極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年7月11日、ザナドゥ代表クシーは義姉シグネ・アペッナ・リューリクに渋々会いに行っていた。
クシーはシグネが滞在するザナドゥ本部直営特殊孤児院へ向かった。
後から追いかけたベラは人払いの済んだ部屋で話す二人の様子を盗み見ていた。
……二人は謝罪やら何やらガン無視で仕事の話をし始めていた。
ベラはシグネが最後の最後で気恥ずかしくなり日和ったと理解した。
ベラはアリサから何を言われたのかは知らないが断言出来る事があった。
アリサに乗せられた勢いで義弟を呼んだが何を話せば良いか分からなくなって逃げたなテメェ。
ベラはシグネに対して何だよもうまたかよと舌打ちをした。
主も主でアリサ関連が気になるが仕事モードになっていた。
ベラはセイラを主の姉と扱うべきかと真剣に考えながら二人の様子を盗撮していた。
「ナチュラル用OSについて?答えられる範囲でいえば本当に出来ていない」
クシーはシグネへ質問に真剣に回答していた。
会話の始めのクシーは姉であるシグネと向き合うのを避けていたかもしれないと正直に謝罪していた。
十秒程の沈黙の後、仕事モードに切り替わったシグネに合わせていた。
クシーはそういう雰囲気でなかっただろと思いつつもプライドの高いシグネを辱めないように接していた。
……知らない揉め事は困るのでアリサの件は聞きたかったが聞ける時に聞くつもりだった。
「まず、ナチュラルでも動かせるMSを作る場合幾つか考えられる操作法がある。MSそのものを簡易な操縦法にするか、複数人で操縦する形式にするか…」
クシーはシグネに前提を語っていた。
シグネの私兵にでも持たせたいならザナドゥのMS用OS、フレームOSは貸し出せるのかとMSに関する知識量を確認していた。
場合によってはザナドゥのOS関連の研究に協力してくれるかもしれないとクシーは期待していた。
シグネは非常に勘が鋭い上にプライドが極めて高い面倒…気高い女性である。クシーは気取られぬように気持ちを切り替えていた。
シグネ側も多少強引な自覚はあるので細かい追及はしない。
それでも0.1秒でもクシーが切り替えるのが遅れたら姉に恥をかかせたとして逆ギレした。
シグネは10秒も沈黙していたとクシーは考えてしまうし、逆ギレされたら流石に腹立つ。
クシーはシグネを面倒臭いと思いつつも気にかけてくれる実家の姉であるので出来る範囲で気遣いをしていた。
「そこはいらん。結論だけ聞かせろ」
シグネは大体知っているので飛ばすように言った。複座式が一瞬気になったので顔に出た。
「何かあった?」
クシーはシグネの反応に違和感を抱いたので尋ねていた。
クシーとしては火器担当と操縦で分けるMSを考えたりしたが、複数で操縦するMAが地球連合軍で流行るかもしれないとも考えていた。
シグネの私兵はナチュラルの方が多いのでそれかなと辺りをつけていた。
クシーは仕事モードなので複座式でいちゃこらするなどという破廉恥な妄想するわけがなかった。
性的な事柄に対して生真面目なクシーは咄嗟に出てこなかった。殺し合いで興奮する輩は部下にいるがゲームだけにしろと内心引く程度には良識があった。
「何でもない。続けろ」
シグネは本当に余計な世話だったので話を続けさせた。
盗撮していたベラはそこで押せないからシグネは駄目なんだと孤児院の子に入れて貰ったお茶を飲んでいた。
孤児院の職員は通報すべきか悩んだが堂々と盗撮しているベラを見てクシーならこういう事をさせてもおかしくないと勝手に納得した。
職員は教育に悪いので見ちゃいけませんとソーマらを下がらせた。
後日、孤児院の職員から変態行為を控えるように注意されたクシーはベラを叱責した。
盗撮自体は隙を見せた奴が悪いので仕方がないが子どもに見えない様にやれと叱りつけていた。
孤児院の職員はツッコミどころ満載な少年クシーの将来が不安になった。
「……ザナドゥの機密になるので言えないが指摘通り作ってはいた。しかし、そのOSはとにかく不安定だ」
クシーはシグネの求めるような完成品では無いのだと言い切った。
反応を見る限りシグネはMS関連も大分詳しいと分かった。信用できる相手として提供するかは考えていた。
クシーと比較しなければシグネは1回しか使えないとはいえ盗聴不可能な電話等を開発していたりした。
クシーも現在アズラエルの使い走りをしているバスク少佐に持たせてやり取りをしていた。
MS関連になるとまた異なるので調整が必要だったがどこまで協力できるかとクシーは仕事として考えていた。
「どういう意味だ?まさか性格によって乗れないなどと言うわけでもあるまい」
シグネは冗談交じりでクシーへ問いかけた。
性格により使えない兵器というのも意味が分からないが性格適性は有り得るので全否定はしていない。
兵士の適正云々なら適正試験は存在していた。現在の地球連合では適正を無視した徴兵が行われている。本来ならば兵士になれないような人間が増えつつある。
「……近い。似たような性格でも使えたり使えなかったりするので単純な性格ではないのだが」
クシーはシグネの指摘に半分同意した。
振れ幅はあるが他者を拒絶する者は適正が無い傾向にあった。クシーは仮説に共振と名付けていた。
ギュネイは乗れないがグラハムは乗れるという差があった。
ギュネイもグラハムもコーディネイター用OSが使えるのでフレームOSに頼らなくても良い。
ただし、義肢フレームを装着している人物は性格関係なく乗れる。
ブルーコスモス過激派等が手足を切り落として悪用しかねないのでフレームもフレームOSも流出しないように気を付けていた。
「……単純に性格を矯正しても乗れるかも怪しいのだろうな。戦闘中に操縦できなくなる可能性もあるのではないか?」
シグネは驚きつつも考えて質問を投げかけていた。
兵器でも道具でも何故か使えるという状態は本当に不味かった。
今まで使えていたのに使えなくなれば大惨事になりかねない。そうならば論外だろうと指摘していた。
「否定は出来ない。理論上はそのような事が無いはずなのだが」
クシーはシグネの質問というより追及に応えていた。
クシー人体に類似するMSをナチュラルでもコーディネイターと遜色なく使える技術を科学的に作ったつもりだった。
簡単に言えば、フレームOSは義肢のフレームとMSを脳波や体内の電気信号をリンクさせて稼働させるシステムである。
故にフレーム装着者は自分の手足のように動かせるのはある意味当然だった。
フレーム未装着でも膨大な蓄積データからMSパイロットと類似する人間の動き等を引き出していた。
類似する人間のデータがなくても他の人間のフレームデータを参考に出力するので多少の差異はあれど誰でも使えるOSであるはずだったが何故か差が生まれていた。
「……充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かないという。しかし魔法と区別できる科学技術は、十分に高度ではないとも言えよう」
シグネは席を立ち窓の方を向きながら迷える義弟に語り掛けた。
ザナドゥが作った理解できない現象が起きているOSは現段階の科学技術には無い何かがあった。
魔法と片付けてしまえば或るは使えるかも知れない。
シグネが普段使い潰している弟未満の男共は何の疑問も抱かずに戦えるだろうが地球連合軍では怪しい。
「過去を汚点と切り捨て科学至上主義が蔓延るコズミック・イラでは理屈が通らんと話にならない」
シグネは古臭いだけで科学的な根拠も何もないリューリク家の当主として断言した。
廃嫡されたとはいえ王族の末裔であるクシーが不当なバッシングを受けているのは旧暦の『王』という幻想がないからだった。
でなければシグネがさっさと皆殺しにしていた。
「……ただ単に兵器を使える才能で片付けるにはそのOSとやらはあまりに普遍的存在に成り得るな」
シグネは『王』という概念が神に等しい幻想を抱いていた時代を思い出しつつ弟に向き直っていた。
シグネは自然と顔を見せろというように手を添えようとした。
「私も心配ではあった。……コーディネイター用OSで操縦可能なコーディネイターでも開発中のOSは使用できない事が多発していた」
クシーは仕事の話の途中で頬の辺りに近づく手に気が付き少し下がってしまった。
仕事の話をしていたクシーは突然の姉の行為に動揺した。
ベラは今だ、やれ押し倒せとシグネを応援した。ちなみに今いる場所は孤児院の一室である。
クシーが下がったのは驚いたのもあるが場所も悪かった。
「はぁ……。ザナドゥを第三勢力になると世間一般で言われているが第五列でも生み出す気か」
シグネはクシーの拒絶を見て取り自分に呆れつつ一体何作っているのかと問い返していた。
シグネは自分も自分でマリ―とソーマが見えるところで何やろうとしたのだと気が付いた。
ベラは孤児院だろうがザナドゥの敷地なのだからどうにでもなると舌打ちした。
「MSの操縦は出来るが戦える程ではないコーディネイターがザナドゥOSで戦えるようになるかもしれない。そして、ザナドゥOSでも戦えないコーディネイターやナチュラルもいるだろう……普及すれば問題になるな」
シグネは上手く使えば世界に喧嘩を売れたなと馬鹿げたことを考えながらクシーと若干距離を取り語っていた。
実際、クシーがジャンク屋に加入した世界ではシグネはフレームOSに関しての懸念を逆に利用すべくハインライン達へ提案していた。
このフレームOS特徴はその世界では全勢力へ宣戦布告の大義名分となっていた。
フレームOSの精度を上げる為のデータ収集期間が終わるまでシロッコは二度と体験したくないとトラウマになるレベルで酷使される事になる。
その後もパイロットとしても司令官としても技術者としてもシロッコは灰になるまで使い倒されていた。
文字通り灰になられては困るのでその世界のマティアスは未来の栄養ドリンクを早期に開放していた。
シロッコは部下一人いなくなるだけで自分が過労死すると理解していた。
他の世界で自分が見下していたような相手であろうが体調などを気にかけていた。文字通り死活問題だった。
本当にこの世界のシロッコは泣いて良い。
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「例えばだが、OSの神経接続の代謝速度にかさ増しする方法ではダメだったのか?人工神経接続技術そのものは世界で普及しているフレームを見る限りあるだろう」
シグネはザナドゥOSがフレーム由来と知らないので疑問を投げかけていた。
フレームは世界的に普及しているが技術の秘匿が徹底しているのでシグネも詳細を知らなかった。
「……神経接続というよりも神経振動子を適合させてセンサ未入力でもある程度自立した運動パターンを出力させている」
クシーはシグネの知識から協力を依頼しても良いと判断して言った。
とはいえ、先ほど述べたようなリスクがあるのでクシーはシグネを軽く試していた。
クシーはシグネお姉ちゃんに甘えているとベラは直観した。
こういう試しをシグネは嫌うと主は知っているはずである。
つまりこれは自分なら姉に許してもらえるという弟の甘えである。
シグネに指摘したらどうなるだろうと思いつつ録画を確認した。
「随分面倒な事をしているな。プラント産の義肢ならば神経接続で肉体そのものが新しくなるのだろう」
シグネは弟の違和感に気が付かず、プラント製の義肢とフレームを比較して語った。
新しく肉体を作るようなプラント製の義肢はコーディネイターでないと違和感や操作性を訓練で学ぶ必要があった。
そして、フレーム製の義肢は殆ど必要なかった。神経接続ではないアプローチで行われているならば納得出来た。
「フレームは元の肉体に近い物を装着する……いや、まて。臓器の運用データがあるという事は……神経修飾によるシナプス変化で……」
シグネは違和感を抱いた。
コーディネイター用OSは神経接続であるシグネは神経接続のかさ増しでナチュラルOSを作ると思っていた。
後に広まるキラ・ヤマトが関与したナチュラル用OSはシグネの発想に近いものであった。
ヘリオポリスの工科カレッジのカトウ教授の指導を受けたキラは自身の課題がMS用のOS開発であると知らなかったが真っ当な教育を受けて作り出した。
クシーは根本的に中卒であり、それ以降は全て独学である。故にシグネやキラの思いつく正当な方向に無い発想を有していた。
正当な方法も知っているが気になる別分野を統合する柔軟性があった。
それでもクシーは正規の教育を受けた方が実力を世界で正当に評価されていた。才能が有り過ぎて埋もれなかった。
「お前、フレームからOSを作ったな。詳細はわからんが膨大な人間のデータで…」
シグネは意味わからない現象も起きるわけだと納得しつつ掴みかかった。
シグネは今回に関しては悔しさや劣等感を抱いていないがそれはそれとしてムカついていた。
弟が自分に甘えたと無意識に感じ取っていたからである。可愛げのない頼られ方だと感じてもいたのでシグネはムカついていた。
「ストップ。ここで話すのは些か外聞が悪い。それにフレームで作れるならば誰でも使えるのでは?」
クシーは思ったより怒られないと思いつつ、孤児院だからと制した。
聞かれても問題ないと認識しつつ、フレームで作れる証拠は無いと指摘した。
シグネに相談するなら別の場所にしたいと暗に示していた。
「……そうだな。そういう事にしておこう。アリサ・ロッサが動かしているのはMSジンの改造機だそうだしな」
シグネは弟の頼みに理解ある姉として振舞っていた。
シグネはアリサがジンを使う限りフレームOSで頼る事は一生無いと勝ち誇った。
シグネはうっかりしていた。アリサの件はここまで一切触れていない。
「アリサ?……そうだった。何故、アリサを調べていた?話していて楽しかったので忘れていたが…」
クシーは素で忘れていたが姉が言い出したので改めて聞いた。
クシーはシグネと会話しているのに無粋と感じていた。
聞くのもどうかと思っていたのに向こう言って来たので喰いついてしまった。
「知らん!……いや、違う。私も知らんが国連宇宙軍の広報だからという理由で声をかけられただけだ。それ以上ではないのだから気にする必要は断じてない」
シグネはクシーの喰いつきに思わず否定したが、これだとクシーは余計気にしてしまうと悪魔アリサの思考を読み取った。
シグネは弟へ表向きの説明をした。実際、内容はそれでしかない。アリサが見ていたら舌打ちした。
「大体あの女は何故カトルより目立っているのだ」
シグネは苛ついたので聞き返した。アリサより友人の弟の方が広告向きだと思っている。
「カトルはL4宙域では人気あるけど地球で知られていない。アリサは一応地球でアイドルだったから顔が広いんだ」
クシーは広告として有名だからアリサが主役になりがちだと説明した。
唐突に落とし穴に嵌るようなバラドルならともかく正統派美少女路線で恋人を作ったら彼氏が殺されるとクシーは認識していた。
クシーはアリサを振ったが今思うと怖かった。現在進行形で埋没する蛇のように隠れ潜みじわじわと絡み取られそうになっているとは気が付いていない。
クシーの認識ではアリサを振ったはずであり実際振ったが、アリサは古臭い価値観を壊せば良いと思われていた。
アリサは知らないがヘタレ…シグネではなくベラを巻き込めばクシーは不味かった。
「アイドル?フィクサー気取りの間違いだろう?」
シグネは反応からアリサの本質を看破した。
最終的に自分の物に成れば良いと考えているタイプだと15分の会話で見抜いていた。
シグネは自分を利用しようという野心家を見抜いて使いこなして来た。
弟関連は壊滅的だがそれ以外に関しては極めて優秀な女王だった。
「ああ、やっぱりそう思う?アリサ本人には言えないけどアイドルよりロビイストとか向いてそう。敵になれば直接ではなく間接的に立ち回るだろう。そうなると少々厄介な気がして……」
クシーは暗躍して国連宇宙軍に加入したアリサの手腕を語り出した。
クシーはアリサ・ロッサを55点のアイドルとして評価していたがフィクサーやロビイストなら恐ろしい相手だと認識していた。
アイドルの技術で懐に取り入り、交渉材料を引き出し、立ち回れるアリサは間違いなく大成すると思っていた。
「本人がそのような仕事を望まないのは残念だが敵対していないと思えば優秀な職員だと考えているのだが、どう思う?」
クシーはシグネにアリサに関しては変な関係じゃないよと説明しつつ同意を求めた。
フィクサーとして評価した姉の言葉から賛同してくれるとクシーは純粋無垢な視線をシグネに向けていた。
「……お前、生き死にかからないと途端にポンコツになるな」
シグネは愚弟に思わずツッコんだ。
シグネはアリサが完全に脈無しであると理解できたので少しだけ同情した。
別室から盗撮中のベラもクシーが凄い脈無しであると見て取った。
主からここまで言われるのは中々見ないとベラは第三勢力へ黙とうを捧げた。
ベラは主からアリサを振ったと聞いていなかった。クシーからすればアリサに恥をかかせない為に黙秘していた。
ベラが知っていたら主に振られたのに何故、シグネへ介入したのか疑問に思いアリサへ連絡を取っていた。
メインは失敗したがサブプランは達成できたとアリサは喜んだ。