極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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第11話 殴り合い宇宙

コズミック・イラ68年3月、ザナドゥ本部襲撃事件から二ヶ月が経過した。

 

調査の結果、襲撃にブルーコスモスが関わっていると判明した。

私は盟主のアズラエルに抗議を入れた。向こうから連絡が来るのだから利用しない手はない。

 

問い詰めたところどうも本気で知らなかったらしい。

誰が怪しいという話になったが、顔芸のジブリール辺りのシンパかもしれない。

 

ブルーコスモスの盟主であるアズラエルはコーディネイターを憎悪しているが、管理下に置けるのであれば使うタイプの人種である。

 

プラントとは最悪の考えだが、関係を損なうのも現段階では不味い。

憎悪や妄執に囚われ妥協できる可能性が完全に無くならない限りアズラエルがマシなのだ。

 

故に今回はこちらが引き下がる事で手打ちとした。

幸い防諜は徹底しているので内部情報が漏れたわけでもない。

襲撃を返り討ちにしたら武装が過ぎると小言があったが今回の事実で黙認された。

 

アズラエルからこの際だからと非難声明を取り消せと言われたがそれは断った。

私への制裁の解除をチラつかされたが、撤回して再度襲撃される可能性の方が嫌だ。

ちなみに制裁内容は中立国の長期滞在の不許可だ。経済活動に制限を掛けられた形だ。

 

資産家ならば中立国に資産を分割し場合によっては高跳びする。

そういったリスクマネジメントだが私は別に困らない。

一応、必要でないわけではないので経済制裁前にやれる範囲はやっていた。

 

人も資産も送り込んでいるが今ではほぼ現地民である。

 

この時、私の判断は組織人としては間違ってはいなかった。

その後の情勢を踏まえても間違いではなかった。

この判断そのものは後世からも英断と称賛されるかもしれない。

 

だが、この判断で私個人としては一生の後悔をしてしまうことになる。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ええい…金はあっても人が足りない。どいつもこいつも暴れやがって!」

「メンデルでバイオハザード?…調査しておくか。戦闘用コーディネイターの件もある」

「プラント自治権の放棄とかふざけているのか!食料輸入の制限とか民間人を殺す気か!」

「食料輸入船の撃沈!?船はプラント籍とはいえ事実上、南アメリカだぞ!」

この年、世界の火薬庫が一気に爆破した。私は最早一刻の猶予もないと確信した。

 

世界は一気に加速していく。一つを止めても別のところで爆発する。

憎悪の連鎖は止まらない。世界の流れを堰き止めることは最早誰にも不可能だと言えた。

 

 

そして、私の最後の平穏も終わりの時を迎えていた。

コズミック・イラ68年4月、私は決意しなければならなくなった。

 

 

月面都市コペルニクスで桜が咲く。桜並木が散る様は風情になる。

 

キラが和傘を広げていた。それは綺麗な光景だった。

和の雰囲気というべきか和やかな空気がそこにあった。

キラは桜の花びらを手にとって見つめていた。…それはどこか悲しげであった。

 

アスランは表面上は取り繕っているが、複雑そうにしている。

それはキラとはあまり関係ない。

 

「よりにもよってこんな形でというのもな。…私が最後までコペルニクスに残っていると思ったが」

私は”家電王子”等と世間に持て囃されていた。

 

それは私の隠していた身の上がある程度公表されることでもあった。

世界はまるで明るい話題がない状況だ。せめて何かないかと人は思うものだった。

 

恐らく記者の善意で取り上げられたそれは私にとっては不幸そのものだった。

 

「名字だけ同じと思っていた。いや、思い込みたかったのかもしれない」

アスランはそう言って私を睨んでくる。無理もない。

 

記事を読めばブルーコスモスの家系であることは調べなくともわかる立ち位置にいた。

キラには聞こえないように離れている。だが、雰囲気でわかるだろう。

 

「…私は縁切りしたはずだったのだがな」

私は言い訳にもならない事を言った。血縁者である以上はどうしようもない。

敵対しているに等しい国の思想家の名家の”王子”と言われてしまえばアスラン・ザラの敵なのだ。

 

「…これ以上は詮索しない。俺も全てが嘘とは思わない」

アスランはそう言ってキラを呼び寄せようとした。

 

 

…隙を見せたな。

 

 

「隙ありだ!辛気臭い四文字め!!」

私はアスなんたらに飛び蹴りを食らわした。

 

何故、この私が辛気臭い別れなどしなければならないのだ。…辛気臭い別れなどこの私が許さない。

 

 

辛気臭いアスなんたらは蹴りを食らう寸前で直撃を避けた。私が言うのもなんだが、コイツはもはや人類としておかしい。

 

 

「ちぃ!相変わらず無茶苦茶な運動神経してやがる」

私は確実に決まったと思ったのに躱された事を吐き捨てた。

 

ここは食らっておくのが空気というものだ。

 

「っ!…お前!」

アスランはキレた。考えるのを辞めて怒りで殴りかかってきた。

 

私は痛いのは嫌なので躱す。アスランと私のファイトを見てキラは慌てた。

 

だが、

「かかってきな!ウジウジ悩んで辛気臭いんだよ!拳でかかってこい」

これは男の戦いなのだ。キラには引っ込んでいて貰う。

 

私は私であると証明して勝ってから考える。

私は蹴りを入れた。ボクシングのフェイントからのキックである。

 

キックボクシングスタイルではないので非効率的な攻撃だ。

しかし、口上やメンタルでのフェイントがアスなんたらには有効だった。

アスランは正攻法では倒しきれないチート野郎である。それは私が一番良く知っている。

 

「拳と言って蹴る奴があるか!」

蹴りを食らったアスランは完全に煽りに乗った。

 

下手に考えるよりも目の前の奴をブチのめすという考えが透けて見える。

 

「素晴らしい。それでこそアスランだ!」

私は切り替えの早さを称賛した。…最早勝ち筋は失せたがそこは気合で勝てば良い。

 

「拳闘戦152戦中55勝55敗42引き分け。ここで勝って貴様の敗北で別れとしよう!」

私はアスランとの戦歴を振り返る。3回に1回しか勝てなかった時期から更に鍛え直してもなお五分であった。

 

「俺の方が勝っているだろう!数字を弄るんじゃない!この、馬鹿野郎!!」

アスランは私が鍛錬不足で弱かった時期まで含んでいる。…なんて卑怯な奴なんだ。

 

そう言って死闘が始まった。私が純粋な格闘で負けるかもしれないと言える奴はアスランくらいである。

ここで勝って非公式だが世界一と名乗らせて貰おう。

人気のない時間帯、コペルニクスで行われるこの世界頂上決戦の観客は一人である。

 

 

「あーあ…無茶苦茶だよ」

キラは男二人のアホな喧嘩を見てそう言った。だが、その顔は笑っていた。

 

 

「私は私の為に生きると決めたのだ!だから、貴様との関係も変わらない!」

「いつも偉そうな事を言うが!勝手に決めて納得するな!…この馬鹿野郎!」

一撃入れるのにも一苦労な壮絶な拳や蹴りの応酬が繰り広げられていた。

言葉よりも拳で語る。アスなんたらは考え込んで余計な事をする。

 

殴って分からせた方が早い。私はどんな立場に居ようとも変わらないのだ。

 

 

その戦いはお互いが疲弊しきったところで終了となった。

キラが引き分けを宣言しても続行しようとする私達をねじ伏せて終わった。

 

…疲弊し過ぎて喧嘩では素人のキラに敗北した。私はかなりショックだった。

 

その後、私達はカリダさんに叱られた。 ヤマト夫妻はお別れ会を用意してくれていた。

ベラは写真撮影をしていたが今回は盗撮ではない。

 

 

何だかんだいつもと変わらない形でいつも通りに…二人と別れることとなった。

私は地球、ユーラシア連邦のザナドゥ本部へ向かうこととなった。

 

キラやアスランもその後すぐにコペルニクスを離れることになったと聞いた。

 

 

予想外なのはキラがプラントには行かなかったことくらいか。

まぁ、中立国オーブのヘリオポリスならば問題ないだろう。…そう思っていた。

おおよそユーラシア連邦にいる私は大西洋連邦の極秘計画を知る伝はなかった。

…もし、先んじてそれを知っていたら私は何でもしただろう。

 

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