極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

24 / 107
閑話 最低なクリスマスCM

コズミック・イラ69年12月、世界は厳しい様子を見せながらもクリスマスとなっていた。

 

キラ・ヤマトがオーブ連合首長国の資源衛星コロニー”ヘリオポリス”へやってきて半年。

ヘリオポリスの工科カレッジに入学してから三ヶ月以上が経過していた。

キラはミリアリア・ハウとその彼氏トール・ケーニヒらと友人となっていた。

 

そして、一緒にカトウ教授のゼミに所属するなどして少し慌ただしくも平穏な日々を過ごしていた。

 

だが、確実にコペルニクスの時とは様相が違っていた。コーディネイターであることを今までよりも隠して生活していた。

身近な人間だとサイの彼女のフレイがコーディネイター嫌いだと知っていた。キラはフレイにはコーディネイターであることを隠して接している。

打ち明ける事が出来るのは一握り、偶々選んだカトウゼミではコーディネイターだからと敬遠するような人間がいないので安心できる環境だった。

 

そのため、工科カレッジにあるサークル活動はコーディネイターと発覚するのを恐れて参加できない。

元々面倒なので参加するつもりもなかったが、茶道部等から勧誘が来ていたりした。

和傘を持っていたのが原因でないかとキラは思っている。実際のところはどうだったのか今ではわからないが。

その代わりと言わんばかりにゼミの担当のカトウ教授はやたら高度なプログラミングの課題をキラに押し付けてきていた。

専門性が高すぎて教授は自分の研究を押し付けていないかと思っていたりもする。

それともコーディネイターだからと思ってか知らないが。キラへ物凄い量の課題を出してくる。

だが、キラとしてもそれによって良くも悪くも気を紛らす事ができ、時間を潰すことも出来ていた。

 

…コペルニクスでサボるなと叩き込まれたプログラム関係の知識が更に研鑽されていた。

 

だが、コペルニクスとは違う。懐かしさを覚えたキラは過去を逡巡した。

馬鹿みたいな理由で格闘マンガ並の拳闘試合が始まったり、どこからか昔の玩具を入手してきて当時のアニメや漫画の設定通りに再現してお巡りさんに怒られたりするような日々だった。

彼がビー◯マンで締め打ちをして近場の岩壁を割った時は激しく怒られた。

…それは当たり前である。キラは過去の思い出にツッコミをいれた。今思うとおかしいにも程がある。

 

…キラは騒がしい二人がいないので寂しい気持ちがあった。

というか、明らかにナチュラルとして、いや人間としても大分おかしい友人だった。

キラはようやく彼の言っていた自分を基準で考えるなという意味を理解出来ていた。

 

今更ではあるが凄い事だった。アスランが彼とどう接するべきか一時悩んでいた事にキラはようやく納得がいった。

 

 

現在、キラはカトウゼミでクリスマス会をしていた。キラも心から楽しいと思って参加している。

…そんな中で自分が心の片隅では淡い寂寥を感じているのは良くないだろう。

 

キラは気分を変えようとテレビをつけてみた。テレビはあるが消していた。

ゼミ生は騒いでいるが、無音であるよりはテレビの賑やかしの音が欲しかった。

…キラはテレビをつけてから、今はあまり良いニュースはないだろうと思って失敗したと思った。

 

だが、それは最悪の形で裏切られた。

 

『ハッピー・クリスマス♡平和ボケども!独り身のオッサンは◯ス掻いてないで…』

キラは即座にテレビを消した。…今のは無しだ。本当に最低な内容だった。

 

キラが恐る恐る周囲を見渡せばえっ今の何?という顔をしていた。

ミリアリアもトールもサイも呆然としていた。…カトウ教授は空気を読んでさっさと逃げていた。

カトウ教授は都合が悪くなると逃げるのが恐ろしい程早かった。

逃げ足だけならばコーディネイターを上回るとキラは勝手に思っている。

 

キラには今のが誰が作ったのか心当たりがあった。もう少しマシなCMを作れないのか。

誰か止めなかったのか…止められなかったんだろうなぁとキラは内心苦笑した。

彼をぶん殴ってでも止められるアスランのような人間はそうそういないだろう。

いつもいる年齢不詳のベラさんも止めるような人ではない。キラは今のCMをノーカンにした。

 

ゼミのみんなは今のは事故として空気を読んでくれるだろう。そう思い込んだ。

 

しかし、

「ごめん。遅れた…って皆、何で無言なんだ?」

カズィが遅れてゼミにやってきた。状況がわからないので沈黙に困惑していた。

 

「ったく…テレビくらいつけようぜ」

カズィは反応がないので先程のキラと同じような気持ちで賑やかしにと思ってテレビをつけようとした。

 

…キラは自分が持っていたリモコンを落としていた事に気がついた。

キラは慌ててカズィの行為を止めようとするが間に合わない。

 

『シケ込んでないでゲームに金落とせよ!テメェら、音楽配信ばっかに金を落としやがってよぉ……』

二頭身キャラがゲームを購入せずにサントラを買う人間に掴みかかっていた。そして、悔しさで涙を流していた。

キラから見ても無駄に洗練されたアニメーションとクォリティが高いCMだった。

後日、間違いなく放送禁止になるだろうが強烈なインパクトはあった。

 

CMには〇〇社の年間ランキング3位から5位と高らかに金字が浮かび上がっていた。

…ゲーム会社とは無関係な有名音楽配信会社だった。

 

『ザケンな!ゲームを買え!そして、高評価しろ!』

そう言って画面の中のキャラクターは輝く金字を蹴り飛ばした。

そして、ゲーム会社とは無関係の音楽配信会社へロケットランチャーを構えた。

 

 

そんな異様なCMに呆然とするゼミの仲間達。

…キラはこんなCMでゲームが売れるわけがないと思った。だが、話題にはなることだけは間違いない。

 

キラは自分の携帯端末に電話がかかってきた事に気がついた。誰であろうか。

キラはCM内でゲームとは無関係の音楽配信会社が爆破される音を背後にゼミから出た。

 

…カズィは未だに状況を飲み込めておらず困惑していた。

申し訳ないが助かった。キラは場の空気をカズィに押し付けた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

キラとしても予想外の人物から電話がかかってきた。だが、タイミングが最悪だった。

 

『も、もしもし、キラ?久しぶりだな。今大丈夫か?…テレビはつけてないよな?』

電話の主は先程の元凶だった。酷いCMを作った自覚はあるらしい。

 

久しぶりにこれとは流石に酷すぎやしないだろうか。台無しである。

 

「…久しぶりだね。相変わらずで安心したよ」

キラは皮肉たっぷりに返した。

…家電王子等と世間では呼ばれている男の本質が全く変わっていない事に安心してもいた。

 

『友達と一緒にクリスマスパーティでもしている最中に見たとか。…そういう感じで気まずくなっていないか心配したが大丈夫だったか?』

元凶がキラの状況をピンポイントで当ててくる。全く良くない。

 

「そう思うならあんなものはないだろう?…ボクも流石に君と距離を取りたくなったよ」

キラは本心から言い切った。あれは酷すぎた。

 

『オーブからゲーム会社の支店を断られてな…。家電は良いというのに。

それで話題性抜群、インパクトのあるCMで巻き返そうと…』

しどろもどろになりながらもうそれはそれは醜い言い訳をする。

オーブでなくともあのような事をするゲーム会社は断られるのも当然である。

寧ろ、ゲームソフトは置かせて貰えているだけ寛大過ぎると思わないのか。

それでもゲーム内の音楽は非の打ち所がない程に素晴らしいから始末が悪い。強いて言えばクソゲーに使っているくらいだ。それはそれで最低だった。キラも知っているくらいには曲は売れているのはCMがなくとも知っている。彼に名曲とクソゲーを作る才能を意図的に持たせた奴がいたとしたら、それはもう頭がおかしいという感想しかない。

 

「君はあんな良い事を言えるのに。なんでこうもおかしい事するのかなぁ…」

キラは先日、彼が発表した『新時代提言』を思い出して呟いた。

 

 

…あの時の演説は一瞬とはいえ、世界に響き渡っていた。少なくともキラはそう感じた。

普段の彼を知っていたキラでさえもカッコいいと思ってしまっていた。それが全部台無しである。

 

『今の世は混迷を深めています。旧暦に誓った平和への想いは今の世にも受け継がれているはずです。

……だからこそ、我々は人間という種であることの自覚を持たなければならないのです!』

彼はあの時、そう高らかに謳い上げていた。

人類の共存と平和を訴える想いは誰からも本心であると確信するものがあった。

 

 

だが、世界はそのように優しくはなかった。

プラント、地球、その他全ての勢力から彼の想いは叩き潰された。キラはそれが彼にとってどれ程辛いかわからなかった。側に居てあげられもしない。

 

…まるで自分とはもう違う世界に行ってしまったかのように思っていた。

 

だが、

『ごめん。本気でごめん。最近ストレスが凄くてね、今回もついカっとなってね…』

キラへ本気で謝り倒している。…というか地味に泣いているような気配すらする。

 

そんな情けない姿を晒している彼を見てそんな事はないのだと安堵した。

……ここで仏心を出すと調子に乗るのでキラはそのまま言い訳と泣き言を聞いていることにした。

 

 

 

そんなキラの様子を遠巻きに見ている者がいた。

「あらあらあら…」

ミリアリアは抜け出したキラを心配して見に来ていた。

 

だが、いつもは気怠げなあのキラが。ミリアリアが見たことのないような顔、女の顔を見せていた。

…後でこの事でからかってやろうと思いつつ、それ以上の無粋な事は辞めてトール達の元へ戻ることにした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。