極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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第13話 世界最後の分岐点

コズミック・イラ68年12月、プラント最高評議会議長であるシーゲル・クラインが食料自給体制を極秘裏に推進することを決定した。

 

南アメリカ合衆国からの食料輸入船マンデルブロー号をプラント理事国が撃沈した事件が原因であった。

プラント内での食料生産を禁止されているが、これ以上制裁が続けば6000万以上の人々が餓死する。

プラント側からしたら当然である。反対意見等出るはずもない。

 

 

…これは歴史に埋もれた話。その一月前の、歴史的に見ればここが最後の分岐点であった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

コズミック・イラ68年11月、南アメリカ合衆国のリオにて私は画面越しにある人物と話していた。

 

…表向きには農村部の水利権に関しての調整である。

今いる状況はヴィクトリア主体で任せていた南アメリカ合衆国生活環境改善プロジェクトの一環でしかない。

そのうちの長期滞在ではない一日であった。暗殺者が狙い時なのだが本気で来ない。

 

このままではベラに、否、リューリク家家令のヴェラに負けてしまうではないか。

それは今はどうでも良い。私は気分を切り替えた。

 

 

私の眼の前にいる人間は側にいるベラを除けば、全員コーディネイターだ。

一見ただの農民にしか見えない。水利権の調整も実際現在行われている。

 

ハーフコーディネイターも混ざっているからこそ目立たずに調整できた。

…この眼の前にいる男達はプラントにすら極秘にしているクライン議長のお抱えとも言うべき人達であった。

クライン議長関連でいえば、マルキオ導師とかいう私にSEEDがどうこう言っていた怪しい宗教家モドキは元気だろうか。

…どうも私も緊張しているようだ。変な方向に思考がズレる。いつもならば良いが今回ばかりは集中しなければならない。

 

「…事前の取り決めにケチをつけるような真似をしてすみません。話の機会をありがとう」

私はクライン議長と南アメリカのラインを使い現在交渉していた。正確には答えを聞きに来た。

 

色々行ったが私としてもプラント側からすれば食料自給する他ないのは理解できる。

だが、それは完全にプラント理事国とプラントとの当初の取り決めを破ることになる。

 

 

そこで今回の提案は簡単に言えば私が何とかするからもう少し待てないかという話だった。

私でもかなり強引な手口であるが、プラント側と予め通じていればギリギリ食料輸入は可能だった。

 

ブルーコスモスの子息達を利用する形になる。…それでもやる価値がある。

 

他国へ行った高級幹部クラスの子息達。彼らはマンデンブロー号事件により、中立国に居づらさを感じている。子ども達は現状いつもよりも更に肩身が狭い。

その心理を突く作戦である。善意で自分達が動くという形を整えてやれば確実に有力者の何人かは乗っかる。

 

言い方は最悪だが、子どもの善意を利用するのだ。このコネは二度と使えなくなるだろう。

だが、兵器ならばともかく食料程度ならば。そのように考えている飢えと無縁な裕福な子ども達を言いくるめる事は出来る。

既に多少の誘導をしてもいた。居づらさを感じる子ども達に少し囁くだけ。

結果、食料くらいは良いじゃないかという穏健派の子ども達が少しずつ出てきていた。

 

…私がこのプラント側の人間との交渉に成功すればその声を大きくする。

 

現地にいる人員を動員した作戦は後一押しだった。プラントとの取り決めが合意できれば即実行できる。

最後の一押しで私の関与がどこからかバレる可能性はあるので絶対成功できる環境を整えられなければ踏み切れない。

 

ここでクライン議長と合意したらすぐにでも子どもからの声に靡きつつある保護者である賛同者とそれに反対する者の混乱を発生させる手筈を整えた。

プラントが見せたくない新兵器という手札を伏せたまま行える食料支援だ。

戦争を防ぐ最後の一線といえる。

私が今後の混乱で立ち回る為に絶対成功させなければならないのでクライン議長の合意が不可欠だった。

…最悪、プラントは良い。議長の認可さえあれば私が勝手にする。したことにしても良い。

私も危うい橋を渡ることになる。もうバレた時の言い訳は幾重にも考えている。

 

ここまでしてもプラント理事国との交渉においてプラント側が取り決めを破る事だけしか防げないだろう。

だが、食糧自給開始という最後の一線を破っていないプラントへの同情論。

そこをゴリ押しできる。まだ戦火にはなっていない。人の善性が理性が機能している今が最後の機会だ。

最悪の数々だった。その中で巡ってきた。私も予想していなかった好機が生まれていた。

…そのまま世論を味方にして戦争を回避する為の交渉に賭けることができた。

勿論、ここまでしたとしてもプラント理事国との交渉が成功しなければ意味がないだろう。

しかし、最悪でもその交渉が纏まらないから自給自足体制を作りましたと言い訳ができる。

 

「最低でも、口実は設けられます。マンデンブロー号事件のようになるリスクは限りなくゼロです」

私は南アメリカ合衆国で起きた事件を引き合いに出し、目の前の農民達と会話しているように装っていた。

実際は勝手に回線で画面越しで聞いているはずのクライン議長と話している。

 

クライン議長との回線でそのような話をしていることは危険水域ギリギリである。

 

子ども達の声でプラントに食料送れるかもしれないなど聞かれても困らないように包んでいる。

そもそも今作戦に関しては事前にデータで送付していた。

この秘匿回線での話は実はベラにすら仕込んでいるブラフだ。

万が一聞かれていても既にあちらに送られた資料でどうするかを決めている。

バレていないラインを何重に使っての提案は送られている。

 

ここでは万が一聞かれても困らない世間話を装っている。もう回答を聞くだけだ。

その為だけに一つ二つがバレても何も掴めない情報戦を構築していた。

そもそもこれはプラント側の回線であるためバレるはずがない。

 

私は徹底的に対策しそれでも更に念には念を入れていた。ここまでしてわかったらそいつは未来人若しくは超能力者である。

仮にそういう存在がいたとしても、ここまでやったのだから荒が出る。…私ならば絶対見つけてみせる。

 

「私の話は以上です。…答えだけ聞かせてください」

私は心から願った。後一歩。後一歩で世界の運命が変わるかもしれない。

…私はいるかもわからない神に生まれて初めて祈った。

 

 

その沈黙は破られた。電子音声だ。…予め仕込んでいた。

私はここに至ってクライン議長が自身の決意が変わることを恐れたのだと確信した。

 

 

私の話を聞く気がない。いや、この場合はあるからこそ…

 

「何時まで続いてどこで妥協できるか。それがわからない以上、どこまで行っても判断が遅れてはならない」

電子音声の無機質な声が響き渡る。…せめて、せめて本人の口から言ってくれ。

 

自分で言葉として伝えなければ誰ともわかり合えないではないか。

 

「…君の理想論は無責任だ」

最初から用意された電子音声の一方的な答え。私は思わず天を仰いだ。

6000万の命を預かる身の上の結論である。…もはや後日連絡を取ったとして間に合わない。

 

私の予期せぬところから声が聞こえた。…一人だけ勝手に着いてきた声だった。

 

「…それは!」

ベラが言い返しそうになる。私はそれを手で制した。

 

…私にとってその行為だけで十分だった。

コーディネイターの男を本能でどうしても恐怖しているベラが吠えようとした。

 

その姿勢だけでも私にとっては十分過ぎた。

 

「…ありがとう」

私はベラにだけ聞こえるように声を絞り出した。何とか、何とか必死に出したが故に正直、聞こえたかわからない。

反応を見る余裕もない。それでも切り替えなくては。

 

巻き込んだ者達には謝罪しないといけない。別の手段に移る。計画を修正する。失敗はいつもの事だ。

世界はまだ終わっていない。これから先の選択で運命など変わる。

 

 

「…まだだ、まだだ。絶望に沈むな。…切り替えなくてはならない」

私は心の声を呟いた。聞こえないように自分に言い聞かせる。一つの案だ。

百%成功したかもわからない。1%で失敗したかもしれない。そう考えよう…否、考えろ!

 

 

「………」

眼の前のコーディネイター達は私が何をしようとしていたのかを知らない。

だが、シーゲル・クラインから選ばれただけあり勘が鋭いようだった。

 

私の意思は無責任かもしれないが一部には聞いてもらえた。どう思うかは判断に任せる。

 

「ああ、すみません。少し頭痛がしまして…水利権の話は以上の内容でよろしいでしょうか?」

私は表向きの話に戻した。水利権の合意に関する取り決めだ。これもこれで大事だった。

水道が汚染されて未だに赤痢を発症するケースが多々あった。

 

ナチュラルは勿論、ハーフコーディネイターにとっても脅威である。…まだ先の戦争よりも身近な病気の方が怖いだろう。

 

 

「…異議はない」

代表者が同意の言葉を発した。

…私はこれで南アメリカ合衆国の都市リマを中心とした水道問題を解決できた。

旧暦で言えばペルーという国、南アメリカ合衆国ペルー州の長年の悲願を達成した。

 

コズミック・イラ64年にシーゲル・クラインと面会したのがきっかけだった。

きっかけはどうあれ4年で建国以来の悲願を達成したと思えば十分過ぎる成果ではないか。

 

私はそう思うことにした。事実、成し遂げたのだ。

これで水道水が原因で死ぬ人は確実に減る。ペルー州においては旧暦でも出来なかったことだった。

 

…それでも、不甲斐ないことに私の心は完全に晴れなかった。

 

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