極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年7月1日、ザナドゥ代表クシーが国連宇宙軍とL4宙域コロニー群の避難民に向けて声明を発表した。
その際、明かされたMSリアリッドの存在は後の世で大きな意味を持つことになる。
L4宙域にある資源衛星『新星』を巡るザフトと地球連合軍の攻防はL4全体のコロニー群へ波及して被害を出していた。
新星での戦闘開始と同時期に国連宇宙軍を名乗る自警団組織が戦闘の余波に巻き込まれた住民の保護や戦争犯罪で攻め込まれた小規模コロニー群を保護していた。
L4宙域に住む2300万人は百万単位で被害を出しながらも国連宇宙軍に守られていた。
国連宇宙軍には他の宙域へ移った者や元々志願していた者達が集まっていた。
ザフトや地球連合軍は国連宇宙軍を非難しながらも脅威にならない範囲の自衛手段しか持っていないとして無視する事にした。
国連宇宙軍を非難すれば、L4宙域に住む市民の救助や戦争犯罪を掘り返された。
ザフトや地球連合軍はそのような事から目を背け、現在の戦争を優先する事にした。
国連宇宙軍は両陣営からすると吹けば消し飛ぶ弱小勢力だったが、住民救助という大義名分で存続が許されていた。
ザナドゥ代表クシーは出来れば人死にが少ない方法を探していた。
だが、クシーが悔やむ犠牲、血を流して得た実感は国連宇宙軍やL4宙域の人々に大きな影響を与えていた。
もしもザナドゥの超兵器による圧力等で守られたなら、助けられたという実感もないまま安易な陰謀論に扇動されてザナドゥを責め立てるような者もL4宙域には多く残っていた。
クシーは本気で余裕が無いので諸々の予定を繰り上げて妥協していた。
グラハムの派遣やトールギスも不完全、宇宙戦艦も未完成でクシー自身も宇宙へ行けない。
国連宇宙軍の中核となる人材も不足しており、MSやMAの質も悪ければパイロットの数も不十分だった。
しかし、このようなクシーの余裕の無い対応は一緒に新しい組織を築き上げるという連帯感、何よりクシー自身の誠意が伝わっていた。
想定外も含めて何度も修正を繰り返した事で物理的な距離で伝わらない感情を国連宇宙軍の面々は受け止めていた。
起こっていない災害等で避難しろと言われても実感は薄いが、生き死に関わっている状況での言葉は誰でも聞いた。
国連宇宙軍にいるのは人を救いたいという想いが多かれ少なかれあった。
皮肉にも殺し合いの只中にいる国連宇宙軍の大半にクシーの本心が伝わっていた。
同時期のアズ中尉による裁判、雑誌『木星ムー』による誹謗中傷に関する話題と合わさってL4宙域の人々にも効果があった。
L4宙域の人々は、自分達を救おうとしている国連軍やクシーが、地球連合とプラントの両方から徹底的に叩かれていると気が付いた。
両者にとって都合が悪いから自分達の恩人が糾弾されているのを知ってしまった。
L4宙域コロニー群の市民達はそのような現状を知っても尚クシーを糾弾する恥知らずでも恩知らずでもなかった。
……地球では救った人々すら陰謀論に染まり叩かれまくっているクシーはL4宙域の民衆の視点をやや見落としていた。
クシーはコズミック・イラ世界の民衆の善意を信じ切れなくなっていた。
クシーは民衆を信じたかったが恩を仇で返すような惨い仕打ちを受け過ぎた。
勿論、個人単位で見れば良い人がいるとは分かっていたし、絶望仮面のように人は無意識に変わると理解していた。
たとえ自分が大多数の人間から貶されようが守るだけの価値があるとクシーは少しでもより良い世界を示す為に戦っていた。
クシーにとって人生は世界との戦いだった。何度も想いを踏みにじられ屈辱に塗れていても自分の行為で誰かが救われるだろうと信じていた。
どこまでも傲慢で純粋な想いであった。クシーが誰にも口にしていない想いである。
クシーとは無茶苦茶である。リューリク家の××××も無茶苦茶だった。
彼はどんな逆境であろうともその想いだけは変わらない夢追い人だった。
三つ子の魂百までという言葉の体現者は自身の想いを踏みにじる世界に生まれていた。
そんなクシーの心をイングリッドは不用意に読みとってしまっていた。
言葉を交わすことなく心だけ読む行為の危うさを普段のイングリッドは良く理解していた。
それでも読んでしまったイングリッドは彼が踏みにじられるこの世界の方がおかしいと思ってしまっていた。
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クシーの度重なる避難勧告を拒絶し、時には罵倒したL4宙域の人々は被害にあって手のひらを返したように見えた。
実際、そうでもあった。救おうとした人々が一時的に都合良い事を言っているように見えた。
早期に国連宇宙軍へ加入し、クシーと共に対策を取っていたL4宙域の原住民や関係者すら恥ずべき同胞と認識していた。
ザナドゥが国連軍に直接関与した場合、クシーからすると不味かった。
地球連合の組織であるはずのザナドゥは力を持ちすぎていた。
管理し切れない組織であるザナドゥは地球連合にとって目障りだった。
地球連合は何よりもまずプラントを叩きたいので後回しにしていた。
地球連合はザナドゥがこれ以上増長しないように警戒していた。
クシーは地球連合を救うべき民を救わぬ組織であると見なしていたが何とか協力して一人でも多くの命を救うために妥協をしていた。
結果、地球連合側もザナドゥが役に立つ組織であるとは認めていた。
こうした努力を維持する為にクシーはほぼ無意味に等しいが地球連合の面子に配慮していた。
表向きに国連軍の支援はクシー個人が関与している事になっていた。
大差無いのだが責任をザナドゥへ押し付けない小細工であり、地球連合としても国連軍がザナドゥと無関係であれば利用できると地球連合内で説得できていた。
国連軍が自警団であるとする事で現実の問題を矮小化できた。完全に地球連合の面子でしかない。
地球連合の面子さえ立てていればクシーが地球内の国連軍に兵器を卸す事がギリギリ許されていた。
しかし、これらは妥協したに過ぎず、ザナドゥやクシーへ反感を持つ勢力や個人は存在した。
その結果、現在の地球やプラントの被害まで含めてクシーが全部悪いという頭のおかしい陰謀論が出回った。
地球連合からすればクシーやザナドゥの影響力が低下すれば助かるので放置していた。
地球連合としては確かにある程度面子は守られていた。
地球の被害と地球連合とザナドゥが協力して人々を助けていますと言いつつ戦争をしていた。
戦争分、実態とのズレが生じていた。このズレは誰かの責任として押し付けたかった。
地球連合としてはザナドゥへ押し付けるつもりだったが、いつの間にかクシーになっていたが大して変わらないとそのままにしていた。
地球連合だけでなく、世界がクシー一人の責任に仕立て上げていた。
当然だが、そんな事があるわけがない。信じていない者も関係ないので関わりたくないので放置していた。
誰かが何とかすると思っていたがザナドゥ関係者以外誰も動かなかった。
反論するザナドゥもクシーの仲間なので大して効果がなかった。
ザナドゥが巻き込まれると判断したクシーは一人で全てを引き受けていた。
責任を取らないで身軽になった地球連合はサイクロプス等で更にザナドゥの影響力を排除しようとした。
クシーが理想として継戦能力のある軍隊でプラントと妥協を模索する方針は地球連合の手で消し飛ばされた。
地球連合はG兵器、MSの開発が想像より進んでいないと消し飛ばした後で悟った。
サイクロプスで消し飛ばした分以上のMAメビウス等の増産をザナドゥへ命令していた。
話を聞いたクシーはふざけるなと拳を叩きつけた。鋼鉄製のテーブルは歪んで拉げた。
生存性を特化させたMAメビウスやセイバーフィッシュを他で作られると脱出装置はいらないと真っ先に削られる。
クシーは地球連合の方針で無駄に兵士達が死ぬ事を阻止すべく増産体制を整えた。
この増産は近い将来MSが台頭したり、アズラエル等がMAを開発すれば無意味なものだった。
一時的に金が手に入るが先の無い増産体制は赤字でしかない。それでもクシーは無意味に死ぬ兵士を一人でも減らす事を考えて無駄金を注いだ。
……皮肉にもハルバートン提督と全く同じ事をクシーは考え実行していた。
ハルバートン提督がMSの開発を急がせたのは兵士達の死傷者を減らす為であった。
ハルバートン提督は一刻も早くMSを投入したいと考えていたが、今いる兵士を殺すなどというのは論外だった。
クシーもハルバートン提督もサイクロプスという最悪の形で想いを踏みにじられていた。
増産したが地球連合へ回さなければならないクシーは当初予定していた国連宇宙軍に回す余力を失った。
それでもメビウスを送るカバーストーリーを考えていたが国連宇宙軍に届ける時間が遅いと見限った。
クシーは別の手段を急いで考えた。何故かL4宙域避難民に兵器製造に長けた人材が増えていた。
守るべき人々へ自衛の手段すら与えられないのかとMAトリアエーズ等を現地で作らせることにしていた。
この結果、兵器製造に長けた人材が現地で製造可能となっていた。クシーは避難民を信じて任せる事にした。
……兵器開発を他者に任せるリスクは承知していた。一刻も早くひとりでも救う為に妥協した。
技術が流出しまくるコズミック・イラ世界の住民であるクシーとしては本当に避けたかった。
戦力として論外のトリアエーズだけでも不安であったクシーは彼らが自衛で製造可能だと理解して想いを託す事にした。
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クシーはザナドゥへ被害や濫りに世の中を混乱させる言説と徹底的に戦う姿勢を見せたが、自分個人の誹謗中傷は受け止めていた。
そうしないと行き場の無い怒りが世界に牙を剥くとクシーは理解していた。
段々と行き過ぎた悪意を全部受け止めるようになっていた。
当初はクシーに無関係過ぎる話は否定していた。だが、幾ら言っても無駄であると怒るのも疲れていた。
クシーは世界中からサンドバッグにされていた。
クシーを非難した者達はその行為で満足して罵倒した事も覚えてすらない連中であった。
釣られた無関係な第三者達はクシーを延々と責め立てていた。クシーは疲れ果てていた。
アズ中尉はキレて裁判で陰謀論を流布する雑誌らを提訴した。
アズ中尉の行為はあまりに常識的過ぎてザナドゥ内ですら抜け落ちていた。
だからこそ徹底的にやるとアズ中尉の周囲は意気込んでいた。
アズ中尉はユニウスセブンで子どもらを救ったにも関わらずプラントを追放されていた。
疑われるのは仕方がないと受け入れていた。この意味をアズ中尉は理解し切れていなかった。
……やる気に満ちたアズ中尉に任せたクシーはちゃんと理解しているのかと聞くのを素で忘れていた。クシーは大分疲れていた。
国連宇宙軍の活躍が目立ち始めて約半月、国連宇宙軍に加入する者達が増えていた。
L4宙域が戦火に晒されている現状を見て見ぬふりを出来ない者達が集まって来ていた。
クシーを言葉のナイフでズタズタにした輩も纏めて助けなければならないのかと思う者も国連軍の中にはいた。
故郷を滅ぼされた復讐心で入ろうとする者がいた。ただ単に日銭を稼ぎたい者がいた。
……様々な者達が国連宇宙軍に加入していた。
クシーは改めて彼らに何かを伝えなければならないと決意した。
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コズミック・イラ70年7月1日、ザナドゥ代表クシーはどうにか通信を確保してL4宙域のコロニー群へ届くように手配した。
届かなくても聞いて貰えれば良いと気を楽にして今からやる行動を落ち度がないか考えたが多少あっても問題ないと判断し、一方的に話をすることにした。
クシーは国連宇宙軍のスタンスを明確にする必要はあった。
ただし、正式な発言にすると言葉尻を狩る奴ら、プラントや地球連合がいた。
なので声明といいつつも他の事を主題に語ろうとしていた。
クシーは可変機の開発過程で生まれた機体に意味をつける事にした。
クシーはどう受け止めるかは任せつつ、国連宇宙軍やL4宙域の避難民達へ機体を言葉と共に送り出す事にした。
「申し訳ないが劇的に状況を変えるような支援はまだ出来ない。地球側も被災しているに等しい。だが、L4宙域コロニー群及び国連軍を見捨てない事を私の名で約束する」
クシーは挨拶も早々に現実的に難しいと明言した。
実際、地球連合もプラントも攻め込んで来る現状、ザナドゥも無理だろうなと思っていた。
クシーの名で見捨てないと言われたL4宙域の市民たちは安堵した。
誰も彼も見捨てられている彼らにとってクシーの名は最後の希望のようになっていた。
「現在、国連宇宙軍に加入する者に対してまともな兵器が足りないのは理解している。ジンを鹵獲運用していると聞くが足りないだろう。……用意した」
クシーは最も必要な自衛のための力を用意したと若干疲弊した声で告げた。
L4宙域市民たちは一瞬沈黙し互いの目を見合わせ言葉が嘘ではないと歓喜した。
冷静な市民はトリアエーズを微妙に改良したものではないかと訝しんだ。文句を言いたくないが正直あれでは戦えないと実感していた。
だが、
「MSリアリッド。君たちの環境で作成可能な機体を設計した。機体各部は分解や組み立てが容易なブロック構造を採用している」
クシーは申し訳ないがこれで勘弁してくれという表情で言った。
現状MSを開発できている所はプラントだけである。少なくとも市民レベルではそういう認識であった。
クシーはそれを被災した国連宇宙軍で作れるように手配したという。
L4宙域市民たちはちょっと何言っているんだこいつと思考が停止した。
「コクピットブロックを回転軸とし、四肢などの各パーツを交換することで多種多様な任務に対応できる。変形機構が存在しており戦闘機だけでなく戦車形態も存在する」
クシーは淡々とリアリッドの基本構造及び変形機構について軽く解説した。
クシーの言う通りならば町工場でMS作れないかと思ったが変形機構は難しいと技術者は見抜いた。
だが、戦火に巻き込まれた廃コロニーを拾ってくれば十分な材料が確保できるだろうと見積もった。
確かに作れなくはない。……図面を理解した技術者達はこれ絶対流出させちゃいけない奴だと理解した。
大半のL4宙域市民達はようやくMSに関して飲み込めてきた。これ貰って良い奴なのか。
「……残念ながら変形機構が未完成の為、整備工場での換装が必要となる。宇宙で戦闘機形態を使うかは怪しいだろうが、これはナチュラル用MAも兼ねている」
クシーはL4宙域の事情に配慮したコンセプトを提示した。
ナチュラルも使えるMS&MAという思想である。こうすればプラントや地球連合軍とは違う姿勢を示せるだろうと考えていた。
L4宙域市民達は考えるのを辞めそうになるのを止めた。突然高価な物を寄こされて盗まれないかと不安になる感覚に近い。
しかもその辺にザフトや地球連合軍がいるのだから怖かった。
良く考えると地球連合やプラントの妨害を退けて自分達を救いの手を出す時点で大分とんでもない事をしていた。
市民達は地球でとんでもない兵器作っているけど送れないくらいヤバいのだと本能的に理解した。事実、その通りである。
整備士達は変形機構が手作業である事にホッとしつつ、統一された部品を使いまわせる機体は整備士の夢の機体ではないかと集まり始めていた。
「戦闘機形態でも使用可能なリニアライフルと機銃は地球連合のMAメビウスに準ずる程度だ。戦車形態であれば火力不足も補える。量産性と汎用性とコストを全て考えた」
クシーは徹底的な合理化を追求していた。それ故に火力が足りないのがダメだと自分の至らなさを嘆いていた。
整備士や技術者らは確信した。この人、戦争関係なく死んではいけない人間だ。
リアリッドは足りないところは延長すれば良い。これ一人で考えたなら神であるとさえ思った。
当たり前のようにクシーは一人で考えた。情報漏洩を防ぐ為に徹底していた。
一応、ザナドゥ兵器開発部のルリに見せて感想を聞いていた。
ルリは漏れるだけの問題ではないとツッコんだが時間が無いらしいので図面通り使えるか否か等は確認した。
ルリ視点のリアリッドはコンセプト自体は凄いが現状でも戦力にならない機体であった。
……正規軍の兵器としては確かに足りない。ルリは少しばかり経験が浅かった。
「MS形態のナチュラル用OSは残念ながら手配出来ない。だが、ナチュラルでも才能や訓練次第で出来るという研究結果が出ている」
クシーはこの機体は全部が惜しいと思いつつ述べた。
ザナドゥOSは色々問題があるのでまだ渡せないが国連宇宙軍が維持できる最大限を用意したと自認していた。もっと加減しろ。
国連宇宙軍人らはナチュラルである自分達も出来るのではとMA形態のリアリッドのついでに訓練できればと考えた。
プログラマーや技術者たちはそこだよなと理解した。コーディネイター用のOSをナチュラル用に落とし込む難易度が桁違いだった。
技術者らはクシーがナチュラル用OSの開発が出来ないのでは無理ではと思った。作っている途中だとしても流石に専門外なのだろうと落ち着いた。
『手配できない』という表現から実際はもうあるけど渡したら地球連合が回収して詰むとかそういう話ではと国連宇宙軍ウツギ少尉は気が付いた。
「この事実をプラントは認めていないが現に国連宇宙軍のアリサ・ロッサは使えた。彼女の場合、特殊な体質であったのもあり、私が下がらせてしまった」
クシーはアリサの事を思い出しつつ説明することにした。あまり目立たせたくないが広告塔なので既に目立っていた。
アリサ・ロッサは急に名指しで呼ばれて驚いた。
有難いけど前もって言え。ミニライブを一時中止して話を皆聞いているので控えた。
「私の判断ミスで諸君らを無用に混乱させた事をこの場を借りて謝罪する」
クシーは謝罪しつつもアリサに一回面談しないといけないなとちょっと面倒だった。
アリサは自分の事で謝罪し出したクシーを見てあたふたしていた。
……それを見た一部のファンは卒倒した。
地球連合軍にいればマッド少佐の脳破壊マニュアルが配布されていた。
「……さて、リアリッドについて話を戻すが、これ一台でMSとしても戦闘機としても戦車としても使いまわせる。ナチュラルでもコーディネイターでも形は変われど同じ機体で協力して戦えるだろう」
クシーは誰かから理不尽に恨まれた気がして背筋が冷えたが無視して話を戻した。
大事なコンセプトなのでクシーは話をアリサで区切っていた。
区切る対象のせいで変なファンチがついたかもしれないがクシーは知らない。
実際、大多数の国連軍やL4宙域市民はクシーが言いたい事をおおよそ理解していた。
現状、コーディネイターでもザフトから攻められているという点で協力していた部分もあった。それを明確にする旗印となる機体を用意した。
クシーの意図がそうだとすればあまりに出来過ぎた機体なのも理解した。
引退した政治家はこれで纏めろというメッセージをクシーから人知れずに受け取っていた。
L4宙域市民へリスクを承知で渡すには受け手も機体をアイデンティティにしてしまうくらい覚悟がいると理解した。
この少年は随分無茶苦茶を言う。老人は話したこともない相手の真意を看破していた。
老人は最後の大仕事を決意した。ギレン総帥の下に居た頃を思い出していた。
デラーズ達と袂を分かち、宇宙移民構想を諦めたが冥途の土産になるだろう。
「大言壮語を吐いたが正規軍のMSやMAより劣る部分は多い。それでも現状の環境で用意できる最善は尽くしたつもりだし、自衛の範囲なら守れるはずだ」
クシーは兵器のスペックは劣ると明示した。
誰かがメッセージを受け止めているならば良いがと2300万人以上のL4宙域市民らを信じていた。
信じるのと託すのとどちらが良いか検討したクシーは託すのは彼らの意思ではないと信じてみる事にした。
万が一は自分で用意するつもりだった。ジャミトフと同じギレン残党が潜伏していたのは流石にクシーも想定外だった。後日、ジャミトフは同胞の生存に歓喜した。
L4宙域を滅茶苦茶にされた復讐者は自衛の範囲だけかとガッカリした。クシーには感謝しているがと思いつつ頭を抱えた。
「飽くまで国連宇宙軍は力なき民を守る盾である事を忘れないで欲しい。……ザフトや地球連合軍と国連宇宙軍が真正面から戦えば負けてしまう。それを目的にしてはならない」
クシーは納得できないのもいるだろうなと思いつつも言葉を続けた。
頑張っても約2000万人の国力でプラントや地球連合に勝てるわけがないし、そのような目的なら国連軍に来るなとすら思うが国連宇宙軍はセイラ等に管理を任せていた。
クシーとしても現地を細かくは知らないので下手に口出しできない。なるべく知るように努力しているが時間が足りないと嘆いていた。
「……時にリッドは蓋を意味する英語だ。リアリッドだと自動車のエンジンカバー等になるが」
クシーはMSリアリッドの名前の由来を説明することにした。
何故、L4宙域で活動する国連宇宙軍へ与えたかは象徴となるMSの名前にも含まれていた。
「君たちが攻め込めば国連軍という蓋が外れてしまう。蓋は盾とも言い換えられる。……ザフトや地球連合軍が蟻のように群がるのは経験した筈だ」
クシーはいるであろう誰かに語り掛けた。怨嗟はタガが外れれば何もかも台無しになった。
ザフトや地球連合へ復讐を目論む者は頭を抱えた手を解いて聞いた。まるで自分に言っているように感じていた。
「君たちは守る盾であり、奴らを制御する為の蓋なのだ。……それを自覚し守る為に戦うならば私も君たちと共に最後まで戦うと約束しよう」
クシーは復讐に協力は出来ないが最後まで面倒見るつもりであるという想いで告げた。
画面に映るクシーの言葉に復讐者は恩義があるので仕方がなく一時的に拳を下ろした。
クシーの言葉をずるいと思いつつも奴らの思い通りにさせないと言い聞かせることに成功していた。
クシーは復讐の連鎖を止める事に成功していた。……だが、宇宙と地球の距離はそれを知るにはあまりに遠すぎた。
戦争はクシーの何もかもを蝕んでいた。それでもクシーの想いは誰かに届いていた。