極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ69年9月、プラント理事会にてプラントとその理事国の交渉は平行線となっていた。
プラントは70年1月1日までの回答が無ければ地球への物資輸出を停止すると宣言。
プラント理事国とプラント間の緊張が激化した。
プラント理事国側の遅滞工作が原因なのは客観的にも明らかであった。
しかし、莫大な資産を投じて作ったプラントが独立国になる事は受け入れがたいのも事実であった。
プラントから搾取してきた利益が対等貿易によって失われるのも同様だ。
そんな状況ですぐに話が纏まるわけもない。
…第三国からすればプラント理事国とそれ以外の格差は酷く、横暴極まりない。
したがって、現段階ではプラント側の言い分に賛同する者は多かった。
ブルーコスモスのテロの標的になるので個人では言わないが、投票等で選ばれた代表が支持されていることから明らかである。
他方でプラント側の明白な違反行為である食料自給、軍備増強等を指摘し非難する者の声も大きかった。
私が暮らすユーラシア連邦を客観的に評価すれば、歴史的な価値観や主義主張が相容れないEU諸国とロシアが利益で手を結んで作った国だ。
…再構築戦争時にどさくさでロシアが奪った日本の北海道まで含まれている。
私の母はそういう関係もあり、ユーラシア連邦よりも日本に帰属意識のある上流階級の出だった。
そんな母は父と政略結婚で結ばれたが、意外にも仲は良好に見えた。
故にアスランとラクスも案外上手くいく…かなぁ?やはり不安だ。友達ならば問題ないが婚約者としての相性はどうなのだろうか。
それはともかく、ユーラシア連邦がプラント利権を手放せば独立運動等が活発化する。
例えば北海道は事実上東アジア共和国、というかその構成国である日本と同じ文化圏に属する。
母の帰国で一度訪れたがユーラシア連邦的な文化も取り入れた日本という感じであった
現段階では独立運動こそないが、ユーラシア連邦への帰属意識があるかも怪しい。…例えが最悪だった。
とはいえ、旧暦の頃の歴史的な独立意識はコズミック・イラになろうとも健在であった。
地方によってはユーラシア連邦内で王族の統治がされていたりもする。
行ったことはないが、ファウンデーション等はそうだった。
大西洋連邦はその辺りは強い。何せ、実情はともかくとして少なくとも表向きは民主主義で団結している。
仮に独立運動があってもそれは努力すれば民主的な仕組みで行われるようになるだろう。
何が言いたいかといえばユーラシア連邦は根本的には地方を圧倒する武力とプラント利権で結びついている危うい国だった。
私はリューリク家の当主だった幼少期、今の段階で独立を促しておけば良いと言った。
このままではどうせ維持できない。緩やかな条件で手打ちにすればと言ったら躾をされた。
リューリク家はユーラシア連邦の名家である。現在、家が所有する方々にある既得権益を考えれば私の主張は論外なのだ。
それが家の方針であり、私からすればそんな火種がなくても慎ましく暮らせれば良かった。
だからこそ私は家から追い出され、代わりに招かれた姉は家産をよく維持している。
両親からすれば満点の跡継ぎである。ただ今の姉ならば火種になりそうな利権は切るだろう。
私との差は言葉にしたか否かである。後、当時5歳でそれなので扱いに困ったくらいだ。
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私はユーラシア連邦のザナドゥ本部に居た。というか最近は最早住み込んでいるに等しい。
今いるのは客人とその家令とベラくらいである。
一応、護衛として用意していたロリコンはカナードに絡んで叩き潰された。身内の恥でしかない。
ベラからもう下も含めて切れと言われたがそれは断った。
「そんなことを言う子どもだったな。お前は」
姉が昔の私を振り返って言う。青と黒を基調にしたドレスに身を包んでいる。
似合うが薄着である。この冷える時期に我慢してまで着ては風邪を引かないか。
「その後、私は姉が弟へ劣等感を持つのはおかしいと言った。懐かしい」
私はリューリク家当主としてならば姉の方が優れていると言ったのを思い出す。
当時の姉は私へ同情と憐憫が混じった感情の目を向けていた。
放置すれば私が好き勝手やった時、裏切った等と激高して手を付けられなかったに違いない。
そういう意味では今の方が健全な関係ではある。
そう思っていたらナイフが飛んできた。誰が投げたかはすぐわかった。…姉である。
ドレスの隙間に隠し持っていたようだ。素材は竹を遺伝子改良したものか。
私は飛んできたナイフを手でつかまえた。少しどういう物か気になった。
「…なるほど」
私は安全に掴んだはずなのに手傷を負った。ナイフは想像以上に脆く折れてしまった。
姉は当たらないことを想定して脆くナイフを作っていた。
これは躱しても破損して散乱し、負傷は免れないだろう。
「殺意の二段構えは素晴らしい。だが、ベラに当たったらどうする?」
私は姉を褒めつつも一部批判した。
こんな脆い素材のナイフを持ち歩きボディーチェックを掻い潜る技術力は素晴らしい。
姉の着ているドレスも素材が薄いので本当に僅かな力で砕けて自分が傷つくかもしれない。
「…っ!」
姉がベラを睨みつける。ベラは顔を背けた。そんな細かいことを気にするとは器の小さい。
姉の家令を見れば顔面蒼白である。…もう青茄子とでも呼んでやろうか。
「このナイフ。扱う姉が体を傷つける事はどんな財よりも損失だろう。今の一撃は一流の暗殺者でもこうはいかない」
私は言葉を続けた。巻き込んだのはともかく確実に殺してやるという二段構えが素晴らしい。
私が負傷すればこの場にある道具か素手で殺しに来たのだろう。
私が姉に殺されたらそのまま帰して良いと部下に言っているが、どこまで守られるかわからない。
どちらにせよ、私の居城みたいな場所であるザナドゥで直接殺ろうとする胆力は凄い。
「しかし、うん…?」
私は何か変な空気を感じ取った。変な事は言っていないはずだが。
「よし。帰るぞ」
姉は私を見ることなく青い顔した家令を蹴飛ばした。
殺意よりも…何だか映画で見たぞこれは。
「ひょっとして…」
私はベラに小突かれた。見れば口に出すなという顔をしている。
「シグネ様。よろしければ近くのホテルで休まれてはいかがでしょうか?」
ベラがまた糞みたいな事を言い始めた。
お前、私に任せるとか言っていなかったか?嫌だけども。
「………結構だ」
姉は悩んだ素振りを見せて帰っていった。そうだ、帰った方が良い。
ベラは自分の婚活しろ。…そう思ったら軽く睨まれた。
「意気地なしが…」
ベラは帰る姉の背中を見て呟いた。この元家令、相変わらず姉に当たりが強い。
ベラはため息を吐き、姉と役に立たない実家の家令を帰りまで見送りに行った。
「…軽症とはいえ、カナードが見たらキレるな」
私は手傷を見た。些細な傷だが最近はテロリストや暗殺者相手でも無傷だった。
ようやく開発した傷薬の治験ができる。私は自分の机の戸棚を漁ることにした。
現在、世界各地で発生するテロ。その被害にあった負傷者相手を治療して回ってもいる。
ザナドゥも医薬学部門があるのだからと傷薬等を急いで作らせていた。
一部は既に普及しているが、単純な傷薬であれば従来の品質でしかなかった。
より良い物をと更に開発させたものだった。今後間違いなく良くも悪くも更に需要が増える。
「リューリク家当主である我が姉が直接殺しに来るというのはカナードも想定外だったかな。私は絶対殺ると思っていたが」
そう言いながら傷薬を塗る。本来ならば最終チェックとして私が現地で負傷したら使うはずだった。
最近の軟弱なテロリストは私に手傷すら負わせられないのだ。そもそも前に出るなとティモテ等からは叱られるが。
しかし、私もストレスが溜まってどうしようもないのだ。
…ちょっとくらい前線で暴れても良いではないだろうか。
姉との会話で少しばかり休めた私は次の来客まで30分あるので眠ることにした。
3日振りの睡眠である。遊んで休むのは健康に良い。寝ている間に傷は塞がっていた。
効きすぎて副作用がないか少し不安になった。他の治験では確認されていないというし、勘だが問題ないとは思う。
休めていない気もするが、気分転換にはなった一日だった。