極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年8月10日、ザナドゥ本部にてザナドゥ代表クシーは東アジア共和国の王留美と会談していた。
8月1日の授業演説にて東アジア共和国の王留美がL4宙域コロニー群に支援してくれたとクシーは語っていた。
王留美はクシーがリューリク家の当主時代の元婚約者であるが、クシー6歳、留美4歳の事だった。
正直、クシーとしてはあまり良い思い出の無い別れ方をしていた。
その為、王留美と関わるのを避けていた。リューリク家を廃嫡されたクシーの元婚約者というのは醜聞だろうという配慮もあった。
クシーの知る当時の留美は世界に不満があり、破壊してでも変革が欲しいと望んでいた。
仲間達と共にザナドゥを創り、活動していたクシーにとって留美は好ましくない考えをしていた。
当時のクシーは実の両親から虐待のような教育をされていた留美に同情していたし、婚約者として王家に直接抗議した事もあった。
王家としてもリューリク家との繋がりは欲しかったのである程度留美に配慮する形になっていた。
だが、当時の当主は留美の教育に口出ししてくるクシーが気に入らなかった。
その為、王家の当主はクシーがリューリク家から廃嫡された際にはそのことをほくそ笑んでいた。
留美の祖父はクシーの両親が実の息子へ嫌悪感を抱いていると知り、廃嫡になるように唆していた。
祖父からすればクシーが年齢を重ねれば王家に口出しされるのが目に見えていた。
リューリク家にとっては理由の一部でしかないがクシーを廃嫡する一助となっていた。
息子の婚約相手である王家側が左程気にしないなら婚約破棄も問題なかった。
気味の悪い元息子ではなく他家から招いたシグネを当主にする事も楽になった。
元凶の一つである留美の祖父は現在、真実を知った留美によりあらゆる権限を取り上げられて廃人のようになっていた。
留美は先代当主を政争で封じ込めて9歳で王家を掌握していた。
留美は廃嫡されていた兄の紅龍もついでに探し出して側近として置いた。
事情を知らない末端は美男子に入れ込んだと噂したが男除けに良いと留美は放置していた。
紅龍は妹想いの兄である。
当然、妹へ欲情しないし異性愛も皆無である。兄妹という関係を知らない世間の風評に紅龍の胃は死んだ。
妹がクシー狙いであるのは理解出来ていたし、異性除けに使うのも理解出来た。
それでもこの扱いはどうにかならないかと紅龍は常々思っていた。
クシーと妹の両方に恩がある紅龍はどうすれば良いという答えが出なかった。只管ロリコンの誹りに耐えていた。
仮に噂が本当だとしても何故、自分が留美へ言い寄ったみたいに扱われるのかと嘆いていた。紅龍はロリコンでは断じてなかった。
兄妹の、王家の事情を知らないクシーは紅龍の扱いが酷くないかと思っていた。
面倒な兄妹関係だと思いつつ紅龍が甘んじていたのを知っていた。
クシーは積極的に噂を否定する事が出来なかった。
クシーからすれば王家が紅龍をどういう立ち位置で扱われているのか分からない。
紅龍に逆に不利益にならないかと不安であり紅龍と留美が兄妹を明かす等が下手にできなかった。
その為、クシーは紅龍には言いたい事があれば言って欲しいと伝えていた。
クシーは助けて欲しいなら言ってという意味である。
紅龍はクシーが業務報告をキチンとしろというふうに受け止めていた。その意味も確かにあった。
結果、クシーは紅龍が特に言わないのでもう風評は気にしていないのかと受け止めていた。
紅龍が現場の状況を正確に定期報告してくれるのは助かっていた。クシーはそれ以上の詮索を控えていた。
ちなみに紅龍が妹から男除けにされて辛いと言えば即座にクシーは留美に文句を言いに行っていた。何もかも微妙に惜しい。
留美はクシーへ会いに行くために様々な試行錯誤を繰り返し13歳までかかっていた。
紅龍の件もそうだが留美が会いたいと頼めばクシーの方から尋ねに行っていた。
紅龍がザナドゥで働いてくれているのもあるが、それがなくとも元婚約者を無下にはしない。
とはいえ、元婚約者の留美に良い印象を抱いていないのもありやや会いにくいのは事実ではある。
留美はクシーが異性で釣れるわけではないと認識していた。実利では動くと確信していたし、それはそれで合っていた。
留美がプライドを捨ててクシーへもう一度話したいと言えば9年も待つ必要はなかった。
シグネと留美は互いに相手がプライドだけ高くてクシーに対して醜態を晒していると軽蔑し合っていた。
どちらも人の事を言えない同族嫌悪の関係にあった。
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クシーは留美とあいさつも早々に現状に関して会話していた。
方向性は違えども世界を変革したいと考えていた者同士であった。
二人は世界に関してという哲学的な話に段々寄って来ていた。
仕掛け部屋から盗撮していたベラは二人共馬鹿なのだろうかと考えた。
ベラは二人きりにして欲しいとクシーから言われ席を外していた。
とはいえ、良く分からないけど何かありそうと直観してベラを下がらせた主に関してはまだ理解出来た。
主は分からないなりに留美を気遣っていた。
「何でしょうね。あのメスガキは」
ベラは留美へ愚痴っていた。ベラは主の元婚約者である王留美が嫌いだった。
未だに王家と繋がりを持つ紅龍を主が許しているのがおかしいとベラは感じていた。
もっとも、現在のベラは妹からの仕打ちに同情しているので紅龍を嫌っていない。
リューリク家の当主時代、王家も王留美も主に散々碌でもない仕打ちをクシーにしていた。
家令であるベラとしても王家というだけでかなり辛らつだった。
従者として訓練されているのでベラは気にしないように振舞えているが内心は複雑だった。
それでもベラは王家の最高傑作として評価されていた留美を知っていたし、現在の能力や手腕に関して高く評価していた。
ベラはシグネと同じく留美の能力に関しては個人的な好嫌を切り離して考えていた。
メスガキが惜しいからと言って後から取り戻したいのかと自覚していないが若干不機嫌になっていた。
クシーは不機嫌なベラを看破していた。留美と話すに当たっては万が一を警戒して離していた。
盗撮は指摘すれば留美にバレるし、防犯であると言い訳して見逃していた。
ベラは主から盗撮の許可を取れたとほくそ笑んでいた。機嫌が大分回復していた。
クシーはこういう変態行為を辞めて欲しいが仕事がストレスなんだろうなと我慢していた。
ベラは主が自分を盗撮魔の変態扱いしていると知ればキレた。非常に面倒臭い。
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留美はどう話したら良いか悩んでいた。
その為、留美は様子見としてザナドゥの『クシー』として話しかけていた。
気恥ずかしさからビジネス等の利害関係から話始めるのはシグネに似ていた。
シグネの件との違いは義姉シグネが弟へ拗れた情念を抱いているとクシーは把握していたが、クシーは留美がどのような状態か知らなかった。
クシーは過去の危うい思想の持主王留美として来ているのかと疑念を抱き話し始めていた。
酷いすれ違いであるが、能力も地位もまだ幼いが美貌もある王留美はやろうと思えばかなり危険な事が出来た。
留美に恩義のあるL4宙域コロニー群と国連宇宙軍の者達にお願いするだけで大分酷い事が可能だった。
王留美が旧暦から続く威光が未だ不安定な情勢下では分裂しかねない存在だった。
現在、クシーが王留美に抱く懸念をやろうとしたのが東アジア共和国の李国主である。
煌びやかな李国主像とかいう馬鹿げたことをしていたが、あれは効果があった。
クシーが即座に溶かすように提案したのは余りに馬鹿馬鹿しいが受け入れられていたのが不味いと警戒したからだった。
武術で言えば相手の懐に入り込む入見、中国で言えば劉邦のような印象を与えていた。
意図していれば恐ろしい。だが、李国主は本物の馬鹿でもあったのでクシーは警戒し過ぎていたと反省していた。
李国主像に使われていた反射技術はビーム兵器の対策になれる程イカレていた。
クシーは像に関するデータを取らせていた。それでもその技術の現物を溶かしたのは本気で惜しいと結構悔いていた。
李国主の輝く自画像に使われていたのはオーブ首長国連邦のアカツキに使われる事になるヤタノカガミの大本となる技術だった。
李国主とはL4宙域コロニー群を私物化しかねない帝国主義者だった。
意識せず馬鹿をやっていたが、その価値に気が付けば即座にL4宙域コロニー群を乗っ取るような老練な政治家である。
クシーは敵の敵は味方という言葉を信じていない。
李国主はクシーとある程度協力できたが、隙あらば攻撃して来る国粋主義者である。
仲良く出来るのは地球連合に対して不満があるからというのが大きいが李国主がザナドゥを脅威に思い、代表のクシーも警戒しているからだった。
李国主とは旧暦の中華だった。22世紀まで世界の主として君臨しようとしていた東アジア共和国、中国の劣等感は凄まじかった。
クシーは王留美を一国の国家元首と同等以上に警戒していた。
クシーは幼少期の元婚約者王留美の能力を高く評価していた。
しかし、留美はそういう評価を求めてはいなかった。
現在の留美はかつてのアリサ・ロッサに近い状態だった。
アリサが埋没する蛇のような執念深く自分を狙っているとクシーは気が付いていない。
クシーは現在の状況に既視感を抱いていたが留美の内心に気づくには少しばかり経験が足りなかった。
そんな経験をする人間は気の毒だと思う。
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「コズミック・イラという世界に対してどう思うかしら?」
留美はクシーへ世界に関する問いかけをした。
婉曲な言葉で自分が遜らないで相手に察するように誘導していた。
世界を語らせるが世界より自分が見て欲しいと思っていた。
心を読めるわけではないクシーが分かるわけがない。
ちなみに留美が気恥ずかしさで迷走していると自覚すれば蹲る。
そうならない様、留美は無意識に口元を隠していた。
口元を隠さない場合、クシーは留美が本来の質問ではない事を聞いたと察した。
留美の無意識の行動は心の防衛機制として正しかったが隠さない方が良かった。
「科学至上主義な時代。この科学とは工業社会を統合する為の神話に他ならない。現在のコズミック・イラは科学的認識論の根本的誤謬故に世界が破綻しつつある」
クシーは世界を語らせる留美に科学至上主義のコズミック・イラの綻びを指摘していた。
クシーは留美の内心が分からないので真面目に考えて回答していた。
留美も話自体は興味深く聞いていた。目的が違うのでどう修正するかと悩んでいた。
「そもそもコーディネイターとナチュラル、地球とプラントという対立構造そのものが全く科学的ではない」
クシーはコズミック・イラの現状を科学ではなく感情でしかないと言い切った。
過去の王留美が望む世界の変革は破滅しかねない危うさを孕んでいた。
クシーはザナドゥが世界を変革させる力を感じ取り留美が接近していると認識していた。
「……」
留美としてもそれは否定しきれない。どうしたものかと一瞬考え、閃いた。
「コズミック・イラ15年、コーディネイター技術が公表されてから55年。ファーストコーディネイター、ジョージ・グレンを含めても百年未満」
留美はクシーへ歴史的事実を語った。
クシーはこの段階で留美が過去と考えが違うと察した。何が言いたいのかはまだわからないので聞く姿勢になっていた。
「確かにコーディネイターは人類を逸脱しているわけではないでしょう。……MSを操れると自慢していますが欠陥兵器をパイロットで補っているだけ」
留美はクシーへかつての自分とは違い、現実を見ていると示した。
世界的な戦争により世界の変革をしようと飛びつくような真似はしないと示していた。
そもそも留美はプラントには幻滅していた。
かつての自分でも論外と他を探していただろうと思っていた。そう思える時点で留美は大分変っていたが自覚していない。
「……この世界が変わりさえすればいいのと言っていた君はプラントに肩入れすると思っていたが」
クシーは自覚なき変革をしているであろう留美を称賛して言った。
クシーの知る留美は間違いなく危険と知りつつ、世界を破壊寸前まで煽ってでも変えようとしていた。
「変わらないなら壊れればいいと考えていると思われて?」
留美はクシーの認識が4歳の自分で止まっていると察して拗ねた。
女性ではなく幼女の延長として対応していないかと暗に非難した。
クシーは色気出したつもりか13歳のクソガキと思った。留美は殴って良い。
「……分析と情感の乖離、事実と価値との分裂がこれ以上続けば、もはや人類の変革はおろか終焉すると仰りたいのでしょう?」
留美は子どもではないとザナドゥ代表クシーの目を見て語った。
その問いかける仕草は妖艶さを醸し出していた。13歳とは思えない艶めかしさや蠱惑的な印象を与えていた。
残念ながら相手はクシーであるので効かない。留美は内心舌打ちした。事案起こす気か。
「世界を統合する為の全く新しい神話学の創生。貴方がザナドゥに求めたもの。かつて貴方は星を見ていた。……当時のわたくしは土しか見えなかった」
留美は過去の自分を語り、未来を見ていたクシーを評価していた。
「再構築戦争の余波で今尚不安定な北極での観測活動、ウラジオストクにあるリューリク家の屋敷で使用された遺伝子改造で作られた効率的な建材、庭園に咲く寒暖差最低60度以上の厳しい環境に耐える品種改良した花、ラプラシアンシステムによるエネルギー効率の向上、インダストリアの食料生産…」
留美はクシーがしていた技術革新を語った。
留美はこれだけ貴方を知ろうとしていたと知って欲しかった。
「これら全ては人類を宇宙へ意識を向けさせて団結させる為でしたのでしょう?」
留美はクシーの行動の本質を言い当てた。これらの技術は新時代提言とも合致していた。
特にインダストリアの開発が食料生産ではなく恒星間航行での非常食と見抜いていた。
クシーは開発に携わったグレイブヤードの5人組以外に語っていない真意を言い当てられていた。
「……姉に頼めば花も持ち出せるだろうが生憎植える暇がない」
クシーは留美にどう応えるか一瞬悩んだがそのまま語った。
庭園に咲く花は伝え聞いたザビ家の復讐装置で思いついたものだった。
復讐装置を破壊したせいでL4宙域コロニー群まで逃げて来た老政治家がいたが恐ろしかった。
当たり前だが土壌の栄養全てを奪い枯れる植物である復讐装置とは違う。
どこでも咲くような花だが、決められた範囲外では咲かないように指定できるようになっていた。
その為、庭園の一角以外には咲いていない。その性質上クシーが持ち出せなかった。
現在シグネが自身の別邸としており、意味深に置かれた石碑の女真文字の解読を未だにしていたりする。
留美はシグネへ石碑に関して一切教えていない。
「それ以外は使っていると。……ふふ、怒らないでください」
留美はクシーの言葉尻を捉えて笑った。留美はクシーが若干イラっとしたのを察した。
留美は昔を思い出していた。一連の行為に悪意がないが無いと察したクシーは毒気を抜かれた。
「……キチンと言われないと分からない。何が望みか言った方が良い。尤も、叶えられるわけでは…」
クシーは留美へ降参と言わんばかりに尋ねようとした。
クシーは言われないと分からないので正直に答えていた。
「貴方が欲しい」
留美は躊躇わず断言した。
「……」
クシーはこれまでの留美の対応から求めているのは俗な金や権力ではないと理解していた。
だから、思考が停止した。
「4歳で分かるわけがないでしょう。貴方の過失です」
留美はクシーのせいにした。恥ずかしくなりそうなので怒りに変えていた。
恥ずかしがらずに主を押し倒せ、盗撮しているから弱みは握れるので安心しろとベラは淫売な王家の当主を応援していたが声が届かなかった。
クシーが嫌な予感がしたのでベラへ下がっていろと命じていた。
ベラがいつものように盗撮するなら快適な仕掛け部屋に行くだろうと推理していた。
ベラがいる仕掛け部屋はクシーの手により前もって変な横入れが出来ない様に細工されていた。
……もって数分だがベラの横やりを持ちこたえていた。ベラは主があまりに酷いと嘆いた。
「……酷くない?」
クシーは留美が本気だと理解した。断ろうにも過去の自分の責任だと留美はいう。
展開に考えが及ばず困惑していたが、クシーは何とか言葉を絞り出した。
「では、お友達からいきましょう。それとも女に恥をかかせるのが趣味なのかしら?」
留美はクシーの弱みを強調しながら妥協を提案した。13歳の少女とは思えないあくどい手を使っていた。
客観的に見れば過去酷い振り方をした彼女が数年後に突然復縁を求めて来たようなものである。
これでその時の責任と言われても理不尽過ぎるという自覚は留美もあった。
「私は男を下げる趣味はない。……ただ、君の望む変革であるとは限らない」
クシーは留美に妥協させてしまった事を謝意し、手を差し伸べた。
クシーは内心、留美の理屈は大分おかしくないかと思っていたが指摘するのは無粋であると自分が折れた。
「今は一言くださる関係でよろしくてよ。……ただ傍にいると知って欲しいの」
留美はクシーの複雑な内心を察して言葉を受け入れた。
留美はたとえ嫌われても自分を受け入れて欲しかった。
王留美は想い人へどうしようもなく甘えていた。留美にとっては長年の想いであるがそれが独りよがりと自覚していた。