極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
ラクス・クラインには同年代の友達は皆無と言えた。
彼女は物心が付いた頃には自宅で父が雇った家庭教師達によって学び、暇があれば父シーゲル・クラインの外遊先に着いて行っていた。 こうしてラクスは様々な事を学んだ。
歌う事は楽しかったが何時の間にか歌姫と呼ばれ、コンサート等で歌うようになっていた。
……歌詞に含まれた想いから彼女は何時しか平和の歌姫と呼ばれるようになっていた。
その評価はラクスにとって嬉しいものだった。
然し、段々と本来の自分とは離れて行くように感じていた。
ラクスから見て父シーゲルは本心からプラントを平和的に独立出来ないかと模索していた。
そんな中で父が私に会わせたい人物が居ると言って来た。今後、地球側で重要になる者との事で、その人物に会う為に私は父によって此処に連れて来られた。
場所は過去の文化が色濃く残るグレイブヤードだ。
受け継がれた伝統技術を世に淘汰され、此処に行き着いたという人々が住むこの場所でラクスは彼と出会った。
……父は10歳に満たない少年が現れた事に困惑していた。
ラクスも父に聞いていた話から予測した人物像と合致しないので戸惑いが無かったといえば嘘になる。
シーゲルが最低限の為にとラクスに見せた資料を思い出す。
ラクスが資料を読み解いて抱いた印象は、コーディネイターに対して偏見が薄いが昔の文化や自然を愛する為に自陣営に留まっている政治スタンスの青年以上中年以下という具合だ。
偶に我慢出来なくなるのか過激な芸術活動、ラクスには分からないがブルーコスモスにすら喧嘩を売るものらしい、を行うというのでラクスは相手が青年ではないかと思っていた。
どう見てもラクスと同い年くらいである。ラクスも父シーゲルの困惑を理解出来る。
ナチュラルでもコーディネイターでも明らかに異質な存在だった。
だが、
「大人は難しい事を考えなさる……私としては友達で遊ぶ方がずっと大事です」
彼はお茶を啜りながらそう言い切った。そんな彼を見て父は困惑していた。表には決して出さないが実は私も困惑していた。然し、そんな私達を彼は少しも意に介さない。
事前に父から聞いた話によれば彼はプラント理事国に最近出来たある秘密結社の首魁だ。
彼は間違いなくナチュラルらしい。ラクスは父と違って自分が其処まで動揺しないのは父との経験の差異だろうと推測した。
一瞬で其処まで考えたラクスだが、彼はこう考えた自分に対しても指摘しているのではないか。
ラクスは少し反省した。……お茶を貰って飲んで誤魔化していたが彼に話し掛ける事にした。
それに、今回は単純な顔合わせであった。相手が少年だっただけでそれは変わらない。
父が正体不明の相手は信用出来ないとして直接の顔会わせを彼に要請した。
父も私には其処まで語ってはいないが事前の行動言動から推測出来ていた。
ラクスは自覚こそ無いが既に傑物だった。
父シーゲルから見ても彼女の平和の歌姫としての才能は開花していたし、政治的な判断も近い将来には任せられると思う程には優れていた。
……だからこそ後に政略結婚という形でシーゲルは友であるパトリックとも話し合い、その息子のアスランをラクスの婚約者にした。
シーゲルからすれば上手く行けば良し、無理そうならばラクス側が判断してくれるだろうと思っていた。
……自身の娘であるラクスが余りにも傑物なのでシーゲルはこの時、ラクスの”少女”の部分を測り間違えていた。
この顛末を後に知った少年はシーゲルを悪い意味で親馬鹿と評した。シーゲルは何も言い返せなかった。
出自が明かされたら危険で特殊な生まれとはいえ、娘を閉じ込めるような事は可哀想だとシーゲルは思っていた。
シーゲルからすれば安全を確保しながら、ラクスに様々な場所を見て貰いたいので連れて行った場所も女傑の部分の才覚を覚醒させた原因だった。
少年はこれは良い親馬鹿と評価した。実際、厄ネタにも程があるのだから娘を連れて行ける場所は限られた。
プラントが力を持ち、ラクスも相応の年齢になれば問題ないだろうがそれまでは狙われる可能性があった。
深く洞察すれば政治的な立ち回りが要求される場所の数々である。様々な思惑と策謀が入り交じる空間だ。
……ラクスに秘められた才能を開花させるのにこれ以上ない程に適していた。
父が娘への愛の為に慎重に選んだ行為は皮肉にもアコード独自の特殊な”才能”こそ使わないが、それ以外ではこれ以上ない程に研鑽出来る環境だった。
そんな未来の話は兎も角、当時のザナドゥ代表・クシーとプラントのシーゲル・クラインはお互いにコネクションが必要だった。
ザナドゥ代表・クシーはプラントへの伝手、最悪でもある程度会話出来る人を求めていた。
シーゲルは自分の考えであるナチュラル回帰も視野に入れたプラント、延いてはコーディネイターの将来の対策として自由に動ける現地協力者を求めていた。
お互いの妥協の末、選ばれたのが世界樹のグレイブヤードだった。この場所の安全は保証されていた。
良くも悪くも基本的に使われているのは現在基準では古い技術で人払いとクラッキング対策さえすれば問題ない。
……因みにザナドゥの芸術部門はグレイブヤードに勝手に進出していた。というか完全に馴染んでいる。
若い芸術家達の中には地球もプラントも完全に嫌気が差している者達も居た。クシーと感性が合うとかいうとんでもない気狂い……元い、少なくない芸術家達はグレイブヤードに移り住む選択をしていた。
当然のように芸術の為に死ねる本気のガンギマリしか居ない。
そういった数少ない若者達は現在行方不明扱いである。然し、本人は気にしないようで彼らはグレイブヤードに文字通り骨を埋める気なのでどうしようもない。
グレイブヤード、過去の感性を持つ人々は現在の状況を糞と言い切れた。
もうコズミック・イラそのものが糞なのではと悟る者も多い。
グレイブヤードはザナドゥ代表・クシーのゲーム開発分野に大部分が携わっている。
彼らは音楽配信会社が儲かる事実を主任開発者のクシーよりも蛇蝎の如く嫌っている。
主に売れている音楽の担当はクシーである。
古典芸能を活かした効果音等はグレイブヤード側が完全に任されているし、音楽もその部分で還元はされている。
それでも自分達の作ったゲームが評価されないのが気に食わない。コズミック・イラは糞である。
国連事務総長はアフリカ共同体にザナドゥのゲーム会社の支店を置いてくれた素晴らしい人だ。
国連の影響下に無いにも関わらずグレイブヤードにおいては世界中で最も国連が支持されている。
そういう私怨により今日もグレイブヤードでは音楽配信会社を破壊する糞コラが発信されている。
……既にグレイブヤード、コロニーの権利は買い取ってあった。ゲーム等の芸術部門の売上で魔改造されていた。電子制御は完全に掌握出来るようにそのままにされていた。
ローテクノロジーの方が古い人間からすれば扱いやすいし、本気になればハッキングも不可能だ。
……その場合、ゲーム関連での通信が出来なくなるので奥の手である。
古い技術、良く言えば信頼が確保された技術である過去の遺産でグレイブヤードは改造されていた。
世界樹で戦争になれば分離して勝手に宇宙に出て行く。ザナドゥの芸術部門の拠点、グレイブヤードは無敵であった。
ザナドゥ本部の責任者であるティモテは、何故ゲーム会社は潰れても幾度となく蘇るのかと不思議がっている。
……もう世捨て人気分の無敵の人々が各所から集まっているのだから根本的に無くなる訳が無い。
グレイブヤードはクシーという例外を除いてザナドゥの極一部と本当に中立な勢力くらいしか相手にしない。
コズミック・イラという時代の枠組みからほぼ完全に外れている誰も知らない小勢力だった。
元々が自分達を除け者にした世界に背を向ける者達の終の住処。グレイブヤードも『墓場』という意味だ。
そんな扱いをされた彼らはもう何があっても勝手にしろという風潮があった。
それに方向性を持たせたザナドゥ代表・クシーの所為で良く言えば賑やか、悪く言えば滅茶苦茶になっていた。
彼ら、グレイブヤードの住人達はクシーが招いたシーゲルやラクスを無関係のお客さんとして適当に扱っている。
隣の家では囲炉裏で餅を焼いてクソゲーをプレイする蘊・奥は出来の悪い弟子はゲームもままならないのかと愚痴を溢していた。
弟子からすればあのラクス・クラインである。動揺して当たり前だ、ゲーム所では無い。あの有名なプラントの歌姫が近くに居るのに良く平然とゲームが出来るな、この糞爺と彼は思っていた。
弟子はクシーが連れて来た剣術の才があるナチュラルの元テロリストだ。
少年兵として洗脳されていた彼をクシーは自分に手傷を負わせたと高く評価して蘊・奥の所にぶち込んだ。
私の知り合いのスパルタ爺に介抱して貰えと言われて鎮圧された後に引き摺られて此処に連れて来られた挙げ句に投げ捨てられた弟子、それが彼だ。
……今でこそクシーに感謝しているが、彼は全てが無茶苦茶だと蘊・奥の弟子は思っている。
当時のクシーからすれば、弟子が自分に負わせた手傷は直ぐに治る程度だったとはいえコペルニクスに帰った際、キラ達にどう説明すべきかの方が悩ましかった。特にキラは勘が良いので説明にも中々手間が掛かるだろうと思ってやや困っていた。
クシーから見ても蘊・奥の剣術、活人剣はこの世のバグである。生半可な才能では継げるものは居ないと確信出来た。
実はクシーと呼ばれる少年はアスランに肉弾戦は兎も角、剣術では挑まなかった。
その辺の棒切れでチャンバラをした事があったが強度が足りな過ぎたので二人共、直ぐに止めた。
それとその頃にクシーが蘊・奥の剣術をラーニングしてしまったのもあった。
それくらい蘊・奥の技術は反則だと確信していた。……アスランに模倣でもされたら本当に洒落にならない。
そんなお隣さんの事も知らずに平和の歌姫であるラクス・クラインとザナドゥ代表・クシー、序でに父親のシーゲル・クラインは話をしていた。
「そうですわよね……私もオカピーと庭で遊んでいる方が好きですわ」
ラクスは自宅でお茶を運んで来てくれるロボットの名を挙げた。
ラクスは目の前の少年が友達『で』遊ぶという事なので素直に受け取った。ロボット的な意味で答えている。
「私も向上心のある友達を揶揄ったり、物臭な友達に発破を掛けたりする方が好きです」
少年は少し意地の悪い笑顔でそう言い切った。
……ラクスは彼の言う友達で遊ぶという言葉に少し疑問を持った。
その後、ラクスと彼は会話が弾んだ。同年代の友人と言える者が居ないラクスにとってはどれも新鮮で楽しいものだった。
ラクスは何時の間にか父を押し退けて彼と会話していたが、父シーゲルはそれを遠くから優しい眼差しで見詰めていた。
シーゲルからすれば娘の出自的に今は安全な所にしか連れて行けなかった。
……自分の所為で娘が同年代の子供達と遊ぶ機会を奪ってしまったのではと思う所があった。
クシーから見てもそれは仕方が無いと思うが、父親としてはそう思わずにはいられなかった。
因みにオカピーに乗っかって運んで貰うのが楽しいとラクスが言った所……。
「えっ、大丈夫?重くて壊れるんでは……」
乙女に体重が重いと言った少年を思わずラクスはビンタした。
ラクスの思わぬ行動にシーゲルは何事かと慌てた。……これまでこんな事は無かった。
少年は重さの話題から体重の話題になってしまい、自分が余計な事を彼女に言ったからだとシーゲルに説明した。
ラクスは年齢相応の少女のように拗ねた。
些細な事はあったものの、その日の顔合わせそのものは成功の部類になった。
尚後日、彼の言う通りになった。何時も通りにラクスがオカピーに乗ったら壊れてしまったので彼女は泣いた。
耐荷重10キロのオカピーに無茶苦茶をさせていたのだからそうもなるとクライン邸のお手伝いのアリスは思った。
アリスにより修理されたオカピーを見て喜んだラクスはこの事だけは絶対に誰にも言わないと決意した。
……後に婚約者との会話で思わず溢してしまったが、その時はもう自分は14歳なので問題ないとラクスは判断した。
更に彼にもバレてしまって14歳になっても乗ってやんのと煽られたラクスはキレた。