極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年6月10日、ジャンク屋組合がザナドゥの補給拠点『無敵要塞ザイガス』で小さな諍いを起こした。
一昨日、バクゥを戦車で撃破したという話はこの時はまだホラ話として認識されていた。
……ザフトや地球連合も信じ切れていない。情報は錯綜していた。
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ブルーコスモス理事ムルタ・アズラエルはバスク・オム少佐の証言等を下に冷静な判断を下した。
ヒルドルブは先が無い兵器であるという事実はアズラエルから地球連合へ広まっていく。
地球連合はザフトへのけん制としてソンネン少佐への表彰等を企画していく事になった。
ソンネン少佐は仲間二人の戦死を悲しんでいたが、戦車の必要性を理解する上層部と交渉していく事にした。
ソンネン少佐はその後もヒルドルブを無断で持ち出して出陣したりしたが戦局に影響は殆どなかった。
治安維持としての戦車の需要はMS普及後もあった。MSやMA以外には戦車は費用対効果が高いローコストな兵器であった。自分以外の戦車乗りの今後を考え、戦車の教練や開発に関与する道を歩んでいくことになる。その後も謎の敵撃破報告がされていたが詳細は不明である。
プラント参謀本部ではヒルドルブに警戒しつつもスパイから量産は出来ないという報告は受けていた。
故に、ザウートの量産を増やす事を決定した。飽くまで必要と思われる範囲内での量産だった。
プラント参謀本部はザウートを必要と言ったバルドフェルトに優先的に送る判断を下した。
バルドフェルトはヒルドルブが出て来るなら対応としてザウートがいるかもしれないという提案はしたが欲しいとは一度も言っていないと嘆いた。
事実、ヒルドルブが出てこなければザウートは本当に使えないMSだった。
戦車に戦車(ザウート)で対抗するというイカす結果に昇格したソンネン中佐はご満悦であった。
二階級特進したスレェイ大尉もイーリン少佐も生きていればやったかいがあったと喜んでいただろうとソンネン中佐は語った。戦車の時代は彼らの中では続いていた。
少なくともザウートの後継機であるガズウートを見ればザフトに俺たちの仲間がいると断定するのは間違いない。
実際、クシーが得たガズウートの情報を見せたところ狂喜乱舞で部下達を巻き込んで飲み明かしていた。
楽しそうで何よりだとクシーはほっとした。……ヒルドルブ改がザナドゥ会計の目を盗んで計画されていた。
アズラエルは絶対ソンネン中佐を殺させるなとバスク少佐をザナドゥへ派遣した。
アズラエルはソンネン中佐を反コーディネイターの象徴として使いたかった。
ソンネン中佐はアズラエルの申し出を丁重に断っていた。
アズラエルは素直に諦めたがかなり異例の事だった。
アズラエルが死ぬまでの間はソンネン中佐はブルーコスモスから見逃される事になる。
それがどういう意味かはアズラエル本人にしかわからない。
アズラエルはソンネン中佐への対応に関しての胸中を死ぬまで明かさなかった。
このようにバスク少佐はザナドゥとアズラエルを繋ぐラインのように機能し始めていた。
事実上の敵対宣言とNJによる混乱で使えるホットラインであるので意味はあったがバスク少佐を使ってまでやるかというと微妙でもあった。
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アズラエルは数日葛藤したがザナドゥとの敵対状態で少しでも怪しい人材を深入りさせたくないとリスクをとった。
何より、アズラエルにとってバスク少佐が陸軍というのも微妙だった。
宇宙のバケモノとの戦いに戦車や自走砲は優先度が低くなった。
これが地上のコーディネイター達への対処ならばアズラエルはリスクも承知で手元に置いた。
だが、ザナドゥがテロや戦争犯罪に対応していた。権益の兼ね合いで地球連合陸軍との対立もあった。
故に、バスク少佐がザナドゥのスパイではない確率はアズラエルの中で高まっていた。
それでも最終的にプラントへ攻撃する以上、地球連合宇宙軍のマトモな佐官の方が欲しかった。アズラエルはそちらの確保に注力する事にした。
そして、アズラエルとしては本当に有益な情報源を確保できていた。
サイクロプスの起動後にザフトからの内通の申し出があった。地球連合の勝利が津々浦々と書かれており、特に世界への憎悪が伝わってくるような内容だった。
アズラエルは相手の憎悪が間違いないと確信した。勝利より憎悪が強いのであれば信用足りえる。
アズラエルは怪しい部分を飲み込んでも繋がりを維持する為に動いていた。
アズラエルとしてもバスク少佐に申し訳ないがこちらを優先できてしまった。
世界の命運、そのコイントスの一回目は仮面の男が勝利した。バスク少佐ではザフトの内通者より優先度が低かった。
「しかし、惜しかった。……はぁ、言っても仕方がないですね」
アズラエルは髪を弄りながら勿体ない事をしたとため息を吐いた。
僅か数日関わっただけのアズラエルが断言できるほどバスク少佐のコーディネイター達への憎しみは本物であった。
バスク少佐の振る舞いはどう考えても演技ではないとアズラエルは確信していた。
アズラエルはマトモな軍人バスク少佐には本当に申し訳ないが情勢とリスクを考え、断腸の思いで手放すような使い方を決意した。
「これで……良かった。そう思いましょう」
アズラエルはバスク少佐というマトモな軍人を若干冷遇するような形の業務を担当させる事を決めた。
過剰にリスクを恐れてしまった事は商人として後悔した。……ザナドゥのスパイであるバスクへの扱いとしては間違っていなかった。
しかし、クシーとしてはアズラエルの葛藤は織り込み済みで計画を立てていた。
何ならバスク少佐の話を聞いてしまった時点で達成されたに等しい。
クシーの計画は些細なものだ。だが、敵対する勢力では唯一アズラエルだけが気づく可能性があった。
クシーはアズラエルを評価していた。だが、騙されやすいのでクシーとしてはバスクをアズラエルにねじ込めれば一番であった。
事実、ザフトの怪しい仮面に騙されていたがクシーもそこまでは読み切れない。
しかし、クシーはアズラエルにNJを解除できる兵器を持たせてはならないと警戒していた。
だからこそクシーはバスクを送り出した。内側に抱えられるなら一番良い。そして、核ならばジャミトフも警戒するのでバスクもその阻止は必ず了承した。クシーの好き嫌いは別だ。
クシーの目論見が全部叶った場合であった。アズラエルの警戒心は想定以上に強かった。
「まぁ、そこは良い。……そちらはやはり気づくかな?」
クシーはバスクに関しては次善策で済ませた。
バスクがスパイと気づかれていないなら良いと判断した。
この状態だとバスクは冷遇されて寝返りましたと言い訳が効く。
アズラエルも地球連合も対応はどうにでもなる。策謀のみなら問題ない。
たかがその程度を用意するのに苦労はしない。その程度の為に人は争うのだから困る。
アズラエルはバスクを呼んだ時点でどうやっても詰んでいた。クシーの策謀とはそういう事である。
「やるなら陰謀論のような甘さは無いさ。あの人は」
CB部隊のムラタはザナドゥ代表クシー黒幕説などという三流雑誌をあざ笑った。木星ムーは頭に入れた。
「そうでなければ俺のような犯罪者達が大人しく従うわけがない」
ムラタは適当な悪意に苛立ちを覚えていた。人類史でもあそこまで犯罪者の素質がある奴はいない。
ムラタはクシーに内在する悪意に魅了されていた。そういう意味では現状は勿体ないがそれは自由であるのでムラタは何も言わなかった。
犯罪者達は根本的に自由であるので仕える主の在り方も許容していた。
牙を研ぐのも向けるのも自由なのでクシーはムラタ達のような在り方も認めていた。
表現の自由である。余計な事をしたらぶん殴るので一番楽とクシーは考えている。
どのみち、バスク・オム少佐はブルーコスモス本部の清掃とアズラエルの緊急ラインの一つとしての仕事に携わっていた。
アズラエルはバスク少佐の普段に関して調査報告を受け取っていた。
ある日の報告ではバスク少佐はブルーコスモス周辺にあるメイド喫茶に立ち寄っていた。趣味はそれぞれとアズラエルは思ったが目的が違った。
その店は未成年者を使い潰すような如何わしいものであったらしい。
バスク少佐は激怒して陸軍の伝手で店を取り潰しつつ、掛け合って少年少女の保護を願い出ていた。
アズラエルは以前のメイドバスクなどという世迷いごとの報告書はこういうだったのかと納得した。
アズラエルは如何わしい店を摘発していたら尾ひれがついたと解釈した。どうか幸せなままでいて欲しい。
アズラエルは時勢が許せば息子の後見人にでもしたかったと高潔な武人バスクの好感度が上がった。下がった方が良い。
勿論、バスクはメイド喫茶で働きたかっただけである。
バスクはメイドマスターGの教えに恥じぬ振る舞いを店にも求めていた。
オムライスのハートマークは誰よりも正確無比だとバスクは師から認められていた。
あのクシーですら辿りつけぬ境地だとバスクへ敗北を認めた。
バスクはダンスもメイクも掃除も出来る優秀なメイドである。気にする人もいるかもしれない点はちょっと2mの大男なだけだ。
精々そばかすみたいなカワイイものだ。メイドマスターGはそう主張する。誰かこいつを逮捕しろ。
ちなみにコペルニクスの悲劇の無い世界ではアズラエルは似たような誤解でバスクに息子の教育の一部を任せた結果、碌でもない事になっていた。
アズラエルの息子は健全なメイドに育っていた。幸い、親に似て美形なので基本問題はない。
アズラエルのメンタルは知らないし考えないものとする。
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6月10日に話は戻る。ロウ・ギュールらジャンク屋組合の面々はザナドゥの補給拠点『無敵要塞ザイガス』から離れた組合傘下の店で一時休息をとっていた。
ジャンク屋組合に所属するロウ・ギュールは先ほど資材を補給した補給拠点ザイガスでの一件に憤っていた。
ロウとしてはザナドゥの職員達と途中まで仲良くしていたのに突然激怒されてしまっていた。
ロウが何故なのか尋ねても怒りが収まらなかった。
ザナドゥの職員もロウの説得に一瞬止まったがこれ以上キレないうちに失せろと追い返されていた。
ロウは酷い扱いだと憤っていた。だが、今回はどうも変な方向に拗れていた。
「あれっておかしくない?……どう考えても潜水艦よね?私と同い年くらいの子が命令していたけど、軍人ではないわよ?」
山吹樹里は落ち込むロウに質問をぶつけていた。慰めに来たのだが途中から別の事を思い出してしまった。樹里は明らかにおかしいザイガスでの光景を目撃していた。
無敵要塞ザイガスから燃料を確保したのだと思われるが、少年が指揮しているように見えた。
そして、少年はサングラスをかけたノースリーブの軍人と思われる男性を殴り飛ばしていた。部下と上司の関係ではないようなので余計に混乱していた。
「GPSに気象衛星、地震計、波高計……あらゆる観測機器が死んだ現状で唯一当時のままに近い運用が出来ている組織だぞ」
ロウはザナドゥ解説読本と書かれた本を横において返答した。
この本の通りなら説明がついてしまう。ロウは怪文書に若干汚染されていた。
同時刻、国連軍CB部隊のムラタは同じ本を焼き捨てていた。
「エイプリルフールクライシスでの海難において救われた人々が多すぎる。……多少怪しい行動も見逃されているってわけさ」
ロウは本の内容をそのまま樹里に伝えた。自身の直観が誤りではないと言うのでロウは信じ込んでいた。
実際、一部は当たっていた。陰謀論でこういう内容が一番厄介であった。
「……NJを無効化しているって事?皆見殺しに……?」
樹里はロウがこんな事を言うなんてとショックだったが、根拠の無い妄言とも思えなかった。
なので、樹里は最悪な想像をしてしまった。このような反応だが、樹里も冷静になれば誤りに気づく。
「それは行き過ぎだ。それならとっくに俺らも支配されている。奴らはそもそもNJを知っていたんじゃないかと思うが……」
ロウはおかしな思想に汚染されつつも樹里を否定した。それだけはない。だが、どうも違和感が残って言葉を漏らしていた。
「……確かにNJに近しい技術を予見していたわ」
妙齢の美女がロウと樹里の会話に割り込んできた。彼らの事実上の上司、プロフェッサーである。
プロフェッサーはロウがザナドゥであのような無礼を何故したのか尋ねに来ていた。
罠ならば今後のザナドゥへの交渉材料にする。こちらが悪ければ揉み消す。
プロフェッサーはやり手のジャンク屋だった。
プロフェッサーらは先日のヒルドルブの残骸をザナドゥより先んじて確保していた。
条約に基づいて行われた行為だが、機密の塊を持ち逃げしたに等しい。
クシーは良い勘の持ち主だと評してプロフェッサーに対応していたが、物資補給を口実にザイガスにやって来ていた。
だが、機密保持の為に詳細を教えていないロウ達が騒いだので値踏みされていた。
豪胆に見えて些細な事を絡めて持ち出す陰湿さを併せ持っていた。
極めて優秀な、厄介な商人であるとプロフェッサーはため息を吐いた。
部下の管理が出来ていないのであれば機密を抜き出していると考えて交渉を変える。
プロフェッサーとしては戦車のデータは今更いらないのでクシーへ吹っ掛けていた。
この件から改良ミストラルの事を蒸し返されて訴えられても困るので値下げに同意した。
「で、ちょっと聞きたいのだけど……」
プロフェッサーは話を続けようとした。
プロフェッサーはロウがミストラルの件で騒いだというのは本当か聞こうとしていた。
まさかとは思うがザナドゥ兵器開発部門の開発だと知らなかったとでも言うのか。……冷静に考えると誰かロウに教えていただろうか。
プロフェッサーは内心頭を抱えそうになっていた。
ザナドゥ代表クシーは特に兵器を好んでいないとプロフェッサーは看破していた。
恐らくメカについての想いはロウに近いと察していた。だからロウと会わせようと連れて来ていた。
それが仇になってしまった。取引物のヒルドルブを見せたらどう反応するのかわからないので隠していたこちらの落ち度でもあるとプロフェッサーは反省していた。
改良ミストラルはコロニー整備に主に使われていた。粘着シートと同じ材料で作られている特殊粘着弾は暴徒鎮圧やコロニーの穴を塞ぐ用途にもなる。ほぼ平和利用のMAだった。
男の子、といったら良いかは分からないがロマンというべきか。
そういう部分ははあるのでヒルドルブのような兵器も作るが少なくとも表にはあまり出ていない。やりたくないが才能はあるというべきか、プロフェッサーは微妙に同情していた。
クシーが地球連合軍への協力を断ったら何人死んでいたかわからない。エイプリルフールクライシスを経てクシーが地球連合から排除されていた場合、どうなっていたかというもしもの世界をプロフェッサーはあまり考えたくない。
「知っていたのにこれなの!?」
樹里は思わず叫んでいた。プロフェッサーの話が聞こえていない。
樹里は酷い言い方をしていたが、戦犯がやらかしたのが現在の地球の惨状だと思い込めばこうもなる。
クシーはこのような人々から憎悪の刃を向けられる事は毎日だった。
「……やはり碌でもない奴らと考えた方が良さそうね」
樹里は変な冷静さを取り戻して言った。酷い事をする奴らだが敵対すれば世界の人が困る。だから黙認するしかない事を歯がゆく思っていた。
一度でも冷静になれば収まるのだが、地球全土でこんな感じであった。
ザナドゥが否定すればする程悪化するのでクシーは部下達を守る為に自分へヘイトを集めていた。
……このような事を繰り返せばおかしくもなるし、見ている部下達は普段は抑え込んでも目の前に代表を愚弄する輩が現れたらキレた。
樹里は会話しながらザナドゥ解説読本を読んでいた。衆愚が騙されるのはいつだって三流雑誌であるとプロフェッサーは樹里の手元を見てため息を吐いた。
「いや、陰謀論にハマり過ぎよ。どこの雑誌よ、それ」
プロフェッサーは元凶を強引に取り上げた。
内容をざっと見て作りこまれたカスみたいな雑誌だと看破した。
「『木星ムー』?……この編集長、確か前にジョージ・グレンの自作自演説だしてクシーにボロクソに言われていたわよ」
プロフェッサーは樹里の逆鱗に触れそうな話題を提示した。木星探査は嘘だったと主張したらクシーに当時の科学的分析を並べ立てられていた。
ブルーコスモスもプラントもこの件に関しては何も反応していない。プロフェッサーは何かあったかもしれないと分析していた。或いは双方とも大した事ではないと思ったのか。
「はぁ!?グレン様がそんな事するわけないじゃない!?討ち入りよ!」
樹里は激怒した。ナチュラルである樹里だが彼女はジョージ・グレンの大ファンだった。
嘘だらけじゃないかこの雑誌とバラバラにしようとした。ロウは本を持つプロフェッサーに襲い掛かろうとする樹里を止めた。ロウも冷静になってきた。
「ちょっと面倒だしGGに会わせた方が良いかしら?」
プロフェッサーはジョージ・グレンを復活させる計画について聞こえないように溢した。
詳しくはまだわからないが可能らしい。プロフェッサーは面倒にならない事を祈った。
「おい、樹里!……プロフェッサー、何か言ったか?」
ロウは静止した樹里が冷静になるのを見てからプロフェッサーに尋ねた。
「何でもないわ。さっきの事で粗探ししたいのはわかるけど。……ザナドゥに喧嘩売りまくっているのだから怒られるのも当然よ、アレ」
プロフェッサーは推理が完了した。多分、これミストラルの事を善意で言ったらブチギレられたなと。
ロウの情熱が悪い方向に働いたのかと再び頭を抱えそうになった。
平和的に利用されている兵器として改良ミストラルを挙げたのだろう。
ザイガスに送られる職員は大体経歴に傷のある者が多い。
プロフェッサーは一応クシーの落ち度も無くはないので揚げ足を取れると分析出来た。
やったら関係悪化は避けられないのでやらないが。プロフェッサーはロウ達にどう伝えるか悩んだ。
「……何でだ?」
ロウはプロフェッサーに尋ねていた。ロウは戦場で拾ったミストラルを改良して販売したジャンク組合は仲良くできるだろうと話しただけだった。
「……どこから話したものかしら……ザナドゥ代表はね、基本的に好き好んで兵器作っているわけではないの」
プロフェッサーはロウの余りの純粋な反応を見て言葉に詰まった。
ジャンク組合の負の側面だが、それはロウも自身も行っていた。今回のは少しやり過ぎただけであり、表向きにはクシーも何も言っていない。
……偶々知らなかっただけ?配置する人員はクシーの思いのままだ。
だがそれは余りに邪推が過ぎる。プロフェッサーはそれ以上考えるのを止め、目の前の陰謀論に染まりかけた馬鹿二人を何とかすることにした。
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同日夜、ザナドゥ本部の執務室にてクシーは探偵を待っていた。ベラは別の用事に出していた。
今回の探偵はメアリではない。この一連の出来事でどうやっても誤魔化せない人物が約1名いた。
カミーユもニアミスしていたがギリギリ誤魔化せた。カミーユはクシーとって打ち明けるには厳しい相手であった。だがどうするか最後まで悩んでいた。
「ルリ。君はやはり気づいたか」
クシーは探偵を招待した。紳士として犯人として正々堂々負ける気でいた。
敗北しなければならないなら最後まで紳士であれとは先祖の宿敵の言葉らしい。
文字通り最後まで貫き通したそうである。見習いたいとクシーは思い出していた。
「……全部分かっています。だから、全部答えてください」
兵器開発部門副主任のルリはクシーに問いただした。
……ルリはクシーの堂々たる振る舞いに魅入ってしまいそうになった事を考えないようにした。諸々の代表で来ている以上は真面目にやりたい。
「……全部?大きくでたな」
クシーはルリへ尋ね返した。少しばかり想定外がありそうだと脳内で検索をかけた。
誰がルリに入れ知恵したか。クシーはいつもの方法で誤魔化す事も考えた。なるべく誠実に対応したいが場合による。
「全部です。……まず、先日の戦いヒルドルブにビーム兵器が残っていたんですね」
ルリはクシーが誤魔化そうとしていると察した。
クシーは大体見えを張ってから引き下ろすとベラから聞いていた。落差で大概幻滅させるという。
クシーはルリに対して良くしていた。……腹が立つが有効だと認めざるを得ない。
先日、兵器開発部門にビーム兵器に関する資料が提出されていた。ヒルドルブとの交戦の直後だった。
そしてそれはあまりに急いでいた。推理するまでもなくクシーは焦っていた。
ザフトに試作のビーム兵器でも使われたのだろうとルリは推理していた。これに関してはカミーユも同意見であった。
カミーユはクシーに聞きだしに行くと言っていたが少し待って貰っていた。
「だから、ビーム兵器の開発が可能になった。貴方はミラージュコロイドを使う技術体系で考えていないとカミーユから聞きました」
ルリはカミーユから聞いた事は伝えておいた。クシーにバレているぞとけん制していた。
こうすればルリを不用意に誤魔化せないとメアリに聞いていた。
「カミーユ……まぁ、仕事の範囲だな」
クシーは振る舞いを変えずに対応した。だが、凄まじい悪寒がした。
ひょっとして最近色々ミスったかと記憶を遡っていた。
クシーは女関係に対して常に好感度を下げるように振舞っていた。最近はやる事が多すぎて雑になっていた。
クシーは人生で初めて何も考えずに逃げ出したかった。
脳内で会ったことも無い先祖の宿敵から最後まで全力で戦えと叱責された。……クシーは死人の声でも有難かった。
敗北はしても無様な姿は許されない。クシーは無駄に足掻いていた。
「その為にジャンク屋と小競り合いを演出した。……これは想定外な部分もありそうでしたが」
ルリは今朝の報告を元ハービック社の陳から聞いていた。
精査して推測を言えば合っているとメアリが断言してくれていた。
……クシーは敵に回してはいけない女しか周りにいないのかとルリはキレた。
「プロフェッサーを通して依頼するつもりだったんだよね。その前に揉め始めたけど」
クシーは何とか言葉を添えた。何か勝手に揉められて困っていた。
クシーは更なる悪寒に応援を求めた。応援席の悪霊はクシーを無視した。
「……バスク少佐の派遣」
ルリは怒りを抑え込んで極めつけを述べた。イゼルカント経由でセトナが教えてくれた。
コーディネイターだから会うのが怖いとセトナが言えば爺様はバスクが今大西洋連邦にいっているからと教えてくれた。
ルリとしてはこれ良いんだろうかと思っていたがセトナはキレていた。
本当に仕方がないのだが優先順位が低いため、セトナはクシーから放置されていた。
これに関してはクシーもどうしようもないのだが、援護射撃される程度にはダメな対応であった。
「……」
クシーはあの爺、漏らしやがったなと行きついた。セトナまでは分かるがと内心頭を抱えた。
多分、漏らさないが同じ事が無いように対策を真面目に考えたい。決して今から逃げたいわけではない。
「これは偶々聞いただけです。……バスク少佐をヒルドルブ乗せたのも恨みをわざと買う為ですね」
ルリはクシーに対して精神的優位に立った。かなりスカッとした。
……つい口が滑った。ルリは言う必要の無い、いや、この際言ってしまえと自分に言い聞かせた。
予定外の言葉で揚げ足を取らせるなという悪霊の言葉はルリには届かない。
「言わないなら良いです。あれのお陰で恨みが分散してコーディネイター達への当たりが減りましたから。気が付いていないわけないでしょう?……私の仕事!」
ルリはクシーに感謝混じりに言い切った。クシーはルリの言葉を正面から受け止めていた。
正面に戻って聞いていた。ルリの一方的なマウントから外れた。
「恨みを利用して仕向けましたね。アズラエル理事に」
ルリは言い切った。推理は当たっていた。クシーはルリに確かに負けた。
「待って待って待った。……なるほど、後で聞こう」
クシーはルリに敗北したが、色々脳内で纏めていた。色々後で聞かなければならない。
カミーユから殴られたら嫌だなと思いつき、思い出した。ちょっとだけ反撃したい。
「私の推測なので知りませんが、怒らないであげてくださいね?」
ルリはクシーに言い切ってスカッとした。だから油断していた。
空気を壊す達人の間合いに入ってしまっていた。
「恨み買う事したかな?背中刺された気分なんだけど」
クシーは戯言をほざいた。いい加減刺されろ。
「……恨まれるというか背中は刺されて当然では?」
ルリはまだ言うかこいつと冷たい目線を向けた。
だが、大切な事を言い忘れないように続けて述べた。
「一人で背負う事は辞めてください。……私達がいるんですから」
ルリは本心からクシーへ言った。ちょっと気恥ずかしくなってきた。
「……」
クシーはルリの言葉を聞き、色々思いついたのを恥じた。
どうしようもなく泣きそうになるがギリギリ耐えた。クシーは張らなくて良い見栄を張る男だった。
「…………と、ところで。あのバスク少佐がメイドになったのって貴方が原因なんですか?」
ルリは気恥ずかしさからつい誤魔化した。ルリは優秀とはいえ年齢や経験が不足していた。
「いや、あれ私関係ない。野生のメイドマスターがやった」
クシーはルリへ適当に返答していた。クシーは少しだけガッカリしていた。
いや、それを言うのはどうなんだろうとクシーは少し考えた。
クシーはルリに押し付けた奴らが悪いと結論付けた。クシーは精神的優位性を取り戻した。
「……ええ!!?いやいやいや嘘は辞めましょうよ」
ルリはあまりにも衝撃的な事を言われていた。ルリはクシーの変化に気が付けなかった。
クシーが出会ったばかりの調子に戻ってはいたので余計に気が付けない。
「私もね。調べたんだ。埼玉県にある烏竜館の門下生、つまりカミーユの兄弟子。この人がバスクをメイドに……」
クシーは淡々とバスクメイド化の立役者であるメイドマスターGの経歴を語っていく。
メイドマスターGはかつて交戦したバリー・ホー並みに強い。何か世界観がおかしいとクシーは思っている。
「カミーユ!貴方の兄弟子どうなっているんですか!?」
ルリはクシーの毒電波にツッコみまくっていた。クシーは何だか楽しくなってきていた。
……からかい過ぎてルリからもクシーがビンタされるのはこの10分後の事だった。