極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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閑話 名もなき者達の些細な戦死

コズミック・イラ70年2月11日、地球連合軍は月面基地プトレマイオスからプラントに向けて侵攻を開始した。第1次連合・プラント大戦が始まった。

 

地球連合軍の圧倒的な物量とも言える軍勢、最新兵器で抵抗していたプラントも負けて終わるだろうと民衆は考えていた。

 

2月12日、地球連合軍はプラントへ向けて進軍していた。

 

大規模な艦隊である為、上からは無駄な疲弊はしないようにという指示もあり、緩んでいた。

 

「確かに上の言葉は一理あるかもしれない……だが、ザフト側の偵察もあるだろう。此処まで緩むのは最早軍隊ではない!」

傭兵部隊Xのカナード・パルスは余りにも杜撰な地球連合軍に呆れていたが、流石にキレた。

 

直属の現場指揮官とカナードは合わなかったが、その部下達は勝手にカナードに懐いて来た。

尚、ウザいと蹴りを食らわせたりなどして扱いは雑だった。

 

カナードはそれでも自分の周りくらいは無意味に死なせるような事はしたくないと思い始めていた。

地球連合軍の索敵や偵察への備えも杜撰なので進言したが却下された。

有象無象と呼べる程に数だけは居るのだから活かさなければ損失である。燃料等も問題ない。

 

有り得ないと一蹴されたが、若し敵がクシーならば最初から戦意を下げる勢いで狩り取って来る。何ならプトレマイオス基地で待ち構えて毎日襲って来る。

人々を恐怖に陥れたテロリストがクシーに連日連夜拠点をテロされ続け、最終的に敵が発狂したのをカナードは忘れない。

中東最大のテロ組織はクシーによって内部から崩壊していた。ああなったら組織としてお終いであった。

 

……カナードとしてもそんな奴らは居ないと思いたいがプトレマイオス基地から離れて2日目だ。

どう考えても気が緩み過ぎだった。腹いせにカナードはゴミ箱を蹴っていた。

 

それを遠巻きに見ている者達が居た。地球連合軍の兵士達と傭兵部隊Xの隊員達である。

 

「カナードちゃんは何であんなにキレているの?……蹴られるのは御褒美だけど死にそうだから困る」

地球連合軍のマッド少尉は小太りの体を震わせてボソボソと尋ねていた。当然だが彼はナチュラルである。

 

カナードによりチタン製のゴミ箱が延々と蹴られ続けていた。

無重力で飛んで行きそうなのを超絶技巧で制御していた。手元に浮かせて延々と蹴り続けている。

 

「何か俺達の為に進言したのに上から断られたんでキレたみたいですよ」

傭兵部隊Xのウィッグはマッド少尉へ返答した。……御褒美発言は聞かなかった事にした。

 

マッド少尉はコーディネイターへの偏見が無い良い人なのだがちょっとキモかった。

 

「おお、俺達の姫はそんなにも俺達の事を……」

それを聞いて地球連合軍に急に生えて来たカナード親衛隊が騒つく。

 

傭兵部隊Xと行動を共にする地球連合軍の者達は皆、パルス隊長がコーディネイターだという事は勿論知っている。

だが、強く美しい少女であるカナードが自分達と一緒に戦ってくれているので、それに感動した彼らの中から変なシンパが沸き始めていた。

……ウィッグはカナードが懸想しているクシーの事を眼の前の男達に言うべきか悩んだ。多分、カナードは彼に通信出来なかった事も含めて荒れている部分が大きかった。

 

そんな馬鹿な事を遣っている男共を横目に呆れつつ、眼鏡の女性副官が馬鹿共の横を通り過ぎた。

 

「パルス隊長、メリオルです。御時間宜しいでしょうか?」

眼鏡副官のメリオル・ピスティスはカナードに声を掛けた。

 

メリオルはクソッタレな現場指揮官に却下されたカナードの進言についてザナドゥのシンパ達に根回ししていた。

……多少はマシになる筈である。本当に一部だけしか動かないので焼け石に水になりそうではあるが、無意味ではない筈だ。

 

メリオルはカナードの苛立ちを抑える事を考え、寄り添うように行動していた。

……メリオルはカナードに対し、若干その気が混じっていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

そんな傭兵部隊Xと愉快な馬鹿達とは打って変わって真面目に戦争している者達も当然居た。

 

 

仮面の男は偵察任務として何名かの部下を引き連れて地球連合軍の様子を見に来ていた。

 

結果、想像以上に緩んでいた。報告の為に部下の一人は帰らせていた。

深入りするつもりはないが、もう少し詳細を調査するという名目で残っていた。

70年間戦争をしておらず、未だ地球に近いとはいえクルーゼから見ても地球連合軍は余りにも緩み切っていた。

 

「任務は偵察ではあるが……敵はマトモに進軍すら出来ていないようだ」

仮面の男ラウ・ル・クルーゼは軍隊とも言えるか怪しい有象無象を見て言い切った。

部下達を煽る為に言葉を掛けていた。……クルーゼとしてもこれでは話にならない。

 

既に任務を果たしていた。情報は持ち帰ってザフト内で精査されるだろう。

然し、此処まで酷いのであれば場所によって敵にバレずにスコアが稼げると確信した。

最悪の場合は交戦も可能と上層部の言質は取っていた。

……敵は余りにも雑である。独断専行という言い訳も立つ。

 

 

戦火を広げたいクルーゼからすれば、地球連合軍にも或る程度は活を入れておかなければ戦いにもなりはしない。同時にザフトでの立身出世にもなるのだから一石二鳥であった。

 

 

クルーゼは適当な言葉を並べ立てて地球連合軍の逸れた馬鹿共を狩るように部下達を誘導していた。

若い彼らは優秀なコーディネイターであるという自負があった。その為、クルーゼの言葉に簡単に乗って来た。

……クルーゼはこれはこれで心配になった。一応、建前があるとはいえ、命の取り合いである。

これまでの戦闘とは訳が違うのだからと危険性を指摘するが、部下達はナチュラルを軽視していて殆ど聞く耳を持たなかった。これはクルーゼの部下達だけでは無く、ザフト全体の問題でナチュラルを軽視しない者が不足していた。

 

クルーゼとしては誰か自分を制止してくれる部下が欲しい所だ。

クルーゼは憎悪しかない世界が滅びないかなとは考えてはいるが、中間管理職として極めて優秀で真っ当な感性の持ち主だった。

 

 

「当たり前だが君は居ないか。……まぁ、君の場合は一番厄介なのは味方、いや世界だろうな」

クルーゼは一人言葉を溢していた。部下達に聞かれても困るので流石に通信は切っていた。

 

……居る訳が無い。だが、居たらどうするかと思っていたらしい。

クルーゼはコペルニクスでの違和感といい、調子が狂うと気を取り直した。

 

丁度良い事に未だ安全圏であると油断してデブリにぶつかり、進軍から遅れている敵艦が居た。

あの様子では襲撃されても救援は間に合わないだろう。他にも候補があったが、他の要素も考えてこの艦だとクルーゼは決めた。

 

 

「では、諸君。我らの力をナチュラル共に見せてやろうではないか」

クルーゼはMSジンに乗る部下二人に向けて作戦開始を告げた。

 

後にMS1個小隊による対艦攻撃の基礎戦術として教材に掲載される小規模な作戦が開始された。

 

 

クルーゼ達の標的になってしまった地球連合軍の艦は操舵士のミスで艦列を乱してしまっていた。

 

この艦はこの艦隊の現場指揮官の一人が乗る艦である。それ故にこの艦は他の艦よりも重要度が高かった。艦長は自分の艦が艦列を乱した事に驚いていたが、戦場に到着してからが本番だと思う事で気を取り直した。

そして、そんな艦でミスをしてしまった操舵士は真っ青になっていた。艦長は軽く状況を分析した。

艦のレーダーに注意していればぶつかる訳がないので操舵士だけの責任ではない。

艦長は彼が初陣で緊張しているだけだと判断して寛大に振る舞う事にした。

 

寛大ではあるが緊張感が無い。悪く言えば今まで戦争が無かったので腑抜けていた。

 

「デブリか……まぁ、良いだろう。遅れる事になるかもしれんが後で連絡しよう」

艦長はそう言ってデブリにぶつかった事による被害等を確認した。

 

「艦長!失礼ながら、此処はもう戦場です。味方への合流を急ぐべきかと」

副官は艦列から逸れた艦を元の位置に戻す事を優先すべきと進言した。

 

被害は軽微であった。こんな事で艦列を乱して奇襲されたら、万が一ではあるが自分達は纏めて死ぬ。

副官としてはそういう危機感で艦長に進言していた。

……実際、艦長が副官の言う通りにしていれば仮面の男はこの艦に目を付ける事は無く他を狙うか、又はカナードが進言していた些細な援軍が間に合ったかもしれない。

 

「常在戦場の心構えは素晴らしい。だが、我々は大軍だ。それ故にこんな所で襲うのは馬鹿のする事だよ」

艦長はそう言って副官の進言を却下した。……最後の命綱を彼は手放してしまった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

クルーゼ隊は1000メートル程度に距離を開けた三角形、トライアングル・フォーメーションを形成していた。

敵の艦砲射撃を分散させる狙いがあるこの陣形はコーディネイターの自主判断、独断専行が多いザフトでは乱れる事が多かった。

だが、クルーゼ隊はナチュラル共とは違うと言いつつも陣形や戦術を重視していた。

その成果によりザフト内でも評価され、機動兵器であるMSの戦術の幅を広げていた。

 

クルーゼ隊は攻撃目標である敵艦を分析していた。クルーゼは部下二人へ作戦を再確認した。

……クルーゼの勘が時間を掛けると厄介な敵が来ると警報を鳴らしていた。居る所には居るらしいがもう遅い。

地球連合軍に居るらしい優秀な人材に阻止されると戦乱を続けたいクルーゼとしても困る。

 

 

その為、クルーゼは確実に目標である敵艦を落とす方向に切り替えた。量より質を優先した。

目標はジンの兵装に対処する為に改良されたと思われる艦だ。

最悪落とせなくても攻撃がどの程度通じるかは有益な情報だった。

 

強力な兵器であるMSジンとはいえ、対艦戦には時間が掛かった。

 

「私が敵艦に近付き、ジンの機銃斉射により敵の艦砲射撃を引き付ける」

指揮官であるクルーゼは最も危険な艦への接敵を軽い口調で引き受けていた。

 

小隊で一番ジンの操縦が上手いので誰も反論は無い。

ザフトには明確な階級制度こそ無いが完全な能力主義だ。

コーディネイターの優秀な頭脳による臨機応変さはナチュラルとの差を表していた。

 

「マシューは援護射撃、オロールは隙を見て無反動砲を放て。それで沈む」

クルーゼは簡単に言い切った。幸いにもジンの無反動砲が一つあった。

 

クルーゼが独断で持って来た兵装だった。偵察で使わないだろうと言われていたが一つくらいならばと許可された。

 

クルーゼは持って来た無反動砲をオロールに貸し与えた。

敵艦の弱点を突けばジンの機銃でも落とせる。MSの機動力を活かして重斬刀で斬り付けても良い。

だが、クルーゼは敵の装甲が想定よりも硬いと判断した。機銃と無反動砲で確実に沈める。

 

クルーゼが世界に影響を与える程に立身出世して行く為にはこの独断で沈む可能性は万が一でもあってはならない。

 

「分かっているとは思うが、我らが優れているとはいえ万が一があればナチュラル共を付け上がらせる。艦一つではあるが新型だ。落としたら直ぐに帰るぞ?」

クルーゼは新型では無く、改良されただけだと分かるが二人は気付いていない。

 

ナチュラルの新型艦を落としてやったと自信を付けさせる。

その為にザフト、コーディネイター特有の独断専行をしないように注意した。

 

「「了解!」」

マシューとオロールはクルーゼの指示に応えた。

 

若い彼らは圧倒的な敵を前に新型を狩るという大役に心踊らせていた。

戦闘では無く戦争だ。今までに無い特殊な状況による高揚感に彼らは支配されていた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

クルーゼ隊に狙われた地球連合軍の艦は当然だが、パニックになっていた。

だが、それは人災に等しいものだった。

 

 

「こんな所で襲撃してくる馬鹿が居るか」

当初、艦長はこのようにして呆れていた。実際、馬鹿の突撃としか思えなかった。

偵察の序でに落とすにしても此方は一応とはいえ、指揮官の艦だ。装甲はジンの兵装を参考にして強化している。

 

……無反動砲でも撃たれない限りは沈まない。この大軍の前に偵察隊が持つ筈がない。

 

「艦長!直ぐにメビウスを発艦させましょう!接近された場合、ジンの重斬刀で斬り付けられれば艦も危ういです!」

副官は艦長に進言した。副官もザフトが未だ現時点では貴重な無反動砲を偵察隊が持つ訳が無いと思っていた。

 

だが、ジンの重斬刀は厄介だった。これまでの戦闘でも艦に取り付かれて落とされたのが多かった。

 

「……それは一理あるな。うーむ……」

艦長も副官の進言に頷いた。有り得なくはない。だが、現場指揮官である自分が慌ててメビウスを出すと臆病者と笑われるかもしれない。だが、装甲は絶対ではないと悩んだ。

 

……艦長の判断は少し遅れた。これが日常ならば兎も角、戦争中だった。少しの悩みが最悪を招いた。

 

「艦長!3機のMSの反応が!」

観測が報告をする。……当初は1機に見えていた。

 

艦の面々は知らないがクルーゼが指揮官として突出していた。

他は隠れるように地球連合軍の艦の索敵をギリギリまで回避していた。

 

……1機だけの馬鹿の突撃だと勝手に思い込んだ艦長の判断ミスであった。

 

「何!今直ぐ、メビウスを……」

艦長は慌てて指示を出す。だが、艦を揺らす衝撃がそれを妨げた。

 

ジンの射程範囲に入ったので撃たれただけだ。

だが、戦争をしてこなかった者達が慌てるには十分過ぎる程だった。 混乱は伝播し、その責任者である艦長すらも動揺していた。

 

 

「……もう間に合わん。メビウスにはパイロットを乗り込ませて、そのまま落とせ。援軍が来れば良いが……援軍が来るまでは艦砲射撃で時間を稼げ!」

副官は役に立たない艦長に変わって独断で命令した。

 

艦長は副官を叱り付けようとするが、動揺する艦内で唯一の命令を聞いた者達は勝手に行動を開始した。

最早軍隊として機能していないがそれでもマシだった。何せ艦長が席に戻る頃には既に結末が決まっていた。

 

 

「……メビウスは撃ってこないのではなく撃てないらしい。成る程、どうせ墜とされるならば戦力となるメビウスのパイロットの温存に切り替えたか」

クルーゼは撃沈させた艦にはマトモに考えられる人材が居たらしいと評価を改めた。撃沈前に何機かのメビウスが艦から出て来たが本当に出て来ただけだった。クルーゼとしても邪魔になるメビウスを発艦させる暇など与えたつもりはない。だからこそ驚いたがそれだけだった。

 

一人でも生かそうとする、知らない誰かの執念が感じられた。最早、只の緊急避難だ。……時間稼ぎをすれば援軍が間に合うと踏んだのだろうが、自分の持ち込んだ無反動砲は想定外だったようである。

クルーゼは保険として持って来て正解だったと思った。

 

「無反動砲はやはり今後重要になりそうだな。良いデータが取れたよ」

クルーゼはそう言った。クルーゼなりに知らない誰かへの手向けとして言葉を掛けた。

 

 

……無名のまま散った戦艦。そのパイロットの一部はザナドゥのシンパによって救助された。

当然、地球連合軍では問題となった。だが、副官の独断専行による指揮系統の混乱で沈んだのが最大の原因であると結論付けられた。

 

実際、くだんの件で戦死した艦長には事故当時に大した怪我は無かった。

艦列から離れた後に起こった、些細な人災であると結論付けられた。

一応は気を付けるようにと各部隊の責任者達に警告する程度になった。大局的には何も変わらなかった。

擁護するのであれば、上層部からすれば戦争本番前に末端とはいえ、艦例から逸れた指揮官の艦が撃沈されたと吹聴すれば現場が混乱する事は間違いなかった。

士気の下がるような事件や事実を上層部は揉み消す事で対応した。

幸いにも艦列から逸れた艦が偶々撃たれただけだと言い張れた。事実その通りであった。

 

だが、

「その偶々があってはならないんじゃないのかよ……」

上層部の公式発表を聞いて絶望した者が居た。

副官の命令により生存出来た、名も無きメビウスのパイロットだった。

彼は彼なりに戦争を覚悟していた。然し、あの時の艦長は何の役にも立たなかった。

副官が何もしなければ自分達は死んでいた。

戦死した命の恩人が上の都合で戦犯として片付けられた。……彼は敵よりも味方に対して憤った。

 

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