極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年7月9日、ザナドゥ本部ではランチタイムになっていた。ただの昼休憩の時間である。
ザナドゥ代表クシーは普段は昼を食べながら仕事をしていたが本部の食堂を利用する事にした。
普段のザナドゥ内の様子を直接見るのは大事だと認識していた。
クシーは何でも仕事に結びつけて考えていた。クシーはワーカーホリックだった。
「もっと美味い物が食えるだろうに。インダストリアのパン擬きなんか食いおってからに……」
ザナドゥのサイバー部門幹部のオカ・キヨがクシーの食事内容を見て言って来た。
怒りよりも心配して声をかけているのでクシーはタイヤのようなパンを嚙みちぎりつつキヨへ手を挙げて応えた。
「代表よ。この際言うが、それを『未来のパン』と書いてメニューに並べるのは辞めろ。ザナドゥの食堂は他の品がワンコインで美味なだけに外部の者は必ず引っかかって泣くのだ」
キヨは今日こそはとクシーに直談判した。
例えるなら500円で美味しいカレーや味噌ラーメンが食べれる中に『未来のパン』50円が並んでいた。
他が美味いからと好奇心で買ったり、ケチでパンしか買わないと物凄く不幸な事になる者がいた。
キヨの部下達は罰ゲームで食わせたりしているが遊びで買った癖に食べきらないと食堂のババ…マダムにぶっ殺されるので残さず食べていた。
そのため、知らないで『未来のパン』を買う外部の人間が一定数いた。
キヨ的にあまりに可哀そうなのでどうにかならないかと上から目線で懇願していた。
仮にもトップ相手に太々しいがこれくらいでないとザナドゥサイバー部門のネームド犯罪者達を取りまとめなどできない。
こんなんだがキチンと他者への思いやりは籠っているのでクシーもある程度聞いた。
「分からなくもないが食事のありがたみを知るべきと責任者たる食堂帝も同意している。寧ろもっと食わせなければならない」
クシーは噛みちぎると話が出来ないので手で細かくちぎりながら返答した。
現在、NJ被害で地球上にあるインダストリアは全て稼働を停止していた。
全然腐らないのでザナドゥの各地の倉庫に保管してあるがかなりの地域で受け取りを拒否された。
それでも食わなきゃ死ぬ所は多いので腐らない謎のパンに見える廃材の味を飲み込むしかなかった。
地球産の未来のパンはザナドゥ本部にあるのが最後であった。スカンジナビア王国の食料輸出で賄えるようになったのが大きい。
ザナドゥの謎のパンもどきはどうやって作られたのか誰も知らない。
クシーも明かせば面倒になると判断してわざと説明しなかった。
あまりの不味さから人々はパンか怪しい物体を忘れたかった。
その為、食糧事情の解決の兆しが見え始めた現在は語られていなかった。
何ならもう二度と食べたくないので復讐より食糧自給に取り組む農家を希望する者が増えていた。
ある意味、クシーの開発した技術で人を導けたと言えるが本人的には微妙だった。
平和ならこのインダストリアを公開出来たのだが、嘆くよりある程度は結果を残せたのを喜ぶべきだと結論付けた。
地球連合やロゴスも『未来のパン』が広まるのは色々不味いので一時的な食糧放出という評価で落ち着いていた。
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未来のパンを食うしかない地域もあったのだから初心を忘れてはならないとクシーは定期的に食していた。
というかこの未来のパンは地球からL4宙域コロニー群に生産拠点を移して稼働していた。
効率は非常に悪い上に、NJを使われたら生産が止まる。
宇宙にあるL4宙域コロニー群にある生産拠点インダストリアは最悪移動させればNJを免れるので地球よりも安全に稼働できた。
生産するにも限度がある上に材料は有限であり、しかも不味い。
L4宙域コロニー群は急いで被災した食料生産コロニーを復旧させていた。
プラントがインダストリアの存在を知っても出来る物が酷過ぎるので欲しがるかは怪しいが未来のパンというだけあり、クシーらはイカれた技術を開発していた。
未来のパンはキヨの言うようにクソ不味いのでクシーも常食にはしたくなかった。
それでも現在は廃タイヤ程度の味であり大分マシになっていた。
初期は口に入れる前に吐き出す者がいるくらいには酷かったとクシーは回想した。
インダストリアで生産される未来のパンとはクシーがグレイブヤードの五人爺と組んで開発した食品である。
木材や樹脂などの有機物の廃材から作れるパン擬きであった。
かつてハーバー・ボッシュ法は空気からパンを作れると評された。
なら廃材でパンくらい作れなきゃいけないと爺共とクシーは対抗心をむき出しにして作っていた。ツッコミが留守をしていた。
ジャンク屋すら見向きもされないような廃材から食料を作れる技術である。
未だに問題だらけであったが作れただけで偉業だった。
ザナドゥの成果はまともに評価される前に戦争に入ってしまっていた。
ザナドゥは不味いが食用可能なパン擬きを非効率的であるが作れるようになっていた。
地球連合は未知数過ぎて安全も分からないので受け取りを拒絶していた。
この対応自体は正しいのでクシーは動物の餌として与えてみたり、ザナドゥが確保したテロリスト収容所の食事にしてみたりと観察を繰り返し一応安全と結論を出していた。
この当時に収容されていたテロリストは腐乱臭のする嚙み切れない廃タイヤを無理やり胃に押し込まれ吐きそうなのに吐かせて貰えなかったとトラウマになっていた。
5月にモロッコ虐殺を引き起こしたホール・パイソンを収容しているザナドゥ収容所の悪名は未来のパンの安全証明の為に利用した結果だった。
生きていれば大体問題ないクシーからすれば大量虐殺した身で融通を求めるならそれくらいして貰わないと遺族に申し訳ないので気にも留めていない。
ホールは食料として安全なゴムタイヤみたいなパンを食わせられていた。
収容所にいるホールの先輩方は子どもを優先して殺しているようなカスにこそあの地獄を味わせたかったと世の中の理不尽を嘆いた。
ザナドゥ収容所にはNJ被害で国が裁けない犯罪者達も一時的に収容されていた。
クシーは彼らが味わった地獄の成果に報いようと本心から反省している者には本国へ減刑を求めていた。
だが、命乞いばかりで根本的には一切反省しなかったホールには一切配慮しない。
ホールはクシーから特に減刑などの話もなくザフトへ引き渡されていた。
ザナドゥ収容所からザフトへ引き渡されたホールに関しての実態調査も何もかが済んでいた。
ホールは略式裁判の後、即座に銃殺刑を言い渡された。
ザフトから横領しようとプラントの友好国であるアフリカ共同体の村落を虐殺し、敵であるザナドゥへプラントが譲歩させた罪は銃殺刑でも軽いとパトリック・ザラは断言した。
クシーが存在しない世界でホール・パイソンは各地でザフト兵として活躍しながら余興として虐殺を楽しんでいた。
プラントのコーディネイター達もまだ十分残っている状態で何も裁かれず幸福なまま死ぬ運命だった。
クシーがいなければ自分にとって幸福な人生を全うするはずだった男ホール・パイソンはこの世界では精々百人程度の村を皆殺しにして他の村で未来への害虫(ナチュラルの子ども)をハンティングしていただけなのにと嘆いた。
最後までナチュラルを滅ぼしたいザラ派と自分の何が違うのか理解出来なかった。
理不尽な不幸と反省せず死の恐怖から泣き叫んだ。
ホールは自分の能力がプラントの為になると抗弁したが聞き入れられることなく処刑された。
クシーのせいで不幸になる人間というのは大体ホール・パイソンのような存在だった。
クシーはどのような悪党でも生かして働いて罪を償えという姿勢である。
ただ、ホールのような男は流石に擁護しなかった。生かして働かされた場合でもホールにとっては地獄だろうがプラントもザフトも許さない。
プラントは身内に減刑を求めるなど甘い部分もあるがホール・パイソンのように私腹を肥やす為に全体に迷惑をかける輩には容赦しなかった。
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インダストリアの未来のパンは食品の安全基準を一応クリアしていた。
潜在的な危険性まではわからない。その為、ザナドゥ内でも好んで食べたがらない品である。
未来のパンは開発当初、腐ったゴムタイヤみたいな触感と味だった。若干液状でいつまでも腐らないので失敗したかとクシーは食べきった。
延々と試食していたらコペルニクスで高熱を出していた。
クシーは同時期に接種していた毒が原因だと認識していた。
実際は不味い物を食べ続けたストレスで免疫系が弱まっている中、毒で免疫つけると馬鹿な事をやり出したので悪化していた。
今の未来のパンは精々廃タイヤの味であるのでクシーは普通に食えると思っている。
定期的に食して確認していたクシーはインダストリアを稼働させる技術者達の努力を評価していた。
地球産の未来のパンを改良していけば食糧問題を解決できたかと考えたが、流石に製造効率が悪すぎると緊急時に使うポジションに置いた。
インダストリアの疑似パン製造工程は3つの三角塔に太陽エネルギーを集中させ、内部に連結する三つの原子炉の力で起動する仕組みとなっている。
木材や樹脂などの廃材→石油→合成食材の順で作られる。
臭いも味も酷い物であり、栄養も十分であるとは言い難いが栄養サプリで補助すれば良い。
しかし、原子炉三つ使ってまで地球でパン擬きを作るならば普通に農業した方が味もコストも圧倒的に良かった。
これがL4宙域コロニー群の場合、農業出来る範囲も限られるのでインダストリアの価値が格段に上昇した。
L4宙域コロニーにあるインダストリアの問題は材料となる有機物の確保であり、課題でもあったが農業コロニーを生産する方向に決定していた。
セイラとしても有用な技術なのは認めるが味が壊滅的過ぎた。クシーもこれ以上の改良は戦争が続く限り無理だと断言出来た。
インダストリアが一部でも稼働していれば未来の世代の遺産となると判断して諦めた。
コペルニクスの悲劇が回避された世界では普通に不味いパン程度に劇的に味が改善されていた。
この世界のクシーはL4宙域コロニー群壊滅が無いのでコスパが悪いと評価されていた。
それでも未来に繋がる技術としてグレイブヤードの五人組と共に表彰されていた。
クシーは普段の爺達の暴走とは別に仲間と共に評価された事を喜んでいた。
クシーはもしもの世界を知る事はない。現実の少年は夢すら見れず世界と向き合っていた。
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ザナドゥ食堂でサイバー部門のキヨとクシーが未来のパンに関して問答していると、グラハム・エーカーが割って入って来た。
ちなみにグラハム・エーカーが再構築戦争時に活躍したミスター・ブシドーという事実は周知されていない。
キヨの有するブルーのセキュリティクリアランスでは知り得ない情報だった。
セキュリティクリアランスにない情報を職員キヨが知っていたらUV(ウルトラヴァイオレット)であるクシー本人から尋問されかねない。
漏れ出るには危険すぎる情報なのだがグラハムは色々ボロを出すので過去の偉人というのは半分諦められていた。
この世界、急激な若返りとかありそうだとクシーはミケランジェロの前で溢した。
ミケランジェロは分かって言っているのではないかとツッコみそうになった。
アウラ・マハ・カイドゥ、後のアウラ・マハ・ハイバルは急激な若返りそのものだった。
ミケランジェロことマティアスは一族時代にアコードが台頭しない未来世界は観測していたのだが、アコードが台頭した未来世界を観測する前にマティスに追い出されていた。
マティアスはアコードの能力は把握しているが成長してどう戦うのかを知らない状態だった。
マティアスはイングリッドがアウラに不信感を抱いて居たのでオルフェと共に離反するのかと期待していた。
……オルフェがディスティニープランに固執し過ぎていたので恐らくはイングリッドが不幸になると予想していた。マティアスの読みは当たっていた。
しかし、この世界ではそもそもカナードが女性であり、キラ・ヤマトが女性であるというイレギュラーが発生し過ぎていた。
マティアスはマティスがザナドゥ及びクシーのいる未来世界を観測出来ていたら不味いと認識していた。
だが、マティスの一族としての能力への疑いからあまり出来ていないとマティアスは予想していた。
マティアスはマティスからクシーを守ろうと一族のデータベースからクシー関連の過去を消去していた。
これにより少なくともマティアスがクシーと出会う前のクシーの情報はマティスは手に入れられないと踏んでいた。
このせいでマティアスも分からないので偶にとんでもない爆弾が発見されていたりする。
消す前にマティアスが確認する時間はなかった。人工知能シャロン・アップル等はそれに該当する。
マティアスが一族の長だった頃にシャロン・アップルと出会っていた場合、一族はまだ軟着陸出来ていた。
シャロンは能力も思想も危険ではあるが一族のマティアスなら合意できる部分があった。
マティスに簒奪された後は無意味であるので知っても遅いのだが。
クシーでなくとも過去を知らなければその人物がどう動くのか予測して対応するのは難しいとマティアスは理解していた。
マティアスはマティス自身の能力が不足して一族の長の未来予知が上手く行っていないと推理していた。
それでもマティスはクシーが存在しない世界ならば未来予知が出来ていた。
しかし、クシーが存在する世界の場合、クシーは四六時中動き回り未来が変化していた。
マティスがザナドゥを潰す一手を投じるとクシーは対策していた過去から十手くらい動いて来ていた。
一族として能力の低いマティスでは一族由来の技術だけで対抗するには本気で大変だった。延々と手を打てばクシーが過去で行って来た対策も無意味だろうが、NJで死ぬはずだった10億人も駆除しないといけないとマティスは認識していた。
放置すれば簡単に滅びる世界で想定外の挙動を続けるクシーをただ殺せば良いわけではない。
クシーは水爆を直撃させれば殺せるかも知れないが殺した余波も考えなければならない。
マティスは雑だがエイプリルフールクライシスでのNJ投下以降で間引くのは最低10億人というラインを設けていた。50億や80億と殺し過ぎても行けなかった。
マティスからすればザナドゥを排除して残り7億以上の間引きをしなければならなかった。
マティアスからしても無茶苦茶なので明確に兄より能力が下なマティスは無駄に頭を使っていた。
ちなみにクシーが存在せずアコードが台頭しない世界では50年後にブーステッドマンに使用されたγ-グリフェプタンを改良された無害な栄養ドリンク『グリフェプタンD』が誕生していた。
γ-グリフェプタンは非SEED保有者が覚醒したSEEDに近い状態になる物質だが、人体で生成できない物質で依存性があり、感受性が急激に上昇し他者を過剰に拒絶するようになり最終的に廃人と化す代物である。
グリフェプタンDはSEED以下の覚醒の範囲に止める事で依存性を低下させ、感受性を高める事で好奇心を抱かせ、動くことの億劫な老人が散歩に出かけるような緩やかな高揚感と活力を齎す栄養ドリンクであった。
マティアスはクシーがいる未来世界ではグリフェプタンDは早期に開発される気がしていた。
改造人間製造を取り締まっているので開発の試行錯誤は早まるはずだと理解した。
連日の残業で疲れたマティアスはメアリに相談する事にした。
マティアスことミケランジェロはメアリにそんな事で悩む時間があるならさっさと寝ろとベッドに叩き込まれた。
メアリはコズミック・イラ世界を良くしたいと思う奴は全員無茶し過ぎだと憤慨した。
クシーも現在昼休憩だが、ちゃんと休憩しているかメアリは心配になり執務室に向かった。
クシーは食堂と聞いたメアリはそれなら安心ねと言いつつ、食堂へ足早に向かった。
メアリはクシーがマトモに休むのとは一切信じてない。
ベラはメアリを止めないで見送り、シグネからの鬼電をどうするか考えていた。
主にガン無視されているとシグネを憐れんだが、主が今の時間帯にシグネへ連絡しない辺り相当疲れていると察した。
クシーはシグネへ後回しになるが連絡すると伝えていた。
ベラは何も言わないし、義姉シグネが直接乗り込んで来るなら対応したがそうでない。
なら緊急性は低いとして姉の相手は疲れるので昼休憩に時間出来たから連絡するという選択肢を無意識に除外していた。
シグネは国連宇宙軍のアイドルから何やら問い合わせされたのでベラへの電話攻撃を一旦辞めた。
アリサ・ロッサは国連宇宙軍に関してクシーを出し抜いた女である。シグネがザナドゥ本部で騒ぎを起こしたのも聞いていた。
アリサはアイドルとして相手の気に障るような行為を見抜く力がずば抜けていた。
……クシーは疲れているだろうがシグネへ電話すべきだった。
自業自得というにはクシーは二人に関しては大分誠実に対応していた。これに関しては本当に同情しかない。
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ザナドゥ本部内の食堂ではグラハムはザナドゥに来てから飯が美味いと語っていた。
コズミック・イラで流通する培養肉や代替食品はグラハムの時代と比べて大幅に改善されていた。
クシー達が作ったという未来のパンはある程度は安全だと聞いていた。
それだけで生前のグラハムの友人たちなら何が不満なのかと激怒するとグラハムは推測していた。
ザナドゥ本部食堂の主である食堂帝はグラハムを大いに気に入っていた。何でも美味いと食うのだから提供する側は気分が良かった。
食堂帝はキヨが真剣にクシーを心配していたのは知っていた。だが、未来のパンを罰ゲームなどと遊びで食べさせたりするキヨらよりグラハムの方が好感度は高い。
「素晴らしい発明だと思うぞ。昔は放射性物質混合飲料などと正々堂々掲げて売っていたからな!」
グラハムはイカれた広告で実際売れた放射性物質入りのコーラを思い出して言った。
グラハムとしてもミリオンヒットなどと書かれた新聞を読みながら何故売れるのかと思った。
カタギリがそれだけ教育を受けられなくなったのだと嘆いていたのを見てグラハムは納得した。
放射性物質で光るドリンクは綺麗に見えた。グラハムも見ていて綺麗だから自宅に観賞用として飾っていた。
これを飲んだら被ばくして死ぬよなとグラハムはイゼルカントへ尋ねていた。イゼルカントから当たり前だとぶん殴られた。
ミスター・ブシドーはイゼルカントへの手土産に死ぬと認識した放射性物質入り飲料を持ってきていた。
息子のロミが誤って飲んだらどうするとイゼルカントは本気でブシドーをぶん殴っていた。
幸い、ロミは放射性物質入りコーラを飲んでいない。
だが、ボコボコにされる英雄の姿を見たロミは絶対買わない様に友達を説得する事を決めていた。
「……ああ、ヌカ社か?旧暦の時代と一緒にしないで挙げてくれミスター・グラハムよ」
クリアランスがブルーのキヨは流石にそれと未来のパンを比較するのは酷くないかと苦笑して言っていた。
何度も言うがキヨはグラハム・エーカー=ミスター・ブシドーとは知らない。
バレッド・ミスターと仲良しみたいだしと適当にゴロが良いので読んでいるあだ名である。
「私としてはキヨの飲むドクター・〇ッパーが残っているのが信じられん。私の記憶では対抗心むき出しのヌカ社から核ミサイルで消し飛ばされていたが」
グラハムは最後の核前の一兵士時代に飲料メーカー同士が核戦争していたのを思い出した。
遂に企業同士で核戦争し始めたのに対抗すべく当時の大西洋連邦は改造人間計画を大々的に実施していた。
死ぬ前は改造手術で忘れていた記憶を思い出した。グラハムは秘匿された黒歴史を今初めて他者へ語っていた。
「……え?」
キヨは流石に固まった。知らんそんな歴史と思いつつ、これ聞いて良かったのかとクシーを恐る恐る見た。
「グラハム漏れすぎ」
クシーはそれだけ言うと残りの未来のパンを頬張った。
不味いが食えなくもないとクシーは思っているが一般的にみれば今でも恐ろしく不味い。
「……ああ!すまん。キヨ、今のは嘘だ!」
グラハムはミスったので嘘だと宣言した。
嘘だから問題ないとキヨの肩を掴んで必死になっていたが自覚はない。
「……代表よ。嘘だよな?」
キヨは聞かなかったことにした。食堂の連中はどうするのか謎だが嘘か確認した。
「嘘だ。間違いない。本人もそう言っている」
クシーは食堂にいる全員に向けて宣言した。仕事しなきゃと休憩を辞めた。
グラハムの語るのは大昔の大西洋連邦の汚点だが今では証拠はない。
優先順位は低いが休んでいる部下達に任せるのも可哀想なので自分でやることを決めた。
メアリは案の定休まないクシーと鉢合わせる事になった。メアリはグラハムに言っていいラインを判断する授業をジャミトフに任せる事にした。
ジャミトフは出来の悪い生徒はカスであるとしてグラハム・エーカーへネチネチ嫌味を言いながら生前の記憶の混濁を聞き出していた。
グラハムも悪気はないのだが不用意な発言で迷惑かけた自覚はあったので素直に受講を再開した。
クシーは今のグラハムを国連宇宙軍に投入していたら不要な過去話をして不味い事になったかもしれないとホッとした。
国連宇宙軍、セイラ達の取り組みに感謝したクシーは平和な状況であればグラハムの過去話を詳しく聞きたかった。
漏れ出る話のどれもがイカレていた。イゼルカント達は下手すれば孫より低い年齢のクシーへ自分達の武勇伝から汚点を隠して語っていた。
グラハムからすればつい先日の感覚であり、老人達のような見栄など存在しない。
グラハム・エーカーはクシーの好奇心を擽る歴史の実態を平気で暴露してしまう存在だった。
イゼルカントもジャミトフも虚勢を取り繕った武勇伝を語っただけにグラハムから漏れ出るのを阻止すべく教育を過剰に行おうとした。
流石にやり過ぎであったのでグラハムも気が付いた。グラハムはジャミトフ再教育センターからの脱獄を決めた。