極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月8日、オーブ連合首長国のウズミ・ナラ・アスハ代表による中立宣言が行われた。
コペルニクスの悲劇により国連が崩壊、プラント理事国が主体となった地球連合が誕生した翌日の事だった。
地球連合にもプラントにも干渉しないというオーブの中立宣言は二分される世界に待ったを掛けた。
そんな世界が動く裏でザナドゥ代表・クシーとプラントの歌姫であるラクス・クラインが水面下で接触していた。
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『という感じになるんではないだろうか。後世の歴史家が現在の私達がやり取りしているなどと知ったならば』
ザナドゥ代表・クシーと呼ばれる少年はそのように所感を述べた。
彼の手元にはコーヒーがあった。ラクスと通信する時はなるべく紅茶を飲んでいた。
病院のベッドで安静にしているのにも関わらず、彼は紅茶を入れる暇も無い程に無茶をしているようだとラクスは悟った。
……ラクスは表情に出したつもりはないが、彼はコーヒーカップから手を離した。
『初めましてアリスさん。私が今、世界で最も尊厳破壊されているザナドゥ代表です』
彼はラクスの側に居る女性を見て挨拶した。……無理矢理何時ものように空気を戻そうとしているのが分かる。余りにも露骨だった。
確かにアリスで合っているのだが、若しも違っていたらどうする気だったのかとラクスは思った。
「……は、はい?」
アリスは困惑した。何かこうもっと真面目に振る舞う人を想像していた。
いや、まぁパトリック・ザラをハゲ親父呼ばわりしたりするような奴だとは知っていたが。
……というか、自分の尊厳破壊を自慢するように言うな。ラクス様がどれだけ嘆いたと思っているのだ、この男は。
「……アリスさん。彼はマトモに相手をしてはいけません」
ラクスはアリスが彼に乗せられたのを悟った。過去の自分を見ているような気持ちになる。
道化師の役が上手過ぎた。……それはそうともっとこう、真面目に遣れないのかとラクスからしても思わなくもない。
『反応が悪いなぁ。……まぁ、そうなるのも仕方が無いか』
彼は肩身が狭そうな感じで言った。何か焦っているとラクスは悟った。
ラクスとしても現在の彼をどう表現したら良いか分からない。
「……寧ろ、貴方は何故平時のように演技出来ているのですか?」
ラクスはもう直接言う事にした。言葉にしないと伝わらない。
……同時に言葉にすれば伝わってしまいもする。彼はそういう部分に関しては疎くはなかった。
『……やはり私はもう可笑しかったのかなぁ。私は人より少しメンタルが強いだけだしなぁ』
彼はラクスの言葉から察したようである。
流石にラクスには彼がどのように感じたのかまでは分からないが、ラクスの反応を見て以前とは違うと彼が悟ったのは分かった。
彼は随分と落胆しているようだった。余り落ち込ませるのも不味い。
ラクスとしては、何というか想い的に、悩み的に、真面目にして欲しかっただけで其処までするつもりはなかった。
「安心して下さい。貴方のメンタルは既に神話に出て来る金属並みには硬いです」
ラクスは彼に乗っかる形で言い切った。実際、強過ぎて戦争になるまで分からない程だった。
『それもそれで酷くないか?……婚約者殿にもそれくらい言ってやれば改善すると思うよ?』
彼は傷付いたように建設的かもしれない提案をしてきた。
だが、よりにもよってアスランを引き合いに出してきた。……ラクスはキレた。
「今は関係ありません!」
ラクスは思わず彼に叫んだ。……今は貴方と話しているのだとまで言うのは流石に躊躇った。
『あっ、はい。……これはどうやっても何時ものように茶化せないな。どうしよう、ベラ?』
彼はラクスの反応から素直に言葉を引っ込めた。そして、画面に写っている付き人のベラに暴投した。
……アリスは余りの無茶振りを見て、画面の端に映る女性と同じ立場にはなりたくないと思った。
だが、
『私に振らないで下さい。今の私は貴方の姉からのメッセージを着信拒否するのに忙しいので』
ベラはしれっと問題発言をして打ち返した。
例えるならばデッドボールを無理矢理打ち返してピッチャーを殺しに掛かっている。
……これがラクス様の想い人の付き人か……。アリスはそう思い、無茶苦茶な主従に唖然とした。
『それ私、聞いてないんだけど』
彼は完全に素になってベラに尋ねた。ラクスも分かるくらいに余裕が無い。
『あっ……ヤベ』
ベラは無茶苦茶な暴投を打ち返したが、余計な事を言って後悔した。
「主従漫才してないで私の質問に答えて下さい。姉というのは例の血の繋がらない方の?」
ラクスとしても今更ながら気になった。彼には一応姉が居るらしいと知っていた。地味に今まで話にすら出てこなかった。
『……アリスさん。何かラクスは変な食べ物でも食べましたか?在り来たりな定型表現しか浮かばないのですが』
彼は真面目にコイツ大丈夫かとラクスを見てからアリスに尋ねていた。
彼としても前から指摘していたとはいえ、急にラクスが人前でこうも振る舞うとは想定外なのだろう。……ラクスはアリスに関してはギリギリセーフだと判断した。ラクスは開き直った。
「私に敬語は要らないのでラクス様と向き合ってあげて下さい」
アリスは彼をざっくばらんに斬って捨てた。
彼女は眼の前の男は一々、会話の腰を折らないと会話出来ないのかと思ってもいる。……ラクスの事を思いやっているのは分からなくもないのだが。
『……ラクスの傍には随分良い方が居らっしゃるようだ』
彼は心から喜んでくれているようだ。私に明け透け無く話せる人が居る事を彼はとても喜んでいる。
……彼自身はどうなのかとラクスは尋ねたいが、会話の腰を又折りたくないので黙る事にした。
『さて、コペルニクスの悲劇が起こってしまったが……』
彼は急に真面目な事を言い出した。だが、ラクスとしては気になる事があった。
「お義姉さんは?」
ラクスは思わず口に出していた。
……彼が余計な事ばかり言って茶化すのが悪いとラクスは責任転嫁した。
『…………』
彼は面食らったようになって、少し考え込んだ。何から話すべきかと考えているようだ。
そして、ラクスの問いに答える事にしたようだ。多分、もう諸々の事務的な話は今回は無しと彼は決めた。
『私って、ほら……何時死ぬかも分からないよね?其処で遺言を書いていたんだ。……それがどうも姉に読まれたらしくて……』
彼はラクスの問いに素直に答えていた。……凄く面倒臭いという感情が出ていた。
ラクスとしても死んでもいないのに遺言を読まれたらそうもなるかと納得してしまった。
「それは……因みに私の分もあるのでしょうか?」
ラクスは序でに聞いてみた。自分の分は届いていない。
……ラクスはプラントに居る身であるので自身に届く前に生存確認出来たから取り消したのだろう。それでも無いのならと思ってムッとした。
『あるけどさぁ……それ本気で死に掛けた奴に聞くかね?』
彼はラクスの問いに面倒臭そうに答えた。……彼らしい反応である。
面倒臭いのは本当だろうがそれをラクスへ隠そうともしない。あのアスランでさえ面と向かってならばもう少し取り繕うだろう。
……まぁ、アレは婚約者としての振る舞いではある。彼とは違う。
「済みません。貴方が何時も通り過ぎて感覚が可笑しくなってしまいましたわ」
ラクスは彼に責任転嫁した。彼が悪い。……あんな事が遭ったのに何時も通りにしようとするからだ。
そして、それにすら茶々を入れる人間が彼の側には居た。
第三者機関として成立しない、面白ければ状況を掻き回す彼の敵にも味方にもなる付き人だった。
『あ、件の姉からメッセージが来ましたよ。「貴様は道化師が似合いだ」だそうです』
ベラは彼に姉からのメッセージを読み上げた。
どういう意味かラクスには分からない。だが、彼はそれを聞いて顔色を変えた。顔を隠すように手で覆った。
『あのロリコン……はどうでも良い。……生死不明だった弟に掛ける言葉じゃねぇ』
彼はそう言って見るからに落ち込んだ。本気で疲れた様子である。一体何をしたのか気になるがとても聞けそうにない。
『それ言葉で遊んでいますか?』
ベラは彼に尋ねた。ラクスには意味は分からないが彼の言葉が掛詞にでもなっていたのかもしれない。
多分、二人にしか通じないブラックジョークだろう。ラクスとしては側に居てそのような遣り取りが出来るだけでも羨ましくもある。
『違う!』
彼はベラを睨み付けて黙らせた。結構な逆鱗に触れたらしい。
……ベラはお手上げというように引っ込んでいった。
そして、彼の雰囲気が変わった。
真面目に言いたい事を伝えるつもりらしいとラクスは悟った。
『……ああ、ラクス。取り敢えず私は元気です』
彼はラクスを見て言った。……彼は本心からラクスだけを見ていた。
『なので、余計な心配しないで良いから自分の事を気にしなよ。……これから本当に大変になる』
彼はそう言い切った。……此処に至っても自分の事よりラクスが心配で連絡を寄越したらしい。
「私は……」
ラクスが彼の言葉にどう返すか逡巡した。
プラントの歌姫、シーゲル・クラインの娘、アスラン・ザラの婚約者……どれでもない。
『アリスさん。私は今後は、立場的にどうしようもない時が多い。ですから頼みます』
彼はラクスの言葉を遮るようにして言った。……それ以上は言ったら不味いとラクスへ制して来た。
「……はい」
アリスは彼の言葉に同意した。プラントと敵対するような人間だ。ラクスの側に居られないし、逆も然りだった。
……それは理解出来るが、この人らの会話は緩急有り過ぎである。アリスも真面目に考えるのが可笑しくなりそうだ。
アリスとしてはクライン家のお手伝いをそろそろ辞め時かと思っていた。具体的には婚活とか婚活とかあった。
だが、コペルニクスの悲劇でラクスの諸事情を知ってしまった以上は、最後までラクスの側に居るつもりであった。
『流石に今度は……いや、またねという事にしよう』
彼はラクスへ挨拶をした。ラクスはそう言われるともう他に言えないではないかと思ってしまう。
だが、
「……はい。では、また次回に」
ラクスはそう言って彼に再会を約束した。……どの道、今は二人共冷静ではなかった。
コペルニクスの悲劇後の対応についても未だ考える必要もある。ラクスはそれらを再びの会話にする事にした。
……戦争になっても未だ方策はある筈だ。
ラクスはラクスなりに戦う事が出来ないか考える事にした。
然し、世界は彼女の小さな決意すら消し飛ばすように動いて行く。
2月14日のバレンタインデー。世界の、憎しみの連鎖は最悪な形で顕現した。