極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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コズミック・イラ69年11月『新時代提言』

コズミック・イラ69年11月、ザナドゥ代表クシーがコズミックコスモポリタニズム、通称『新時代提言』を行った。

 

人類の文化圏から端を発した宇宙時代、新しい暦号に適応した宇宙市民という概念であった。

人類は火星やプラント等に宇宙へ進出していた事に由来するこの概念はプラント及び地球から猛反発を受けた。

 

プラントからはブルーコスモス的な考えが含まれているという批判、地球からは宇宙という適応範囲が地球を蔑ろにしていると批判がなされた。

ブルーコスモスからの反発が一番激しかったが、盟主アズラエルがクシーへ発言を撤回させた事により沈静化した。…宇宙人に人権を認めるような発言をしたらそうもなる。

 

ちなみにザナドゥに関連するゲーム会社の公式SNSは撤回した同日にこのような投稿をした。

 

『 I shall return!(私は必ず帰ってくるぞ!)』

そう言って葉巻を咥えたクソコラみたいなキャラが中指立てて新作ゲームの告知をしていた。

…盟主直々に怒られてもなお反発していないか?などと軽く話題になるがコミュニティ内に留まった。

 

世論は、正直何言っているかわからないが全方位敵に回す発言をしたという事だけは伝わった。

ブルーコスモスへの宣戦布告か否かと話題になったが、それは盟主の一喝で即沈静化した。

一部の有識者、宗教界の大物であるマルキオ導師は今の人類にこそ必要な思想だと評価した。

 

 

新規新鋭の組織の長が唐突にぶちまけた思想は一時話題とはなるものの、翌年に控えた国際会議の話題にすぐに切り替わった。

…一部の暗躍する者達は話題が収まった事に安堵しつつ、自分たちとは利害関係になると確信した。

 

 

コズミック・イラ70年1月1日、プラントの完全自治権の確保と対等貿易の要求に対する返答期限だった。

この提言をしたことは何ら世界を変えられなかった。それは主張した者もわかっていた。

後には意味があるかもしれない。だが、そこまで考えの及ぶ者は極少数だった。

 

それでも意味はあったと思う者、それでも無価値と断ずる者がいた。

 

「世界も人も、自分の正義しか信じぬ者達にそのような理想は届かぬさ。

…歌のように美しく、詩のような愛おしさがあろうとも」

仮面の男はその想いは伝えず、自己の絶望で完結させていた。

 

 

「とはいえ、そのような考えの者が全方位に中指立てて帰ってくるぞと煽るというのは想像がつかない。…一体どのような神経しているのだ」

仮面の男の感性は極めてマトモだった。それでも新作ゲームは購入予約をしていたが。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

新時代提言から少し。ザナドゥの司令室にクシーはいた。

 

問題発言により複数のモニターに映る権力者達から非難されていた。

…特にブルーコスモスの盟主アズラエルから烈火の如く怒られていた。

 

 

「何を考えているんですか!?正気じゃないのは知っていましたけど、宇宙のバケモノの権利まで認めるのは駄目に決まっているだろ!!」

アズラエルが声を荒らげていた。地球環境に配慮しろというのは良い。

人類の発祥たる地球を尊重しろというのも良い。だが、そこだけは認められない一線であった。

 

「アズラエル…そのような物言いは」

大西洋連邦のロゴスメンバーはアズラエルの本音を制止する。

そういう思想を持つ者が居ることは良いが自分達と同一にされても困る。

 

だが、

「青年の主張くらい許せよ……成人の日にやる論文コンクールみたいなもんだろ」

ザナドゥ代表クシーはそのような暴言を吐いた。大したことはしていないというようだ。

 

「N◯Kはもう無い。しかもそれはラジオの時代だろう」

東アジア共和国の日本首相は思わずツッコんだ。

かつて旧暦にあった文化を持ち出されても困る。だが、言われてみると確かにそんな内容だと思えてきた。

 

「若造が!言葉に気をつけろ!」

ユーラシア連邦の年寄りが叫ぶ。

煩いなと思うが反省していますという態度でないと許せないのだろうとクシーは反省した振りをした。

 

「世界中の市民から金取れれば良いとか考えましょうよ。統一政府とか考えているのでしょう?似たような考えは既にあるはずです」

クシーは真面目な態度に戻って発言した。お前らもう戦争する気だろうという態度でもある。

具体的には眼の前に映るこいつらがテロるつもりなのか知りたかった。テロするつもりならば何が何でも阻止するが確信がないと行動は不可能だ。

 

「……そのような事は考えていませんよ。もしかして、ザナドゥが件の国際会議の警備に参画できなかったので怒っています?」

アズラエルは沈黙した。明言はしない。既にプラント理事国側からテロの誘いがあるが、コイツにだけは絶対言えない。

 

だが、それ関係で思い当たる事があった。ザナドゥから1月1日にプラント理事会の警備やらせろという申込みがあった。

 

「ああ…確かにザナドゥは治安維持組織。ならば国際社会の場に進出したいと」

東アジア共和国の日本首相が納得した。なお、面々の中では劣る立ち位置なので1月1日の会議でテロが計画されているとは知らない。

 

「テロ…失礼、ブルーコスモス関連組織に警備を任せればプラント側からの反発も必須。それくらい弁えよ」

大西洋連邦のロゴス会員はそのように退けた。アズラエルがいる手前言いづらい。

…相手にしているのが小僧一人ならばテロリストと言い切れるのだが。

 

「我儘には困りましたねぇ…せめて撤回してくれれば何かするかも知れないですよ?」

アズラエルは明言は避けて提案した。

何かするとは言ったが会議の警備を任せるとは言っていない。ズルい大人の手口である。

今まで幾人もの人々がアズラエルの思わせぶりな態度に引っかかってきた。

 

 

「……もういっその事、プラント側に聞いてみてはどうか?」

ユーラシア連邦の老人は断られると確信しているので言う。あの提言そのものの撤回は絶対である。

 

「………そうですね」

アズラエルは考え込んで同意した。最悪でも…

 

「会場警備のみで外までは駄目とか言いませんよね?」

クシーが発言に割り込んだ。警備の範囲外でテロをやりかねない。

 

クシーは本気で1月1日の結果がどうなろうが話し合いはキチンとさせる気だった。

会議に関してどうするつもりなのかと真意を見極めたいのもあった。

 

 

「貴様!前々から思っていたが礼儀を知らぬか!」

大西洋連邦ロゴス会員が叫ぶ。

 

図星である。…小僧に任せて万が一でも阻止され、証拠を掴まれたら困る。

 

「………」

クシーは沈黙した。ボケ老人達は長年の経験があった。その身分にいるだけあって隠す技術は高い。せめて対面ならば見破る自信があった。しかし、この場にいる連中の大概はそうはさせてくれないだろう。

 

画面越しでのポーカーフェイスは読み取れない。誰が潜在的な味方か全員敵かわからない。

だが、日本国の首相は多分あんまり考えていない。正確にはどっちでも良いと考えている。無敵かコイツ。クシーは感心した。防諜協定も前向きに考えても良いかもしれない。

 

「分の悪い賭けをしましたね。貴方らしくもない」

アズラエルはクシーの沈黙を見て言った。この場にいるほぼ全員がグルとまで考えている可能性がある。

 

だからこそアズラエルはあまり関係ない者達も巻き込んで会議を行っていた。

…ここまでしないとクシーは自分たちがテロする気だと確信して絶対阻止に動く。

阻止出来れば勝ちだと考えているが、その独断に踏み切るには確信が出来る物がないと動けないと読み取れた。

 

アズラエルはクシーが地球の環境保護を最優先する思想の持ち主だと認識している。

だからこそブルーコスモスに辛うじて留まっていると思っている。

…実際どうかはともかくとしてアズラエルの認識はそうだった。

 

 

「撤回してもらわないとどうなるかはわかると思いますが…。まぁ、プラントに聞いてみるだけしましょうか。皆さん、それで手打ちという事にしましょう」

アズラエルはそう言って切り上げる事にした。流石にクシーでもここにいる面子を敵に回してはどうにもならない。

 

……以前、身を切ってまで止めたが、良く考えればまだ子どもだ。それに対して相当怒っていても仕方がないところはある。

そう思っていたが間髪入れずに差し込んできた。アズラエルはここに来て自分が油断していたと悟った。

 

「わかりました。では、後日アズラエル理事の方から私へ宛てで非難声明をお願いします」

クシーは素直に頷いた。誠意を見せているようだ。…だが、絶対に違うとわかるものもいた。

 

「……なるほどなるほど」

アズラエルはクシーのこの提案に僅かに利を見出した。この展開まで予想していただろうと考えると大した道化だと感心する他無い。

 

…撤回するけど自分が収拾つけろよという事だ。アズラエルが手を回す労力は大変だ。

しかも、クシーを公然と非難することである程度だが距離を置いているように見えなくもない。

しかし、それでも自分の非難で言う事を聞いているように見えるのはアズラエルの利にもなった。

ジブリールなどはあまり深く考えもしないで狂犬に言うことを聞かせたと勝手に評価を高めてくれるだろう。

 

一見、このクシーの行為は、非難されて従う姿勢は、飼い主の言う事を聞く犬に見える。

だが、腹に何かあってもおかしくないと布石を作る。

前言撤回、この男はやはり違う。少年と侮って良い相手ではない。

アズラエルは商人として即断即決のダブスタを評価した。

 

 

「そういえば…ええとこの場合はクシーか。私のところの地下発電の件で後で話があるので…」

日本首相は興味の無い話が終わったのでクシーに話しかけた。

 

電力会社の進捗の方を確かめたかった。日本は数多いるスパイとそれらの情報からいつの間にか算出されていた構成国別担当分の目標を限界ギリギリであるが達成できるだけの技術力のせいで東アジア共和国から余計に金を吸い取られていた。

下手すると自分たちはプラント側ではないかと思っているくらいだ。

日本の代表としては今後の為に少しでも稼ぎたいので必死だった。他の面子が呆れようが知ったことではない。

 

…国民の為にもしっかり金を稼がねばならなかった。そういう意味ではこの会議で一番得をしていた。

この会議に参加した面子と電子端末越しとはいえ会話できる機会はそうそうない。

負の印象だろうが記憶に残れば、後の機会に話題が出来た。この場は国民の為の金になるものだと考えていた。

 

「後にしろ!ええい、最近の若造はどいつもこいつも…」

大西洋連邦ロゴス会員の老人はグダグダになりつつある若造を罵った。

 

老人からすればアズラエルが何故ここまであちこちから人を集めたのかわからない。

今後に関係のない者達を二十人以上集めたので責める場にならないではないかと思っていた。

 

「…全くだ」

ユーラシア連邦の老人はため息を吐いて言った。アズラエルの意図は何となくわかるがグダグダである。

 

取り敢えず謝らせる形にはなるので良しとした。

一応はこの小僧はユーラシア連邦の同胞でもある。能力は高い見込みのある者でもある。

身内贔屓が入っていると思いつつもここで引くことにした。

 

 

その後、プラント内で認めるか否かで軽く論争になったがブルーコスモス系列の組織という事もあり申し出は拒否された。

クシーはワンチャンあるかとプラントに賭けていた。

それで駄目ならブルーコスモス盟主からお叱り受けて微妙に距離を取るだけである。分離するわけではないのでギリギリセーフだ。

 

しかし、無理だったのでクシーは悲しい思いでゲーム会社の糞広告を作って発散した。

アズラエルの胃は死んだ。

 




Q.ジブリールは何で居ないの?
A.居たら一瞬でバレるのでアズラエルが呼んでいない。この件に関してはしばらく黙らせている。
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