極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月5日、月面都市コペルニクスで爆弾テロが発生した。
緊張状態が続く、プラント、プラント理事国に向けて国連事務総長の呼び掛けにより行われた月面会議の会場で起きたテロはコペルニクスの悲劇として後に語られた。
これによって参加予定だった地球側のプラント理事国・代表者及び国連事務総長以下、国連首脳陣が死亡した。
参加予定だったプラントのシーゲル・クライン最高評議会議長は移動中のシャトルの故障によって到着が遅れた為、その難を逃れた。
そして、コペルニクスの悲劇、爆弾テロの会場に居て唯一生存した者が居た。
……国連のオブザーバーとして参加していた齢15歳の少年だった。
当時、彼は国連に委託された治安維持活動に携わっていたザナドゥ、その代表として参加をしていた。
自分を暗殺出来る奴など存在しないと普段から嘯いていた事で当時から有名だった彼。
……有言実行と言わんばかりに史上最悪のテロ事件であろうが本当に生き延びていた。
だが、当時の映像に映る彼は普段の冷静さが一切無く、重症である我が身も無視して叫んでいた。
唯一の生存者である彼を見て自作自演を疑える者は存在しなかった。
……皮肉にもその姿がこれから起こる大戦争、その最後の引き金を引いたと言う学者も多い。
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コペルニクスの中でも有数の建造物として有名だったコペルニクスの多目的ホール。
普段は音楽会の会場としてコペルニクス市民に愛されていたその施設は廃墟も同然な凄惨たる有様だった。
普通ならば肉片すら残らない大爆発だった。
レスキュー隊は先ずは救助ロボを投入し、会場中の様子を撮影し、確認していた。
ロボットに内蔵されたカメラが映す内部の光景は外と同様に原型がほぼ無い状態だった。
コペルニクス在住であったレスキュー隊の隊員達も目にした事のあったホール内に飾られた芸術品の数々は粉々になっていた。自分達の知る日常が失われた。彼らはその光景に息を呑んだ。
然し、彼らも光景に呆然としたり、動揺してもいられない。
レスキュー隊は一先ず侵入口は確保出来たと判断した。……もう十分過ぎた。
生存者はほぼあり得ないが万が一もある。急いで出動に取り掛かろうとした。
その瞬間、床に転がっていたホールの扉が勢い良く吹き飛ばされた。
何事かとレスキュー隊はカメラの映像に再度注目した。
「事務総長……無事か?」
血みどろの誰かが何かを引き上げるような動作で言った。
……誰かは分からないが会場内で最も頑丈な扉を盾にしたのだとレスキュー隊の隊長は悟った。
国連事務総長も生存していたかと最悪な状況だが安堵しそうになる。
だが、声を掛けた人物の腕から先はもう存在していなかった。
他は消し飛び、遺体として残ったのが腕のみだと判断するには十分だった。……一人でも生きている事が奇跡である。
「…………クソ!!」
腕を掴んで居ない方の手を扉に叩き付けた。その衝撃で顔が分かった。
この人物が少年だとレスキュー隊は分かった。然し、誰それを判断するよりも救助が先だった。
確かに一人は生存していた。然し、どう考えても大怪我である。手足はあるが頭から血を流し、腹部も血で滲むような負傷をしていた。
このままだと出血多量で死にかねない。 そう判断してレスキュー隊の隊長は部下に命令して急いで救助に向かった。
これ以上、絶対に犠牲者を増やさない。生存者は何が何でも助け出さなければならないという使命感にレスキュー隊は燃えていた。
そして、救助ロボとそれを映すカメラのみが残された。一名生存という情報は即座に発信された。
その映像は止める者無く、世間に出回る事になる。……誰しもが見たい奇跡の映像は簡単に流出してしまった。
「……誰だ!……一体誰なんだ!」
少年が叫ぶ。自分の負傷した部位から血が流れようがお構いなく扉を殴り続ける。
……国連事務総長の腕だった物を持った手で殴りそうになった所で冷静になったのか、力無く項垂れる。
「これだけの事を……若し、いや……誰が、遣れる奴が……居たとして……」
やや言動に不明瞭な所があった。違和感を抱くが、それは意識が混濁しているのだろうと第三者は理解する。
……果たして本当にそうなのかは彼にしか分からない。
「……そんなに戦争がしたいのかよ……」
そう言って国連事務総長の腕を守るように抱えながら彼は気を失った。
少年の最後の言葉は戦争を嘆く声だった。……それは誰が聞いても本心であった。
地球側では少年の想いを踏み躙ったという感情が沸き起こった。それは犯人を追求する声になった。
犯人は誰だと当然騒がれた。然し、誰にも犯人は分からなかった。
そうすると憶測でしかなくなる。プラント理事国を始めとして人々は当然のように犯人を決め付けた。
それは唯一、このテロに巻き込まれなかったシーゲル・クライン、そしてプラントだ。
結果的に少年が最も望まぬ戦争へと世界は加速して行く。
少年が後から何を言った所でもうそれは誰にも届かなかった。
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「……私はあの時、会場に間に合って死んでいた方が良かったかもしれない……」
生存したシーゲル・クラインはコペルニクスの悲劇の顛末を聞き、思わず呟いた。
プラントからすれば又地球の自作自演。然も、戦争反対派を殺し尽くしたという認識である。
それを更にプラントに責任転嫁するという始末だ。愚かなナチュラルとの会話は不要となってしまっていた。
……プラント上層部は結局犯人が分からなかった。
それでも自分達は遣っていないのだから相手を疑う他ない。
「そんな訳があるか!……ナチュラル共の愚劣さは我らが一番知っていた!」
パトリック・ザラは激怒した。……叩き付けた拳はその机を割っていた。
パトリックからすればナチュラルとの会話などそもそもが論外だった。
そして、盟友のシーゲルがそのような言葉を漏らしたと知り、更に激高して言い切った。
……何がナチュラルもコーディネイターも大して変わらないだ。
その心情になってしまった盟友を見て、その原因にこれ以上ない程の怒りを覚えた。
……それがどういった経緯から来る感情なのかは冷静に判断していれば分かったかもしれない。
だが、運命は少年が重傷を負い、どうやっても止められない。これから起こるバレンタインの悲劇によってその機会は永遠に奪われてしまう事となる。
2月7日、アラスカにて大西洋連邦の呼び掛けにより、崩壊した国連に変わる組織として地球連合が誕生した。
同日、地球連合はプラントに向けて宣戦布告を行った。
後日、オーブ等の国はその地球連合に加盟せず、中立を維持する事にした。
……史実では滅んでいた筈のリューリク家。
その末裔に生まれた異端者が、小さな波紋を起こし続けた末に変わる筈だった運命。
それはもう誰も知る事はない。
世界は元の悲劇の連鎖、絶望の時代へと戻ってしまった。