極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月8日、オーブ連合首長国・代表のウズミ・ナラ・アスハが全世界に向けて発信した。
前日のアラスカ宣言により地球連合が誕生し、プラント理事国が合流している中で行われた発言は世界を騒然とさせた。
『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』
建国以来のオーブの理念を掲げたこのアスハ代表の中立宣言は、敵か味方という白か黒かの盤上で別れつつあった世界に一時待ったを掛けた。
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「……この流れは既定路線か。私のこれまでの活動は些事という訳か……」
私はザナドゥの医療施設に持ち込んだ機材を使ってこの宣言を聞いていた。
……コペルニクスの悲劇の犯人は分からないが後で必ず相手にする。
恐らく地球滅亡も阻止に動くだろう。どうして国連主導の会議を潰したかと言えば国連の存続がソイツらにとって不味かったのだと思われる。
国連事務総長とも国連は解体されるのだろうと話していた。……それなのに動いたという事は奴らには直ぐにでも壊す必要があったのか?
『……だが、俺の国連は死なねぇ。だから頼むぜ、兄弟?』
国連事務総長、彼の声が聞こえた気がする。
……死人の言葉が聞こえるとは最早オカルトである。今直ぐにでも寝た方が良いのだろうかと悩む。
「いや、休んで下さい。本当に」
ベラはベッドの備え付けのオーバーテーブルに何かを置いてきた。
運んで来たのはノンカフェインコーヒーだ。これを飲んで寝ろという事だろう。
ベラにはコペルニクス後の面倒な取り調べ、調書の作成まで任せていた。
マスコミへの対応も大凡依頼している。……取材も受けていたが被害者の私ですら何を発信しても焼け石に水だった。
……糞みたいな捉え方で活用される映像は私にとってこれ以上ない屈辱である。
「テロによりザナドゥ等が私の生死不明で混乱する最中、私が次の手を打てるように君は整えてくれた。……有り難う」
私はベラに感謝した。ノンカフェインコーヒーを飲み、一旦これまでの作業を止めた。
……ベラが居ない状態でマスコミへの対応を遣っていたら真面目に私は憤死していたかもしれない。
「……ズルいですよ、それは……」
ベラはそれだけ言うと溜め息を吐き、私が先程依頼していた機材の調整に戻った。
先程の国連事務総長の声は幻聴では無く、私を応援してくれたのだと思う事にした。
国連、事件であるが、その犯人に関しては或る意味、簡単で難しい。
逆説的に私が同じような事件を起こせばコペルニクスの犯人も呼び出せるだろう。
それは今は良い。後で対処する。今は多少なり共、将来の布石を打たなければならない。
だからこそ、今のオーブの中立宣言をどうしたものかと脳内で纏めていた。
ラクスならば政治的な事も聞くだろうと思っている。
そういう部分を腹黒ピンクと呼ぶとガチでキレる。同年代の友達が居ない所為で天然が入っているお嬢様だった。
仕方が無く、同年代の友人を作りたいならば政治的な話は避けた方が良いと言うと何故最初からそう言わないのかと余計にキレる。ラクスは良く言われるキレる若者だった。
……オーブの中立宣言に乗る国々が地球連合に侵略されるだろうとは予測出来ていた。
それとは別に既にプラント、この場合はザフトかも知れないが、地球連合以外の選択肢で協力体制を築いている国もある。
それはそれで良いだろう。国の方針として考えて決めているのであれば問題ない。
然し、今の宣言で流されて中立を宣言した国は最悪だ。
オーブのような立地条件も武力も無い小国は見せしめに真っ先に滅ぼされるだろう。
「国連事務総長の最後の置き土産だ。……地球連合では無い」
私は国連事務総長との芸術活動、その最後の作品の原本を手に取っていた。
国連が崩壊し、オーブの中立宣言に流されてしまう国へのメッセージだった。
簡単に言えば戦時で中立を取る場合の可否判断基準メリット・デメリットを伝える資料だ。
非プラント理事国にザナドゥのネットワークで配布していた。
例えば、南アメリカ合衆国への資料ならば大西洋連邦の隣にあるマスドライバーは地球連合に間違いなく狙われるという事から始まる。
若し、プラント側に付いたらとかではなく、中立でも地球連合に攻められるから考えて動けというアドバイスもあったりもする。
国連の依頼なので私は利敵行為にはならない。ギリギリセーフだ。そもそももう国連は無いので責任も無い。
全配布が完了した日付は2月7日。地球連合が誕生したアラスカ宣言ギリギリに送付が完了した。
私が生死不明になった場合、せめてこれだけは何としてでも届けるようにと密使に依頼していた。
そして、コペルニクスのテロである。……それが全力で機能していた。
それ関係ならば私の遺言が姉に届いたかもしれない。非常に不味い。
アスランやキラへの遺言はベラが送る事になっていたのでギリギリセーフだった。
……もう考えたくないので止める事にしよう。
本音を言えば配布した資料に書き加えたい要素が山のようにある。
然し、拙速でも必要な情報だった。国連が過去になる前に送らなくてはならなかった。
この中立宣言に関する資料は地球連合ではない、国連の名で書かれた資料であった。
……私と国連事務総長が作成していた国連最後の遺産だった。
国連事務総長はアフリカ共同体の出身だった。父親は親プラント国家の中にある国の一部族の長であったという。
そんな将来有望だった族長の息子はある日、ノリと勢いで異教徒達と礼拝所で宴会をして父親に追放されたとの事だった。
アフリカ共同体は国と言うには経済軍事同盟の緩い結び付きであり、親プラント国家に分類されるものの内部でも方針が違う。
何処かで相談しても何処かが反対するので纏まらない国だ。
というかアフリカ全体が面倒臭い。例えば南アフリカ統一機構に家電の支店がすんなり置けた。
……その理由が未だアフリカ共同体に支店を置いていないからだった。因みに何故かゲーム会社は当然のように拒否された。
そんなアフリカ共同体から厄介払……元い代表と成り、国連事務総長に選ばれていた。
因みに国連事務総長は将来有り得る勢力図、地球連合とプラントの何方にも属したくないと断言していた。
『俺の国連〜』が口癖な彼からすれば国連が機能しない世界は嫌だったのが分かる。
そんな彼の想いが作った小国の独立に関する資料。……国連の最後の仕事だ。
地球連合とかいうワンアース主義による混乱もこれにより最小限に抑えられるだろう。
元々の草案は国連事務総長が作成していた。然し、国連事務総長には伝手が無かった。
私が居なければ圧力により配布すら出来なかったので誰が見ても国連は末期であった。
『俺の国連が無い世界等知った事ではないが、確かに其処にあったんだよ』
国連事務総長が私に最後に言った言葉だ。……生前の彼と最後に交わした言葉となってしまった。
彼の最後の想いは私が引き継いだ。国連の無い世界で戦火に焼かれる市民を一人でも減らす。
私は草案を元に国連の密使としてオーブのアスハ代表と交渉する等を行っていた。
地球連合ともプラントとも中立したい国の存在、それらとオーブは協力出来ないか等の調整を行っていた。
『このまま進めば、世界は軈て、認めぬ者同士が際限なく争うばかりのものとなろう』
アスハ代表は私の来訪に対してこのように独り言を溢していた。
……中立のオーブに無理な相談も入っていたが想いだけは共有出来たと思いたい。
何故、ゲーム会社は駄目だったのか。国連事務総長はアフリカ共同体においてその件で袋叩きにされても置いてくれたのに……。
「いかん。これからラクスと話すというのに大分参っているようだ……」
私は独り言を溢した。どうしてもコペルニクス前の出来事が頭を過ってしまう。
ベラが訝しげに見て来るが大丈夫だと言って彼女に向かって手を振った。ちょっと思い出が浮かぶだけだ。
『俺の国連もそうだけど、故郷も役に立たねぇ……。もうこれ、俺多分死ぬわ』
国連事務総長がテロリストの拠点を爆破しながら悲しそうに呟いていたのを思い出す。
過激な芸術家だった彼はテロリストに襲われたらその武装を使って遣り返すのを好んでいた。
この時は爆弾テロだったので爆弾を解体した後にテロリストの本拠地にそれを再度設置して爆破していた。
『リサイクルって大事だよな。お前らブルーコスモスの言う所の環境保護って奴さ……あ、これオフレコな?』
武装ヘリを操っていた国連事務総長はブルーコスモスのテロリストに爆弾を巻き付けてその拠点に投下した。
コーディネイターの子供に爆弾を巻き付けて親に送り返す外道共が相手であった。
そんな相手にも気遣いを忘れない私の友人。それが国連事務総長だった。
私はそんな思い出に浸りながらも入院中なので国連事務総長への手向けとして自分の手でテロリストを芸術作品に出来ない事を寂しく思った。
カナードへの通信機が目の前にあった。……通信機で彼女に何かを言いそうになって慌てて止めた。
流石に芸術を嗜まない者に遣らせるのは最低だと反省した。……本当に最低である。