極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

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コズミック・イラ70年2月14日 血のバレンタイン

コズミック・イラ70年2月14日、血のバレンタインと言われる悲劇の日。

 

プラント宙域では地球連合軍とザフトの大混戦となっていた。

だが、急拵えで整えた地球連合軍は新しい指揮系統により混乱していた。

地球連合軍は折角の物量を活かし切れずに敗色が濃厚だった。

 

それでも現場の兵士達は戦わなければならない。

生き残る為に戦うのか、殺す為に戦うのか、何の為に戦うのか。

 

 

「戦場では命など安いものだ、一瞬で失われる」

ラウ・ル・クルーゼはジンを駆る。一機一機丁寧にメビウスを狩って行く。

そして、メビウスという護衛の居なくなった地球連合軍の戦艦に刃を向けた。

 

「皆、大義の為に戦い、守る為に戦うのだ。その為に人は死に行くのさ!」

クルーゼはそう言って戦艦の砲撃をジンの高速旋回で躱した。

戦艦にジンの重斬刀を差し込んだ。小さな爆破は連鎖していく。後は機銃の一撃で沈む。

 

MSであるジンの為に想定した装甲持ちの戦艦を狩る手法として先の偵察で得た情報を活かしていた。

クルーゼ程の腕前が無い者は無反動砲を装備して隙を伺っていた。

彼らはMAの母艦を優先的に狩っていた。既に大勢は決していた。

 

 

だが、何処にでも例外という物は存在する。

 

「…………!?」

クルーゼは自分の勘に従いとっさに避けた。そして、それに違和感を抱いた。

 

今までのメビウスとは違った。クルーゼは自身に感じる違和感から誰なのかを理解出来た。

……クルーゼは一度だけ奴に会った事がある。

 

クルーゼは知らないが、その人物が乗るのはメビウスの原型となった試作機『メビウス・ゼロ』であった。

4基の有線誘導式無人機から放たれる弾幕はクルーゼの操るジンを追尾するように追い掛けて行く。

 

「何だ?この違和感は……クソッ!」

ムウ・ラ・フラガ中尉は不思議な感覚を感じつつも、別の事で吐き捨てた。

今までのジンとは違うエース・パイロットである。……コイツの所為で自分達の母艦が沈んだ。

 

其処まで長い付き合いではないし、敵討ちというのも柄ではない。

……然し、コイツを止めなければならないという事は変わらない。

 

「これも運命という奴か!良いだろう……どの道邪魔である事に変わりはない」

クルーゼは自分のクローン元であるアル・ダ・フラガの息子を排除する為に戦闘を開始した。

クルーゼはこの戦場に出て初めて私的な感情を剥き出しにした。そうして地球連合軍とザフト、互いのエース・パイロットが戦場という舞台で殺し合いを始めた。

 

 

そんなエース・パイロット同士の対決とは無関係に戦場では沢山の爆発が起きていた。

数キロも離れてない場所では名も無き戦士達が散って行く。

何も知らない者が見れば花火に見えなくもない。だが、その光景は美しさよりも無情さが漂っていた。

 

 

「喰らえ!宇宙のバケモノめ!」

地球連合軍に主力MA・メビウスを操る地球連合軍のロドニー中尉はバルカン砲を放ちながら叫んだ。

ロドニー中尉のメビウスはジンの機銃斉射を掻い潜った。そして、メビウスのバルカン砲でジンの機銃の破壊に成功した。

 

地球連合軍では数機のメビウスで囲んでジンを落とす戦術を編み出していた。

混戦により連携の欠ける中で、ロドニー中尉達は運良く初期メンバーがそのまま生き残っていた。

彼らはエース・パイロットではないにしろ他よりも長い期間の連携により腕前を補えていた。

 

「クソ!……ナチュラル風情が!」

機銃が爆散したのに苛立ちつつも、ジンのパイロットであるジョニーは無事なもう一つの機銃をメビウスに向けようとした。

 

「貰った!」

ロドニー中尉はジンの隙を見逃さなかった。

 

メビウスの主力兵装である有線誘導式対艦ミサイル4つの内、2つがジンに飛んで行く。

これで決まったとロドニー中尉はこれまでの経験から確信した。

 

だが、

「……くっ!」

ジョニーの操るジンはウイングバインダーの推進器で急加速し、メビウスの有線ミサイルの軌道上から離脱した。

 

真下に急速落下するようにジンはミサイルを躱した。宇宙ならではの戦闘方法である。

ジョニーはそのまま破壊されていない機銃を構え直した。

 

「うあああ!!」

一転してピンチになったロドニー中尉は回避行動を取ろうとするが間に合わない。

宇宙での戦闘で緊急脱出装置は無駄であるので彼は外していた。実際、無駄であった。

 

この規模の戦闘において脱出したパイロットを回収出来る確率は無いに等しい。

未熟なパイロットは恐怖から付けていた。ロドニー中尉達、ベテランパイロット達はそれをチキン(腰抜け)と言って嘲笑っていた。

……制作者がどうしてこのような無駄な物を付けたのかと皆で馬鹿にしていた。

ロドニー中尉は此処に来て無駄である筈の緊急脱出装置を外した事を後悔した。

1%でもあれば……最後にそう思ってロドニー中尉は機体諸共爆散した。

 

 

「ロドニー中尉!」

援護していたマイ少尉は上官であるロドニー中尉の末路を見て叫んでいた。

これまでもこれからも戦って行けると思っていた彼女は尊敬する上官の戦死に動揺した。

 

だが、マイ少尉が動揺する余裕など無かった。

 

「馬鹿野郎!お前も早く撃て!!」

ジェイク少尉は同僚のマイ少尉に通信し、叫んだ。ロドニー中尉を殺したジンが目の前に居た。

 

ジェイク少尉はロドニー中尉の犠牲を無駄にしない為にも何とか動揺するのを抑えていた。

縦横無尽に駆け回るジンにメビウスのバルカン砲を連射するが効果が薄い。バルカン砲では決め手に欠ける。

 

ジェイク少尉のメビウスの有線ミサイルは尽きていた。マイ少尉も同様に尽きていた。

主力兵装のリニアガンを当てなければジン相手には効果が薄い。然し、ジンの機動力に対応し切れない。

ロドニー中尉が戦死した以上、マイ少尉に協力して貰わなければリニアガンは当たらない。

……援護射撃でも何でも良いから手数が欲しかった。

 

 

そんな所に最悪が遣って来た。

……ジンがもう1機遣って来た。連携が崩れた所にダメ押しの追撃だった。

 

「ジョニー!加勢しに来たぜ」

追加のジンのパイロットは機銃が一つ破損したジョニーを見て加勢しに来た。

連携は崩れつつあったので、必要無かったかとも思ったが念の為に遣って来た。

 

「大丈夫だ!だが、感謝する。……コイツらは生かしておくと面倒な事になりそうだ」

ジョニーは同胞の声に思わず余計な事をと叫んだ。然し、直ぐに訂正した。

 

ジョニーが撃墜したメビウスが恐らくはトップだったのだろう。

厄介だった頭を取ったが、残りの面子を生かしておけば同胞を殺す刃となりかねない。

 

加勢しに来た同胞と協力して確実に倒そうと思っていた。

 

その瞬間、ジョニーの同胞が操るジンが爆発した。何が起こったのかはジョニーには分からず呆然とした。

然し、ジョニーは直ぐに気が付いた。……遠距離からの狙撃でメビウスのリニアガンをジンに当てた第三者だ。

ザフトのメビウスに関する報告にはあった。だが、本当にリニアガンの遠距離狙撃を遣って来る敵がこれまで居なかった。

ジョニー達は自身の経験で判断を誤ってしまった。それは戦場では命取りだった。

 

「カナード・パルスだ。加勢する」

傭兵部隊Xのカナードはメビウス2機に通信した。ジェイク少尉とマイ少尉は救援の声に驚いた。そして、戦闘に支障が出ない範囲で安堵した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

カナードは当初、自身の上官である現場指揮官直々に戦場から離れた場所、所謂戦果の稼げないハズレに回されていた。

 

カナード達は名目上は遊軍とされた。

だが、開戦早々に上層部の戦略も戦術も破綻していた。

カナード達、傭兵部隊Xという強力な戦力を無駄に遊ばせている余裕は無くなった。

指揮系統の混乱から指示もままならない現場指揮官から無理矢理言質を取っていた。

 

カナードは”遊軍”として有益そうな味方を援護をしていた。

序でにメビウスの脱出装置によって宇宙に投げ出されたパイロット達もアルカで回収していた。

 

ザナドゥ代表であるクシーはメビウスの兵装を強化しろと政府や軍の上層部に命令され、リニアガンの性能を強化した。

これ以上の改修をするには時間が無いとクシーは判断した。

下手に弄るよりはリニアガンに絞って改造する事で大量の改修を可能にし、それによってメビウスの戦術の幅を広げる方向にシフトした。

遠距離からジンの機動を見極めるのは至難である。然も当然だが遠距離なので威力は下がる。

だが、ジンの認識出来ない距離から不意打ちする等の有効な狙撃が出来る様になっていた。カナードともなればその場の状況で判断して撃つ事が可能だった。

リニアガンが直撃すれば威力が下がっていても現状のジンならば撃墜する事も出来ていた。

 

クシーはリニアガンの改造の序でに脱出装置を追加していた。

尚、取り外しは簡単であるので現場の兵士達は勝手に外していた。

……地球連合軍の統制が取れていない事の証明でもあった。

無駄に場所を取る等のデメリット、それに宇宙を漂う棺桶になったら戦死と変わらない。それは事実である。

だが、敵からすれば宇宙に漂う棺桶を壊す余裕があれば戦艦やメビウスを相手にスコアを稼いでいた。

ジンを駆るコーディネイターは自尊心の高い者が多く、戦果を求めていた。

従って敗残兵への優先順位が低かった。後々は違うかもしれないが人道的に攻め難い。

 

クシーは兵士達を回収する為だけのモビルアーマーであるアルカまで開発していた。アルカはクシーが私費で作っていた。

地球連合軍はアルカを只の荷物として扱い、その成果を認めなかった。制式採用していない。

軍がそうするのも一理あった。方舟という意味のアルカには兵装が皆無である。然し、白旗を掲げる等の降伏する機能だけはやたら充実していた。

アルカは唯ひたすら敗残兵を回収する為の代物だった。

それに地味にMSの鹵獲まで出来る。カナードはドサクサで破壊したジンを何機か鹵獲していた。

傭兵部隊Xに3機、ザナドゥシンパに何機か分からないがどうにかして持たせていた。

この時のカナードは知らないが、味方の逃げ場を確保する方針に切り替えたザナドゥシンパ達は撤退する味方にアルカで回収した敗残兵達を序でに乗せていけと押し付ける等して、かなり活用していた。

 

MAアルカは戦闘では役に立たないが無駄に装甲が厚かった。

それに傭兵部隊Xや知らない内にカナードに懐いた結果、遊軍に回された地球連合軍のパイロット達がアルカを護衛していた。

カナードとしては彼らに懐かれた経緯が分からない。……煩い事を言う兵士達に蹴り入れていた記憶しかない。

 

結果として多くの敗残兵達を保護出来ていた。

クシーの作った脱出装置はパイロットスーツと最低限の生命維持装置で戦場を漂う物だった。

それでも大敗北の割にはメビウスパイロット達は数多く生き残っていた。

メビウスを操縦出来るパイロットは今では多いが、長期的に見れば減って行く。

カナードは多分負けるので戦力の温存を方針にした方が良いとクシーに言われていた。

何を言っても地球連合軍の上層部は聞かないから判断出来る人、遣れる人に託すと言ってクシーは溜め息を吐いていた。

 

『負けて得る経験というのは大きい。特に緒戦においては』

カナードはクシーがそう言っていた事を思い出す。

……そう言うクシーは最近ストレスの所為か味覚が戻らないらしく、コーヒーに角砂糖を何個も入れていた。

 

 

カナードとしてもこれ程の大敗で得る物があるとすれば経験しかないとクシーと結論が一致していた。

カナードは不在でも心強いクシーを思い出していた。……というかそうしないと遣っていられない程に酷い状況だった。

カナードはクシーとの最後の通信を妨害した現場指揮官を脳内でゴミ箱のように蹴り続けていた。

 

だが、

『か、カナード隊長!……事案X!事案Xが発生しました!』

副官のメリオルがカナードに緊急の通信をして来た。

 

事案Xとは、傭兵部隊Xにとって最重要任務の破綻を意味していた。

……クシーから託された任務の破綻。

それは核がプラントに向けて放たれたという意味だった。最悪のケースだ。

 

「……何処だ。何処の馬鹿だ、その馬鹿は!!!」

カナードは怒鳴り返した。……クシーが自分に命を賭けてでも止めろと命令した事案X。

カナードは自分の価値に絶望しそうになって行く。だが、逆に言えば想定していた事案でもあった。

絶望に包まれそうになるが歯を食い縛ってカナードは耐えた。

 

「……撤退だ。プラントに核が使われた。復讐に燃えたザフトがどうなるかは分かっているな!」

カナードはメリオルだけでなく、着いて来た仲間全員に通信を繋げて命令した。

 

……敵陣半ばに居るカナード達は急いで戦線から離脱しなければならなかった。

最早何人生き残り、何人死ぬか……カナードも考えたくはない。

 

 

敗残兵達を乗せているMAアルカが既に後方に居た事が唯一の救いだった。

ボロ負けに等しい状況ではアルカが3機では足りなかった。傭兵部隊Xの3機をピストン輸送して敗残兵達を後方に送っていた。

丁度良い事に先程、護衛と共にアルカらを後方に送った所だった。最悪な状況だが運が良いと言えた。

……アルカがこの前線に未だあれば、ほぼほぼ捨てて行かなければならなかった。

 

核を使われた側のザフトがアルカに乗せている地球連合軍の敗残兵達を捕虜として生かしてくれるとは思えない。

然し、その場合は彼らが敗残兵達を捕虜として扱ってくれる事を期待するしかなかった。

その可能性が無いだけで違った。後顧の憂いが無い事は撤退の成功率を跳ね上げる。

カナードが救助した味方は大多数が優秀な兵士である。だが、その武装は心許ない。

 

「全速力で撤退する!良いな!戦闘は最小限にしろ!!」

カナードは本来正規兵達に命令する立場には無い。だが、救援した恩でゴリ押しした。

……クシーが良く使う手口であった。カナードはクシーの散々な無茶苦茶振りを見て来ていた。

傭兵部隊Xだけではなく地球連合軍にとって、地獄の撤退戦が始まろうとしていた。

 

地獄を産んだ核ミサイルを撃った当人達は、MA母艦ルーズベルトは既に安全な後方に居た。

彼らはコーディネイター共に一撃を喰らわせたと喜んでいた。

地球連合軍は敗戦濃厚で核ミサイルをプラントに撃ち込むのに苦労した。彼らは目に付いたプラントのコロニーに核ミサイルを撃ち込んだ。

何の計画性も無く、戦略性も無い一撃を防ぐ事は地球連合でもプラントでも誰にも不可能だった。

彼らは一撃に酔いしれていた。酒があれば飲んでいただろう。……その一撃の所為で地獄に居る味方の兵士達の事など丸で気にしていなかった。

 

 

 

プラントでも情報が錯綜していた。だが、間違いなく地球連合軍に核を使用された。

誰にも止められない地獄の蓋が開かれようとしていた。

 

……その中で世界に運命付けられた戦士が一人、生まれようとしていた。

 

「母さんは!母さんはどうなった!?」

青髪の少年は母の居るユニウス市に向かって核が撃たれたと聞いて錯乱していた。

彼は叫んでいた。……彼の母親は核ミサイルが直撃したユニウスセブンに居た。

 

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