最後のザウート1輛を撃破し、ソンネン少佐へ呟いた。亡き友スレェイに見せてやりたい。
イーリン中尉は自分のバッテリー残量が少ない事を悟りつつ援護射撃を開始した。ジン・マシンガンはけん制程度にはなった。
そして、
「ここまでか……くそ、ちくぃしょう」
テーエムは悔しさを吐き出して戦死した。バクゥはヒルドルブの主砲の3発を至近距離から喰らい爆散した。
「ヒルドルブが一輛なら勝てなかった。……これが時代か」
ソンネン少佐は名前も知らぬ誇り高き兵士へ称賛の言葉を述べた。
イーリン中尉がバクゥをけん制してくれたおかげだった。イーリン中尉は帰る余裕があるか心配になる程動かしていた。
「私達は死ぬ覚悟でしたが、彼らも最初から死ぬ覚悟であれば勝敗は逆でしたね」
イーリン中尉はソンネン少佐に同意した。認めたくないが自分達の時代が終わったと確信してしまえていた。これからはMSの時代である。
悔しいが最後に一花咲かせて生き延びたなら文句は言えない。
だが、そうはならなかった。
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爆散するバクゥを遠目から見る男達がいた。信じられず絶句していた。
テーエムは驕りはあるが優れたMSパイロットであり、こんな所でやられるとは信じられないが実際に起きていた。
嫌な予感がした男の救援は間に合わなかった。だからソンネン少佐達は途中までしか勝てなかった。
「嘘だろう?……テーエム達がやられただと」
バルトフェルドは友軍が帰ってこないのを心配して見に来ていた。使えないザウートではなくバクゥで来ている。油断ならない彼はどう考えても消耗している敵を逃がすつもりはなかった。
「……少佐!敵です!私は撤退できません!だから、逃げてください!……逃げろ!!」
イーリン中尉はソンネン少佐に端的に伝えた。死ぬ覚悟はした死ぬ土産はできた。だから行けと友に叫んだ。撤退ではなく逃げろという友に向けた最後の言葉だった。
「…………わかった」
ソンネン少佐はイーリン中尉の男気を無駄にせず受け止めた。
イーリン中尉のバッテリーが無い事を悟っていた。
砂漠において全力で逃げるヒルドルブに追いつける機体はこの時点では存在しなかった。
砂漠なのに濡れている自分を無視してソンネン少佐は全力で走り抜けた。自分が生き残ってしまったと考える事は許されない。
前時代の二次元戦、その戦車王は語る事なく戦場から去った。
次の時代である三次元の戦い、MSバクゥへ挑める機会は来なかった。