極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ68年1月、地球からプラントへ移住する人々が増えてきた。
コーディネイターへの弾圧はより激化し富裕層や非プラント理事国からもプラントへの移住が進んでいた。
迫害されたコーディネイターが犯罪者となるケースが増加し社会問題になりつつあった。
しかし、自然への回帰を唱える一派のコーディネイター組織による治安維持活動が以前より行われていた事実から異議を唱える有力者もいるにはいた。
…味方であるはずの声により同胞であるコーディネイター達や大多数の有力者から蛇蝎の如く嫌悪されてもいた。
純粋な種としてのコーディネイターとしてのアイデンティティを持つ者からすれば種族の裏切り者であるとしてナチュラルよりも憎悪されることも多く、テロの標的として狙われるようになっていった。
それはある意味予想されていたことではあった。
更には死傷者は出なかったこともあり、当時は些末なテロとして認識されたテロ事件。
後世から見れば極めて歴史的な意味を持つ事件になるとは当事者は思いもしなかった。
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その日、コーディネイターのテロ組織がXanadu (ザナドゥ)のユーラシア本部に攻め込んできた。
後に判明したがブルーコスモス構成員が内通していた。この事件に関しては潜在的な敵の敵は敵という意味不明な構造が出来上がっていた。
これによりザナドゥ側は自分の組織の総本山とも言えるブルーコスモスに非難声明を発表することになる。
当然、ブルーコスモスは知らぬ存ぜぬを貫き、ザナドゥ側とは末端の暴走という事で手打ちとなった。
だが、この公式声明が後に組織としてのザナドゥが変化していくきっかけになる。
今はそれを誰も知らない。
当事者視点で言えば、ザナドゥ構成員に負傷者は重軽傷含めて百人を超えるが幸いにも死者は居なかった。
しかし、テロ行為自体は無関係な街にも被害が出ていた。
…表沙汰にはしていないが現地の権力者とこの本部は蜜月な関係を築いている。
故に追い出されることはないだろうが、住んでいる市民からの評判は堕ちるだろう。
いるだけで自分達が巻き込まれると思えば当然である。
「軍事産業に進出していたのはこういう理由もあったんだろうな…」
ユーラシア本部の長である私、ティモテ・エペーは被害報告を聞きつつ、ザナドゥ総統Xiの先見の明に嘆息した。
世界情勢が悪化するのは見識のある者からすれば感じ取っている。まだ戦争にはならないと思っているのが大多数だ。
コズミック・イラという時代となり末法の如く治安が悪化しているとはいえ大規模な戦争は60年起こっていない。
私からすればそれ自体は無理もない考えだと思う。
だが今の状況でコーディネイターが自衛の為に武装することは許されないだろう。
公的に設立されていた組織でなければ傭兵のような組織でしかないだろう。
ザナドゥも傭兵部隊Xや退役軍人傭兵部隊等の純粋な武装組織は持っているが例外だ。
その一方でナチュラルは自衛の為に武装組織を軍事訓練も受けていない素人が作っている。そして、無抵抗なコーディネイターを襲撃するようになっていた。
非武装のコーディネイター達を殺して武勲のように語るナチュラルの若者達。
それが当たり前のように持て囃される光景は流石の私、ティモテも衝撃を受けた。
クシーが裏から抗議をして辛うじて裁かれたが執行猶予付きの判決だった。
司法が機能していないが、無いよりはマシであった。
執行猶予だろうが裁かれた事で冷水を浴びた若者はいたはずである。
この行為によりクシーはブルーコスモスの上層部から一部制裁が行われたらしい。
私からすれば当たり前の事すら言えないのかと怒りを覚えるがブルーコスモスという強大な組織に歯向かってその程度で済むクシーの偉大さを感じずには居られないのも事実であった。
クシーやザナドゥがなければ地球のコーディネイター達を見捨てているあのプラントに行っていたかもしれない。
私はザナドゥの中では思想の関係で地球に残ったコーディネイターである。
プラントへ行っても活躍できるだけの伝と能力があった。…クライン派の末端ではあるが関わりがある。
その為にクシーとクライン派の交渉の一部も知っている。詳細はわからないが、自死してでも言うつもりはない。
「ああ、済まない。被害状況が一番だが…拘束したテロリストの情報、武装…戦車を改造して一人乗りにしているのは興味深い。引き渡す前に徹底的に調べておけ」
私は部下からの報告で優先順位を導き出して伝える。
…一人で戦車を動かせる技術がどうなっているのかクシーは絶対確認してくる。
今回のテロ組織と戦ったのはナチュラルの構成員が多い。ザナドゥは飽くまでもナチュラル、大本をたどればブルーコスモス系列となっている。
今回の武功は表向きはナチュラルによるものと喧伝されるだろう。間違ってもいない。
しかし、危険な敵本丸を攻めたのはコーディネイターだ。
最早、非プラント理事国のコーディネイターはナチュラルの為に血を流すか反抗するかでしか生き残れない状況になってきていた。
そんな情勢でナチュラル構成員に大きな被害があってはザナドゥへの非難は重箱の隅を突きたい連中が大きく取り上げる。
何故、コーディネイターを守るのにナチュラルが犠牲にならなければならないのか、という具合である。それ故に一番危険なところはコーディネイターが切り開く。
…ここに至っても希望者のみで構成されているザナドゥは異端である。
能力的に実務や研究職にいた方が有意義なのは間違いではないのだが、それでも銃を取りたくない者に配慮できる環境は破格だ。
今後もそう言っていられるのかはともかく後方の実績を作り、努力できる環境が与えられていた。
このようにコーディネイターに寛容な組織として積み重ねてきた実績から集まる者も増えた。
…それ故に別組織からのスパイも出てきている。
それでもクシーの方針からあからさまで無い限りは受け入れている。
流石にそこに関しては組織の長としての私もどうかと思っていたが、しばらくするとスパイ側が打ち明けて来るようになった。
二重スパイになるケースが増えて結果的にザナドゥの諜報部は組織の年数や規模では考えられない程洗練されていた。
今では私の一番の懸念であったプラントからのスパイすらも練度の差から見破られる程だ。
『必ず敵人の間の来りて我を間する者を索め、因りてこれを利し、導きてこれを舎せしむ。故に反間得て用うべきなり』
クシーが私に語った古代の兵法だ。スパイを厚遇してこちら側につかせることで反間、二重スパイにできると語っていた。
現にスパイの身内を極秘裏に保護していたりもする。最早、他組織が派遣するスパイは完全に悪手である。
ナチュラルのスパイをコーディネイターのスパイが調査するのだからザナドゥの防諜は閉鎖空間を構築できるプラントに準ずる水準である。
私は現場に向かった。被害の状況を見舞う為だ。罵詈雑言や敵や市民からの攻撃もあるかもしれないがそれでも見せることに意味がある。後で危ない橋を渡るなとクシーに言われそうであるが最悪、後任も用意している。
私よりも変えの効かないのはクシーであるのだからそれを言うなとも思うのだが。
未だに組織内でも少数しかクシーの正体を知らない。
私もクシーの現在地に関してはどこかのコロニーにいる程度しか知らない。
初めて出会った時は少年であることに驚いたし、当然ではあるのだがナチュラルというのも驚いた。
…最早人類という種に留まるのか怪しい能力の持ち主である。
ジョージ・グレンの提唱した新人類とは彼の事ではないかと私と一部は思うようになってきている。
ナチュラルでクシーを崇拝している者達はそういう思想で着いてきている者が多い。
クシーにそれを言うと激怒されるので内心に留めている。
クシーは自分が人類の範疇として誰か不明なコーディネイター達と比較した資料を見せてきたことがある。
私から見ればそのコーディネイター達がおかしいだけである。クシーもわかっているので最初に資料が平均値ではないなどと言って誤魔化している。
ジョージ・グレンはコーディネイターとしてもおかしいが、それを全体に当てはめるのと変わらない。というかそれ以上に酷いかもしれないデータだった。
変な崇拝をする人を言いくるめるのに使うためだけに用意されていた。
その無理のある言いくるめはクシーの付き人のヴェラ氏すらドン引きしていた。
クシーの正体は秘密ではあるが、ヴェラ・バリーナ・トルスタヤという傑物が付き人だ。
彼女がその地位を当たり前のように受け入れている時点で既におかしい。
…そんなだがクシーが偶に地球へ来ることもある。
その行為が必要なのは理解しているのだが本気で危ない。戦争にならない限りは中立国のコロニー等に居てほしい。
特に自分の暗殺者を勧誘するとか辞めてほしい。
確かに今では優秀な人材となっているがナチュラルとかコーディネイターとか関係なく頭がおかしい。これは私ですら思うのだから大概だ。
「兵器の優劣が勝敗を決めるのでは無い。戦い方だ。…しかし、今回は兵器の有利すらこちらの方が上だった」
現場に着いた私はカナードが兵士達へ何やら言っているのが聞こえてきた。
奮戦を称えるのかと思えば雰囲気的にはそうではないらしい。
現場は重機によって瓦礫等が撤去され始めていた。驚異的な速さである。
その練度はコーディネイターが指揮しナチュラルが動くという異例の指揮系統で成り立っていた。
見ただけではナチュラルが素早い対応をしているのに多少コーディネイターが混ざっているだけなのでどうこう指摘されることはない。
「今回の奴らはその程度すらわからない雑魚共だ。的あての練習にはなっただろう」
テロの後に酷い物言いだが、若い新兵には良い練習であるのも事実。
私は聞かなかったことにした。カナード自身も被災者には聞こえないように最低限の配慮をしていた。
いつもながら傭兵部隊X、特にカナードの活躍は凄まじい。
カナード・パルス、アジア系の顔立ちと漆黒の長髪、14歳の少女だ。
幾ら才能があるとはいえ傭兵という形で15歳に満たない少女を戦わせるのをクシーが大反対したのを思い出す。
激情家のカナードはクシー相手には引き下がることも多いがあの時は違った。
自らの有益性を堂々と語り、更には軍部等の多方面に根回しした結果クシーが引き下がった。
不本意な形とはいえザナドゥが軍事分野に広く進出するきっかけにもなった。クシーは有益性は認めつつも軍需産業には広げたがらない。
しかし、スピアヘッドの改良等は現在進行系で行われ、EMP対策への投資や核動力によらない高性能潜水艦等にも注目している。
潜水艦についてはオーブ首長国連邦に売り込みを掛けているが成果はまずまずだ。
自衛の為に使われるのならば問題ないと比較的安値で売るので買われるがやはり核動力の潜水艦でないと弱い。
ライセンス生産という条件付きで取引が成立したがあのオーブならば勝手に技術を持っていくのではないか。
軍事産業的にはモルゲンレーテ社は碌でもないと有名だった。軍事畑とは言えない私ですら知っている。
「ティモテ長官!雑魚が相手とはいえここは戦場だ」
カナードが私を叱責してきた。私への物言いだがこれは仕方がないので特に反論はしない。
彼女からすれば私のような重役が勝手に出られると警護等も考えなければならないと頭が痛いだろう。
だが、ここは政治的な側面の方が大きい。危険でも非効率でも情という物は大きい。
…彼女のような子どもを戦場に送り込む事に抵抗がないかと言われれば私も良いとは思わない。
クシーもそんな抵抗からか現在、主導で家電分野に進出しているがそちらに人員を割いている。
クシーが開発した『ラプラシアンシステム』を用いた電化製品はその性能から飛ぶように売れている。
微小電流回路によりマイクロユニットが作動し、力場を生成し高エネルギー体を分離するという仕組みで作動している。
これにより起動する電力さえあれば長期間の冷却や保温が可能となっている。
時間経過で分離した高エネルギー体が作用して効果を持続させる。その差で発生した高エネルギーを取り込むというシステムだ。
軍事技術的には似たような技術はあるが、家電として販売できるだけの安価な物にしたのは称賛する他ない。
欠点としては高電力で出力が上がるわけではないところだろうか。だが、家電としての利用ならば全く問題にならない。
電力消費無しで使用しても一ヶ月は問題ないので戦艦備え付けの冷蔵庫等にも早速利用されている。
万が一、EMPにより動力が落ちた場合の非常時に使える技術だった。軍民共に普及しつつある。
このままだとクシーが表舞台に立つのはザナドゥの指導者ではなく家電屋としてかもしれない。
私は近い未来の中に僅かながらの希望を見出した。
後日、『家電王子』という世間からの評判にクシーは激怒した。どうも王子というのが気に食わないらしい。
…それくらいは我慢しなさいと年長者として私が宥める羽目になった。
親子よりも年齢が離れているので下手をすれば孫を嗜める祖父に見えたかもしれない。