極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月10日、ザナドゥ代表・クシーによるコペルニクステロ事件捜査完了までの停戦の呼び掛けは当然のように双方から却下されていた。
そもそもザナドゥ程度の組織では普通はそんな呼び掛けは出来ない。
本来ならば意味の無い行為ではあるが、完全に無意味ではない程度には影響はあった。
……何故ならザナドゥ代表・クシーだからこそ出来るカラクリがあった。
ザナドゥは分類でこそブルーコスモス系列の末端ではある。
同時に旧国連において決定権は無いものの、参加権はある治安維持に関するオブザーバーでもあった。
年功序列のナチュラル社会においてはクシーのような若造の発言は軽んじられる。
然し、国連首脳陣が全滅した旧国連で見るならば、何と崩壊時ではクシーが暫定トップに成っていた。
それは国連に僅かに残った職員のその後も論じられぬまま崩壊した空白だった。
国連はコペルニクスの悲劇によって完全に崩壊していた。
ザナドゥは組織としては新興であり、他国が権利を主張するだけでクシーの主張は霧散する。他国が主張しなくてもクシーそのものならば意味が無い行為であった。
然し、クシーは自分が出来る最大限の権威であった国連として主張した。
オーブ連合首長国や一部の中立国はプラントや地球連合と敵対する可能性もあり停戦までは賛同はしなかった。
それでもクシーが言うように捜査すべき事件ではあるとの主張はウズミ・ナラ・アスハ代表を始めとした面々も賛同した。
実際、それくらいはしろよと言う世論の一部からも同意する声はあった。……然し、捜査や議論を無意味と断じ、戦争してでも正義の鉄槌を下せと言う声の方が遥かに大きかった。
それに対し、地球連合もプラント側も国連は既に存在しない機関であり応える意味が無く、ザナドゥは世情を混乱させるような事を主張するなと非難した。
……この時期からザナドゥは国連を引き継いだというスタンスで『意味の無い声明』を発表する事となる。
地球連合やプラントからザナドゥが非難されれば自分では無く、国連に制裁しろと言う無茶苦茶な論理で躱す。
ザナドゥは国連を称する第三勢力の広報と化していった。ザナドゥに制裁すれば国連を認めたという事だと主張するので迂闊に手が出せない。
それは、戦争へ干渉しない中立国を始めとして僅かではあるものの影響力を発揮していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ザナドゥ代表・クシーは本部にて凡ゆる公的な組織からの罵倒を受けていた。
反省していると言うが止めるとは言わない。そんな子供の屁理屈のような姿勢を貫き、数多の罵声の嵐を乗り切っていた。
ザナドゥ本部・代表であるティモテ・エペーは傍で聞いていただけでも気が滅入る所ではなかった。だが、そのような無茶苦茶な事を自分の意思で遣るクシーの側に居た。
自分自身を客観的に分析し、利用し尽くすクシーは前からそうだった。だが、ティモテはコペルニクスの悲劇後、入院の勧めも無視して活動し続けるクシーを心配していた。
「コペルニクスの悲劇、その被害者である事を最大限に活かしているのは分かります。ですが……」
ティモテは年の離れた上司を心配して言葉を掛けていた。
クシー、ザナドゥの動かせる手勢はコペルニクスの悲劇で深刻なダメージを受けていた。
この場合はクシーが即応で動かせる存在だ。特にザナドゥの『雲』の損害は大きい。
雲にはクシーしか知らない者達も居た。ティモテすらも知らないザナドゥの初期メンバー、その半数が死亡した事になる。
新しい手勢を補充するにしても育成期間が足りな過ぎた。
公的には7年前に誕生したザナドゥの時間を掛けた分の損害は大きかった。
それを埋める為にクシーは国連という看板まで使い始めていた。
コペルニクスの悲劇の被害者、崩壊した国連の継承者を自認するだけとも言えるのでこの程度の非難で済んでいる。
そして、その効果は広報としては破格だった。本来ならば唯の末端だが仮初とはいえ国連の看板を使っているのだ。……完全に無視するのは難しい。
ティモテとしてもこの手腕には感服する他ない。
……それを利用するクシーのメンタルへのダメージを除いては。ティモテはそれが一番心配だった。
「こういう物は最初に反応したら負けなんだよ。さて、例の犯人はこれにどう動くか……」
クシーと呼ばれる少年はティモテの心配を感じ取りながらも一蹴した。
心配等不要と言わんばかりに振る舞っている。
気分を害して組織内で伝播するより、尊大に振る舞うくらいが部下も安心して判断を任せられる。組織の長として相応しかった。
「…………」
ベラは控えていた。必要な事があれば適宜対応するが今は黙っていた。
ああして振る舞っているが、我が主はノンカフェインで胃に優しいルイボスティーを飲んでいた。
飲んでいる本人と機微に敏い者は気付いてしまう。やはり国連の名前を利用するプレッシャーは大きかったようである。公私共に仲が良かったからこそ勝手に使う事に罪悪感を抱いている。
……あの国連事務総長ならば即座に認可しそうだと思う。主もそうだと確信しているから出来たのに違いない。然し、実際に居る居ないの差は大き過ぎた。もう国連も事務総長も居ない。更にザナドゥの諜報部の精鋭である雲の面々を失ったのは大分キツかった。
……こういう場合、ベラの認識では女性を宛てがう事で紛らわせたりするものだ。
然し、どうも潔癖なのかそれも嫌がっていた。
男という者は童貞だと無意味なプライドがあるというのは主にも当て嵌まるのかもしれない。本当に童貞なのかは正直分からないが。
現在の主はラクス嬢の想いを無視したのが堪えているのもある。こうなっては今はそういうのも駄目だろう。
……姉も遺言を受け取ってからでは遅いのだ。糞ボケがとベラは心の中で吐き捨てた。
「11日には月面のプトレマイオス基地を出発というので間違いないか?」
クシーは一端色んな事を棚上げし、現在軍部に居る内通者に情報を確認した。
自分は重傷で未だに動けないが、それでもシンパが軍内部には居た。その為、軍事活動中でも或る程度ならば連絡手段を確保出来た。
ザナドゥの軍部に存在するシンパはクシーに心酔した若手将校を筆頭として構成されていた。
但し、軍人の伝手はユーラシア連邦軍が主体である。
クシー個人の経歴から集められる支持母体はユーラシア連邦が主軸になってしまう。
それと母方の伝手ではないが、関連で得た知識を活かした東アジア共同体の一部だった。
最近ではエネルギー産業で日本首相と蜜月になっていた。
結果、日本人や日系人の軍人が幾人か追加された。東アジア共和国・日本方面軍の関係者は予算不足の為か金にガメつい。逆に金があれば融通してくれる側面もあり、ある意味楽でもあった。日本国内には様々な陣営のスパイが居るので防諜には気を付けなければならないのが欠点ではある。融通は効くが多用するとバレる可能性が高まる。
ザナドゥには代表・クシーの未来予知染みた投資によって得た金があった。
資金源となる事業経営も上手く行っている。唯、事業が成功するのは世界が戦争に向かっている事と同義なのでクシー的には余り嬉しくない。
戦争関連に見せ掛けた未来の為の研究の方が滞りつつある。人を割く余裕が無い。
クシー肝入りのガン研究は核戦争という眼の前の恐怖によって或る意味一番充実していた。
今ならば人物金が揃っている。コペルニクスの悲劇が無ければ一気に進展していただろう。
然し、プラントの核対策が発動すれば一気に下火になる可能性が高い。
クシーとしても無意味にはしたくない。
続けるつもりではあるがコンコルド効果は避けたいのでクシーの個人資産がメインになる。
地球内でのガン研究をしていたら梯子を外される事になる研究者を雇うつもりだが、目に見えた人材は他に行くだろうと予測している。
……クシーですら目に見えて優秀ならば他の事を遣って貰いたいくらいである。他はもっとだろう。
ザナドゥは慢性的に人が不足しているが金だけは組織の規模以上にあった。
だからと言ってMSを開発出来る人材は多くはない。未知の技術であるのでザナドゥからすれば戦争で鹵獲してからが本番だ。
流石に現状、ザナドゥに鹵獲したMSが回って来る程ではなかった。此処で手に入れておければ良し程度である。相手を知らなければ何も出来やしない。
ザナドゥは世界規模でのインフラ投資に金を使っていた。
若し、原子力発電が死ねば億単位で人が死ぬ。
…そうなると思いたくはないが、核が使用出来ないように出来るのならば可能性を否定し切れない。
クシーはザナドゥの主軸に地球環境に配慮したインフラ整備を掲げ、必死に対策していた。
人が足らないので確実な要所に作り、インフラ壊滅時に広げられるようにしていた。
アズラエルでも何でも流石に原子力発電が止まれば協力してくれるだろう。
……尤も今の世論だと戦争に全部ぶち込みかねない程であるので協力”させる”が正しい。
7日に出来て未だ3日しか経っていない現在の地球連合では早速派閥争いが発生していた。
地球連合内では国力の差から大西洋連邦が最も力を持っており、ユーラシア連邦が主体のザナドゥはこれまで以上に睨まれるようになっていた。
情報がハッキリしないものが多かった。
ザナドゥに肩入れしている事を公表している者達は早くも僻地に飛ばされていた。
クシーとしては余り大っぴらに支持するような真似は控えて欲しいと当初は思っていた。
然し、公言するくらいあからさまな者は軍内部で処理するには悩むような案件、厄ネタが集まるようにもなっていた。
こうなるとほぼ便利屋扱いに等しいが持ち込まれる案件はザナドゥ側としても放置も出来ない事が多かった。
それを貸しとして押し付けて少しずつザナドゥの影響力を強める方針に切り替えた。
コペルニクスの悲劇後に世界中で噴出する厄ネタの処理を行い、戦争については状況を把握するので精一杯だった。
『はい、間違いないかと』
傭兵部隊Xの眼鏡副官メリオル・ピスティスがクシーの問いに答えていた。
メリオルとは通信画面越しで話している。
カナードは現在進行系で忙しい。カナード・パルスは地球連合、より正確にはユーラシア連邦だが、に傭兵として雇われていた。
……現地指揮官と折り合いが合わずに衝突していた。
コーディネイターが混じった部隊という事で編成で揉めていた。
当然だが前線に出せる程に信用されていない。何かあれば邪魔をすると思われている。
実際、何かあれば邪魔するつもり満々でもあった。核使用は邪魔をしても良いと伝えていた。
何があってもクシーが責任を取るので核を使う予兆があれば止めさせろと言っていた。
命を捨てろに等しい命令なので努力義務程度ではあるがガチだった。
「やはり止めるべきだったかな……」
クシーはメリオルに聞こえないように呟いた。
カナードから言われたが、仮初でも陣営に参加する姿勢を見せる事は大事だった。
その為に渋々ながら傭兵部隊Xの参加は同意した。ザナドゥではなく傭兵としてである。
然し、想像以上に現場の折り合いが悪過ぎた。戦闘は兎も角、本格的な戦争は70年も無かった。
クシーも現地に居ない為、現場の混乱の程は読み切れなかった。
……現地指揮官がこの程度で揉めている。プトレマイオス基地から出るという今回の侵攻はクシーからすればもう負け確定だった。
更に相手は防衛戦だ。後ろに自国民が居ると思えば引ける訳が無い。
最悪、傭兵部隊Xを切れとカナードから進言されていたが、クシーとしては当然だが切るつもりはない。……ましてこのような負け戦では。
だが、嫌な予感がする。同時にカナードをこのまま出しても止められない気もした。
「……若しも、だ。現場指揮官が余りにも酷ければ契約解除して戻って来てくれ」
クシーはそう言った。カナード達、傭兵部隊Xは現在、ユーラシア連邦に雇われている。
然し、ユーラシア連邦と大西洋連邦は連携が取れていない。更に末端がこれでは話にならない。
盛大な負け戦になる他ないならば、もう引いてくれた方が個人的には有り難い。だが、嫌な予感が続く。
クシーは最終的な判断を現場に居るカナードに託した。嫌な予感だけで関係を損ねても困るだろう。
……そもそもクシーが言った所で判断するのは傭兵部隊Xの隊長であるカナードだ。
『分かりました。……今後は連絡出来なくなりますので御了承下さい』
メリオルはクシーの発言に力が無いのが気になった。だが、判断は傭兵部隊X側で認可されたので安堵し、通信を切った。
現場の混乱に上層部の意思まで絡んで来ると酷くなるのは現在進行系で発生していた。
メリオルはクシー及びザナドゥによって如何に自分達が恵まれていたのかと改めて実感した。
現場は本気でこのまま戦争する気なのかと正気を疑うレベルで錯綜していた。
メリオルはクシーは絶対に戦争を遣りたがらないが、此方で総指揮官を遣ってくれていたらどれ程有り難いだろうと思った。絶対に言葉にはしないが。
メリオルはカナードのあの現場指揮官の所為でクシーに自分自身で報告出来なかった苛立ちを想像した。
それを宥める内容をメリオルは考える事にした。