極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ69年4月、プラントが秘密裏に進めていた食料の生産を開始した。
ユニウス市の7〜10区を穀物生産プラントに改造して完全な自給自足体制を完成させた。
ユニウス市は元々農業関係のスペースコロニーだ。食料生産用に改良するならば最適だ。
…ユニウス市といえばアスランの母でありプッツン親父の妻レノアさんが農学博士をしていたはず。
幾ら無許可とはいえ非武装の農業用コロニーだ。軍事的にも戦略的にも意味がない。仮に干上がらせる為に封鎖や破壊するとして全部を対象にしなければ無意味である。新兵器を潜り抜けるのは難しい。それに一度完成した以上、他のコロニーを改造するのも容易だろう。
…レノアさんはユニウス市のどこかでそのまま研究を続けていると考えるべきだろうが果たしてどういう状況なのか気になる。
キラと違って身バレした私はアスラン一家とは疎遠になっている。
ヤマト家はカリダさんとレノアさんが親友なのである程度近況も把握しているだろうが立場上聞けやしないし、聞けるわけもない。
ヤマト家の人々を私の事で巻き込む気も利用する気もない。
…とにかくあのプッツン親父が煩いのだ。
私としては気にすんなと思うが、あのプッツンからするとナチュラルの希望とか勝手に世間で言われている私に対しての殺意が凄い。
私は怒り過ぎてハゲたり血圧に気をつけるようにメッセージを送るくらいしか出来ない。
アスランの婚約者のピンク髪によれば最近のアスランは父親を心配しているらしい。
直接は言われないが調べればアデランスが腹黒ピンクの婚約者だと言うことくらいは知っている。
可哀想に。息子に心配をかけているとは父親として不届き者である。
そんなプッツン親父だが、なんと未だに私へ暗殺者を送っていない。不思議で仕方がない。
…出来なくはないだろうに。もしかして優しいのだろうか。そんなわけはないが。
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ユーラシア連邦ウラジオストクの屋敷にて私はそんな感想を溢していた。
例のプッツン親父は何故私へ暗殺者を送ってこないのだろうという世間話だ。
この邸の現当主にバレるはずもない。そもそも接点といえるか怪しい。一方的にメッセージを偶に送る程度である。
ベラの賭けに負けたので私はかつて自分が設計した庭園のある家にやってきていた。
……暗殺者というにも烏滸がましい野郎共がその辺に転がっているがカウントしてももう遅い。
もっと早く来られてもこの程度では暗殺者として数えられないので私の負けなのだが。
殺意を滾らせていればジブリールを超える人数を派遣するだろうと思っていた。
…身内贔屓で負けてしまうとは自分が情けない。
「それが『普通』なんですよ?」
ベラがイカれている奴を見る目でそういった。しかも、普通というのを嫌に強調する。
プッツン親父が暗殺者を送らないのは普通だという。
何だ、まるで私が普通ではないようではないような言い草ではないか。
「やあ、胃薬君。元気にしていたかな?」
私はそれよりも恐怖で顔面蒼白なボーイに声を掛けることにした。
少し訓練しただけの素人が十人かかりで私に向かって重火器乱射しただけだ。大した事ではない。
…素手で制圧しただけで私をバケモノみたいに見るのは辞めてほしい。
アスランも多分出来るだろうし、私はまだ人間の範疇だ。姉が暗殺者の運用に精細を欠いていたのも大きい。
しかし、この程度で動揺するとか質が落ちてないだろうか実家の家令は。
「日常の範囲だろう。庭へ被害が出なくて良かった良かった」
私はフレンドリーに話を続ける。ベラの賭けがなければ私だって来なかった。
よりにもよって紅茶を飲んでいる最中に酷い奴らだ。姉も衝動的に襲わせたのがわかる。
何故だろうか。…まさか紅茶を飲んだからではあるまい。
「ヌワラエリヤの茶葉は繊細だというのに。香りが台無しだ」
そう言って私は入れ直したヌワラエリヤを飲む。紅茶の一種だ。
とはいってもこれは産地直送の本物ではない。プラントでブランドを再現した品だった。
緑茶に良く似た渋みと繊細な味わいは再現度が高い。
ピンク髪の少女から父の無礼の詫びにと送られてきた茶葉だ。
どうせコーヒーしかないだろうからと態々私が持ってきたというのに姉は不機嫌だ。
胃薬君の隣にいる女帝みたいなオーラは殺意を超えて凄まじい怨念のようになっている。
胃薬君―――リューリク家の現家令を圧死するかのようだ。
「この紅茶はなんですか。我が弟」
姉が女王みたいな仕草で足元にいる雑魚に淹れたての紅茶の入ったカップを逆さまにする。
縛られて身動きの取れないどこぞの家の青年は猿ぐつわにより声にならない悲鳴をあげていた。
足元に転がっているそれらはどうでも良いが片付けて欲しい。それにしても…
「凄く美人になったよね。人からは聞いていたけれども」
私は姉を見て言った。紅茶を捨てるのは許しがたいが口に合わないのであれば仕方がない。
私のカップが空になったのを見計らってベラが注ぐ。現家令の方は走馬灯を見ているようだ。
「…紅茶は?」
姉が少し間を置いて再度尋ねる。やけにしつこい。
…どうも本気で嗜好が増えた事を気にしているようである。本気であると簡単にわかる。
ああ、ベラが気にするわけであると納得した。
こういう拗らせ方は少し面倒だろうなと反省した。
「戴き物だ。相手は婚約者がいるのだからそういう関係ではない」
私はアデラン・ズラが本気でカービ○でないピンクと付き合えるのか疑問で仕方がない。
アスなんたらは最初だけ顔真っ赤にして慌てるだろうがそのうち関わるのも面倒臭いと思って雑になるだろう。
…ピンク髪は必要だから愛している姿勢を取ろうとしている。私はそれは良くないと指摘はしたのだが多分まだわからない。
私は君を見ているがそれは必要だからではないと言っている。
「そういう関係とはなんですか。そういう関係とは」
苛立つ姉のカップにベラが紅茶を注ぐ。今の家令がやるべき仕事だろうに。
アポ無しで即日来ただけでこれとは情けない家令である。…もう少しメンタルは強かったはずだが。
「…何だろう。恋人とか?」
私は姉に聞かれたので答えた。そういう甘酸っぱさをしている余裕などないが。
世間一般ではそういう年頃でもあるだろう。
そういえばキラは元気だろうか。恋人でも出来て…余計な事を考えた。醜態を晒す前に切り替える。
「そういえば、別人ではあるが一応映画を見たな。感想を聞けば何故かボロクソ言うし……どう思う?」
私はちょっと余計なことを考えたのもありベラに話を振った。
…ベラは話しかけんなと私を無視した。
私としてはお前が無理やりここへ連れてきたのだろうと少し思うところがあるのだが。
『動きがオーバーで隙だらけだ。こんな物を見て何になるというんだ?』
カナードは映画のアクションシーンを見てこういう感想を述べた。
私としてはそういうところを見てほしいわけではなかった。
私の反応を見て我に返って何故か謝罪してきたが謝罪されても困る。
「……フフフ」
姉は感情がキャパシティを超えたらしい。
錯覚だろうが私は格闘漫画で出てくるようなオーラを視認できたような気がする。
どうやったのか知りたい。 あのオーラがあればアスランに勝てるだろうと思うと興味がある。
「…これですね『恋のハリケーン3〜環境王子ジャミトフ怒りの老齢〜』。…なんですかこの地雷臭漂う映画は。それに1も2も存在しないじゃないですか」
ベラが私が見た映画の閲覧履歴を調べて言った。…見てもいないのに決めつけてきた。
環境保護活動に勤しむジャミトフ王子(67)が地球連合軍大将になり秘めた想いを開花させるラブコメディだ。ちなみに登場人物は全員死ぬ。
…カナードは一体何が気に食わなかったのだろうか。
「見るぞ。おい、何時まで寝ている。用意しろ」
姉、シグネは家令を蹴りつけた。…どうも見栄を張りたいのか平時よりも口調が堅い。
リューリク家の現家令は現実へ帰還した。
「失礼、…シアタールームへご案内します」
家令はそのように言った。シアタールームなど私は作っていなかったのだが。
…拷問部屋か暗殺に使うのだろうか。
取り敢えず暴れた馬鹿共の方を見れば使用人達がゴミを入れるカゴに放り込んでいた。問題はない。新しい暗殺者がいるような気配も感じない。
…気配を感じられない。つまり相手は相当な手練である。私は素直に姉を見直した。
だが、
「いや、ただ単に嫉妬したので映画見たいだけですよ」
ベラが私の思い込みを訂正してきた。…ちょっと乙女思考が過ぎやしないか。
私はもう少し殺意マシマシなのを期待していたのだが。
「これはあれか。私の認識が間違っていたのか?」
私は暗殺の欠片もない見栄を張る姉の背中を見つめながら言った。妙に肩の露出が多い。
「いいえ、合っています。…合っていてこれなのです」
ベラは私にそう言って姉の後を追うようにせっついて来た。
…そういう感情に於いてはベラの方が上だろうが。
それをどうにかしようというのはただのお節介ではないだろうか。私は疑問に思った。
…あまり間が経っていないのに同じ映画を見るのは正直飽きてしまった。
私は何度か寝たがナイフで頸動脈を正確に狙った姉の殺意は素晴らしかった。
そんな楽しい映画鑑賞を終えてその足で帰宅した。…賭けの内容はまだ達成されていない。
ベラもいきなりヤレとか無茶苦茶である。それでも久しぶりに休めたと思えば良い気分転換ではあった。