極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年7月10日、L4宙域の新星攻防戦開始からまもなく1カ月になろうとしていた。
同じ頃、傭兵集団サーペントテールの叢雲劾が雇い主であるウィレム准将の部下から裏切られていた。
新星攻防戦がこのまま敗北するなら少しでもザフトに被害を出そうとしたウィレム准将の部下マキャ中佐は独断でサーペントテールを巻き込もうとした。
「ザフトへダメージを与えられたな。まぁ傭兵風情も立派に戦……生きているだと?」
マキャ中佐はネルソン級宇宙戦艦の連装主砲3基、ビーム砲三発で劾ごと消し飛ばしたつもりだった。
死んでいれば良いもののとサーペントテールを侮っていた。
ウィレム准将はサーペントテールをただの傭兵組織と思いつつ精鋭並みであると評価していた。
マキャ中佐の独断は辛うじて耐えていたウィレム准将の防衛網に僅かな、だが深刻な罅が入る事になる。
「……そこまでして俺に殺されたいのか?」
叢雲劾はらしくないと思いつつ言葉が出た。
劾はマキャ中佐が乗るネルソン級宇宙戦艦の動きが怪しいと思って警戒していた。
ビーム砲に勘づいた劾はメビウスのオプション装備の45mmガトリング砲を周囲のMSやMAの残骸に向けて発射しデブリが拡散させるようにした。
ビーム砲がデブリを反射して鈍る中、何とか直撃を避け、その後もギリギリ回避できる猶予を得ていた。
劾はザナドゥによる度重なる改修で生存性の高くなっていたメビウスに賭けた。
「これが他社製であったら不味かった。……お前の言う悪運という奴かもな」
劾はマキャ中佐の裏切りを契約違反とみなしそのまま離反する事にした。
ウィレム准将からの命令の可能性もあるのでこの場は逃げるしかない。
劾は新星攻防戦を通して本物の傭兵になったものの技量的にやや未熟なイライジャがこの場に居なくて助かったと思ってしまっていた。
劾は自分自身が認めた相手への評価に激高しつつも撤退した。
劾が撤退し、落ち合った先でイライジャはあの場に自分がいたら絶対足引っ張っていたと発言した。
劾は落ち着いた。風花は情けないとイライジャを叱りつけた。イライジャと風花は喧嘩をし出した。
その時、サーペントテールの集合場所に一本の通信が入った。
風花の母ロレッタが席を外していたが取るべきかと目くばせした。
相手は誰かと訝しみながらリードは恐る恐る通信装置を起動した。
「ハーイ、ジョージィ!下水道に逃げ隠れするなら協力するぜ!」
謎のザナドゥ代表が逃げるサーペントテールに直接連絡して来た。
「ジョージィ!ではない。俺の名は叢雲劾。傭兵だ」
叢雲劾は素で名乗り返した。名前を忘れる程の事があったのかを考え始めた。
「ええとな。劾、これは下水道に隠れ潜む何かってホラー映画が元ネタなんだ。ジョージは被害者の名でお前を逃がしてやるぜ、バケモノの俺がなって意味だ。……分かりづれぇよ」
サーペントの飲んだくれ、もとい情報担当リード・ウェラーは劾へ解説した。
元地球連合軍所属の士官である50歳は旧暦の名作映画を見ていた。
この間の休みに一緒に見たイライジャと風花が怖がっていたのを思い出した。
「ああ、そういう意味なのね」
風花は納得した。無駄に高度だなと感心すると同時にバケモノ側で良いのかと思った。
「……どうする?国連宇宙軍に繋ぐか自力で逃げる?」
クシーは本題に強引にそらした。ネタが盛大に滑って気がして恥ずかしいという感情が存在した。
「何かすることはあるか?」
叢雲劾はクシーを頼る事にした。依頼にもよるので端的に要求を尋ねた。
クシーは人材が足りない国連宇宙軍へ指導して欲しかった。
叢雲劾はMSもMAも使えたので国連宇宙軍的には本当に欲しい人材だった。
「国連宇宙軍を鍛えて欲しいがどれくらいなら滞在できる?」
クシーはどの程度なら叢雲劾へどの程度なら可能か確認した。
劾もサーペントテールも方針として裏切ったマキャ中佐への報復や別の依頼もあるので無制限にはいられないのでどの程度なら可能かというのは有難かった。
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ザナドゥ代表クシーはサーペントテールと知り合いであったので彼らが国連宇宙軍を通して逃げられるように手配した。
どうやって通信したかといえば国連宇宙軍の定期報告を元にサーペントテールはどう動くか推理しつつ最後は勘で見つけ出していた。
クシーは弱小勢力時のサーペントテールへテロリスト鎮圧を何件か依頼していた。
現代に蘇ったゴル〇13ことサーペントテールのリーダーである叢雲劾は勝てる戦いしかしない。
場合によっては目撃者の皆殺し等の任務も引き受ける。国防などの機密が流出すれば国民が危ういといった理由があれば引き受けていた。
傭兵は基本的に雇い主に従うがサーペントテールは自分らが納得する依頼しか引き受けないし、雇い主が裏切れば必ず報復していた。
……つまり、新星攻防戦で裏切ったマキャ中佐も碌な目には遇わない。
サーペントテールはクシーと対立する事は基本的になかった。
ザナドゥへの依頼、特にクシー関連はどんな傭兵組織でも割に合わない依頼になる。
サーペントテールでなくても受ける場合は裏取りを普段よりも念入りにしていた。
戦争で儲かると短絡的に傭兵を始めた連中が標的ザナドゥ関連の依頼を引き受け、壊滅する流れは傭兵業の風物詩と化しているほどだった。
かつて汎ムスリム会議に存在した中東最大のテロ組織を壊滅させたザナドゥ及びクシーは叢雲劾からしても脅威だった。
サーペントテールはザナドゥと敵対する理由も無いので雇われる事もある。
汎ムスリム会議で悪名を轟かせたテロ組織を徹底的に潰したのは敵対すれば中立国でも容赦しないと見せつけていた。
この意義を理解した傭兵や犯罪組織はザナドゥを恐れた。
リード・ウェラーがザナドゥの序列2位のティモテ・エペーがサーペントテールに訪れた際、過剰なまでに警戒したのもこれが理由であった。
敵対した場合、本当に恐ろしい奴らという認識はよくも悪くも現在まで続いていた。ザナドゥが地球連合内で警戒される遠因の一つにもなっていた。
クシーはサーペントテールを見捨てるのも忍び難いのでクシーはセイラへ事前に話していた。
そして、サーペントテールへ国連宇宙軍に逃げるように誘導しておいた。
全て地球連合軍が勘づく前に終わらせた。
リードは余りに手際が良いと感じたが地球連合軍に内通していても無理なので完全にアドリブで熟しているとしか思えなかった。
イライジャは偶然でしょとリードへ指摘した。リードは考えるのは無駄と割り切った。
サーペントテールは国連宇宙軍の基地イスカンダルへ向かった。
クシーはその場その場を全てアドリブで熟していた。戦略戦術全部俯瞰できる奴が突然発生した出来事を即座に処理して修正させていた。
ザナドゥを完全に支配しているクシーは国連宇宙軍をセイラに任せたとはいえ出来る範囲が広すぎた。
今回でいえば、セイラは国連宇宙軍の兵士の質を向上させる優秀な人材が派遣されただけである。
最も、即断即決で通じ合うような能力のセイラとクシーであるので即応出来た部分は大きい。
クシーが勝手にサーペントテールを引き取って渡すとなれば揉めたし、セイラ以外に話すにしても余程信頼関係が築けていないと即答は出来なかった。
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サーペントテールが国連宇宙軍の基地イスカンダルへ引き受けたセイラはクシーと話していた。
クシーからの連絡は突然ではあったがセイラが最も欲しかった兵士を教育できる人材だった。
国連宇宙軍及びL4コロニー群を指導する立場になりつつあるセイラ総統は軍事のみならず、政治や経済も担っていた。
何故か熟せてもセイラは一介の看護婦であるので経験が足りないと自覚していた。
軍事教練に関しては旧国連軍軍曹で現国連宇宙軍ウツギ少尉が現場対応のマニュアル等を制作していた。
しかし、ウツギ少尉は歴戦の軍人ではあるものの正規軍の士官教育どころか尉官教育も受けていなかった。
しかもウツギ少尉が現役時代に任務として戦っていたのは全て地球だった。
宇宙で組織的な軍事行動を指導するのにはウツギ少尉では限界があった。
それはウツギ少尉本人が一番分かっていた。セイラもこれ以上を望むには少し足りないと理解していた。
そこに今回のサーペントテールである。叢雲劾は宇宙、地球問わず正規・非正規共に活躍するエリート傭兵組織の長だった。
サーペントテールがやってきてウツギ少尉はやっと休めると歓喜した。
だが、ウツギ少尉はサーペントテールの指導を受けてより良い軍事教練にするようセイラ総統とザナドゥ代表クシーから指名されていた。
ウツギ少尉はトリアエーズから劇的に改善されたが優秀な人材として酷使されていた。
ウツギ少尉は辞めたい辞めたいとトイレに引き籠ったが、セイラが引っ叩いて連れ出していた。
……本気で人がいないと知っていたのでウツギ少尉は諦めた。セイラが大変なのに自分らが文句を言えないと何とか耐えた。
ウツギ少尉はL4宙域コロニー群の避難民の中に退役軍人がいないのかと思っていた。
これが本当にいなかった。最後の核から60年平和だったコズミック・イラ世界ではテロリスト鎮圧でも働いていた軍人というのは貴重だった。
そこにコズミック・イラでサイクロプスにより大量にまともな軍人が消し飛んでいた。
サイクロプス以降、地球連合による世界徴兵で兵士が集められていた。
地球連合内では15歳から志願制、18歳なら徴兵制となっていた。
ウツギ少尉はプラント大戦で徴兵された兵士は軍人とみなしていなかった。
質が悪すぎる徴兵か取り合いになる貴重な軍人か。
コズミック・イラ世界の軍歴保持者は争奪戦になりつつあった。
傭兵集団サーペントテールの教練は値千金の価値を有していた。
地球及びプラントはまだその価値を十分に理解していなかった。
……マキャ中佐はサーペントテールからの報復と地球連合から厳しい処分が待っていた。
ウィレム准将は自身の作戦にケチをつけた部下マキャ中佐を見捨てた。
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「L4宙域における戦闘は第5艦隊ウィレム准将の引き際次第ね」
セイラは新星攻防戦に関してクシーへ述べた。
セイラは現在、サーペントテールを引き入れた。サーペントテールが欠けた地球連合軍の戦力は大丈夫か不安に感じていた。
部外者のセイラ視点でもマキャ中佐の行動は極めて悪手であった。セイラならば今回の件がザフトにバレないうちに第5艦隊ごと撤退するがまだそのような気配はない。
「ザフトが最新のMSを投入して来ている上に第5艦隊は……いや、ウィレム准将が命令しているならば命令に忠実なのかしら?」
セイラは国連宇宙軍がどう動くか悩む場面であるのでクシーに溢していた。
クシーも最前線のセイラの焦りが痛い程共鳴していたので誠実に返そうと努力していた。
「ウィレム准将が第13艦隊ペルミノフ少将の警告を聞かなかったらしい。が、それだけでは何とも言えない。国連宇宙軍も彼らの内情は分からないだろう」
クシーはセイラが知り得ない情報を元に返答していた。
国連宇宙軍に関してはセイラに一任しているので分からない事はほぼ無いはずと認識していた。
クシーは推理と勘で補うので裏付けのない事が多々あった。その為、クシーは他者から見れば突拍子もない事をしたりする。
それでもクシーは他者へ説明するときは言葉で伝えるように意識していたし、セイラへの対応も言葉にするように心がけていた。
「自信家ではあるのでしょうね。ペルミノフ少将に関しては国連宇宙軍でも偶に聞くわ」
セイラはウィレム准将が新参過ぎて分からないが唯一読み取れる性格を看破した。
「国連宇宙軍には宇宙海賊崩れもいるけれど……第13艦隊が新星近辺に現れるのを恐れていたみたいね」
セイラはクシーが新星に第13艦隊をギリギリまで留まって貰っていた理由が理解出来ていた。
第13艦隊は輸送部隊であり、道中出現する宇宙海賊を取り締まるエキスパート集団だった。
新星攻防戦が終わった後のL4宙域コロニー群には本当に居て欲しい軍隊だった。
「輸送部隊で二線級以下の軍艦や兵器でもL4宙域コロニー群ではそれ未満なのだから十分以上の効果があった」
クシーはセイラに同意しつつ応えた。
クシーがやるつもりだったのは一線級のグラハムとトールギスなどによる鎮圧だった。
それが無理な場合はペルミノフ少将ら第13艦隊のような治安維持路線を理想としていた。
寧ろ、現状では超兵器に分類されるトールギスによる力で誤魔化すよりも正規軍である第13艦隊がいればこれ以上なく助かった。
「……今はザフトと地球連合軍の一線級の兵器が飛び交う戦場では第13艦隊が常駐してくれても足りない。だから国連宇宙軍は必要だったと皆も現実は見えているわ」
セイラはクシーの微妙に自信がない感情を読み取った。
クシーもそれを理解しているが死者に気を取られているとセイラは看破した。
「貴方は今日、サーペントテールを連れて来た。貴方の行動一つで未来の人達を救った。……世にごまんといる英雄気取りには出来ないわ」
セイラはクシーへ発破をかけた。出来る事を全てしているのだからと語って聞かせた。
セイラが地球に居た頃、テキサスでジェリドという大学生がテロリストを鎮圧して英雄だと取り上げられていた。
セイラはテキサスに住んでいたから知っているがテキサスの末端は荒廃しており、そこに住むコーディネイター達は貧困に喘いでいた。
才能を持たないうわべだけのコーディネイター、コーディと蔑まれていた。
彼らも生きるのに必死で金持ちへ兄を売り飛ばしたとセイラは今では理解していた。
ジェリドもセイラがやったように彼らの一団を壊滅させただけだろうと推測していた。
当時5歳のセイラは手製のモーニングスターで単身ギャング団へ突撃して壊滅させていた。
この件に関してセイラは誰かに言っていないので今は亡き養父母も知らない。
テキサスのギャング団であるコーディ側もナチュラルの少女一人に壊滅させられたとは口が裂けても言えなかった。
「……ありがとう。セイラ」
クシーはセイラの言葉に感謝した。
同時刻、兄キャスバルことクワトロ大尉は何故か分からないが急にクシーを邪魔したくなった。
クシーはその場の直観で自身が持つ装置を起動した。ザナドゥに仕掛けられた数々の罠がクワトロ大尉の周囲に展開した。
急こう配の国境の坂や、鉄骨渡りのような戦場に架ける橋、複数の部屋とドアで仕切られた迷路悪魔の館…様々な仕掛けがクワトロ大尉にだけ展開していた。
行く手を塞がれたクワトロ大尉は凄まじい身体能力と超直観で次々とクリアしていった。
ザナドゥ職員は突如現れた意味不明な光景に驚きつつも風雲クシー城へ挑むクワトロ大尉を録画して煽りながら見ていた。
カミーユはキヨからドクター・ペッパーを受け取っていた。
キヨとカミーユはアレをザナドゥ本部にまで作っていたのか語り合っていた。
彼らはザナドゥ初期はこんなのばかり作られていたと思い出しながらクワトロ大尉の無駄な足掻きを鑑賞していた。