極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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閑話 僕の家のせいで疲れてない?いや、本当に

コズミック・イラ70年7月11日、ザナドゥ代表クシーはL4宙域コロニー群の国連宇宙軍で現在、広報担当を担っているカトル・ラバーバ・ウィナーと通信していた。

 

姉シグネに嫌な予感はしていたもののクシーはカトルと話す事を優先していた。

姉シグネが過去3年のザナドゥに関する何かを調べているとクシーは勘づいていたがベラに隠されてしまっていた。

最近話したアリサ・ロッサの事件を思い出したが繋がりが分からない。

クシーはカトルの話し合いが終わり次第自分の家庭事情に向き合おうと決めていた。

クシーの勘はこれ以上先延ばしにするのは不味いという警鐘が響いていた。

クシーはシグネに直接聞くべきだと直観していた。

だが、この段階ではカトルの後でも大差無いので気になる事を先にしていた。

カトルの姉の誰か、その友人の顔をシグネが立ててくれるとクシーは祈った。

 

カトルとの通信後、クシーは姉シグネの顔色を窺ってザナドゥ本部直営特殊孤児院へ直接訪問する事になる。

 

『私ともう少しお話すれば不安がってギリギリ行ける距離なら直接謝罪しに来ると思いますよ』

7月9日に国連宇宙軍のアイドルことアリサ・ロッサは不審がるシグネに悪魔のささやきをした。

 

シグネは悪魔であるアリサの言葉を即座に理解した。

シグネに関係の無い相手、アリサが愚弟へ懸想をしていると仮定すれば(不愉快だが)何か吹き込まれていないかと心配するだろう。

L4宙域のぽっと出より姉であるシグネが近くにいた。

当然、愚弟からすれば姉である自分が何よりも優先されるはずである。

 

ベラが煽るが弟である限り姉であるシグネに屈するはずであると思い込もうとしていた。

最近放置されている……ではなく姉を心配させない為に忌々しくも配慮している気であるに違いないと言い聞かせていた。

 

シグネの認識はおおよそ正しいがクシーは姉の相手が面倒だからと無意識に余計後回しにしていた。

カトルの件に関しては譲れないので意図的に後回しにしたがここまで延期しなくてもシグネへ連絡はできた。

クシーはそう思ってはいるが姉シグネが自分へ直接訪問すれば予定を繰り上げてすぐに対応した。

実の両親と違いシグネが気にしてくれているという事実だけでもクシーの身内判定補正で一定以上の好感度があった。

クシーはシグネに関して大分ちょろかった。だからこそベラはシグネに大分失望していた。

 

ベラが主を直接誘惑しても基本効かない。それどころか巫山戯てないで仕事をしろと言われていた。

明確にベラとシグネの間でもクシーの扱いの差があった。

その為、ベラはシグネと話す度に本気でイラっとする事が多々あった。

実際のところ、クシーは色恋で無責任になってはならないと自省していた。

仕事あるし忙しいし休みたいと思っている中でベラが巫山戯けているように見えていたので段々雑になっていた。

シグネくらい距離を空ければ気にするだろうがベラは基本クシーから離れないので関係も変わらなかった。

義姉シグネに関してクシーは色んな意味で心配だった。

クシーは仕事に疲れていても重い腰を上げるくらいの優先順位がシグネには設定されていた。

 

アリサと会話したシグネはアリサに何の益があるかを考えた。

アリサを調べれば余計に愚弟が気にするとシグネは看破していた。

この場合、シグネの事もだがアリサの事も愚弟の脳内を占めるだろう。

シグネは相乗りされたようで不愉快だがアリサのメリットも理解した。

シグネはベラに連絡してアリサ・ロッサの情報を渡すように連絡した。

 

ベラは主に許されている職権の範囲内なので了承した。

ベラは義姉シグネVS姉属性の妹セイラによる姉対決を期待していた。

そこは残念だがいつでも再燃する火薬庫として面白そうだし、主から何も聞いていないのが気になるものの第三勢力アリサ・ロッサの登場にワクワクしていた。フィクサーにしても加減しろ。

ベラは主が幸せになって欲しいなと思いつつキャットファイトを特等席で見ていたかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

話はクシーとカトルの通信に戻る。クシーはウィナー家の家庭問題に自分を重ねてやや深入りしていた。

ここまでする必要はないのだが、クシーはリューリク家の両親から捨てられた身の上なので気にしてしまっていた。

そして、29人いるカトルの姉のうちザナドゥに所属している姉はカトルの父ザイードと現在もなお対立していた。

クシーが間を取りなす形になっているがザイード側は娘を心配してクシーへ聞いていた。

カトル姉側はクシーから父ザイードに関してあまり言われたくないらしいので控えていた。

 

カトルは姉のような関係悪化する予兆が見え始めていた。姉の件はクシーの知る前から拗れていたのでカトルに関してはどうにかならないかと気にしていた。

クシーとしてもL4宙域の有力者であり、資源衛星を保有するザイード・ウィナーとは色々交渉したり融通を聞いて貰っていたので無下にはしていなかった。

 

「確かに私の平和主義と君の御父上の平和主義はまるで違う」

クシーはカトルの言葉を肯定しつつも平和主義は同じと言い切った。

カトルがザイードを無責任であると言ったりクシーが平和主義でないとかいうので少し説明することにした。

 

一般論から言えばクシーのは平和主義者ではないし、殴り愛で解決した方が分かり合えるではないかとか妄想し始めるヤバい奴である。

平和な世界で殴り愛が犯罪ならやらない程度の理性はあるので表向きは平和主義者に見えるかも知れない。

 

「私の平和主義は言わばロカルノ条約の延長だ。第一次世界大戦後の地域的集団安全保障条約」

クシーは旧暦1925年の条約を引用しつつ、分かるかとカトルに示した。

ウィナー家の教育はしっかりしているのでこの辺りは伝わるだろうと踏んでいた。

 

「敗戦国ドイツの国際社会への復帰の為の妥協ですよね?……だけど、それは4年後の世界恐慌で破綻した条約だったはず。一時の平和で後の争いを生むと言いたいわけではないでしょう?」

カトルはクシーの言葉から思い出して端的に述べた。

L4宙域コロニー『サンドロック』のボーディングスクールの授業では歴史資料集に掲載されていた条約だがここまで覚える必要ないと教師は言っていた。

しかし、実家のガヴァネス(女家庭教師)から条約関連の動きは大事だと念を押されていたので覚えていた。

しかし、カヴァネスから教わったのは学校へ行く前であり正確かは少し怪しかった。

 

「それは結果しか見ていない。世界恐慌による社会不安でナチスという19世紀に逆行するような政治組織が生まれた。……あれは先進的な取り組みへの失望が招いた結果だ」

クシーはカトルの反応から言葉を選んで事実を伝えていた。

クシーからすればカトルは同年代であるが、同じ年頃の子ども達と比較して優秀だった。

しかし、旧暦になると理解が浅いと看破していた。

紀元前と紀元後どちらも大切だが、西暦を知らないでコズミック・イラを語るのは惜しいとクシーは常々思っていた。

 

クシーは多くの人々が歴史を学んでいればコズミック・イラの憎しみは何処かで止まれたのではないかと考えていた。

ナチュラルとコーディネイターという対立構造に似た物は例えば旧暦ルワンダ虐殺でのツチ族とフツ族を彷彿とさせる憎しみの連鎖の歴史が存在していた。

とはいえ、過去の凄惨な歴史から学んで防げないのが人類の歴史でもある。

 

コズミック・イラは全体的に科学至上主義で歴史や宗教にアレルギーを抱く人も多かった。

リューリク家は旧暦の半分以上存在していたので身近に感じているだけかもしれない。

クシーはそのような贔屓目のではないかと疑問も抱いていたので考えを押し付けていない。

多くは期待できないとしてもコズミック・イラ暦だけで考えを止めないで欲しかった。

 

「ロカルノ条約ではソ連、現在のユーラシア連邦で言えば旧ロシアに相当する部分が排除されていた。ドイツとは関係ないという理屈でだ」

クシーはギリシャ正教とか今日日みないよなと思い出しつつ、カトルに質問を投げかけた。

 

「関係ない……ああ、ラパロ条約か!」

カトルはクシーが先生みたいだなと思いつつ、問に答えた。

 

「その通り。……大抵の人はコズミック・イラで区切ってその前の歴史を知らない。核を使うような恥ずるべき時代と言う者もいるし、不要とされている」

クシーは一般的な認識をカトルへ述べた。

クシーは正直コズミック・イラの方が酷くないかと思ってる。

再構築戦争関連で色々出てきているので悩ましいが、それ以外は大体コズミック・イラ世界は終わっていた。

 

「歴史的文脈から物事を推し量る行為はインテリの言葉遊びだ。しかし、積み重ねて来た過去を無駄と一蹴するのはおかしいと思わないか?」

クシーはカトルに問いかけた。クシーは名家ウィナー家のカトルへ共感を求めていた。

 

「……」

カトルはどう返すか悩んだ。

カトルは平和主義と歴史を考えろというクシーの意図は何となく理解していた。

しかし、どう答えるのかがわからないので沈黙していた。

 

「すまない。ラパロ条約によりソ連はドイツの国際社会復帰を始めて承認した。それが気に食わないのかどうか今となってはわからない。しかし、ソ連がドイツを許したのにロカルノ条約では無視された形になっている」

クシーはカトルに結論を求めすぎたと反省した。

 

ちなみにラパロ条約で一次大戦の敗戦国ドイツを国際社会で認めてやろうよとソ連が条約を結んだ。

その3年後のロカルノ条約ではソ連を省いてドイツを認めてやると条約を結んだ。

これはソ連も腹が立つことは間違いなかった。クシーは平和を願った条約の欠陥を提示していた。

 

「ドイツの現状維持と相互保証にはソ連は関係ないと省いた。確かにドイツ国境にソ連は一切関係ない。ソ連側は別に集団安全保障体制を築き始めた」

クシーは旧暦の授業を続ける。平和にするための条約はあらゆる意味で最悪の形で終焉を迎えていく。

 

「ソ連とフランスが結んだのはロカルノ条約違反だとヒトラーは指摘した。平和を目指した条約であるのに話が違うとドイツ国民を激怒させた。ナチスの再軍備を決定づけた」

クシーはすれ違いが第二次世界大戦を引き起こすきっかけになったと一旦語り終えた。

 

「……つまり、何が言いたいんですか?」

カトルは酷い話だと思ったが、平和主義はダメではないかと少し思ってしまっていた。

クシーは最初にそういう意図ではなさそうなので続きを求めた。

 

「私は平和というのは誤解やすれ違いで簡単に崩れると考えている。そうならない為に私は力を行使することもある」

クシーはカトルの喰いつきを認識し、再び語り始めた。

 

「君の御父上ザイード・ウィナーは完全平和主義者だ。言って悪いがカトルは父上の平和主義しか見えていない節がある」

クシーはカトルがザイードに反発するのは落差が激し過ぎるからだと認識していた。

実際、カトルも極端すぎる父親に反発していた。ザイードの戦う手段を完全に放棄する姿勢がカトルは理解できなかった。

 

「ウィナー家の教えとして平和主義を理解しているが一側面しか理解できていない」

クシーはカトルへ言い切った。クシーは本当に極端なんだよウィナー家と思っている。

 

「そういう君は平和主義というが違うように見える」

カトルはクシーへ再度指摘をした。戦う平和主義とはどういう意味かと問いかけていた。

 

「私のような輩は漸進的平和主義というのだ。長期的に見ればザイード氏に同意出来るが段階踏まないと無理だから武力の行使も厭わない。……本質的には理論を築けない半端者だよ」

クシーは平和主義でもあんな極端なのと一緒にするなと自分の姿勢を示していた。

そして、ザイード・ウィナーというのは本気で頭がイカレているが信念は本物だと強調していた。

 

「……それなら僕も当てはまらないか?」

カトルはクシーが語る平和主義は守るための戦いを肯定するものであると評価した。

カトルは平和主義を一括りに批判していたが父親の印象が強過ぎていた。

 

「当てはまる。一応念のために言うが君の父上も私とは違うだけで間違っていない」

クシーはカトルに同意した。戦う事もまた平和に繋がるなら平和主義と呼べるとクシーは勝手に解釈している。

クシーがザイードと仲良く出来ているのは彼が差異あっても良いと認めていたからだった。

融通の利かない活動家より柔軟であるが、グレイブヤードのH博士とかいう5爺みたいな災害と付き合えているのはどうかとクシーは思っていた。

世間一般的にはH博士は知られていないのでクシーの方が遥かにヤバい。

 

「僕の事を気に掛けるなら……」

カトルはクシーの言葉を慰めと捉えた。

父を否定するのはクシーもカトルも変わらないのではと理解を示そうとしていた。

 

だが、クシーはカトルと違う見方を持っていた。

そもそもカトルの理解ではザイードとクシーが仲良く出来るわけがない。それにカトルは気が付いていなかった。

 

「違う。いいか、ザイード氏は恐らく銃を突きつけられても戦う事無く逃げる。だが、世界が敵に回ろうが殺されようが最後まで戦わない覚悟を持っている」

クシーはカトルの態度から自分の父親を過小評価していると受け取った。

カトルは身内であるので大げさに聞こえているかもしれないと察した。

クシーは本物の完全平和主義者ザイード・ウィナーがどれほどガンギマリかを伝えようとしていた。

 

「私のように武器を用意したり戦ったりするような輩では絶対出来ない領域にザイード・ウィナーはいる」

クシーにとって人生とは戦いであるが平和主義と自称していた。

クシーは自己矛盾の塊のような自分を理解していた。

クシーは平和主義を文字通り死ぬまで貫くだろう思想家ザイード・ウィナーを高く評価していた。

クシーはザイードの真似は出来なかった。

 

「完全平和主義者を騙る半端者を幾らでも見て来た私が断言する。……ザイード・ウィナーは平和への覚悟が違う」

クシーはカトルへお前の父親は凄いのだと本心から言って聞かせた。

 

「故に遠い相反する思想だとしても敬意を以て私は……どうした?」

クシーはカトルが黙ったまま何か言いたそうな気配を感じ取り中断していた。

 

「……父さんに理解してくれる人がいたんだなと思ってさ」

カトルはここまで父の事を語る人間を見た事がなかった。

そして、平和について語ろうとする父以外の人に初めて会った。

父は色々言っていたが近すぎて聞こえていなかったかもしれないと思いなおした。

 

「君の方が分かっているだろう。私よりずっと」

クシーはカトルの言葉に照れ隠し混じりに事実を断じた。

クシーは所詮他人なのでカトルの方がよっぽど詳しいはずであった。

 

「そうかな?……そうかもね」

カトルはクシーから少し視線を逸らしつつ同意した。

 

……今更ながらウィナー家の問題でクシーに物凄く迷惑をかけていないかとカトルは気が付いた。

この時、ある意味父ザイードをカトルは超えた。カトルには冷静になったら恥を自覚するだけの感性を有していた。

ザイードはクシーに物凄く迷惑かけて頼っている自覚はあったがその事実を全力で無視していた。

誰がどう見ても息子と同じ年齢の子どもに頼り過ぎていた。恥を知れ。

 

擁護すればザイードは妻を失ってから29人いる娘の一人と初めて喧嘩別れをしていた。

初めての息子はもっと酷い失敗をするのではとザイードはかなり悩んでいた。

少し前ザナドゥへ娘が所属し、その縁でクシーは親子を取り次いでくれていた。

クシーがカトルへ口添えするか聞いて来た。……まぁ、頼りたくなるのも理解できるだろう。

だからといって丸投げして良いわけではない。この点だけはザイードはダメ親父だった。

 

クシーはウィナー家の問題に物凄く迷惑をかけられていた。

それでもカトルの家族関係が上手く行くならクシーは特に気にしない。

クシーにとって身内の姉がこれから問題だった。機嫌が悪くないかとクシーは大分不安だった。

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