極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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閑話 世界の命運の前に部下達から軽んじられているのをどうにかせねばならん

コズミック・イラ70年6月20日、ザフトのクルーゼ隊に新しい僚艦であるローラシア級MS搭載艦ガモフの受け入れとそれに伴う人員整理が完了した。

 

6月2日エンデュミオン・クレーターで地球連合軍によるサイクロプスで僚艦であるローラシア級フリゲート艦ガルバーニが損壊し、修復その他が行われる事となっていた。

その代わり僚艦としてローラシア級フリゲート艦ガモフが加わった。

ガルバーニはクルーゼ隊の旗艦ナスカ級高速戦闘艦ヴェサリウスの前の旗艦であった。

アデスは最近加入したのでガルバーニは一つの僚艦でしかない。だが、クルーゼ隊に長くいるマシューとオロールには馴染み深い艦と別れる事となった。

 

ローラシア級フリゲート艦ガルバーニの乗組員達はサイクロプスを一番近い位置で目撃していた。

クルーゼは部下達が精神を病んでしまった事を憂いていた。

上司として部下を休ませないといけないが代わりの人員で粗雑な新人が来れば軍務に支障をきたしてしまう。

クルーゼは極めて良識を以て自身の部下に気を配っていた。

世界の終末か平和への道かのコイントスを目論んでいたし、自身の願いが成就すれば部下への配慮も無意味であるのだがクルーゼは根が真面目だった。

 

部下達はクルーゼの配慮でサイクロプスの件を考えたり受け止めたり休むなどの時間を得ていた。

しかし、クルーゼの変化を気に掛けるにはサイクロプスの影響はあまりに強過ぎた。

逆にクルーゼが部下を気にかけなければアデスやオロール等はクルーゼの変化に気が付いていた。

クルーゼの部下達はクルーゼの真意を知る術もなく大半が戦死していくことになる。

 

……クルーゼが休むように言い残し置いて逝かれたガルバーニの部下達を除いて。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

サイクロプス当日、クルーゼは直観で一時的に隊を下がらせた。

結果、サイクロプスの有効圏内からギリギリ脱していた。

その為、サイクロプスでの直接的な戦死者はいなかったもののローラシア級フリゲート艦ガルバーニ等は直接目撃してしまっていた。

サイクロプスで助かったが敵味方関係なくが風船のように膨らみ破裂する光景を見て精神を病んでしまう者が多くいた。

 

「下がる事も戦いだ。……治す時間があるという事は幸福だ。その間に戦争が終わっていれば殺し合う必要はない」

クルーゼはガルバーニの優秀な部下達へ言葉を掛けた。声が優しかったと部下達は覚えていた。

クルーゼは軍務を熟すのはこれ以上不可能と判断し、苦しむ部下達を戦争から突き放した。

 

その後、クルーゼはパトリックにまで掛け合い部下達を安全に後方に下がらせた。

部下達の仇を取る為にもザフトで戦火を挙げて見せると言いくるめた。

 

「戦争です。人は死ぬでしょう。だからこそ新たな悲劇を根絶する為に我々は勝たねばならない。……思いあがった地球連合を討ち果たしてこそプラントは真の意味で独立できるのです!」

クルーゼは内心はともかく戦争の継続と戦果を高らかにザラ派の面々に向かって宣言した。

クルーゼの一連の行動は前線から退かざる得ない部下達を想う美談として語られた。

なお、記者の手により『地球連合』は『ナチュラル』に差し替えられた。プラント内ではサイクロプスは機密であり語られない。

クルーゼは僅かに苛立ちを覚えたがそれ以上の成果の前に文句を言うのもその理由も忘れた。

 

クルーゼは騒ぎ過ぎだとパトリックに叱責を受けたが、想定外の名誉が簡単に手に入ってしまった。

パトリックとしては軍人として優秀なコーディネイターが政治家も顔負けな弁舌を即興でし出したので評価をあげていた。

記者が変に弄った事に関しては気にも留めていない。パトリックは軍人であるクルーゼが気にするかと思っていたが何も言わないので放置した。

パトリックからすれば大多数のナチュラルは敵以下であった。

これが自分やシーゲル、ザラ派の議員たちならば無駄に敵を作る立場の発言として窘める。

まだ一介のザフト兵であるクルーゼの発言は軍務に即していれば個人的な感情以上に配慮する必要はない。

 

パトリックは部下想いのクルーゼなら息子を任せても良いかもしれないとプラント評議会で子どもを持つ面々に提案していた。

パトリックの提案は特に異論もなく受け入れられた。

ニコルの父、ユーリ・アマルフィもクルーゼなら信用できるだろうと頼んでいた。

男親だということでユーリはパトリックを気にかけていた。ニコルと仲良くして貰っているので今度話せるならと考えていた。

しかし、エザリア・ジュールの息子イザークの話がかなり鬱陶しかったのでパトリックはアスラン関連の話を同僚にする事を辞めた。

ザフトはコーディネイターが敵を駆逐する優秀な部隊が欲しかった。

従って、優秀な成績を残して問題行動も少ないアスラン達の加入は議員らの感情を除けば全体の為にはなっていた。

パトリックの行為によってクルーゼ隊へ9月に士官アカデミーを卒業する上流階級の子息達が加わる事が確定した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

アスラン達が配属されると聞いた副隊長フレデリック・アデスの胃は死にそうになった。

一か所に纏めてお偉いさんの子どもが全員戦死したらどうする気だとアデスはキレた。

クルーゼ隊長に全部の責任を押し付けるわけにはいかないとアデスは副官として動いた。

戦争であるので優秀な兵士が流れ弾で死ぬことも運悪く囲まれる事だってある。

アデスの言う事を聞けば分散した先で死ぬ可能性も高いので代替案は無いに等しい。

アデスも上層部が不快になるだろう事は覚悟していた。アデスの行動はクルーゼの敬意と善意から来る心配であった。

 

アデスはサイクロプスが未だにトラウマであった。それでもここだけは抗議しなければと奮起し自身のトラウマも何とかねじ伏せた。

アデスの知るクルーゼは高官の子息が来る事を面倒だと溢す人間だった。

だが、アデスの想いは無敵の人になっていたクルーゼに握りつぶされた。

 

アデスの知るクルーゼはそのような事をしない。部下の意見を重んじる上司だった。

アデスは前のクルーゼを信じていたので気が付けず、上層部の真意が分からないと頭を抱えつつアスラン達を受け入れる覚悟を決めた。

 

クルーゼはアデスが大変そうだなと他人事のように呟いてアデスから怒られた。

 

「上官なのだから当事者意識を持つべきです!!」

アデスはクルーゼへ指摘した。その通り過ぎたのでクルーゼは謝罪した。

クルーゼもアデスの行為を若干思うところがなかったわけではないのだが、アデスの知る頃と違って自身の危機に関して他人事のようになっていた。

 

クルーゼは部下達への配慮を語られ、プラントで人格も優れた英雄として持ち上げられた。

当の本人は簡単に乗せられる衆愚に絶望していた。

クルーゼは何故もっと早くにという苛立ちすら湧かなかった。穏やかな絶望と狂気の未来がクルーゼの心を変質させてしまっていた。

今のクルーゼならばゲームアカウント名を絶望仮面にはしないし、発覚する可能性を僅かにでも減らす。

 

ザナドゥ代表へ自分の事情を打ち明けていない過去の理性にクルーゼは幸運だったと思い込んでいた。

クシーが相手の場合、変質したクルーゼがどこまで行うかわからないはずだと看破していた。

クルーゼを全く知らないよりバレずに進められるまである。クルーゼは偶然ではあるのだがクシーの認識の隙間に入り込んでいた。

クルーゼは自身の世界の命運を左右するコイントスをクシーに悟られたらその場で詰んでいた。

従って、クルーゼはこの世界の理不尽としてクシーを当てはめ対処を放棄する事にした。

ある程度仲良くなって理解しておきながら敵対し、クシーの理不尽を諦めて対策を放棄する。

クルーゼが見つけたクシーへの対処法であった。

クルーゼの暗躍が途中で見つかると終わる。ある程度進めばクシーも止められないがこのような対応は正気の人間に真似できない。

クルーゼは世界が破滅しても平和になっても良いので出来た。

 

後にデュランダルは自身の計画を改めて考えた際、クルーゼの方法である程度まではどうにかなるが要所でクシーに発見されて詰むと導き出せた。

もうひと手間がなければディスティニープラン前に潰されてしまうだろうと頭を悩ませていた。

……デュランダルはまともな理性で計画を立てるので理性を放棄したクルーゼのやり方を真似できなかった。

 

クルーゼは委ねられた人の意思がどう動くのか選択肢を与えるのでクシーに気取られる可能性は限りなく低いと理解していた。

だから、クシーの責任ではな……世界の意思に人類は滅ぼされるとクルーゼは本心から思っていた。

 

クシーがクルーゼの行為を知ればそもそも世界の命運をかける場には追い詰められた人や悪意を持つ者に渡る確率が高いのでコインの裏である悪意が出る確率が高いと断じる。

追い詰められた人間の行動に人の本質があるわけではないし、ただ単に追い詰められた時の反応でしかないとクシーは考えている。

クルーゼからしたらどちらにせよ止める場は与えている。それで悪意を選んでいるのだから関係ないし、追い詰められたにせよ自分で選んだ意思と返す。

この後のクシーの反論をクルーゼは知らんで押し切る。クルーゼは綺麗ごとを聞き入れる気力がもうなかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

 

クルーゼは自分が悪意を決意した途端に叶うように道が出来始めていた。

クルーゼは世界の命運を見定める事ができてしまうと確信した。

この世界は自身の醜悪な想いが叶う世界だと理解した。止まればそれも良しと思っていたがブルーコスモスのアズラエルは自身の甘言を聞いていた。

自分に都合の良い話を簡単に信じているアズラエルをクルーゼは嘲笑った。

所詮、サイクロプスを起こす側の人間はこのような者かと吐き捨てた。

 

ラクス・クラインは世間で持ち上げられ始めたラウ・ル・クルーゼが平和を願う者ではないと即座に看破した。

だが、部下への想いは本物だと見抜いてもいた。ラクスから見ても打算無しの行為でありパトリックへ懇願する必要は無い。

ラクスはサイクロプスの詳細を知らないが何かあったのは推測していた。

クルーゼの一連の行動は打算が多少あったとしても根底に人を想う心があった。だからこそここまでプラントで受け入れられていた。

ラクスは戦争がクルーゼをこのようにしてしまったと受け止めた。ラクスは改めて戦争を止めなければと決意した。

 

ラクスのクルーゼ評は正しかった。正しいがクルーゼ本人はそれを自覚していなかった。

指摘したのがラクスならば現在のクルーゼはそれを悪用するだけである。

ラクスの不干渉は互いに取って幸運であった。広大な宇宙で内に秘めた絶望は歌では揺るがないとクルーゼは嘲笑っていた。

歌のように優しい世界は存在しなかったのだと友人も預けた同胞も頭の片隅に在りながら突き進んでいく。

運命に続く道は世界の悪意で塗装されていたが世界は悪意で出来ていない。

クルーゼはそれを信じるには時間が残されていなかった。信じる度に消し飛ばされる花を見たいと思えない。

また花の種を植えて消し飛ばされたら次は無いのがクルーゼだった。

どれ程努力しようがどうにもできないと知っている相手には説得は通用しなかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

 

コズミック・イラ70年6月27日、ラウ・ル・クルーゼは新たにクルーゼ隊に配属されたミゲル・アイマンと話していた。

ミゲルはジンをオレンジカラーに塗装して他の部隊で活躍していたが隊長の戦死でクルーゼ隊へ配属された。

 

「ミゲル。わが隊には慣れたかね?」

クルーゼはミゲルに声をかけた。ガルバーニの人員と引き換えに来たミゲルはエース級であり、腐らせるわけにはいかないとクルーゼは評価していた。

地球連合軍の数のゴリ押しで隊長が亡くなったと認識しているミゲルが思慮の浅い行動をしないようにクルーゼは言葉を選んでいた。

 

「隊長!……ザフトでも屈指のクルーゼ隊の指揮下に入れて光栄に思っています」

ミゲルはクルーゼへ姿勢を正して口にした。

ミゲルは怪しい仮面が今の隊長であると認識を改めようと努力していた。

ザフトに仮面を着けている怪しい輩はいないので仮面=隊長にした方が良いのかと失礼な事を考えている。

 

「世辞は良い。私としても君ほどの実力者が加わってくれて嬉しい。まるで勇者の如き活躍だ」

クルーゼはミゲルの評価が表面的であると看破して述べた。

クルーゼは新入りに対しては君を評価していると褒める事を心がけていた。

クルーゼは部下の一人一人に気を配ることを忘れていない上司である。

だがサイクロプス前はやり過ぎて若干舐められていたかもしれないと反省していた。

急に変えると怪しまれるので少しずつ威厳を取り戻そうとしていたが、ミゲル等の新入りには従来で良いかなどと試行錯誤していた。

若くして役職を得た上司として見れば素晴らしいがクルーゼは残された寿命がなかった。

最適な関係を模索する時間も惜しいので職場の人間関係に関しては一々気にしていた。

 

「ただ配属されるならばホーキンス隊が良かったのではと気になっていな。カラーリングといいハイネ・ヴェステンフルスの……ファンなのだろう?」

クルーゼはミゲルの心の琴線に触れた。

クルーゼはミゲルがザフトエースとして活躍する勇者になりたいと思っていて憧れのヒーローを目指しているのだろうと看破していた。

クルーゼの観察眼は全企業の中間管理職が羨望する境地へ到達していた。

 

「隊長!いや、その、ファンというか憧れというか……誰かから聞きました?」

ミゲルはクルーゼが語る内容に興奮を隠さずに尋ねた。

胡散臭い仮面から遺伝子疾患で仮面をつけなければならないが奮闘する上官にまで好感度が跳ね上がっていた。実際、その通りである。

バルドフェルトはクルーゼを怪しい仮面と言い続けているがその当人と直接会話した場合、クルーゼに容易く乗せられてしまう。それくらい口が上手かった。

ザナドゥのゲームで知見を得たクルーゼはバルドフェルトが破廉恥なアイドルを好むと5分程度の会話で看破できた。

クルーゼは言いくるめ程度に使える知識程度と認識しているが、世間で袋叩きされるクソゲーによって大分人間味を得ていた。

 

「やはりな。安心しろ、誰にも聞いてはいないさ。君もハイネのようにオレンジのパーソナルカラーで活躍して欲しいと私は願っている」

クルーゼはミゲルに語り掛ける。実際、それくらい活躍してくれると嬉しい。

ミゲルは士官アカデミーを緑服で卒業していたとクルーゼは知っている。

だからこそ赤服に複雑な思いも抱えているがハイネはそのような劣等感を感じさせない程に人格者だった。

クルーゼは薄々気が付いているので願う程度に留め、頑張って欲しいと憧れのアイドルを乏しめないように言葉を選んでいた。

 

「クルーゼ隊長……!俺、隊長の期待に応えられるように頑張ります!」

ミゲルはクルーゼの言葉に感激し、活躍を宣言した。見事に乗せられていた。

クルーゼは少しやり過ぎたと反省し、力み過ぎると良くないと説得することにした。

 

遠巻きに見ているクルーゼ隊の面々はクルーゼが少しおかしかったが大分戻ったとホッとした。

彼らは新入りに発破掛け過ぎて救いを求めているクルーゼに近づかない。

クルーゼは役に立たない部下達を察していたが声かけるのもおかしいので後で締めると誓った。

 

「ああいうの凄いですよね、隊長って」

マシューはクルーゼの一連の激励がクリティカルだったのを見て言った。

 

「部下をよく見ている良い上司だと思わんか?」

オロールはマシューを窘めた。尊敬する上司への言葉遣いを嗜めているがオロールも助けにいかない。

クルーゼ隊長の口車に乗せられた新人を軌道修正するのはかなり面倒なので適当で良いと極めて雑に対応していた。

 

「仮面付けて怪しいと思われないくらい口が上手い。……例の件で少しばかり心配だったが大丈夫そうで安心した」

アデスはクルーゼを助けないが心配していた事が杞憂だったと安堵した。アデスも面倒なのでクルーゼを助けない。

 

「自称国連軍に関してはどうします?クルーゼ隊では隊長の言うように無視で良さそうですが」

マシューはアデスがクルーゼを助けないので自分も助けなくて良いと判断して別の話を持ち出した。

国連軍は相手にしなければ問題ない。クルーゼ隊の練度であれば蹂躙できるが気乗りはしない。

クルーゼ隊長がミゲルに声かけしたのもそのあたりのすり合わせや説得だろうと理解していた。

そこまで理解しているがマシューはハイネの話題が尽きつつあるクルーゼの助けを求める視線を無視していた。

 

「……そうだな。これ以上無用な戦いを広げる必要はないだろう」

アデスはマシューに同意した。国連軍は無視で良い。自分もクルーゼもそこは同意出来たことに安堵していた。

アデスはクルーゼがザラ派で好戦的な面があると認識していた。

プライベートを知らない軍人としてのクルーゼを見ていればそう映っていた。

アデスはザフトも地球連合軍も戦争を辞めて欲しいと言いたかったがなんとか押し殺した。

……サイクロプスは職業軍人としての認識の強いアデスに歯止めの利かない戦争が行きつく先を想像させていた。

クルーゼはアデスの些細な変化にまだ気が付いていなかった。

 

「貴様ら!先ほどから何なのだ、一体!」

現在のクルーゼは遠巻きに見ながら無視する部下共へキレた。

やり過ぎたと反省した三人は自分達の誰かが行くのだろうと5分程誰も動かなかった。

クルーゼは馬鹿共へ士官アカデミーからやり直せとブチ切れた。

戦場なら死んでいるのでアデス以下部下達は流石に反省した。

ミゲルはこれから戦うクルーゼ隊について心配になったが良い感じに冷静になれていた。

 

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