極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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第70話 少年!ザナドゥに常識ある人間はいないのか!?……そうか、そうなのか。

コズミック・イラ70年6月30日、東アジア共和国の貸倉庫に見せかけた違法研究所にザナドゥの一団が強襲をかけた。

きっかけはザナトゥ代表クシーの義姉であるリューリク家のシグネが超人机关から保護した双子マリーとソーマの身辺捜査をした事だった。

ザナドゥ本部直営特殊孤児院では改造人間や微細な異能を有する子ども達を保護していた。

シグネは子ども達に保護者の捜索をクシーに依頼されていた。

シグネも特に拒否する理由もないので貸しを消費して引き受けた。

だが、私情でマリーとソーマの双子の両親を最優先で探していた。

 

シグネの両親は凡庸な実兄を優遇し、リューリク家へ貢物のように自身を差し出していた。

そのリューリク家では優秀な義弟が自分と同じように追い出されていた。

これで歪まないのもおかしいのだが、その義弟はクシーと名乗りリューリク家時代の名前すら捨て大成した。

自分の境遇の延長でしか成りあがれない自分への当てつけであると逆恨みした。

シグネは敗北感と劣等感を義弟へ抱いていた。

それだけではないのを義弟は看破していた。

しかし当時の彼は家族から存在を否定されていた。自分を信じ切れなかった。

 

「貴方にとって私は憐れな子どもですか?見下す対象ですか?身内でしょうか?異性ですか?……はっきりしないなら私はこのまま去ります」

当時6歳のクシーはシグネに尋ねた。

シグネがはっきりしないのでクシーは言いたくなかったが聞かざるを得なかった。

見捨てられたのは兎も角最初から愛されてもいない突きつけられていたクシーは心に余裕がなかった。

 

しかし、このまま別れてはシグネの為にならないと元婚約者の次に聞いていた。

シグネは次に聞かれたのでクシーの元婚約者を更に嫌いになった。

元婚約者の方は回答したが聞いたクシーは激怒した。

以降、王留美とクシーは直接会ってはいない。

 

「…………憐れみか。……ふざけるな!さっさとどこへでも行け!!」

シグネはクシーへ大人げなく返した。だが、当時9歳のシグネと6歳のクシーの会話である。

 

当時のベラも優秀さでリューリク家に取り立てられていた。だが、まだ少女であるので二人へ口を挟むには厳しかった。

リューリク家とは無関係なまともな大人である黒人船主フェイト・マツシマはクシーが遅いので迎えに来ていた。

そして無関係な家のドロドロした修羅場を目撃していた。

良識あるまともな大人でも急に修羅場を見せつけられたら困惑した。

フェイトが諸々を理解する前にシグネはフェイトが漏らしたらリューリク家の全てを使って殺すと脅迫された。

後にクシーから謝罪されたフェイトはツッコみも出来ない空気に色々言いたかったがシグネの脅迫に屈した。

 

フェイトはある程度の年齢になる前にクシーへ拗らせた姉について話し合った方が良いと話す気でいた。

身寄りのないフェイトは別に殺されても困らないしと開き直っていた。

フェイトにはシグネの脅しが効いていなかった。

 

男なら女の癇癪は受け止める度量が大切なのさボーイズと思いつつもフェイトは思い出して体を震わせた。

シグネクラスの美人が激怒するのはフェイトでも本気で怖かった。

 

だがこのすぐ後、コズミック・イラ61年3月20日に東アジア共和国カオシュン宇宙港に向かう旅客船ノーチラス号がガス爆発で吹き飛んだ。

クシーや仲間達と乗客らを逃がす為にフェイトは死亡した。

フェイトは死までの僅かな時間で残す言葉を必死に考えていたが、シグネの件まで流石に気が回らなかった。

クシーへ遺した長生きして元気でなという想いも長生きしろという色濃く点が伝わっていた。

フェイトは自身が賢くないと自嘲していたが、最後に遺した長生きしろという言葉をクシーは今でも胸に刻んでいた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

シグネ・アペッナ・リューリクは今でこそリューリク家を乗っ取り、元々の実家を歯牙にもかけていないが心の闇は深い。

シグネの実家はスカンジナビア王国由来の家でスカンジナビア王家より長い歴史を持つ。

シグネが実家を利用する気ならば理論上はスカンジナビア王位を請求出来なくないがする気も興味もない。

 

スカンジナビア王国が義弟であるクシーと国王の娘を政略結婚させるような特大地雷を踏みぬかない限り起こらない。

 

スカンジナビア国王はギリギリセーフだった。シグネがそこまで拗らせていると知れば国王はドン引きする。

現在のスカンジナビア王家は近代からの王家なので中世前後の旧家にあるドロドロした倒錯した愛憎を経験していなかった。

不倫や略奪愛などと騒ぐゴシップ誌がスナック感覚ならステーキを毎日死ぬほど食わされるのがクシーやシグネ等の歴史ある家である。

クシーはそのような中で普通の中流階級の恋愛結婚が理想などと言う。……シグネがいるだけで無理難題だった。

 

そもそも大多数の人々からクシーは美少女に見える程若い金髪碧眼でクール系メイドのベラを侍らせていると思われている。

クールに見えるがザナドゥのゲームをやりながらポテトチップスを食べる程度には適当な女だった。

クシーにとってベラは鬱陶しいけど愛着がある犬みたいなポジション、互いに自分がサ〇シだと思っているピカチ〇ウのような関係である。

仕事を任せれば有能なのでクシーはベラを傍に置いていた。

戦闘能力はクシー視点では無い。クシー視点ではあるのは注意がいる。

とはいえ、クシー的には暴れるには巻き込むかもしれないと思う程度には隔絶していた。

全力で暴れたら巻き込んで怪我するかも程度で済む能力の人間すら多くはない。クシーは無意識にベラを別枠で評価していた。

 

クシーとしては危ないのでベラを戦闘では遠ざけている。

だがベラは死ぬ覚悟はしているので戦場でも敵だらけの状況でも出来る限りついてきていた。

邪魔にならないならとクシーも渋々認めていた。

ベラは戦闘メイドを名乗れるくらいには強くなったかと思うがクシーやカナード等を見ると無理だろうと考えてしまう。どう考えても比較対象が悪い。

 

ベラは生身でMSを破壊するバリー・ホーのようなナチュラルを知っていた。

バリーのサインを貰って自室に飾ってあるが真似できるわけがないとベラは能力の限界を把握していた。

クシーは自分の能力と状況を把握できずに死んでいく人間を多く見て来ていた。

クシーはベラを引き合いに出さないがベラならどうするかという基準になっていた。

 

そんなクシーでも四六時中一緒は疲れるので適宜離れて仕事をしていた。

クシーはここ二年くらい24時間年中無休に等しいがOFFの時はベラの世話から離れてのんびりしようとしていた。大体失敗していたが。

嫌いではないしいなければいないで不安になるが適当に雑に扱っていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

話は冒頭の双子に戻る。マリーとソーマは双子という知識はあるもの二人が一人で同一存在として自我を有していた。

シグネは姉も兄も妹も弟も関係ない双子と交流しているとコンプレックスが刺激されないので大分和んでいた。

 

クシーは東アジア共同体の中国・湖南省にあった違法研究所である超人机关で双子に襲われた際、改造手術を受けた双子に関して質量的に重いと溢した。

それと同じくくらい気分が重いという意味も含まれていた。

改造人間を生み出す世界に対してであるが、双子がシグネに効くのではという意味合いの考えを抱いてしまった落ち込みもあった。

実際、シグネに特攻である性質を持っていたのでクシーの目論見も当たってはいた。

だが、だからこそ双子へ重い感情の片鱗を見せていた。……親馬鹿混じりの過保護さのような形である。

クシーにその1割でも見せれば良いのだがプライドの高さ故にシグネは若干優しくなっていた。

 

優しくなった具体的な例では最近シグネがクシーへ暗殺者を送っていない。クシーは悲しかった。

殺意も愛の形であると感じているクシーからすれば分かりやすい。

シグネの殺意は今の状態より対応しやすかった。DV彼氏が急に優しくしてくれて戸惑う彼女に見えるとベラは評価した。この場合、クシーが彼女でシグネが彼氏である。

優しくするなら理由も言えと指摘したら子どものように拗ねられた。ベラはそういえばシグネも子どもだな思い直した。

ベラは面倒臭いと溢しつつシグネの家にある調度品をかっぱらって帰った。授業料と評して流れるように盗むな。

 

NJにより大変な筈である顔芸のジブリールは今でもクシーへの暗殺者に大金積んでいた。

金と人材を運んでくれてありがとうと思っているクシーはジブリールの殺意を評価していた。

ジブリールはクシーに貢いでいる事実に気が付かない。

アズラエルはこの貢ぎ構造に気が付き流石に同情していた。

あらゆる方面で分析し、バスク少佐の証言もあり嘘みたいな事実を知った。

アズラエルはクシーがどんな創作物よりイカレていると理解できたが本気で意味が分からなかった。

アズラエルはジブリールに若干同情しつつ、ジブリールが気づけば逆恨みでアズラエルへ殺意を向けるかもと考え無視していた。

 

実際、ジブリールはこのままではクシーへ復讐は不可能と理解すれば八つ当たりでアズラエルに牙を向けてブルーコスモス過激派を使ってやろうと目論んだ。

こうなるとクシーはジブリールに対処すれば良いだけになり過激派もついていけないので見限った。

クシーはブルーコスモス過激派が世界中に潜伏してしまうと困るのでジブリールの殺意へ感謝を伝えていない。

戦争を終結させてアズラエルを穏当に排除しつつジブリールは過激派のおまけで排除すれば数年は平和になると見込んでいた。

だからこそアズラエルがNJ無効化装置を確保して再度プラントへ核をぶち込む前に戦争を終わらせたかった。

半端に終わったとはいえバスクの派遣はアズラエルの監視も兼ねていた。

 

クシーはザフトの中間管理職でしかないクルーゼが世界の命運を握るスイッチを複数持つことになるとは考えていない、完全に計算外だった。

クシーはそのような分岐点となりうる要素を絶望仮面ことクルーゼが保有すれば危ういかも知れないと思っていた。

だが、クルーゼはがん治療薬の研究データを友人に渡すような人間だった。

クシーはここで正しく絶望仮面ことクルーゼを理解できた。

今のクルーゼならば絶望仮面などというザフトでバレかねない名前を付けたりはしない。

この時のクルーゼはコイントスで世界を決めるまではギリギリいかなかった。

クシーはクルーゼが世界を試したように世界の絶望をあざ笑う本質を試していた。

クシーはクルーゼが絶望し切らないで行動する様子を察していた。

クシーは絶望仮面というアカウント名のイカれた男から人間は変わり得ると判断し、再び立ち上がる活力へ変えていた。

 

そこからクルーゼが再度変質した。クシーはクルーゼの寿命問題を知らないが絶望的な事情はあると判断していた。

何よりサイクロプスは機密で生き残りも沈黙を貫いていた。クシーはクルーゼが本当に絶望した宇宙の体験を予測出来なかった。

激戦地である月面基地での戦闘もザフトは情報統制を敷いていた。サイクロプスで消し飛んだと報じればザフトに兵士がいなくなる恐れすらあった。

クルーゼはサイクロプスで命拾いした部下達を思いやり後方に下げたが具体的な活躍も揉み消していた。

何よりクシーはプラントの情報を入手する手段が限られていた。NJだけでなく距離的な問題である。

クシーが違和感を抱いた頃にはクルーゼの諸事情は消されていた。

 

卒業後にクルーゼ隊を希望した緑服の士官アカデミー生がいたがプラント理事会の決定によりアスラン達に横入りされて別部隊に配属された。

ザナドゥゲーマーの彼女は部外者で唯一絶望仮面=クルーゼと看破していた。

彼女はサイクロプスを知らないが最近報道で取り上げられているクルーゼに違和感を抱いていた。

そこからクシーに発覚するもしもが存在したかもしれないが今はもうない。

クルーゼは血のバレンタイン後の2月16日に帰宅した際、クライン派からもザラ派からも活躍するエースを利用してやるというのが透けて見える手紙でウンザリしていた。

そんな中で自身の活躍を祈るファンレターをクルーゼは何となく保管していた。

今ではその存在もすっかり忘れてしまっていた。なにせナチュラルを殺してくれという純粋な想いがクルーゼにプラント中から届いていた。

クルーゼはそこまで殺したいなら世界ごと滅べば良いと決意していた。

 

死後、クルーゼの身辺捜査が開始された。

英雄クルーゼへの膨大な手紙は無造作に山積みされ、一つだけ綺麗にラッピングされた手紙あった。

開封後、読み返された形跡が無いと察した彼女は泣いた。

……クルーゼは最初の純粋なファンレターをパトリックから与えられた部屋に備え付けられた机の引き出しにしまっていた。

クルーゼは何度も捨てようとしたのだが何故か残ってしまうと思いながら全て滅ぶなら何処でも良いと机のなるべく奥に放置した。

 

終焉へ導く為のプロヴィデンスガンダムに乗り込んだクルーゼはようやく全てを捨てた。

 

彼は来れないがムウと彼女は来てくれるかなと期待した。

クルーゼは第三者からすれば不合理な選択をしたクシーの未来を想像しようとした。

クルーゼに想像する権利は無いだろうと過去も未来も振り切って最後へ臨んだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

冒頭のコズミック・イラ70年6月30日、東アジア共和国の違法研究所にザナドゥの一団が強襲をかけた事件に戻る。

 

そもそもミケランジェロ、マティアスはカテゴリーFと呼ぶ未知の異能は何処から湧いたのが気になっていた。

クシーは改造手術で苦しむ人々らを救う為に研究者達から双子の特異性に関する記憶を消した。

研究者達は双子の特異性に価値を見出していた。マリーかソーマはどれ程距離があろうとも片方が見た物が一瞬で共有されていた。

特異性の研究は自分達以外ないので最高の待遇で持て成せと喚いた。

クシーからすれば再現性の無い特異性よりも人命最優先であった。

大勢いるお前らの被害者を救うための情報が欲しいのに口を開けば双子双子と煩いのでキレた。

そんなに大事なら双子に関する記憶を消し、情報を聞き出した。この際、双子の研究は完全に消えた。

見合わないが人命を優先させたクシーの行為をミケランジェロは仕方がないと受け入れた。

 

シグネも双子の特異性を理解していたが、関わるうちに違和感を抱いていた。

超人機関、双子の居た違法研究所がやったにしては双子の特異性はあまりにも性質が違う。

シグネはクシーと比較しなければ極めて優秀な才女だった。双子の身辺を探って双子の両親を特定したが死んでいた。

犯人を捕まえられなかったシグネは探偵を使っていた。ザナドゥ本部にいる元探偵メアリである。

シグネは名家ではないが品のあるメアリには普通に接していた。カナードのようにガサツではないと姑目線で評価していた。

メアリは面倒臭いので当たり障りのない対応をしているだけであり、シグネへの評価は低い。

シグネの能力ではなくクシーへの対応がメアリからの評価を下げていた。

それでも表面上仲良くやれていたし、メアリからクシーに関しては触れない。

メアリは大人な対応をしていた。メアリは現在18歳のシグネより年下である。

 

メアリは別のグラハム・エーカーからの依頼、ビリー・カタギリの捜索とシグネの依頼である双子の研究が重なる部分があるのを発見した。

大西洋連邦の捜索は進んでいなかった。何せ25年上前に失踪した人物の捜索である。

メアリは一族のマティスの暗殺に失敗して大西洋連邦からザナドゥ本部まで退却していた。

 

東アジア共和国と大西洋連邦、日本とアメリカは再構築戦争の途中まで同盟を結んでいた。

その関係でビリー・カタギリの残した『何か』が東アジア共和国へ流出していた。

メアリはジャミトフの士官教育を終えたグラハムを呼び出し、クシーへトールギスの持ち出しの許可を求めた。

クシーはメアリの申し出に何も聞かずに了承してグラハムにトールギスを引き渡した。

結果、最短で目的の違法研究所は壊滅させたのだが一足遅かった。

クシーは東アジア共和国の李国主に謝罪した。試作のデュートリオンビーム送電システムでトールギスを受電させながら運用したら速すぎた。

李国主へ事前報告する前に終わってしまっていた。

 

李国主は改造人間に関する取り締まりを認めていたとはいえ挨拶無しに自国の領土に踏み込んだ野蛮な西洋人にキレた。

李国主は通達が遅れる程簡単に攻め滅ぼすようなヤバいのがいるらしいとザナドゥへの警戒を上げた。

一応、ザナドゥと仲良くすれば滅ぼされないが偉大なる東アジア共和国が舐められてはいけない。

東アジア共和国の全体の技術力が低すぎたので日本にクレームを入れる事にした。

 

技術で何とか外貨を稼いでいる東アジア共和国構成国の日本は度重なる李国主の搾取にキレそうだった。

もういっそザナドゥと組んで独立出来ないかなと東アジア共和国日本首相は考え始めた。

オーブ首長国連邦とも話したいが一番話を聞いてくれるサハク家は旧暦から存続する然る方の保護を約束しないというので論外だった。

日本首相はザナドゥと発電所沢山作ったし良いよねと無茶苦茶な事を言い始めた。

ザナドゥとしたら東アジア共和国と敵対したら採算が合わないし、論外なのだが保留にしていた。

長い歴史を持つリューリク家の両親も唯一頭が上がらないくらい長い歴史の皇家の保護となるとクシーはどうするか悩んだ。

皇家の保護だけなら問題ないのに日本独立とはどういう事だと困惑した。諸々を分析したクシーはトールギスが原因と行きついて頭を抱えた。

 

クシーは誰も警戒していないから充電しながら戦うトールギス作戦が上手く行ったと認識していた。

ザフトや地球連合なら充電しながらは流石に上手く行かないだろうと踏んでいた。

クシーは咄嗟ではあるがトールギスとデュートリオンビームの運用実績を元にザナドゥの初の宇宙軍艦を調整していた。

可能ならグラハムとトールギスを国連宇宙軍に向かわせるつもりだがトールギスはあまりにリスクが高すぎた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

トールギスの強襲で無力化された名もなき違法研究所は大部分の機密は破棄されていたが、全部は無理だった。

ユーラシア連邦から東アジア共和国の研究所まで1000キロ以上ある距離を30分未満で強襲するMSトールギスに対応できるはずもなかった。

パイロットは再構築戦争の英雄ミスター・ブシドー、またの名をグラハム・エーカーは後にアスラン・ザラと比較されるMSパイロットであった。敵う筈もない。

 

『被験体の全身××細胞が生み出す強力な電気刺激に通常の脳は耐えられ××、定期的に初期化をして自己防衛をせざるをえない。一種の×××剤である該当薬11B970XIは初期化症状を××し、記憶と自我を定着させる効果を持つ。反×、副作用として脳の×××を破壊する効果があり、弱い脳に使用した場合……』

押収した資料には何とか隠滅しようとした痕跡が残っていた。

……明らかに改造人間とは別種の何かを作ろうとしていた。

 

「コーディネイターの強化人間……碌な事をしないわね」

メアリは一族の研究所を碌でもないと評価した。

クシーが昔のゲームと言って見せた数メートルは腕を伸ばしていたヨガマスターを思い出した。

被験体の資料には人体を再構築してゴムのように伸ばして鉄塊を粉々にしていた。

バリー・ホーでないと肉弾戦で勝つのは無理だろうとメアリは推理した。……稀にいるナチュラルもヤバいと再評価した。

 

「……近いな。アレらに」

グラハムは改造人間の研究所にかつて滅ぼした敵を見た。

 

「ゲンドウの犠牲で奴らは散った。何故、この者達は……魔道に堕ちたか、カタギリ」

グラハムは自らの親友が何かに魅入られたと理解してしまった。

違法研究所には自分やカタギリ等限られた人間しか知らない薬品や機材が転がっていた。

それがグラハムでもわかった。ジャミトフならもっとだろうと理解が出来てしまった。

 

グラハムはジャミトフによる現代に合わせた士官教育により、具体的なコズミック・イラ世界の技術を学んでいた。

だからこそ、見ただけで目に見える機械等が異質な技術であると考えなくとも理解出来た。

蘇生したてのグラハムの脳内に響いた見下す女の声。最初に目覚めたあの施設も今のグラハムならば異質さに気が付いて足を止めたかもしれない。

グラハムは無知故に自分の置かれた状況を囚われた改造人間と解釈し、何も考えずに脱出できていた。

 

同時に根拠がないがカタギリは既にこの世にはないとグラハムは直観した。

 

グラハムの知るビリー・カタギリは善性の人間だった。ここまで堕ちてしまったらもはや生きる気力はない。

グラハムは根拠がないが誰かがカタギリを魔道に引きずり込んだと推測した。

 

「碇ゲンドウ。特務機関NERV総司令、再構築戦争後期に行方不明になっていた男かしら?」

今度はゼーレかとメアリは頭を抱えた。ミケランジェロもゼーレ関連はあまり知らないと言っていた。

 

「……碇シンジの孫娘がザナドゥにもいたはず。日本はクシーに聞いてみないと分からないけど友達の息子の孫というのは中々話せないわ」

メアリは落ち込むグラハムに言葉を選んで声を掛けた。明るい話題はこれくらいしかない。

 

「そうか、わかった。……すまない。私達の時代に残した負の遺産が君らに迷惑をかけている」

グラハムはメアリの気遣いに感謝した。

グラハムは一族等を知らない。だが、目の前の人倫を無視した研究の数々を後世に残さない為にジャミトフやゲンドウやカタギリとイゼルカント達とは別で行動していた。

 

グラハムはゼーレに唆されて人類補完計画等という蛮行に狂ったデラーズフリートのアクシズインパクトを阻止した。

良く分からない超常的な現象をゲンドウがしたのは覚えている。ミケランジェロが言っていたELSとやらかもしれないが分からない。

ただ宇宙からの光る何かを目撃したゲンドウがGN粒子は既に存在しないはずと驚いていた。

ミケランジェロへ聞けば答えてくれるだろうかとグラハムは色々考えたが分からないので平和になってから聞くことにした。

ミスター・ブシドーがこのような腹芸が出来るわけがないとイゼルカント達は考えていたので誤魔化し切れていた。

実際、分からない事を聞くタイミングを伺っている内に戦死したので誤魔化し切れていた部分は大きい。グラハムが長生きしたらイゼルカント達にもバレていた。

 

「気にしないで。貴方は一度死んで責任は果たしていたわ。……あの人も貴方が第二の人生を謳歌してくれる事を願っているわ」

メアリはグラハムの内心は推理出来ないので既に死んだ身で責任を感じる事はないと諭した。

あの人という表現でいじらしさをグラハムは感じた。乙女座の男の感性は目ざとい。

 

「ハハハ、まるで私は邪魔もののようじゃないか!……だが、当て擦りは良くない。ああいう男には直接言うと良い。乙女座の私が言うのだから保障しよう!」

グラハムは一旦忘れてメアリにアドバイスをした。

女性に言うのはどうかと思うがクシーを口説くなら当て擦りとか奥ゆかしさとか通じないと見抜いていた。

グラハムは今朝のテレビ占いであったように乙女座の細やかな気配りができる男だと自任していた。

 

「……乙女座にそんな補正は無いわ」

メアリはグラハムに色々言いたいが乙女座にそんな力はないのだけは伝えた。

 

メアリは当初、グラハムが再構築戦争経験者であるせいで多少常識等が歪んでいると思っていた。

こうして話している内にグラハムはどこまで真っすぐなので歪んでいると周囲も認識し辛いのだと気が付いた。

……クシーと方向性は違うが似ていると思うと理解するのも早いのも納得できた。

 

グラハムが今後どうするかメアリは読み辛いと考え、クシーを思い出した。

メアリは考えを辞めてお茶にする事にした。

 

違法研究所のど真ん中で茶道具を用意し始めたメアリにグラハムは困惑した。

未熟な胎児の遺体を見ながら紅茶を飲むのかと世紀末の価値観から見ても若干引いた。

ちなみにクシーはグラハムと違い、メアリに付き合って飲み始める。

飲み終わってから空気を読めと注意するがクシーも一緒に紅茶を飲んでいるので効果はない。

 

メアリはグラハムの反応から対応を誤ったと察したが無視した。

メアリは飲み終わるまで追加のザナドゥ職員らに仕事を任せた。職員らはいつもの事なので気にしない。

メアリは殺人現場でも銃を突きつけられても紅茶を飲んでいたのを知る職員らはメアリもグラハムも無視して仕事を開始した。

 

「ジェネレーションギャップという奴か……私にも紅茶をくれないか?」

グラハムは自分がおかしいと理解した。誤った解釈で常識を身につけようと試みた。

 

メアリはグラハムの紅茶を淹れた後で、飲む方がおかしいから真似しないようにとグラハムへ伝えた。

グラハムはメアリが若干苦手になった。

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