極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ68年9月、世間では秋の入学シーズンとなっている。
ザナドゥは各種産業へ進出しているが、未成年への教育支援も行っている。
これは五年前から行っているザナドゥの支援事業の一環だ。環境保全と合わせてほぼ慈善事業といえる。
ナチュラル、コーディネイター関係なく行っている。
当然であるが対象者はナチュラルが圧倒的に多い。支援を通して人材発掘や青田買いも狙っている。
自分で言うのもおかしいが、ザナドゥとかいう怪しい組織に金を借りたい人間は色々と困っていることが多い。
結果的に審査が通ればそのままザナドゥ関係の会社へ就職する者の比率が増えてきていた。
…今後も考えて入社時に初歩的な軍事訓練も行っている。
強制的に徴兵されて戦死されたくはないという想いからだった。
飽くまで任意なのだが情勢不安から断る者は滅多にいない。とはいえ、少しばかり同調圧力がある気がする。
普通に断れるので本当に断っても良いがそこは個人の意思力であるのでどうしようもない。
軍事訓練の結果、埋もれていた才能を開花した者も多かった。
中にはザナドゥの人間ならば可能とは言えスピアヘッドのパイロット免許まで取る者もいた。
現在、軍主導で行われている宇宙戦用モビルアーマー開発計画である『メビウス計画』のテストパイロットとして引き抜かれた者もいる。
私としては自衛ではなく完全に戦争に全振りの兵器であるため、気乗りしないが自社の持つ技術が故に関わってもいる。
強力な武装に特殊誘導兵器ガンバレルがあった。私はこれを試したが非常に強力だと言えた。
恐らくだがこれを使えるのならばプラントの新兵器ともある程度張り合えるのではという感想を持った。
だが、どうも十分に扱えるのは極めて少ないようである。
訓練次第で使える人もいるがエースパイロットの中でも上澄みの部類だった。
才能でしか使えないのであれば兵器として欠陥がある。誰でも使える兵器が好ましい。
私は軍部に少数生産に留めてデチューンした物を量産した方が良い。兵装の無駄だと進言した。
受け入れられるかはともかく下手に鹵獲されて技術を応用されたら不味い気もした。
欠陥兵器でも使いこなせれば強いのは間違いない。…嫌な予感がした。
ガンバレルを私の他に十分使えたのは大西洋連邦軍のムウ・ラ・フラガ少尉くらいか。
私が生まれる前に言い方は悪いが没落したフラガ家の子息だったと記憶していた。
その為か最初から印象に残っていた。何というか第六感的な物が共鳴する感覚がある。
フラガ少尉の方も何か感じているような気配もある。私程強くはないのか気の所為という感じだった。
私は気さくな人柄で好ましいと思っている。だが、はじめの頃はフラガ少尉から苦手意識を持たれていた。
嫌われているわけではなかったので話しているうちに普通に打ち解けた。…私の年齢を忘れられて飲みに誘われた事もある。
後、ベラをナンパしたりするなど何かとチャラい印象を受ける。
苦手意識の件は多分、幼少期にフラガ家で何かがあったのだろう。
実際、私が実家と疎遠な事を知ると少し態度が軟化した。
本人は自覚がないようであったし触れはしなかった。私も話題にして良い気分はしない。
どうでも良いがフラガ少尉は私がユーラシア連邦の人間という理由で大丈夫などと言って酒を飲ませようとしないで欲しい。
私は15歳以下の未成年だ。…15歳になればセーフだろうか?
そんなこんなで半年が経過していたが、今なお見えない未来も考えなければならない。
ザナドゥの行う奨学金は国家の福祉事業の代替として一部税金控除にもなっている。
それでも当然利益はない。というか今後回収できる見込みもなくなってくるだろう。
将来的に考えれば完全に赤字である。誰から見ても採算が立たない。
昔のような慈善家も減っているので”常識的な”資産家からは変人扱いされている。
回収できないと思われる最大の理由はプラント理事国とプラントは戦争となるからだ。
今なお慈善事業同様の奨学金をやっている資産家はいない。
優秀な人材限定かつ将来は絶対に就職しなければならない等条件が厳しいところはあるが、ザナドゥのように回収の見込みの薄い貧困層までは対象外なのが殆どだ。
戦争になればザナドゥ基準でやっている奨学金の回収は戦死や障害で回収できないだろう。
生命保険まで対象にした奨学金をやっているところまである。
というかそれが当たり前だ。私の意思で遺族への最後の想いを取り上げるのだけは禁止している。
そんなまだ温情ある事業者すら戦争は短期決戦だと思っているだろう。
彼らはある意味私以上に損をすることになる。
何せ私は戦争長期化を踏まえてもやっている。その意識の有無は採算どうこうの問題ではない。
軍事関係者は口を揃えて万が一プラントと戦争になっても国力差からすぐに終わると言っている。
そんなわけがないと主張するのは私と一部くらいだ。
プラント側の新兵器で上層部の楽観論はすぐに消し飛ぶ。
おそらくは高等教育の余裕すら失われるだろう。一部の富裕層は中立国へ子息を派遣するだろう。
既に行っているのが大半だが、更に増える。
アルスターとかいう大西洋連邦のブルーコスモス穏健派でどこかで聞いた気がする声の持ち主の息女もヘリオポリスにいたはずだ。
彼女は確かブルーコスモスではない。しかし、キラはイジメられないか心配だ。
…今更ながら中立国に行きづらいのは面倒臭い。
戦争が終わるか制裁を跳ね除けるほどの権力がないと厳しい。
そんな私も一応はブルーコスモス系列の組織人である。
結果的にナチュラルの高い身分の子息達の輸送はザナドゥの傭兵達が雇われる事も多かった。
中立国へ行く護衛で簡単な訓練にもなっている。ザナドゥの軍事力は大幅に強化されていた。
何せ自分の子どもたちを守るのだ。今ではあのジブリールすら私個人はともかく組織としてのザナドゥには迂闊に手を出せなくなっている。
自分の大切な子どもに万が一があってはならないという想いが皮肉にも私が必死に奔走していた事を簡単に成し遂げていた。
既にザナドゥの傭兵が子ども達をコーディネイターのテロから守った実績もある。
彼らからすれば命の恩人に等しいので何かあれば抗議してくれる。
…私としては複雑だが未来のためにやらなければならない。
富裕層を除けば15歳からの学徒動員も有り得ると私は思っている。
こういう死ぬのは庶民だけという構図は腹ただしい。ノブレス・オブリージュという言葉を忘れたか。何だかんだでプラントはそういう傾向がある。
あそこまでいくとかえって戦争に私怨が残る気がするが。
爪の垢を煎じて飲むくらいはして貰いたい。
大体、年相応になれば年に暗殺者の一人や二人来るものだろう。何故、他の奴らには来ないのか。
私の場合は地球に来てから毎月1回以上は来ているので最早恒例行事だというのに。
口煩かったティモテすらやや諦めている。
私としてはもう次の暗殺者はどんな暗殺なのか少し楽しみにしている。
当然、暗殺者が来るのを先に調べている。カナードが見つけるのが一番早い。
そういう雑な奴はカナードが弾いてくれるので有り難い。
殺すのならば真心込めた必殺でなければ意味がない。誰かを巻き込む形の暗殺ならば潰すが。
顔芸のジブリールと姉は私に送り込む暗殺者ランキングで1位と2位を熾烈に争っている。
実家から来る暗殺者は私が取り込んでも文句が言われない能力ある人間だ。
姉はもっと人を大切にするべきだと思う。
そんな感覚が麻痺しているのを自覚している私であるが唯一心から喜んでいることがある。
来年の今頃はキラはヘリオポリスの工科カレッジ辺りに入学しているだろうことだ。
平和なところで平穏に暮らして居てほしい。心の底から願っている。
…アスランはどうなるかわからない。進学よりも軍隊へ入ってもおかしくはない。
その時が来れば私の関わった兵器によって最悪死ぬかもしれない。
私はその覚悟もしているつもりだ。
だが、情けないことにそれを想像するだけで今なお手が震える。
もう既に私の手は汚れているようなものだと言うのに。
それにも関わらず、喪いたくないと体が悲鳴をあげている。
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南アメリカ合衆国のリマ。いつものように暗殺者が来たので口説いていた。ザナドゥへの勧誘である。
だが、最近は正直少し飽きてきていた。そのためか軽く現実逃避してしまっていた。
「…」
カナードが殺意むき出しの視線を暗殺者に向けている。心なしかいつもより殺気立っている。
「…良いことが一つだけあるぜ」
今回の暗殺者である中年の黒人男性がそう言ってきた。武装や隠し持っていた爆弾は当然解除してある。
「何だろうか?今度から日にちを決めて事前に報告してくれるのだろうか。そうだと有り難いんだが」
私は呆れているザナドゥ構成員のヴィクトリアに密令をさり気なく渡した。
「えっ、ちょっ…」
ヴィクトリアはこのタイミングで渡すのかと慌てていた。どうも緊張感が足りないのではないか。
今は完全に情報がバレないのだから渡すとか察してほしい。
何せ何も知らない口の硬い暗殺者と知っていても口の硬い身内しかいない。
「のろいな…死ぬぞ」
カナードはそれを見て言葉を漏らした。彼女から見れば成人のヴィクトリアがこのざまなのはいただけないらしい。
…一応はヴィクトリアはカナードからすれば先輩なのだからもう少し言葉が優しくても良いのではないだろうか。ヴィクトリアは別に傭兵ではないが。
「面倒だから言っちまうが…もうアンタを暗殺しようとする奴は多分いねぇよ」
暗殺者はトンでもないことを言ってきた。そんなことがあってたまるか。
「私を暗殺しに来る奴はいないなどという世迷い言を…そ、そんなわけがないだろう」
私は衝撃を受けて言葉を漏らした。…ベラと賭けをしていた。
ジブリールと姉のどちらが今年より多くの暗殺者を送り込んでくるかである。
このままでは私が負ける。よりにもよって賭け事に。予測系の賭け事で私は生まれてこの方無敗であった。
…私は賭けに負けたくはない。何とかして訂正を求めた。
「何でそこに動揺してんだよ!?頭おかしいんじゃないか、お前らのボス!?」
無礼で陽気な黒人である。昔の映画でこんな流暢な黒人がいた気がする。
「カナード、今度映画でも見ないか?そういうのも大事だと思うんだ」
私はガチで殺そうとするカナードに声をかけた。沸点が低すぎる。
流石に話すことを話していないのにそういう事をされては困る。
「…っ!?………はい」
思わぬ言葉に動揺したのか詰まっていたがカナードの返事は素直だった。
「いや、分かりやすすぎでしょ…」
小声でヴィクトリアがカナードにツッコむ。言ってやるな。聞こえても面倒だし。
「ふ、ふぅ…マジで死ぬかと思った」
陽気な暗殺者の黒人である。もう存在が面白い。何とか勧誘しようと私は決意した。
その後、陽気な黒人枠から話を聞くと私の暗殺が無理ゲー過ぎて業界で有名に成りすぎたらしい。
しかも暗殺者側が取り込まれる事も多いので依頼者も頼むに頼めないという。
それでもやってきた極一部も暗殺者側から断られるようになり、存在しない特殊部隊すら見捨てられたという。
多分、ロゴスの私兵だろう。あの者達は暗殺に失敗すると勧誘する前に自死することが多い。大体辛いことになる。
些末なことであのロゴスに頼るとか何考えているのだろう、あの顔芸芸人は。馬鹿でしかない。
暗殺者に怯えていた哀れな私を可哀想だとは思わないのだろうか。
とはいえ、私は今後身の程知らずはともかく、能力ある暗殺者に期待することにした。
自分で自分の暗殺者を雇う程イカれていない。そういう奴は周りの苦労を考えた方が良い。
そう溢すと新しいボディーガードの黒人はイカれた奴を見る目で私を見た。失礼極まりない。