極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月11日の夜明け前の深夜、東アジア共同体の中国・湖南省の僻地にある違法研究施設が襲撃された。
『敌人来袭!敌人来袭!』
襲撃を知らせる中国語の音声が壊れたラジオのように流れ続ける。
その端末に自身のクラッキング用のキーボードを差し込んでカタカタとクラッキングをしている少年が居た。ザナドゥ代表・クシーである。
違法研究施設の前には無力化された研究施設の警備員達と夜中に無理矢理叩き起こされて連れて来られたザナドゥの兵士達が居た。
そして、墜落事故としか表現出来ない光景が広がっていた。燃料は片道分で使い切ったので特攻ではないとクシーは兵士達に言い包めていた。……片道分しかないのは特攻そのものである。
もう滅茶苦茶なのでザナドゥの兵士達は思考を放棄して任務に従事していた。
クラッキングが終わるまでの警護である。……3分掛からずに終わったようであった。
ザナドゥ代表・クシーのプライベートジェットは予定通りに墜落していた。
突然の墜落に釣られて出て来た警備員達はザナドゥの兵士達が既に無力化していた。
違法研究施設であるが警備はキチンと機能していた。だが、対空ミサイルまでは備えられていなかった。
重要度の高い施設ではこうはいかないだろう。クシーは想定よりも警備の薄い事実に喜ぶべきか否かと悩む。
今回クシーが連れて来たのはカナードが以前シゴいたとはいえ新人に等しい。
ザナドゥの人員不足を考えれば仕方がない。然し、若しクシーの想定通りくらいに警備が厚ければ死者が出ていたかもしれない。
……クシーは気を取り直した。証拠を隠滅される前に一秒でも早く動く必要があった。
「さて、制圧するまでが遠足だ。施設の内部情報は……今手に入れた。正しいとは限らないので過信しないように」
クシーは施設の端末からクラッキングして情報を整理していた。一番早いので自分で遣る。
緊急脱出機能停止、自爆機能停止、生命維持装置は機能維持など取捨選択を勘で行っていた。
序でに見付けた地図データを兵士各員の端末に送付する。
「敵はもう逃げられないが、自害やマニュアル操作での証拠隠滅等もある。突入して制圧するぞ」
代表・クシーは自ら制圧任務に参加すると宣言した。
当然ではあるのだが、ツッコミ不在でそのまま流されていたとはいえ、不慣れな兵士達はクシーの言葉に動揺した。
いきなり巻き込まれて麻痺していた感覚が3分の待機で一旦落ち着いて回復していた。
体に叩き込まれた技術で反射的に働いていたのが良かったのだが、緊張が切れたかとクシーは舌打ちした。
とはいえ、情報無しで飛び込む方が愚策だ。
クラッキングの時間が無ければそのまま任務終了まで持ったのだが、彼らをどう言い包めるかを考えていた。
「代表!……その……無茶苦茶です!」
ザナドゥに所属する兵士は己の代表・クシーに何と進言すべきか悩んだ。……取り敢えず思ったまま叫んだ。
クシーはこれは未だノリと勢いで押せると確信した。
これまでの技術を見ていたがカナードのシゴキは働いている。下手に動揺されるよりもこのまま押し切る方が良いと判断した。
彼は約2年前からザナドゥに所属し、ザナドゥ本部襲撃前後ではカナードにシゴカれていたコーディネイターの若者だった。
先日のテロで重傷を負った筈のザナドゥの代表・クシーが直接任務に参加するというので正気を疑った。
だが、もう既にクシーは先陣を切って指揮まで遣っていた。
確かに彼もザナドゥの人材不足に悩んでいた。
現場指揮官の不足する現状、経験者が一人でも欲しいとは思っていた。
ザナドゥ代表・クシーと初めて会った彼は夜中に起こされて飛行機で墜落して施設を奇襲するなどと言われて来た。
数時間でクシーが何もかも無茶苦茶な存在であると悟った。だが、全部成功していた。
『戦わせるな。だが、それが無理ならあの人の邪魔をするな』
彼は教官であるカナードの言葉を思い出した。
自分の組織の代表が戦う事態はないだろうと思っていたが……こうなると諦めるしかないのかもしれない。
「そうだ。諦めて私に従え」
クシーは彼の思考を読んだように命令して来た。
……任務を終えてから考える事にした。他の面子も同様だった。
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施設内部に潜入した兵士達は狭い通路に入り組んだ道を最短で突き進んでいた。
クシーがクラッキングしたお陰で最短最速で突き進めるが本来ならば迷ってしまい、施設警備に出会していたかもしれない。
最初に無力化した警備員達に自白剤を投与していた。ソイツから聞き出した情報によれば警備の大部分は表に出てしまっていたようだった。
薄暗い通路に入った辺りでクシーは兵士達に合図を出した。
クシーのハンドサインは自分が引き受けるからお前らは先に行けという事だった。
……代表・クシーに何かあったらザナドゥ全体が不味い。然し、指示に従わない選択肢は無かった。
無駄に考えるのを止めたザナドゥの兵士達は訓練された通りに体が動いていた。
兵士達が先に行くのを確認したクシーは裏手を取って奇襲するつもりだった存在を見て目を疑った。
それは双子の少女であった。少女達が音の出ないように投擲して来たナイフを躱した。
技術は高いが戦術が単純だと推測した。丸で予め入力されたプログラムにそって動いている兵器であった。
気付かれているのだからナイフという選択肢は捨てるべきだった。……何故ならもっと良い物を二人は持っていた。
「2人か。……丸で漫画だな」
真ん中分けの銀髪の少女二人がそれぞれ斬馬刀と大太刀をクシー目掛けて振り回す。
筋力は訓練されたコーディネイターを優に超えていた。
狭い通路で攻撃範囲を見極めれば躱せるが一太刀でもマトモに喰らえば死ぬだろうというのは誰の目にも明らかであった。
「丁度良いのを持っているな」
クシーは声を掛けるが二人からの反応は無い。完全に洗脳状態にあるとクシーは悟った。
だが、改造人間と思われる二人の身体能力にはもう慣れた。見切ったので問題無いと判断した。
幼子が漫画のように身の丈以上の大剣である斬馬刀を手にして向かって来る。こんな体験はそうそう出来るものではない。クシーは今度の新作ゲームにでも使おうと思った。
もういっその事、二人共ゲームのモデルとして雇われてくれないだろうかと考える。
斬馬刀の少女が正面から打とうとするのをクシーは右側面に入身し、左手で当身を入れた。
「カハッ……!」
少女の鳩尾に当たり、苦しむがクシーは無視する。躊躇して回復されたら此方が死ぬ。
そのままクシーは左手で少女の右手に小手返しの握りを取り、左足を軸に回転して少女を引き寄せた。
「先ず一人」
クシーは右足を軸に体を開き、左手で少女の右手を返し、自分の右手を被せて少女を転ばせた。
うつ伏せになった少女を制し、斬馬刀を奪い取った。
改造人間にどの程度で効くか分からない。確実に気絶させる為に鍛えられない脳を揺らす事にした。
クシーは少女の顳顬に一撃を加えた。頭蓋骨の内側と脳は激しく打ち付けられ、斬馬刀の少女は気絶した。
「……この!?」
大太刀の少女が初めて感情を現した。
双子への、同胞への愛が為せる奇跡か。クシーから見て彼女は洗脳下にあった。
……それが一時的に解けていた。
その事実にクシーは驚きつつ、気絶した少女から取り上げた斬馬刀で相手の大太刀を受け止める。
拮抗状態からギリギリまで大太刀に押し負けている振りを続ける。
実際、かなり強い力なので演技も要らなかったかもしれない。
クシーは向き合った姿勢から左足を踏み込むと同時に斬馬刀を持つ手の片方、左手を離した。
「あっ……」
少女は自身の大太刀が空振ったような感覚に襲われて呆気に取られた。
クシーは斬馬刀の裏刃を接触させた状態で少女の大太刀を斬馬刀に引き付ける事で受け流した。
そのままの勢いで少女の懐に駆け込んだ。
「連携はこれまでのどの相手よりも良い。純粋な技術も上位に入る。だが……」
クシーは少女に向けて言葉を発した。何か言おうと思ったが相手は被害者である。
クシーは先程斬馬刀から離していた左手で少女の大太刀を捕らえて動きを封じる。
クシーは自分の持つ斬馬刀の柄を少女の頭部へ叩き付けた。脳震盪で少女は同じく気絶した。
「『超人机关』……超人機関ね」
ザナドゥ代表・クシーは研究施設の名前を呟いた。
丸でお互いの脳が直接リンクしているかのような連携であった。
クシーは旧暦に存在した第二次大戦のナチスの双子研究という存在を思い出した。
双子だからといって此処までの連携が純粋な訓練や人体改造で出来るか否か。
現物が今あったのだから認めるしかない。だが、これはクシーから見ても偶発的な要素が大きかった。再現性が丸で無い。
「成る程、だから告発出来たのか。……希少なサンプルだが再現性が無いからな」
クシーは改造人間の闇を感じ取って吐き捨てた。末端の雑な改造で生まれた奇跡的な成功例なのだろう。
最低な発想だったが、『兵器』として見るならばこの双子は量産出来ない。
……下手しなくても主流派にノイズが入る成功例だった。
主流派としては切り捨てていたので告発者が出る余地があったと推理した。
となれば、改造人間の研究の証拠としての価値は想像よりも低そうだった。
だが、
「影はあった。影があるなら本体も居る。……ならば遣りようもある」
クシーは影も形も見えなかった懸念の一つを漸く掴んだと確信した。
想定よりも状況は厳しいが立ち回り次第でカバー出来る範囲だった。
「しっ……かし……重いな、この娘ら。華奢に見えて筋密度やらが凄いんだろうが」
クシーは愚痴を溢した。双子の少女達を放置も出来ないので運ぶが嫌に重かった。
気分が暗いのもあったかもしれない。この時、クシーの中で双子は重いという認識が固定化した。
ザナドゥが確保した研究者達をしばき倒して吐かせた情報により、暫く後に少女達は全快とまではいかないが主だった後遺症も無く回復した。
尚、少女達はクシーの認識に激怒した。少女達をブチのめした挙げ句に重かっただのと言えば当然である。
どうでも良いが後に帰還したカナードは気軽に復讐と称してクシーへ襲い掛かる少女達の存在に衝撃を受けた。
カナードからすれば、じゃれ合っているようにしか見えなかった。
……現場の兵士達は少女達は普通に殺しに掛かっていると認識していた。
実際、クシーは獰猛な二匹の虎を相手にしているようなものだった。