極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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第15話 運命

コズミック・イラ69年6月、通告どおりプラント理事国が威嚇行動の為にプラントへ進出を開始。それを迎え撃つ形でL5宙域にてプラント側と交戦した。

 

結果、プラントが開発した新型兵器モビルスーツ『ジン』を主力とした部隊がプラント理事国側のモビルアーマー部隊や戦艦等をほぼ一方的に蹂躙した。

 

大西洋連邦宇宙軍、ユーラシア宇宙軍、アジア共和国航空宇宙軍からなる理事国合同軍はほぼ壊滅し、プラント宙域に進駐していた部隊も含めて撤退することになった。

これによりプラント最高評議会シーゲル・クライン議長はプラントの完全自治権の獲得及び対等貿易を理事国側に要求した。

 

しかし、絶大な戦果とは裏腹に交渉は難航することになった。

更にプラント脅威論を掲げる勢力が激増し、それに対抗するコーディネイターのテロ組織が活発化するなど事態収集は困難となっていた。

 

プラントは引き金を引いたが、まだ話し合いで何とかできると思っている。

地球は被害を知ったからこそ止まれない。話し合いをする振りをして時間を稼ぐ。

 

…そんなお互いの認識のズレが一時の空白を産み、まだ話し合いで解決するかもしれないという見せかけの希望が世論には漂っていた。

 

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L5宙域での戦闘とその結果は私にとってあまり驚くことではなかった。

 

…ただほぼ私が警告していた通りになったので今更四六時中問い合わせが来るのが煩い。

 

見返りが極めて薄いもののコネクションだけは構築しておき、今は無理でも未来の停戦に繋げられればと思ってこなしている。

死ねば良いと嫌っている相手でも、いざ自分が死ぬとなったとき、伝があれば使うのが権力者という生き物だった。

どうしようもないがそれくらいの生き汚さがないと今の世の中ではやっていけない。

 

現在では最悪死すら厭わないような主義者が政治や軍事に直接関与し始めた。

既存の政治的な繋がりがどれほど意味があるか政治家達は良くわかっていないだろう。

私は使えるなら使うので問題ない。…この二つの感覚を使い分けられるだけの能力を備えているアズラエルは数多いる政治家よりもまだマシだった。

そこまでの能力があってもなお憎悪で目が曇っているのだからどうしようもない。

 

 

私は交渉が少しでも進展するように、和平派と接触したり過激派を宥めてみたりと色々やっている。

 

しかし、ザナドゥはそこまで強大ではないので、無視したくても出来ない事が多すぎた。

各地のテロを起こす奴らを牽制したり武力で鎮圧したり等様々な業務の数々だ。

 

…本気で火に油しか注がない奴らが見切り発車しているのであのジブリールすら手に余っている。

こうなると私が動くしかないのだ。全勢力から程よく嫌われているからこそ動ける武力である。

ザナドゥは対テロの治安維持組織として名が売れてしまっていた。…ある意味世間受けは良いのだが、武力集団として目立つのは私の本意ではない。

 

忙殺というに等しい状況である。当然、特定の勢力に注力することは出来なかった。

政治的に肩入れし過ぎると別方向から殴られる。

どうしようもないので今生きる人々を助ける為に動くことに集中した。損して名を売る方向性に切り替えている。

 

…感謝の場を設けてくれるのは嬉しいが、面と向かって家電王子とか言うのは本気で辞めてほしい。もう慣れたが。

 

 

特定の勢力へ注力すること、例えばモビルスーツである。

MSを地球側でも作ろうという議案は棄却された。

私は複数の意味で動けないが、それでも少しばかり発言はした。

 

「私は戦争したいわけではないが、見せかけでも作らないと真面目に交渉出来ないだろうよ」

参考の為に意見を求められた時、私は公の場でそう発言した。

…L5戦線以後、私がメビウス開発に携わっていた事をどこからかバラされていた。

当然これは重大な軍事機密であるのでバラすことは相当のリスクがある。

この私にとって有効な政治的一撃は、ブルーコスモスの盟主アズラエルの仕業であった。

 

私がブルーコスモスではない別の陣営に切り替えられないようにするためだ。私を切らないように留める辺りが実にいやらしい。

…この行動はジブリール等なら絶対できない。

 

私としてはしてやられたとしかいえない。損も大きいが私が戦争に関わったと知らしめる事で行動を牽制してきていた。

アズラエルは盟主でありながら身を切ってでも私を牽制してきた。正直、そこまでするかというのが感想である。…過大評価が過ぎる。

 

一応、私は公的には否定しているし、軍部も当然否定している。だが、もう公然の秘密となっていた。

世論では戦闘で負けたけど奮戦できた兵器つくれるとか家電って凄い。

そんな評価に落ち着いた。家電と兵器は全然違うのだが。そんなこと子どもでもわかるだろうにそんな評価である。

私の開発したラプラシアンシステムと共にネットで流行りのおもちゃである。

 

私も自作コラをゲーム会社の公式を使い世間に負けないように隙間時間に投稿しまくっている。飛行機で移動するときとかに暇つぶしに作る。

仕事ではないが、本家本元がやるのだから負ける訳にはいかない。

 

 

…議員でもない私の話を真面目に聞いてくれるかは別として、こういう事を言えるだけ兵器開発がバレたことにも意味はあったと思いたい。

当然だが、この暴露によりプラント側の評価は元々ないような物とはいえ更に落ちた。

口では世界平和の為と言いながら稼ぐようなダブスタ野郎とやや危険視されている。

ただ、メビウスがそこまで脅威でもなかったので、まだギリギリ話は通じる。

色々奔走してきた実績もあった。基本的に裏での繋がりなので公的にはバレるわけにはいかないところである。

 

こちらはバラしたらプラント側も道連れなので絶対に言えないだろうが、今の状況だと怖い。

あのアズラエルが身を切ってまで仕掛けてきたのだ。立場的には大した脅威でもない私にである。

必要ならば裏で何でもやる奴という認識をされているだろう。プラントの世論まではわかりづらいが。

まぁ、私は必要ならば基本的に何でもするので間違いではない。正しい認識である。…全く良くない。

 

 

当時の政治的に仕方がなかったという言い訳はシーゲルが私を切らないので伝わってはいるだろう。

というか、ラクスを通してごめんなさいとメッセージを送っていた。

非公式だが私はもうこれは認める形で誠心誠意謝罪した。

 

…ラクスにはこの世界は力がないと想いは伝わらないと愚痴を溢してしまった。

婚約者のいる相手に弱さを見せてしまった事を反省した。アスランにも内心謝罪した。

なお、アスランは初デートでジャンク屋巡りをしたらしい。乙女の初デートに何やらかしているんだあの糞馬鹿は。謝罪は撤回した。

 

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この日、私はオーブ連合首長国へ足を運んでいた。

先日のMSに関する発言に対し周囲から色々言われたが、ザナドゥでも私に尋ねる人間が居た。

私は目の前にいる本部長官のティモテに答えていた。

 

それ以外にも席に同伴している者達が居るが、私の主張をどう受け取るかは好きに任せている。

ちなみにカナードを始めとした護衛も聞いているが漏らさないだろう。

 

「何故、ここまで発言したのかといえば、MSによる一方的な蹂躙はプラントにあまりに大きな自信を持たせてしまったからだ。

 交渉でもプラント側の要求の声が大きくなっている事は間違いない」

私はティモテに答えていた。コーヒーはインスタントである。最近、味がしなくなっていた。

 

「…少し休んだ方が」

ティモテは心配そうに私に言う。そう言われても真面目に忙しいのだから仕方がない。

あちこち奔走しているが、まだ私は時差でおかしくなってはいない。

 

今ならばまだ世界を飛び回り、交渉相手と直接会話ができる。…戦争になったらもう無理だろうが。

 

 

「今の段階でプラントの自信にヒビを入れさえすれば、まだマシな要求を提示してくるだろう。まぁ、希望的観測が過ぎるのだろうが」

そう言ってインスタントコーヒーを飲みきった。大事な話にこの振る舞いと独り言は不味い。

今度はオーブ産のコーヒーを飲む。…味覚はともかく嗅覚にまだ異常はないようだ。

食事の場を設けて貰っても嗅覚で食材の判別はできるだろう。

 

このオーブへの訪問はやや私的な部分も混ざっている行為だが、伝を作る為にやっている事でもあった。

私は大きくなった家電会社の支店を作りに来ていた。ちなみにゲーム会社は拒否された。

…何故だ。代表の娘に勧めたら十分でゲーム機を床に叩きつける程好評だったのに。

 

それはともかくとしてオーブ本島、あわよくばヘリオポリスにも会社の支店を作りたい。

 

キラはヘリオポリスの工科カレッジに入学することが決まったという。

物臭なキラが就職活動で変なところへ行ってしまう可能性がある。

今だとマシな企業は少ない。オーブも中立で居られるかもわからない。

来てくれれば良い程度だが。キラに関しては色々ヤバい事が判明したので秘密裏に保護したい。うちの社員という理屈ならば実績的にセーフだ。

 

 

そんな久しぶりに愉快な事になっている脳内を、真面目で堅物そうな声が遮った。私は気分を切り替えた。

 

 

「随分独り言が過ぎるが…。このまま進めば、世界はやがて、認めぬ者同士が際限なく争うばかりのものとなろう」

私の独り言に眼の前にいるウズミ・ナラ・アスハも独り言を溢した。

 

「家電屋に対して随分な事を言う」

私は独り言を溢した。そう思うならば私とは上手くいけるだろう。

…問題は山程あるのだが。今後そこまでやり取り出来るかも怪しい。

しかし、この伝は残しておけば間違いなく役には立つ。そういう状況になった時点で最悪かもしれないが。

 

この日、私はオーブ支店という形でコネを作ることに成功した。

上手く行けばオーブが世界情勢を左右する立ち位置になれるという、経済的には小さいが政治的には意味の多少あるコネだ。

…上手く行かなくとも。無いよりはマシだ。話が出来る機会は今しかない。戦場で戦って話し合う事も出来るのかもしれないが、それは血を伴うものだ。

 

何としてでも今出来ることをしなくては。私は…

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

もしも、あの時、モビルスーツ開発がプラント理事国の議会で可決していれば。

シーゲル議長達もプラント内で現在進行系で声が大きくなっている超過激派をもう少し宥められただろう。

もしもの仮定となってしまったがこの場合、プラント理事国が兵器として作らなくても良いのだ。

 

被害を想定して自治権獲得の方を優先するなどして現実的に妥協できるラインを提案できる。

正直、ここまでの経緯を思えば成功率は限りなくゼロに近い。希望的観測だ。

しかし、シーゲル議長がそこまでやれたら私も融和派を説得出来るかも知れなかった。

 

ちなみに私のこの意見はコーディネイターの武器であるとしてモビルスーツを嫌う勢力やモビルアーマー、MA産業界からバッシングされた。

私がうるせえもう協力しないぞとキレたらある程度マシになった。

既得権益や今後の利益を考えれば、私の存在はメビウスを開発した時点で排除できなくなった。

その発展形が希望となっていた。利益も糞もない私は無敵の人である。

 

私が完全に用済みなのであれば彼らも排除に動くのだろうが、まだ私を必要とする勢力との微妙な政治的バランスによって、現状は成り立っている。

 

そんな私がMS推進論を擁護するような事を言えば反発するのは当然なのだが。

 

 

私は今しかできない事をやるしかなかった。その為に必要ならば何度も、何度でも相手と会話する。

…己の分限を超えてはいけないと分かってはいても。そして、もう既に超えている事を知ってはいても。

 

それはともかく、この日は久しぶりに宇宙である。

 

世界樹にて私は世間話をしていた。戦場になりうるところまでノコノコ私はやってきた。

相手にまだ聞く耳があるかは知らないが、大事な話があれば聞くつもりはあるらしい。

まだ話が通じるのであれば此方も何か言いたくなる。…叫びたくもなるが、それは押し殺す。

 

 

「世界は希望を戦争に使いたがる。これは皮肉だろうか」

私はどこかの誰かに言う。画面越しな為、誰かはわからない。

 

…今更話を蒸し返すのであれば流石に無理だぞ、シーゲル・クライン。

 

 

MSの発想元はジョージ・グレンの開発した探査用の宇宙服だった。

その活用法が歪に進化し、想定外なものとなった。

その為、コーディネイターの兵器としてナチュラルの権力者等から嫌悪されていた。

 

…そういう主張がまかり通る時点で、もうこの戦争は従来の戦争とはまるで違うものだと分かる。

各国政府やロゴスはどうもこの辺を言っても全然わかっていない。

 

私は戦闘機やモビルアーマー、MAを作る側であった。別にやりたくてやったわけではないが。

 

しかし、実際の戦闘においてミストラルなどの既存のMAは役に立たなかった。

それに対し、私が計画に携わったメビウスのみが唯一対抗といえる程の活躍をした。

…それでも全滅に近い壊滅をしてしまったのだが。

 

こんな具合に上層部の認識が滅茶苦茶なので、モビルスーツ脅威論を提唱し敵MSに対抗するためのMSを作ろうと主張した大西洋連邦軍のハルバートン大佐とは国も政治的にも違う立場なため、あまり関われなかった。

一応、ハルバートン大佐にアドバイスはしたがどこまで聞いているかは知らない。

MA信者ではない事は伝わっただろうが政治的に関わるのは難しいのか誤解されているのかわからないが音沙汰がない。

大西洋連邦側の支援者が極秘裏に作るとして私は外せとでも言われたのかも知れない。

 

…当時はそうしなければならなかったのだから仕方がない。

 

大局的に動くには政治的な立ち回りが必要なのだから嫌なことも飲み込まなければいけない。

勿論、ザナドゥと一部ユーラシア連邦の有力者を動かして対MS用の研究とMSの研究はしているが、そもそも私はそれ以外の案件を優先している。

戦争で民間人に被害が出ないようにする立ち回りだ。自衛の為にMSも利用する。

ただし、コーディネイターに組みするのかと言われないようにしなければならない。ザナドゥに所属しているコーディネイターは多いのだ。

したがって、ザナドゥでは研究していますなどとは公表できない。

 

…以前、一人乗り用に改造した戦車を使ったコーディネイターのテロリストがいた。

現地のテロリストということもあり、雑な改造で兵器としては欠陥品であった。

一人で戦車の立ち回りが出来るのは凄いのだが、戦車自体が古かった。最新の兵器群で防衛し、洗練された部隊として機能していたザナドゥ相手には全く意味がなかった。

ザナドゥ側であれば使えなくないのでその戦車に搭載されていたシステム関係はザナドゥで再利用していた。…誰に鹵獲されても惜しくない欠陥兵器だから良かった。最新兵器も欠陥品であれば鹵獲の心配がない。

そして、プラントのMSは設計思想的にはその延長にある兵器だった。

 

 

普通の人間には使いこなせない欠陥兵器なのがポイントであった。

だからこそコーディネイターが運用すれば良いという発想なのだろう。

従来の兵器運用思想からすれば論外極まりない理屈を強引に成り立たせていた。

 

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シーゲル・クラインと久しぶりに話が出来た。だが、特筆して何かあったわけではない。

少なくとも現状には余り関係ない内容だった。正直、戦争になるか否かの瀬戸際だというのに。

…だが、私にとっては重要な会話であった。こんな私でも、私情で動くことはあるのだ。

とはいえ、何故私にあんな事を話したのか不可解ではあった。

 

 

私は帰りのシャトルに乗っていた。…この状況で暗殺者が来れば、今ならば私を殺せるかも知れない。

 

「コーディネイターとナチュラル…その溝を深めるモビルスーツという兵器。開発する以外に選択肢はなかったのだろうが、余りにも皮肉なことになってしまった。

だが、それよりももっととなれば。それはわからなくもないか」

私は流石に少し疲れてしまった。…シーゲル・クライン。何故、私に託した?

 

私はシーゲル・クラインに娘の秘密の一部を託された。本人も知らないという秘密である。

…これでは世界の運命が私に掛かっているようではないか。

 

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