極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
ラクス・クラインは14歳となった。そして、アスラン・ザラがラクスの婚約者になり、暫くが経過した。
ラクスは父シーゲルとアスランの父パトリックとの間に溝が出来つつあると認識していた。
少し前まではシーゲルもパトリックを盟友として公私共に全幅の信頼を置いていた。
プラントを巡る派閥が出来てしまい、二人を繋ぎ止める形が欲しい。
其処でお互いの子供同士の婚約話が持ち上がった。
クライン派、ザラ派、主義主張は多少の差はあれどプラントの為なのは変わらない融和の証。
……ラクスはそのように認識していた。自分が完全な恋愛結婚を出来るとは思っていなかった。
ラクスは小さな違和感を抱きながらもせめて愛し合える関係を作ろうと決意した。
だが、
「必要だから愛するというのは最終的にお互いを傷付けるだろうよ。……私は貴方を見ているがそれは別に必要だからではない」
決意を表明した途端に出鼻を挫かれるような事を言われた。
ラクスは流石に動揺した。映像越しで良かったと安堵した。……手が震えるのを自覚した。
何故、それを今更言うのかと怒りを覚えた。
理不尽だと分かっているし、彼にそういうつもりはないのだとはラクスも分かっていた。…そういうつもりとはどういう意味なのかラクスは考えそうになった。
「いや……この言い方は無しだな。……まるで私から腹黒ピンクへの告白のようではないか」
訂正、分かっていてもコイツは無い。ラクスは激怒した。
南アメリカ合衆国からの秘匿回線を使った通信である。その為、余り長くは話せない。
尚、私用でプラントの秘匿回線や方々の新技術を乱用しているのだが誰も追求はしない。
二人共、お手軽な電話感覚で機密の塊であるホットラインを使っていた。
長く話せないのに何故毎回怒らせるような事を言うのかとラクスは思った。
……今回は答えない方がラクスとしては深く考えずに済む。有り難いので答えないで良い。
何時ものように勝手にラクスの疑問へ答えようとする彼に視線で制した。
「クシー……その言い方は最低だと思います」
浅黒い肌の短い銀髪の女性が彼にツッコむ。
ラクスは彼女、ヴィクトリアの言葉で胸が空く。
ヴィクトリアはユーラシア連邦のハーフコーディネイターであり、凄惨な人生だったと聞いていた。
今では一応は上司相手にこのような暴言を吐けるようになっていた。
……随分、健康的な美人になったと思う。ラクスは彼の方を無意識に見た。
率直な感想としてヴィクトリアから面と向かって最低と言われて彼は凹んでいた。
然し、それが唯の振りだとラクスは看破した。
彼はこういう言動を全く懲りないのでラクスとしてもやや困った。
毎回だが彼は落差が激しい。ラクスは自分の感情をどう処理したら良いか迷ってしまう。
つい先日20歳になったヴィクトリアは初めて彼と出会ったグレイブヤードにも来てはいた。
当時の彼女は緊張して余り会話にならなかったが、今では偶に同席して彼やラクスに第三者視点で苦言を呈していた。
お互い何方が普通で正しいのか判断に困った時に第三者の意見として呼んでいた。
ヴィクトリアは南アメリカ合衆国限定のコメンテーターであった。
ヴィクトリアは最初の頃は居合わせて良いのかと萎縮していたが、今では普通に会話に入って来る。
聞かれたらかなり率直に物を言うのでラクスも彼も結構キツイ事を言われるが気にしていない。
因みに普段の彼の付き人であるヴェラ、愛称ベラの感性は二人から見ても可笑しいので第三者機関としては論外であった。参考にならない。
マトモな感性そのものはキチンと持っているのだが、ベラにとって面白ければ平気で無視するからツッコミ不在で可笑しな事になってしまう。
「ヴィクトリアさんには良い方が居らっしゃいますの?」
ラクスは気分を変える事にした。丁度良い対象が身近に居た。
彼と二人きりならば罵倒の一つでも浴びせる所だが流石にプラントの歌姫という意識がある。ヴィクトリアが居るとやや言い辛い。
『……外側の評価に苦しむ事にいずれなるぞ』
ふと、彼が前にラクスに言った事を思い出す。平和の歌姫という外面を気にし過ぎるなという話だった。
だが、今のラクスの興味はヴィクトリアの恋バナだった。ラクスは完全に気分が変わっていた。
「そういえばどうなの?エドさんとか良いと思うんだ。私の芸術も分かってくれる良い人だ」
彼も完全に興味深々で追求していた。
彼が良い人というからには善良な方なのだろうとラクスは思った。
……だが、彼の芸術に理解のあるという点は減点の可能性が高い。
彼の芸術を理解する人というのは両極端だった。
ラクスは彼の作るゲームを遣った事がないが、絵画や音楽、その他は目を通していた。
彼の芸術を理解するのは全てを受け入れられる善人か、倫理観を何処かに置いて来た変人だ。
ラクスの経験則的には後者の可能性が極めて高い。
ラクスから見ても彼は素晴らしい感性がある。他方で同じくらいの破壊衝動が絵画等から読み取れていた。
彼は破壊衝動を抑え込む為に芸術として発露しているのだとラクスは理解出来た。
因みに音楽配信会社のランキング1位、2位はラクスの歌だ。それ以下では彼の作詞作曲した曲が多い。
上位はコーディネイターの曲の方が多い。……ナチュラルの芸術活動を推奨しているので其処まで目立たないが。
芸術分野においてはコーディネイターが事実上独占していた。
ブルーコスモスも大多数の人々が隠れて聞いている曲までは取り締まれなかった。
……戦争が発生すれば地球もプラントも其処まで検閲しそうである。
ラクスとしても人の想いを込められた作品には罪が無いと思っている。……それなのにそのような対象になる事が悲しかった。
コーディネイターでも世界で正当な評価を受けるのは主に芸術分野だった。
その為、ブルーコスモスによってコーディネイターの優れた音楽家や芸術家が襲われる事が一時期頻発していた。
結果としてプラントに移住するコーディネイターの芸術家は多かった。活動拠点を失う事になるが命には変えられない。
主だったコーディネイターの芸術家が居なくなった結果、ナチュラルの優れた芸術家なのにとばっちりを受ける者達が発生し、ブルーコスモス内部でも猛批判された。そうして漸く暴走そのものは沈静化した。
……それでも未だ隠れコーディネイターが襲撃に遭う事は完全には無くなってはいない。
彼は未だに地球の自然を愛して留まるコーディネイター達を保護していた。
ラクスも父シーゲルから聞き及んでいた。その正体は当時10歳に満たない少年であった。
そんな芸術界の中で彼はナチュラルであり純粋な実力で評価されていた。
それは音楽でも絵画でもだ。ラクスも絵画は見たし、音楽も聞いたが作品に込められた感情の世界に包まれたと錯覚する程であった。
曲には理想を、絵画は取り繕う事の無い感情が滲み出ているとラクスは察していた。
但し、彼の作るゲームは別である。世情をぶち壊すクソゲーとして常にリンチされている。
そしてゲーム内でリンチを仕返している。醜悪な報復合戦である。
ラクスは彼の芸術活動の一つ、ゲーム関連はほぼ知らない。シーゲルからしても論外なので娘に見せたくない。
シーゲルはプラントにゲーム会社の支店を置けとかいう色んな意味で酷い提案をされた事もあった。
それは兎も角として、今は無い平和の祭典のオリンピックにおいて個人競技等は金メダルをナチュラルが取れていた。
だが、芸術分野はコーディネイターが少数で優れた作品を残していた。
生まれ持った感性を表現する事は才能の開花が早いコーディネイターにアドバンテージが存在した。
勿論、ナチュラルの芸術家が劣る訳ではない。ラクスが好きな作品はナチュラルが作った物が多かった。
だが、万人受けする作品はコーディネイターが上手く表現出来てしまう。
何方が総合的に優れているかというとコーディネイターの作品を評価せざるを得ないのは歴然たる事実であった。
彼からすればナチュラル贔屓の中でも数字的にも作品的にもラクスがブッちぎっている事実は破格の才能と表するしかなかった。
負けず嫌いの彼にしては珍しく素直に芸術分野においてラクスには勝てないと思っている。
芸術は争う物ではないと思っているからだ。尚、ゲームに関しては別である。
何故世界中にゲーム会社の支店を作れないのか。
この糞みたいな悩みは彼の健全な悩みとして数%は常に脳内に存在する。
彼を持ってしてもゲーム会社の支店はユーラシア連邦とアフリカ共同体にしか作れていない。
ユーラシア連邦のゲーム支店は良くテロの標的になるので人気の無い土地に建てられている。
アフリカ共同体は国連事務総長が此処に手を出したら世界の敵なとかいう理屈で無理矢理作った。結果、誰も手が出せない無敵の立ち位置である。
アフリカ共同体の国民は国連事務総長を袋叩きにしている。あんなもんを建てるなという話だ。あんなもんとか酷いと彼は嘆いている。
……後に国連が悲劇的な結末を迎えたので余計に手出し出来なくなった。
存在している事を誰も非難出来ない無敵の支店になっていた。
グレイブヤードに行きたいけど地球への愛着の方が強いイカレ……社員達が残っている。
因みにコペルニクスの悲劇が起こらなかった場合、国連崩壊と同時にアフリカ共同体支店は国民からの焼き討ちに遭っていた。
彼と国連事務総長は盛大に泣いた。付き人として長い付き合いのベラは初めて彼の涙を見たがこれかよと馬鹿を見る目で彼を見詰めていた。……もうその未来は無い。
この時は未だシーゲルからアコードの事を打ち明けられていない。
アコードの件を知った際はラクスの破格の才能に納得する一方、ラクス自身の努力も多分に含まれていると思い直し、自分が納得した事実にキレた。
後に彼はアコードと会合した際、ラクス自身が努力し研鑽された結果だと確信した。
そんな未来は兎も角として、唐突に恋愛脳に染まった二人からの追求を受けた当時20歳のヴィクトリアは面倒臭い事になっていた。
「い、いやー……アタシはちょっとそういうのは……。ほら、アタシハーフだし!……って、これは違います。そういう風に捉えないで勝手に二人共曇らないで!」
ヴィクトリアは天然入ったクソボケ共の追求に思わず返した。
……ハーフなので恋愛を考えるのもキツイと正直に告白してしまっていた。
ヴィクトリアの言い方そのものは明るいが、その裏にある感情を汲み取れてしまう二人であった。
プラント理事国出身のハーフコーディネイターであるヴィクトリアがこれまで受けて来た仕打ちは想像を絶する程にキツかった。
……そんなヴィクトリアだが実は一応そういった対象は居なくもない。
……幸いにも会う度に幻滅しているので本気で気が付かれていない。
ヴィクトリアとしてもそれは助かっていた。
ラクス達はヴィクトリアの余りの闇の深さに曇った。……この話、恋愛トークは無しとなった。