極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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閑話 あまりに沈んで聞こえない想い

コズミック・イラ70年6月14日、L4宙域にある資源衛星『新星』を巡りザフトと地球連合軍が衝突した。

戦いは約1カ月に及ぶ事になり、勝利したザフトは新星をL5まで輸送し軍事要塞『ボアズ』として利用することになる。

新星が資源衛星としての価値が全くないので軍事要塞としてしか使えないという事実はザフトの機密として語られることはなかった。

ザナドゥは大量の資源を確保したが地球への輸送手段が無かった。

新星で確保したかなりの量の資源を地球へ送り続けていた。しかし、ザナドゥが所有するコロニーで保管するにも余り過ぎていた。

 

ザナドゥ代表クシーは資源が余り、その戦火が広がると看破していた。新星での本格的な戦闘が始まる前から宇宙の治安維持に活用を検討し始めていた。

L4宙域の戦火を逃れた避難民へ即座に用意できる仕事の種類は少なかった。

ザナドゥが幾らでも人が欲しいのは治安維持活動に必要な武器やNJ後の地球で初めての夏が到来して熱中症で大量死する事を防ぐ為の家電製造だった。

クーラーや扇風機が1つでも多ければそれだけ救える命も多かった。

 

武器も同じであるがそれに関してクシーは戦火が広がる前、心ない言葉を避難民から浴びせられていた。人殺しや金の亡者等はいつものことである。

 

「新時代提言を聞いたがお前は地球に巣食う輩に過ぎず、宇宙移民への言葉は薄っぺらで平和への理念もない所詮ブルーコスモスでしかない。汚れたお前の手で何かを救う等烏滸がましい」

とある活動家から吐き捨てられたクシーは何も反論しなかった。否定するには該当する事が多過ぎた。

彼らは誰かに怒りをぶつけたいのだと理解しても言われた事をクシーは延々と脳内に繰り返す事になった。

言った当人は戦火巻き込まれて故郷が滅ぼされ、プラントへの仲間意識や宇宙移民としての連帯感も嘘っぱちだと目が覚めたと言い出した。彼はかつてクシーへ吐き捨てた言葉をすっかり忘れていた。

 

軽率に発した言葉がクシー当人がどう思うのかと問いただした者達がいた。

だが、彼はその時は真剣に考えていたと主張した。今はお前らの味方なのに何が違うと嘲りを見せた。

このような愚劣な輩まで救いたいのかと救われた者達は思ってしまい、その想いに自分らも救われたと気づいて我に返った。

憎しみで争うよりどうすべきか。彼らが向き合う世界は地球の重力より遥かに重かった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ザナドゥ代表クシーはザフトと地球連合軍の戦闘を見越して治安維持機構を作る予定でいた。

クシーは国連宇宙軍と暫定していた。

新星で住民が避難してくれていれば万全の状態で国連宇宙軍を送り出す事が出来ていたのだが仕方がないと諦めた。

その証拠に宇宙戦艦級は未完成の一隻だけだった。民間組織が所有するには明らかにオーバースペックである。

コズミック・イラで立ち回るならこれくらいは必要とクシーは妥協していなかった。

ザナドゥで軍艦を量産していなかったが、地球連合軍第13艦隊の軍艦転換によりマルセイユⅢ世級の払い下げが行われていた。

これ幸いとクシーはペルミノフ少将と約束を取り付けて受け取っていた。

軍艦時代の運用データ等が添えられていた。ペルミノフ少将はクシーが何をやるつもりなのか薄々察していた。

第13艦隊は更新しても戦力は二級戦艦が主力であった。更新したのもコーネリアス級宇宙用輸送艦である。

飽くまで輸送部隊でしかなかったのでL4宙域でザフトと真正面にやり合えば必ず負けた。

地球連合軍上層部に無理やり任されたら地の利で粘る気でいたがどうやっても1か月持たない。

事実、地球連合軍から引き継いだ第5艦隊ウィレム准将は一か月ギリギリまで持たせたが敗北した。

ペルミノフ少将と違いアガメムノン級宇宙母艦を旗艦に一線級の戦力を整えていた。

ウィレム准将は自信過剰なところがありペルミノフ少将の引継ぎや忠告を軽んじていたが引き際は優れていたので全滅はしなかった。

ペルミノフ少将は前任のフォーク准将と同類かという最底辺の評価を見直した。引ける奴は強く、失敗をバネにして成長できる。

ペルミノフ少将は見直したが若いから許されるわけではない。

持ち上げ賞賛するウィレム准将の部下達を知っていたが、ペルミノフ少将は徒にその部下達を死なせた事を忘れなかった。

 

ペルミノフ少将は不安なので運用データを治安維持の為に動くザナドゥへ横流ししていた。

そもそも現状の地球連合軍の広域輸送網計画はクシーとペルミノフ少将が協力して作ったものであった。

ペルミノフ少将はサイクロプスで全部消し飛ばした地球連合上層部に憤っていた。

撃破されても生き残る兵士の練度も含めて構成された計画はそう簡単に取り戻せない。

新星の資源を輸送するにもサイクロプスのせいで統制の取れた軍人を大勢喪っていた。

だったらクシーに渡してしまえとペルミノフ少将はキレていた。このような事をハルバートン提督は出来ない。

ペルミノフ少将はジャンク屋を海賊と評しているがやってはならない事も選択肢に入る海賊気質の人物だった。

ハルバートン提督は軍人として極めて真っ当であり、ペルミノフ少将の真似をしたら規律が崩壊する。

ペルミノフ少将を許したら再構築戦争で大西洋連邦から核弾頭を盗んで使って敵を焼いた連中と同列になりかねない。

 

グレーではなくアウトだがペルミノフ少将はザナトゥ代表クシーへの信頼を踏まえて地球連合の市民の命を優先した。

自分かクシーが言わなければバレないので一蓮托生だと示していた。

クシーは今更気にしないのでペルミノフ少将の狸爺の行動そのものは気に入っていた。

ペルミノフ少将の行為は軍事機密の流出だがコズミック・イラ世界ではどこの陣営でも似たような事は日常茶飯事だった。

そうでなければG兵器のストライクがオーブのMSストライクルージュとして盗用されていたりしない。

クシーは今回急いでいたので仕方がないと割り切った。今後、L4宙域で商売する際使えるなとか悪用し放題とか思っていたがバレないようにだけ気を付ける事にした。

 

クシーが地球連合軍のセキュリティ部門の立場なら間違いなくキレるので何か申し訳ない気持ちになったがこれほどガバガバなのが悪いと開き直った。

地球連合軍のセキュリティ部門は対策しても現場だけでなく上層部まで私的流用が横行していた。こんな事をされれば誰も止められない。

いつもの事なので知っても遺憾の意を示す定型文を出すが気にしていない。流石に気にしろ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「国連宇宙軍にサーペントテールの勧誘は無理か。ダメ元だったしまぁ仕方がない。ヤザンのアホは先約があるから無理。そもそも戦争があるからこれも仕方がない」

クシーは戦力になりそうな人材を呼び掛けていたが応じて貰えずにいた。

信用できる人材でないとザナドゥMSを渡せないが戦艦が旧式である為、流出事故が懸念された。

サーペントテールやヤザンは他の傭兵達と違い戦闘力だけでなく義理立てしてくれる。更に生存能力はあるので流出するにしても行き先が分かる人材だった。

彼らが参加してくれるならばクシーも最新鋭機であろうとも任せる事が出来た。

クシーの考えるのは国連軍なのでコーディネイターも参加している。ジンの改造機体ならば問題なく渡せるが彼らでは物足りないだろうと思っていた。

 

「……アイドルが国連軍に志願……アリサ・ロッサ?ああ思い出した。血液型がABO式血液型のどれにも属さないからコーディネイターと勘違いされていたな。だが、どこから漏れた?」

クシーはアイドルが前線で戦いますと送られて来た履歴書を読んでいた。

ユーラシア連邦と東アジア共和国のハーフの少女でクシーは親近感を抱いていた。

アリサ・ロッサはかつて検査した血液型が未知であり人造人間かコーディネイターかと騒がれた。

稀に出る血液異常であり旧暦の22世紀に該当する少女が過去にいた。

当時のクシーは騒ぐ連中を黙らせ、コーディネイターでない事を証明していた。

 

それからしばらく経過しアリサが別件で大怪我を負っていた。

ミケランジェロが言うにはクシーの血液が使えるらしかったので躊躇わずに自身の血を輸血していた。

アリサの血液をクシーに輸血は出来ないが逆は可能だった。ミケランジェロはその際、クシーから輸血用に多めに貰っていた。

クシーがアリサへ輸血出来たのはO型の血液をA型等に輸血できるのと大体同じである。

クシーの血液以外を探そうとすると大西洋連邦やオーブ首長国連邦等でありすぐ用意できるのはクシーだけであった。

アリサが万一の場合に備えて自分の血液を確保していたが一定量確保できるまでの治療期間はクシーの血液が使われていた。

 

普通なら死にかねない量の血液をクシーは同意の下で提供していた。クシーは命が助かるならば安いと気にしていない。

相手が少女だからではない。クシーは相手が行き倒れのおっさんだろうが浮浪者の老人だろうが自分を殺そうとしていた相手だろうが変わらない。

多少の扱いに差は出るがクシーは誰でも等しく接していた。

だからこそザナドゥの構成員たちは救われていたし恩義を抱いていた。

 

ミケランジェロはどうせ死なないだろうとクシーから大量に血を抜いていた。

だが、その翌日にテロリストを捕まえる為に100キロ走って追いかけ続けたのにはドン引きした。

被害者であるテロリストは延々と逃げ続けて最後は命乞いをしていた。

車で逃げているのに生身で延々と追いかけられ、撒いたと思ってもいつのまにか背後にいるのは恐怖である。

血を抜いていなければ即座に捕まえてやった。大体30キロで済んでいただろうとクシーは愚痴を零した。

呆れたベラから鶏の砂肝の串焼きを貰ったクシーはしばらくの間日本の焼き鳥にハマっていた。

 

それ以来会っていなかったがアイドルになっていたのは知っていた。

22世紀の同胞を真似ているのかと思っていたが、過去の人物も戦闘機乗りのアイドルやっていた。

初対面の時、アリサはクシーへいい加減な男が嫌いと言っていた。

クシーはアリサにいい加減だから血液提供に恩義を感じる必要は無い。似たような事は誰でもやっているので深い意味はない。

他意はないので忘れて達者で暮らせと別れを告げていた。

当時はザナドゥへのバッシングが強まっており、クシーもアリサに構う余裕はなかった。

 

アイドルから国連軍って何だろうか。広報を任せるつもりではあるがアリサの方がいい加減なんじゃないかとクシーはのんきに思っていた。

……カナードの件でもそうだが直接言われるか背中を刺されないと気が付かないのだろうか。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「カトル・ラバーバ・ウィナー。非常に有難いのだがまず御父上を説得してくれ」

クシーは金髪碧眼の美少年と通信で話していた。

ウィナー家は30人姉弟という常にゴシップで騒がしい名家の中でも異彩を放つ存在だった。

一人の母から30人も生まれたのはもはや怖い。ウィナー家は上流階級のゴシップを黙らせた殿堂入りである。

クシーはカトル母を色々な意味で尊敬していたがカトルの出産で亡くなっていたので会った事はない。

カトルは29人姉がいるがザナドゥに加入している姉もいた。父親に反抗しているがクシー越しで繋がりは維持していた。

クシーは他人の家のもめ事に巻き込まれることにうんざりしていたが愛はあるので対応していた。名家であるので今回のように恩恵もあった。

 

「ウィナー家が持つL4宙域の資料がなければここまで早期に国連軍も活動できなかった」

クシーはカトルに事実を伝えた。クシーはウィナー家がL4宙域の権益を持つと知っていた。

だが、上流階級の平和主義者であるカトルの父はグレイブヤードの爺5人の一人と物凄く親しいイカれた人物であった。

カトル父の友人たちはどう考えても平和を乱す側のカオスである。

身内が軍人になるのは大反対するがそれよりももっと前にH教授(5爺の一人)を何とかしろとクシーは言いたい。

カトル父は参考にならないと判断し、クシーはカムナ少尉からL4コロニー群に関して尋ねていた。

 

「その恩義もあるが何より私は息子を想うご両親の心を無碍にはできない」

クシーは何であんな倒錯した家からこんな良い子が生まれたのだろうと思いつつ言った。

良い子というがカトルは15歳なのでクシーと同年代である。

控えていたベラはこの二人を写真集にすればバカ売れするなと盗撮しながら思っていた。

 

「我が家もコロニーも戦うつもりがない。……でも、コロニーを犠牲には出来ない」

カトルは再三の反対を理解していた。だが、クシーまで言うのかと気持ちを吐き出していた。

 

「平和主義者に被れた父君を軽蔑するのも理解はする。……だが、ギリギリ許容できる範囲で協力できる人間というのはそう多くはない」

クシーはカトルの気持ちと向き合って答えていた。

カトル父からすればクシーに協力する事自体が本来は恥ずべき行為に該当しかねなかった。

平和主義でも現状は不味いと恥ずべき自分と向き合って対応していた。

クシー個人としてはそれなら友人の爺を何とかしろと思わなくもないがそれは無視してカトルへ語り掛けていた。

 

「……MA等のシミュレーターは大丈夫だろうし、軍事訓練も参加してくれると有難い。そもそも君が参加するだけで自分達の住むL4を守ろうと立ち上がる者達はいる」

クシーは妥協点を提示した。前線に出すには厳しいが出来ることはある。戦いは前線だけではないと説得していた。

カトル父の考えに反する部分もあるだろうがそれは話し合えばいい。クシーは自分と違って決裂していないカトルを羨ましく思っていた。

 

「でも!誰かが戦わないと、この戦争は終わらないんです」

カトルはクシーに吠えた。君が一番わかっているだろうとクシーが戦う姿をカトルは知っていた。

だから問いかけたがクシーの身内の事に関してカトルは無知だった。カトルの実家はあまりに参考にならないがクシーの家は酷過ぎた。

 

「……平和主義者の父君でも広報活動なら許してくれるだろう。少しばかり必要な事も多いだけなのでそこから説得していけば良いのではないか?」

クシーは出来る事は用意するがそれ以上は自分で話し合えと言葉を絞り出した。

カトルは様子のおかしいクシーを察して困惑したまま通信を終えた。

少し後、カトルはクシーから謝罪された。再度クシーの立ち合いの下、ウィナー家の父子間での話し合いが設けられた。

 

何故、カトルのような純粋な想いを持つ少年が自分で戦わなければならないと思ってしまう世界なのか。何故、両親から愛されているカトルは引き留める肉親を振り払うのか。

クシーは自分の意思で戦場に立つ者が覚悟していたならば引き留めはしない。

だが、引き留める者達の意思も尊重していた。肉親の情がクシーにとって心の奥底にいつまでも燻っていた。

 

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