極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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第63話 二重スパイ

 

コズミック・イラ70年6月10日、大西洋連邦のブルーコスモス本部の一室にてブルーコスモスの代表ムルタ・アズラエルがとある男と密談をしていた。

 

相手はゴーグルで両目を覆った体長2mの筋肉質の大男であり、どう見ても暴力になれていた。

アズラエルは信頼として大男に見えないよう遠巻きに護衛を配置していた。

大男はブルーコスモス環境保護派の一派ティターンズの幹部の一人である。

護衛達からすると信用ならない人物であり、アズラエル代表に万が一を警戒していた。

アズラエルも信用する事は難しい。だが、ティターンズはザナドゥとも敵対するような姿勢を見せていた。

 

現にティターンズ穏健派のシロッコが降格され、真の支配者であるジャミトフが最高指導者として君臨していた。

ブルーコスモスはティターンズが過激派になったと受け止めていた。大男はシロッコと敵対に等しい険悪な関係にあるという調査報告もある。

メイド喫茶などと意味わからない内容が含まれていたがそれはザナドゥの隠蔽工作であると分析されていた。

この報告が真実だとしたら大体2mの大男が喫茶店でメイドをやっている事になる。

……想像してしまったアズラエルは吐きそうになった。表に出さないように必死で耐えた。

 

ザナドゥ代表クシーは意味わからない事をしつつ意味のある事をするので本気で嫌だった。

アズラエルはこれもクシーの嫌がらせかと一瞬思った。だが、そうだとするとこの大男との面会もバレている事になる。そこまで露骨に示すかと悩んだ。

クシーはこういう裏の裏の裏の裏みたいな事を常にするのでアズラエルは中途半端な敵対を辞めていた。

アズラエルは覚悟を決めて話を聞いた。陸軍出身で先日の戦車についても詳しいと調べがついていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

 

大男は挨拶もそこそこにアズラエルが求める質問に回答した。

 

「ヒルドルブは簡単に申しますとクシーのような戦車です」

大男はヒルドルブのイカれ具合を端的に説明した。

 

「……はぁ?」

アズラエルは素になった。いくら何でもふざけているのかと思えば真面目に語っている。

ということは碌な兵器ではないとすぐにわかった。面接官アズラエルは大男のプレゼンテーション能力を評価した。

 

「優れた性能をしていますが並みの人間が使えば死にます」

大男はアズラエルの反応を無視して更に続けた。鉄は熱いうちに打てというように無茶苦茶さを強調する。

大男はアズラエルの下でヒルドルブを再現しろといわれても本気で嫌だった。

頑丈そうだし死なないだろうとヒルドルブに無理やり乗せられたのは今でも忘れない。

 

「……そうか。うん。死ぬんだね」

アズラエルは凄い実感籠ってそうな大男を察した。多分、この大男はクシーにヒルドルブに乗せられたのだろうと推測した。アズラエルの推理は当たっていた。

アズラエルは殺人マシーンに乗せられたらクシーを恨むのも分かると裏切る動機を評価した。

 

「はい」

大男は即答した。そこに関してだけは本気で恨んでいた。クシーは死ななければセーフと考えている節があった。後遺症が無いなら全く問題ないとかいう。

嘘偽りの無い恨みをアズラエルは感じ取っていた。何なら周囲の護衛すら特定の誰かへの怨恨を感じ取っていた。

 

「私も環境保護派でありますが、常日頃からコーディネイターに関しては生温いと思っております」

大男はプレゼンテーションを続けた。これも本心である。というかジャミトフ閣下もプラントに関して甘い。

大男は命令とその目的まで事細かに説明されていなければ暴走していたと自己分析も出来ていた。

 

「貴方の想いは伝わりました。……素晴らしい。ですが、戦車に関しての説明には足りませんね」

アズラエルはこれまでコーディネイターを殺したいという奴らを多数飼っていた。

大男は志望動機も自己PRも完璧に近い回答をしていた。

ザナドゥに近い環境保護派でなければこの場で即採用していた。是非、現場で活躍して貰いたい。

環境保護派という点はまだ不安が残った。だからこそそれを覆せるだけの能力をこの場で示せと曖昧な表現で尋ねていた。

 

「はっ!先日の戦闘でアレを使いこなせるナチュラルが三人もいたのが衝撃です。しかも、薬物を使用したという話もない。……違法薬物をあのクシーが許すかという話でもあります」

大男はアズラエルの言う説明不足に回答した。ヒルドルブに関してのコスト等はデータにあるだろう。

故に、パイロットに関しての情報が足りない。これに関しては大男にもなかった。

使いこなせるパイロットがいたではないかという疑問は想定外と回答し、それを踏まえて聞きたい事を求めていた。

 

「……理不尽なのにそこは守るんだよね。本当に困る。改造人間ならどうだい?」

アズラエルはまずまずと評価した。改造人間に関してまで考えが及んでいれば満点だが、それは仕方がない。

薬物に関して触れるのに改造人間には触れないのは改造人間を使っていない可能性が高い情報でもありアズラエルは脳内にメモをした。

アズラエルは自分が生体CPU等を裏で扱っているので常識が若干麻痺していた。改造人間というのも普通は言わない。

 

「改造人間ですか?……可能ではありましょう。しかし、それならより優れた兵器に乗せるべきです」

大男はアズラエルの言葉に困惑しつつ回答した。大男はそこで引くような感性でもないので平然としていた。

クシーやジャミトフ達は煩いが大男自身は選択肢に入っても良いのではと思っていた。

 

「乗せる、か。そうだね」

アズラエルは大男の言葉を反芻した。『使う』ではなく『乗せる』と部品ではなく人間扱いしていた。

自身の認識が常識とズレていた事を理解し反省した。

改造人間は失言だったかと思ったが大男の忌避感ない反応を見て取れた。アズラエルは大男をザナドゥらしくない人間だと察した。

この大男は今後、すり合わせていけばこちら側の人間ではないかと思った。

 

「ヒルドルブは戦車という兵器の到達点に等しい。しかし、それ以上が可能なのが未来の兵器であるMAやMSです。アズラエル閣下の方がお詳しいでしょう」

大男は失点をカバーするおべっかを口にした。実際、作って売る側なら自分よりも詳しいだろうと思っていた。だが、軍人視点が濃い発言だった。

大規模な商人かつ自社の兵器に詳しいのはクシーくらいである。

 

「うーん。何故彼らはヒルドルブで挑んだのか分からないな。それでは」

アズラエルは大男の評価を少し落とした。大男が焦ったかと判断した。

だったら最初からMAなりなんなり乗れば良いのでは素直な疑問を口にした。

 

「彼らは旧来の兵器である戦車でMS……要はコーディネイターに勝ちたかったという事です」

大男はアズラエルの問に素直に答えた。この気持ちは男なら理解できるだろうとアズラエルに語り掛けていた。

 

「……そう、か」

アズラエルは処理しきれない感情を抱いた。それは自分が幼い頃、やりたかった……。

アズラエルはそれ以上考えるのを何とか辞めた。話の続きを促した。

アズラエルは大男に心を許しつつあった。

 

「ヒルドルブはザナドゥしか作れない上に凄まじいコストがかかります。戦車に関してはクシー以上の才能を探す必要がある。MAに乗せた方が絶対活躍します」

大男はアズラエルに事実で冷や水をぶちまけた。

将来的にはMSやMAの方が使いやすくなるし強くなる。そうなると1輛のヒルドルブより何十輛の戦車の方が管理しやすかった。

ヒルドルブは軍政から見ても商人から見ても本当に金食い虫だった。

 

「……無理だよね。何でこれ四輛も作ってたのかが謎なんだけど」

アズラエルは頭が冷えて冷静になった。なんでこんなもの作ったのだろう。

ヒルドルブに惹かれる気持ちは燻るが汎用性とかコストとか完全に無視していた。ヒルドルブは非合理の極みだった。

 

「無茶苦茶な操縦難易度の兵器を偶に作りますからな。メビウス・ゼロはまだいる方ですがほぼ第七機道艦隊のみ。しかも、先日月面で……」

大男はアズラエルへ話を続けた。クシーはやることなすこと理不尽な事がある。

大概は汎用機を作り、もう使えないだろうテメェみたいなのも作る。

その過程で得たノウハウを兵器だけでなく民間技術に応用する。

大男はクシーに関しては未だに良く分からなかった。ただ、それは軍人として関わる機会が多いからだろう。政治思想面に関してはジャミトフ閣下に従うのみだ。

 

「それはともかく、貴方の今後の話をしませんか?バスク・オム少佐」

アズラエルは大男、バスクの話を断ち切った。サイクロプスに関してバレては一大事だった。

アズラエルはバスクが優秀な軍人であると理解した。

アズラエルが求めていた人物像そのままだった。まるでアズラエルの脳内を覗き込んで送り付けたようだった。……考え過ぎかと思うが不安が残った。

 

何より優秀な軍人であり環境保護派であるのでブルーコスモス過激派が核攻撃するなどがあれば揉める危険性がある。

重用し過ぎるとアズラエルも死にかねない部分はある。持て余す可能性も高い。

アズラエルはバスクにどの距離で接するか悩んでいた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

 

バスクがブルーコスモス本部に来てから数日が経過した。

バスクは与えられた自室で特殊な電話を取り出した。

バスクはクシーの義姉シグネが作成した一回限りの通話が可能な防諜機能付きの電話を使用した。

 

「クシー。アズラエル理事は私を持て余しそうなんだが」

バスクはクシーに電話で相談していた。

当たり前だがバスクはザナドゥのスパイであった。

バスクはブルーコスモス過激派と本音で話しても問題ないという酷い理由で送り込まれていた。

実際、バスクは下手すると環境保護派より過ごしやすかった。バスクは普通にコーディネイターは嫌いである。

バスクはテロ組織のコーディネイター達に拷問されて目玉を抉り出されていた。

バスクの目に関してはフレームでほぼ回復していた。

プラント製のは使いたくなかったのでフレーム義眼は本当に有難かった。ヒルドルブに乗せたのは今でも許さない。

 

「危険視されていないが懐に飛び込めそうもない。現場で働かせるのも悩ましそうだ。このままならジャミトフ閣下の下へ戻りたいのだが……」

バスクは現状どうしようもなかった。何ともならないのだから正直帰りたかった。素で過ごせても端々に相容れない価値観が見て取れた。

ザナドゥなら納得できないなら殴り合いなりできるがブルーコスモス本部ではそうもいかない。

ザナドゥは暴力とレスバが飛び交う魔境であった。そうでもしないと元テロリスト等を受け入れられない環境でもある。最大の暴力がトップにいるので大体皆従う。

 

「『悩ませるのが狙いだから続行』?……理解した。メイド喫茶の皆にも頼む」

バスクは分からない事を理解した。バスクは電話を切った。

クシーはまた何かをやらかす気らしい。それともブラフとして機能させたいのか。

 

成否はともかくジャミトフ閣下へ仕えるメイドとしての心構えを忘れないように自身の身の回りを徹底的に掃除する事にした。

隠しカメラや盗聴器の類は無いと確信していたが掃除は日常となっていた。

 

バスクはブルーコスモス本部の清掃に関しても自ら率先して指導する立場になっていた。

アズラエルもバスクが来てから清潔な空間で過ごしやすかった。

ブルーコスモス本部はエイプリルフールクライシスにより、忙しさから清掃が疎かになっていた。

結果としてアズラエルも本部の従業員達もバスクを他に回すのを躊躇うようになっていた。

バスクとしてはザナドゥ掃除界の好敵手である『トイレ掃除のヌエバ』がいないブルーコスモス本部は掃除に関して生温い環境であった。

ヌエバにはいずれ雌雄を決し、掃除界での格の違いを見せつける事を改めて誓った。

ジャミトフ閣下の名声を高める為、バスクは心のメイド服を忘れずに日々精進していた。

 

アズラエルがこのバスクの本心を知ったら間違いなく吐く。バスクの養子達すら気持ち悪いと思っていた。

 

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