極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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閑話 野獣の眼光

コズミック・イラ70年7月8日、L4宙域コロニー群においてMSリアリッドがザフトに鹵獲された翌日、ザナドゥ代表クシーは国連宇宙軍アリサ・ロッサ少尉へ通信を行っていた。

 

アリサ・ロッサは血液型がABO式血液型のどれにも属さない特異体質であり、3年前にコーディネイターと誤認され、ブルーコスモス過激派に両親を殺された被害者だった。

旧暦の22世紀に同じ特異体質の人間が存在していた。クシーはアリサを保護しつつ安全な地域へ避難させていた。

その後、約1年前に大事故に遇ったアリサへクシーは死亡ギリギリまで輸血した程度の関係である。

O型がそれ以外に輸血出来るのに近く、他に適応するのが異国の地だったのでクシーが対応していた。

 

クシー個人としては良くある事で気にしないで仕事や状況を聞くために面談を予定していた。

ただ、昨日の件など現場の兵士の意見を聞きたかったクシーはついつい余計な事まで喋り始めていた。

 

「リアリッドは間違っていないわ。MS用の火器を使えばコロニーに傷がつくかもしれない」

アリサはクシーが火力がもう少しあれば昨日の兵士は切り抜けられただろうかという問いに応えていた。

確かにL4宙域での戦闘では火力不足はあった。だが、コロニー群を守るだけならばあれ以上の火力は逆に危ないと国連宇宙軍では共通認識となっていた。

火力が欲しい場合は整備工場で改修して補えるので宙域警戒任務と分離するようにセイラ総統は通達していた。

アリサはセイラを同じ17歳と思えない采配とカリスマだと高く尊敬していた。

憧れと嫉妬は同居すると知ったアリサはアイドル活動の歌に感情が乗るようになっていた。

成長を感じる古参ファンと脳破壊される新規ファンが綺麗に分かれていた。

 

「敵は略奪が終わるまでの間は私達のフィールドで戦うしかない」

アリサはセイラの言葉を自分なりに解釈して言った。

セイラは敵の判断を鈍らせるか撤退させるかに分類し、旧国連軍のウツギと共に対応をマニュアル化していた。これにより現場の被害を最小に救助できるようになっていた。

クシーは圧倒的な力が治安維持になると知っていたのでグラハムとトールギスを派遣したかったが次善策としてセイラのやり方を追認した。

セイラからすればそこまでされるとL4宙域の住民の一部はまだ調子に乗ったままだったかもしれないと認識していた。

確かにクシーのやり方なら人数だけみればこれまで死んだ百万人以上が助かっていただろうとセイラは評価していた。

L4宙域から逃げろと言われて留まった彼らの責任を考えればクシーがそこまでする必要がないとセイラは考えていた。

それならクシーが余力を他に回した方が良いとセイラは明言しないが仕事で示していた。

クシーもセイラの考えが今ある最善と捉えていたが、アリサへ聞いてしまっていた。

 

「寧ろ、強大な威力の兵器だったら使いたくなるわ。兵士の教育なんかしてない自警団よ」

アリサは自分のファンを思い出して断言した。

ファンたちはアリサの助けになればと色々支援してくれるがアリサは兵士になれとは言わなかった。

兵士として訓練されていない彼らが来ても使い物にならずハッキリ言って邪魔だった。

アリサは有難いが周囲に迷惑になるのでせめて真面目に訓練期間を全うして欲しいと伝えていた。

訓練や実践経験が少ないが素人だったファン達が一人前の兵士達になっているとアリサは評価を改めつつあった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

訓練中のアリサファン達は必要無いのに自分達の様子を見に来るアリサを見て益々ファンとなっていた。

アリサのファンになれば同じファンから伝え聞く脳破壊はオートであった。

MSリアリッド他諸々の声明発表でミニライブ中断中のアリサの反応とアイドル活動までの経緯を知ったファンは妄想含めればアリサ以上に理解出来てしまった。

命の恩人に注目されたい、旧暦の人物を重ねてでも見て欲しいのだというファンの妄想は見事に真実を言い当てていた。

 

アリサのファン達の盛大な脳破壊から三日後の7月4日、アリサ・ロッサファンクラブへ地球連合軍からの密使がM少佐の脳破壊マニュアルを届けていた。

 

「ザフトにも仄かに、だが純粋な二重の脳破壊が生まれ出る気配がする。これは近い未来、政略結婚相手と別れてから本当の想い人発覚の気配だ。事前にマ…M少佐が築いた理論を届けたいが怨敵過ぎた。君らはまだ我々と違いザフトと憎しみ合っていないと信じてこれを託したい」

地球連合軍のメビウスに乗ってやってきた謎の男はアリサのファンへ語り掛けた。極めて精度の高い予知である。

彼は極めて限定的ではあるが時間の概念が可視化された領域に到達していた。

マルキオ導師の教えを妄想で補いつつもかなり理解していた。

独自の研鑽を積んだ彼は全体への領域へ到達出来ないと嘆いていた。

一部のみならクシーを上回るニュータイプ能力を持つ彼は、自分自身にとって素晴らしいが他者からすれば碌でもない事の為にその能力を使っていた。

 

ザナドゥシンパで脳破壊と共にニュータイプに目覚めた馬鹿は善意から行動し、マルキオ導師の思想を理解していた。

マルキオ導師の理想が正しければ脳破壊で人は皆分かり合えるはずだと信じてそのような世界を目指していた。

彼の解釈をマルキオ導師が知れば即異端審問を開催するレベルの異端であった。

厄介な事にSEEDやマルキオ導師の理想の世界への理解度は極めて高い。

クシーの監視網を潜り抜ける極まった変態はアリサのファンへ思いやりを託し、マッド少佐達仲間の下へ帰っていった。

 

地球連合軍ではアイドルみたいなパイロットがいるらしいが恋人がいるらしいとアリサのファンは理解した。

地球連合軍は憎き仇ではあるが所属するのは人間であるとファン同士理解しあえていた。

 

「アイドルではないのに勝手にファンクラブ作っているのか、そりゃ相手に恋人もいるだろう」

アリサのファン達は脳破壊マニュアルを頼る同胞を深く憐れんだ。

脳破壊マニュアルを熟読し地球のファンにも提供して部分的な平和を築き始めていた。

……飽くまで彼ら内の理屈でしかないので一般社会では一切共感を得られないし世界が平和になる事はない。

 

だがこれはマルキオ導師の理想に近い事を局所的とはいえ成し遂げつつあった。

マルキオ導師が知れば処刑するかしないかで葛藤した。

発端になった異端者だけは許されないが切っ掛けはともかくファン達の平和は尊いものなのだろうとマルキオ導師は自分に言い聞かせた。

マルキオ導師はこのような些細な事は知らないが知ればそうなった。

従って脳破壊の異端者は善意でこれからものさばる事になる。

 

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冒頭のアリサとクシーの会話に戻る。昨日の件などの聞き取りを終えたクシーは本題に入ろうとしていた。

 

「感謝する。アリサ。……しかし、アイドルかなこれ?」

クシーはアリサから見た地球連合軍に関して感想を述べた。

アイドル活動とは思えない。広報担当として前線に出て欲しくないがパイロットとして優秀だった。

アリサは現在MSジン改造機を使用しているというのでクシーはジンに対抗意識を抱いていた。

アリサが知れば間違いなくそこを突いたがクシーは嫉妬に近い対抗心を表に出さないのでスルーされていた。

 

「状況が変われば、知らない一面が出てくるのは当然のことだわ」

アリサは当たり前のように言い切った。

アリサはクシーへ今の自分を理解して欲しかっただが、想いが先行して一方的に話してしまったと反省していた。

 

「確かにその通りだが……」

クシーは納得できないのでどういうべきか一瞬考えた。考えるのも無駄と聞いてみる事にした。

 

「不快に感じたらすまないが私個人としては君に安全なところで暮らすように言ったつもりだった。……一体、何があった?」

クシーはアリサが何故、国連宇宙軍に参加したのか率直に聞いた。

クシーはアリサへ言葉にして貰わないとわからないと示していた。

 

「クッ……言わなきゃわかんないかしら?」

アリサは思わず聞き返した。クシーが鈍いのか鋭いのかアリサは分からなかった。

アリサは何だかもやもやしていた。こういう時、自分はあまり良くないと自覚していた。

 

「わからんさ。何せ私と君との関わりは二度しかない。互いを知る機会は……?」

クシーは分からないから言えと言おうとしたが、カナードの件を思い出した。

まさか恋仲になる為に戦いに来たとかじゃないよなと行きついた。遅い。

 

「ストップ!喋るな!」

アリサはクシーが今更気づいたと理解した。

何故美人の宿命で懸想される側の私がこんな想いをしなければならないのかと思ってしまい後先考えず恥ずかしさで叫んだ。

 

「あ、はい」

クシーはアリサの剣幕に返答した。どっちだとクシーは悩んだ。

カナードの事を思い出したクシーは今アリサと話しているのだから誠意に欠けるし、一旦これまでの状況を考え整理しようとしていた。

 

「良いかしら?助けられた側は覚えているのよ。勘違いしないで頂戴。助ける側に回っただけ。そうよ、そうなのよ!わかったかしら!?」

アリサは恥ずかしさから言葉で完全に否定していた。それはクシーには完全に悪手であつた。

アリサも気が付いた。だが、クシーは結論が出ていた。

 

「……わかった。今後は気を付けよう。アリサ少尉」

クシーは余計な勘違いをするところだったと深く反省した。

アリサについて色々考えていたクシーはアリサの回答に少し安堵してしまった自分の愚かしさを責めていた。

 

アリサは美少女を自称するが実際、長い銀髪と透き通る肌の碧眼の美少女であった。

クシーは恋人を裏切ってブルーコスモス過激派に彼女を引き渡そうとしていたアリサの元彼を思い出した。

性的対象として見ていた彼氏は不満が爆発し衝動的に恋人のアリサを売り飛ばしたと聞き出していた。男の風上にも置けない。

クシーの立ち上げたザナドゥは一応ブルーコスモスの分派に属していた。

初対面時のアリサは両親を殺したブルーコスモスだとクシーを拒絶していた。

そうなるとアリサにとって恩義はあれど恋慕の感情はないと理解できた。

何よりあの後も男は寄って集るだろう。アイドルだから深い付き合いは無いのだろうと深くは聞かない事にした。

 

当時のアリサは錯乱していたので感情のままに吐き出した言葉を覚えていなかった。

クシーはアリサが錯乱して吐き出した言葉を覚えていたがそれが彼女の全てではないと全て吐き出すまで傍で受け止めていた。

自分がそうして欲しい時に誰もいなかったクシーはアリサの傍に居る事で過去の自分を救いたかったのだと理解していた。

下心なく、ただ純粋な思いやりから来た行為だったがそれ以上ではない。クシーは宇宙国連軍の件までアリサ・ロッサを気にかけていなかった。

相手が死にゆく老人でも母を失い泣き叫ぶ子どもでも対応は変わらない。

クシーは良くも悪くも差別せずに他人に寄り添おうとする人間だった。

アリサはクシーのそういった側面に救われていた。だが、それだけであって欲しくなかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「……少尉じゃないわ、アリサよ!国連宇宙軍とか関係ない。……私だけを見てよ!」

アリサはクシーが言葉をそのまま受け止めたと察した。

アリサはこの場で再び会えた事に浮ついていた。アリサは必死に考えたが懇願するように絞り出していた。

 

アリサをクシーは間違いなく高く評価していた。その評価は要らないと別の言葉を考えたがアリサは出てこなかった。

アリサはクシーを全然知らなかったと本当の意味で理解した。

 

アイドルを始めた切っ掛けは自分と同じ体質の人間に興味を持ったからだった。

両親が殺され、恋人未満の相手から裏切られた自分が皆の憧れる象徴として扱われる。

……アリサは“誰か”に自分を見て欲しいと思っていたと実感していた。

 

「アリサ。……私はもう君だけを見られない。どういう意味でもだ」

クシーはアリサの言葉を真摯に受け止め考えた。先ほどの認識を訂正して考えても無理であった。

 

クシーはアリサへどちらにせよ恋人のような関係になれないだろうと暗に言っていた。

クシーは世界の事で精一杯だった。この状態で不用意な言葉では傷つけると理解していた。

微妙に言い切れていないが捨てられた自分が誰かを捨てるというトラウマから来ていた。

不誠実な行為は嫌なのでアリサを振ってはいた。

だが、クシーの自覚が無い本心をアリサは感じ取っていた。

 

「……“もう”って言葉、取り消しても遅いんだから」

アリサはクシーに恋愛的な意味合いでも振られたと理解した。

しかし、もう君だけをというのならばクシーの中ではアリサは大切な何かに入れたのだろうと直観した。

クシーは自分を二の次三の次にしていたのでアリサと向き合う余裕がない。

 

……アリサはクシーが誰か特定の相手と付き合い結婚しなければならないと思い込んでいると正確に理解した。

クシーは究極的には皆好きだから自分の意思で離れていく分には気にしないし執着しないが求められると何でも応えたくなる極めていい加減な男だと理解した。

いい加減な癖に不誠実なのは駄目だと考え、必死にアリサを振ろうとして出て来たのが先ほどの取り繕った言葉であると見破った。

 

アリサは堕ちた。

 

アリサはザナドゥが地球連合から無理強いされた外部委託先からザナドゥの情報をすっぱ抜き国連宇宙軍へ加入までしていた。

クシーは意図していない隙である。アイドルとして培われた人間への観察眼や求められる仕草や行動を出力する力はカリスマと言い換えられた。

経験によりアリサは元来有していなかったはずの才能を強引に開花させていた。

 

ギルバート・デュランダルは知らないがアリサ・ロッサの遺伝子適正を見た場合、アイドルは間違いなく適正外だった。

経験により才能を生み出したアリサ・ロッサは旧暦の22世紀、コーディネイター技術の大本の研究対象と全く違う才能を有していた。

デュランダルが知る旧暦の彼女はアイドルの才能が極めて高く、やや劣るが戦士として高い才能があった。彼女はアイドルではなく世界の為に戦う選択をした。

ディスティニープランは才能で判断され運命を強制される世界である。

旧暦の彼女は最適な生き方を諦め、戦い次の時代を作りその名を歴史に刻んでいた。

ファーストコーディネイターの誕生より約2百年前の突然変異の少女の生き方はディスティニープランを否定していた。

 

「私はアイドルなのよ。皆が私を見る事になるの。……貴方もね」

アリサはクシーへ宣言した。見て貰えないなら諦めた。だが、見て貰えるならば振り向かせれば良い。

アリサは自分に自信をもって振舞えた。振られた虚勢ではなく、真実として目を奪われるだろうと断言できた。

 

「ただ分かりやすい記号としてのアイコンではなく、誰からも憧れられるアイドルか」

クシーはアリサがアイドルとして凄いと評価した。

誰でも思わずファンになりそうだがクシーはそうならない。それだけは伝える事にした。

 

「しかし、アイドルでは偶像だ。私はアリサを見るつもりなのでそこはよろしくお願いする」

クシーはアリサ・ロッサという少女を見ていた。先ほどの言葉に嘘偽りはない。

 

「私やアリサがどのような立場になろうと君への態度は君にしか向けられない。残念だったな、55点のアイドル」

クシーはアリサへ宣言した。思い通りになるつもりはないので55点と盛大に煽った。

クシーは点数を具体的に言っていた。落第点ならともかく55点であれば改善すれば効くと暗に示していた。

クシーはアリサを煽っているが分厚い心の壁から漏れ出ていた。

 

「草を食べる事を覚えて牙が抜けたのかしら?いい加減な男が具体的な点数を示すなんて」

アリサもクシーを煽り返した。高度なレスバであるので背景知識が無いといけない類だ。

 

クシーは両親が殺され絶望していた初対面のアリサから、いい加減な男は去れと拒絶の意思を示されていた。

クシーはアリサが見た事無いほどの究極にいい加減な男であるので勝手に助けると宣言し、アリサをブルーコスモス過激派等から助けていた。

その頃と比べて具体的な点数等挙げるとはいい加減さが落ちた、牙が抜けたと評していた。

それだけではない。『草』とはネットスラングで笑いや嘲笑を意味する。

世間からの嘲笑でクシーも気が滅入ったかと心配しつつクシーへ煽り散らかしている。

アリサはこの程度でクシーが傷つかないのは知っていた。

もし仮にクシーがアリサの言葉の意味に気が付いて傷がついてしまっても自分を覚えて欲しいという甘えの感情が含まれていた。

アリサのレスバはまだ他にも暗喩等が含まれていた。

 

唯一クシーが理解しきれない意味合いはこれからお前の牙を抜くぞという意思表示であった。牙は倫理観か誠意かいずれにせよ碌な物ではない。

コズミック・イラ世界の京都弁は難解だった。母方が日本出身でほぼロシア人のクシーには京都弁の習熟が足りなかった。

アリサも母方が日本人で父がロシア人だが愛されて育った差なのだろう。そんなわけはない。

 

「ははは。次直接会ったら後悔させてやる」

クシーはアリサの煽りに盛大に引っかかった。

アリサの煽りを理解し切れなかった純真な男はこれから友人として向き合えれば良いなと呑気に考えていた。

クシーはファンの影響かオタク文化に染まったアリサがネットスラングまで使って煽るので敗北感を抱いていた。

 

負け犬の遠吠えを見たアリサは純真無垢に笑った。

 

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