極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して 作:kohet(旧名コヘヘ)
コズミック・イラ70年2月14日、後に血のバレンタインと呼ばれる日。
プラント宙域にて核の使用が確認された。
詳細な被害状況は分からないが、プラントのコロニーに核が使われた。
地球でもその事は即座に伝わった。……私はカナード達が失敗したと悟った。
私は2月14日の夜明け前、東アジア共同体からユーラシア連邦のザナドゥ本部に戻っていた。
東アジア共同体・中国の李国主も流石に14日は国主として席に戻っていた。
……戦争とは言うが地球連合軍は11日に月面基地プトレマイオスを発進していた。各所からの情報や定期的な観測から14日に本格的な戦闘が開始されると分かっていた。
ザナドゥは戦争の舞台となるプラント宙域を凡ゆる方向から観測していた。
距離的に何かが出来る訳ではないが、観測装置を確認するくらいは誰でも出来る。
……その結果が核使用だ。閑職に飛ばされたザナドゥのシンパの情報からある程度は分かった。
何処か分からないが、プラントのコロニーが核で吹き飛んだ。最悪だった。
然し、どうにもその情報が錯綜し過ぎていた。私は嫌な予感がした。
……核を適当にプラントに放ったのかもしれないと私は推測した。
想像以上の敗戦で狙えないから使える所で使ったのならばこの混乱もある程度説明が付いた。
第二次大戦末、ヒロシマとナガサキに原爆が落とされたが、元々は長崎ではなく福岡の小倉に落とされる予定だった。
当日の天候状態により中止されて他の予定地だった長崎になった。確か長崎は第四の候補地だ。
この時の私は民間人しか居ない農業用コロニーのユニウスセブンに核ミサイルを使ったとまでは考えられなかった。
幾ら無断に改造とはいえ、農業用コロニーは他にも幾つもあった。
……その一つに使った所でプラントの国力低下は些事だ。民間人だけ殺すような愚行は憎悪しか生まない。
私は軍事施設や研究施設を狙ったのならばと考えてしまっていた。
というか、想像出来る訳が無い。こんな愚行を想像出来たらソイツは神の視点の持ち主だ。
私はコペルニクスの悲劇の犯人は箱庭の管理人を気取っていると思っていた。
間違っているのは私の方なのかもしれないと希望を持っていた。……その方が良かった。
然し、この件によって僅かに狂えば人類を滅ぼす愚行を許容する存在だと分かった。私の管理人気取りの奴らへの評価は底割れした。余りにも杜撰だと見下げ果てた。
「最早止められない。……僅かな未来の希望に縋る他ない。例え、誰かに決められたレールだとしてもだ」
私は手が震えていた。流石に体の悲鳴が抑えられないらしい。
ベラに淹れられたルイボスティーの入ったカップを落としそうになるので机に置いた。
「……用意出来ました」
ベラは私に何も言わないでくれた。
事案X発生の際に用意していた原本があった。最悪誰かがそのまま発表すれば良い。
若しも私が事故で動けない場合は本部長であるティモテに任せるつもりであった。
例え拙速でも遣る必要がある。
……東アジア共同体の改造人間の件は時間が無いので無理矢理やったが、本来はユーラシア連邦に居なければならなかった。
最大2日で帰ってこられる見積もりで動いて実際、1日半で帰って来た。改造人間に関する策はどれ程今後に影響があるのかは不明瞭だ。
特異点のような双子を主体にした実験が多かったので改造手術等に関しては想定よりも少なかった。
だが、私は無事に帰還し、現在は正気であった。……自分の意識では正気だから正気である。
事案Xが発生した以上は私自身が承認をしなければならなかった。
他人任せになるような事はあってはならない。意地でも私が遣らなければならなかった。
どの程度の被害か分からない。だが、私は詳細を知る前に行動を開始した。
地球連合から口を塞がれる前に遣らなければならなかった。
……予め口を塞がれる事は無かったので現場の暴走と推測した。もう私としては予め決めて核を使用された方が良かったかもしれないと思った。
プラントへの核使用は現場の暴走だとでも言うのか。怒りを通り越して私は呆れてしまった。それによって気が遠くなるのを私は何とか押し留めた。
であればカナード達が止めるのは不可能に等しい。……それも後で考える事にした。
もう詳細を知ってしまったら、考えたら……私は精細な判断が出来なくなる恐れがあった。
最悪に備えた行動を予め考えていなければもう動けなかった。
私は事案X発生時の緊急プロトコルを一部は現在の状況に合わせて変更を加えて承認した。
一日でも遅れた場合、ザナドゥは最悪滅ぶかもしれない。
然し、口を塞がれる前ならば行動出来た。私は僅差で勝利した。
発表の一時間後、私へ口止めの連絡が来た。同時に非難声明も来た。
何もかも遅い。それで戦うつもりだったのかと怒鳴り付けたくなった。
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ザナドゥ代表・クシーは国連名義で核攻撃によるプラントの犠牲者への追悼の意を表明した。
同時に地球連合のプラントへの核攻撃を非難した。
それから2時間程遅れて地球連合が動いた。地球連合は核攻撃はプラントの自作自演だと発表した。
ユニウスセブンの崩壊はプラント側の自爆とした。
更にザナドゥ代表・クシーへ先の非難を撤回しなければ地球連合への敵対行為と見なすと宣告した。
地球連合のザナドゥへの対応は後手に回っていた。
現場の暴走を無理矢理追認させたブルーコスモス、その盟主であるムルタ・アズラエルの手腕を持ってしても時間が掛かった。
アズラエルからしても前以って知っていればMA母艦ルーズベルト、其処で核使用を命じたサザーランド大佐を止めていた。だが、もう止められない。
アズラエルはブルーコスモスの舵取りに必死になっていた。大西洋連邦軍の大佐は将官を除けば現場のトップである。この戦争での大西洋連邦軍のトップに等しい。
……切り捨ててしまえばアズラエルだけでなく、大西洋連邦が破綻する。コズミック・イラという暦号は核の不使用を誓っていた。70年とはいえ、その歴史の重みは凄まじい。
アズラエルは宇宙での使用という事で割り切れる。だが、公式に認めれば国の内乱では済まなかった。
この様な理屈で背後に居るロゴスもアズラエル達、ブルーコスモスを追認する他なかった。
経済を操る資本主義の権化たる彼らは大西洋連邦という地球で最も経済力のある国を手放せなかった。
大西洋連邦を手放した所で核戦争が発生しないとは限らない。
ロゴスからすれば認める事は損しかなかった。
同時にロゴスにとってザナドゥ代表・クシーの価値が飛躍的に上昇した。
死亡すれば自分達は最後にして最大の保険を失う。
だが、ブルーコスモスの盟主であるアズラエルはクシーを排除する事を視野に入れているとロゴスは判断した。地球連合というが核使用の非難はブルーコスモスへの宣戦布告に等しい。
実際は未だ其処までには至っていない。アズラエルとしても舵取りで精一杯であり、歯止めとしてクシーが必要だと考えていた。
若しも、アズラエルが身内に核を勝手に使われたと言ったとしてもロゴスはどう遣っても信じられないだろう。
少なくとも、ブルーコスモスは戦争の舵取りをする気であった。
ロゴスは最悪の保険としてザナドゥを残す必要があった。
プラントとの講和でなくとも時間稼ぎ等、活用法ならば幾らでも思い付いた。
ロゴスとしては血のバレンタインの発生までは世論で追い込んでクシーを排除する気だった。
クシーが壊れたラジオの如く反戦活動を繰り返すのであれば有益な能力等よりも損失の方が大きいと判断していた。
更には国連まで自称し始めているのだから地球連合の正当性を揺るがしかねない。
ロゴスはザナドゥ代表・クシーの弾圧を止めない。世論を誘導しなければ地球連合が危うい。
然し、クシーが死なない様に調整しなければならなくなった。
ロゴス的には今まで世界中から弾圧された彼がストレスで死ななかったのは奇跡であった。
尚、ザナドゥ代表・クシーはロゴスの暗躍に或る程度気が付いていた。
東アジア共同体・中国では余りにも最悪過ぎてノイローゼ気味になっていたが、その程度で死んでたまるかと反骨心剥き出しだった。
寧ろこれからの戦争の方がストレスで死にかねない。
特に血のバレンタインの詳細は彼の地雷そのものだった。
そんな政治的な思惑が錯綜していたが、ザナドゥ代表・クシーはこうなる事も予期していた。
事案X対応マニュアル2−E事項である。最悪ティモテに任せても良いように作成されたマニュアルだ。
現在心が死に掛けているクシーではなく、過去の万全に近い状態のクシーが作成した物だった。
ザナドゥ代表・クシーはコロニー崩壊について早急な捜査の確約を撤回の条件として提示した。
捜査しろ。本気で捜査しないとどうなるか分かっているなと凄まじい圧力があった。
当時のクシーはロゴスがザナドゥの生存を優先しているとまでは読み切れなかった。
若しも、過去の自分がその事を知っていたら更に強い主張をしていた。
今のクシーに其処までの余力は無い。
それでも国連の名義で主張するのを止めない等の些細な嫌がらせは続行していた。
地球連合は戦争終結後の調査を明言し、ザナドゥ代表の発言が撤回されたと公表した。
当然だが形だけである。勝てば良いし、負ければ大西洋連邦に全て押し付けるつもりだ。
負けた場合はロゴスも想像したくはないが、未だ責任を被せられる対象が居た。
大西洋連邦の国民からすれば堪ったものではない。
アズラエルも勝てば良いと大西洋連邦の国民を担保に入れていた。
……民主主義の国は建前をぶん投げた悪の組織内で勝手に政治的な売買の対象となっていた。
然し、国連名義で声明を垂れ流すザナドゥ代表・クシーに対して確約してしまっていた。
国連名義での意味のない声明に同意すれば地球連合の正当性を喪いかねない。
だが、勝てば良いと踏み倒す決意を固めた。負けても最悪クシーの権力を取り上げられた。
唯、国連に戻せば良いのだ。
クシーの国連名義乱用は飽くまでも国の代表や職員の不在で起きた空白だった。
その為、簡単に権力を取り上げる事が可能だった。
今までは無視しても問題なかった。
今からは国連を認めれば最悪地球連合が崩壊するので先延ばしにする他ない。
アズラエルに内密でロゴスの面々は先延ばしの案に同意した。
幾ら若造が足掻いた所で歴史、金や権力のあるロゴスには勝てない。
然し、クシーに死なれてもロゴスは困った。
これ程までに世界で足掻いて来た人物は戦後を考えても影響力が有り過ぎた。
どうにか取り込めないかと思い、ロゴスはこれまでのクシーの所業を振り返る。
……無理であった。だが、最終的に消すにしても相当な労苦が掛かりそうだった。
ザナドゥ代表・クシーは今までとは段違いに面倒な扱いになっていた。
尚、この様な内情を知らない核を撃ち込まれたプラントは茶番だと激怒した。
地球連合へ非難声明を発し、核使用を重大な歴史的愚行だと明言した。
……混乱の為かプラントはそれ以後の交渉その他を完全に遮断した。
次のプラント側の発表は2月18日であった。
地球ではそれまでの間、沈黙を続けるプラント、報復による核。その脅威でパニックになった。
プラント理事国の愚行を責め、自分達も巻き込まれると盛大な内輪揉めが一時的に発生した。
だが、それもプラントの陰謀という愚かな言い訳、落とし所のお陰で落ち着いてしまった。
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皮肉にも地球連合はザナドゥ代表による国連名義の声明に反応した。
これにより崩壊した国連、第三勢力の無価値の声明は事実上認められた。
だが、それを活かせるかは今後の動き次第だった。
……私はそれよりもプラントへ連絡出来ないか不安で仕方が無かった。
「……無理か」
私はプラントへの凡ゆる連絡手段を使っていた。……ラクスへの連絡手段も含めてだ。
前からクラッキングによりバックドアを仕込んでいたので一方的に送る事は何とか出来た。
……送れても余り意味が無い。遣らないよりはマシと思って内容は慎重に吟味していた。
だが、今は出来なくなる時の方が多い。
誰かから返信が……例えば絶望仮面から返信が来ても確実には受け取れないかもしれない。
恐らく、核への抑止技術をプラントが試し始めたのだと私は悟った。それなら有り得る。
……最悪に気が付いた私は直ぐに凡ゆる手段を試してみた。これはプラントへの連絡では無い。
間違いを装って知らないプラント住民のアカウントにも送り付ける等を試した。
……簡単な調査結果になるが判明した。一時間にも満たない調査だ。
数日掛けるつもりだったが、新技術はプラントの一部でオンオフを繰り返していた。
使われれば繋がらないが最終調整でもしているのだろう。最低限の性能はギリギリ分かった。
私はプラントの新技術で通信が完全に使えなくなればと最悪を考えた。然し、有線では何とか可能だった。
実験の中断なのか一時的にプラントへの無線通信が可能になった時、プラント内の端末から端末へ有線で繋げるようにした。後からその結果がどうなったか反応を計測した。……これは可能だった。
核攻撃の報復としてザフトにより核で世界が焼かれなければになるが、ザナドゥのインフラ整備事業をフル活用するしかない。プラントがどう動くかで地球は大混乱になるが、それはもう仕方が無い。その先を考えて行動するしかない。
既にザナドゥのインフラ整備事業は全力近く稼働させているが、もっとである。
私は原子力発電の使用不能を推測し、最悪に備えていた。一時的な水道や食料保存は何とかした。
だが、通信途絶の混乱で流通が麻痺すれば。……対策込みでも億単位で人が死ぬ。
今、ザフトの報復で原子力発電等が遣られても総計被害を5億人未満には抑え込める。どんなに最悪な計算でも最大でも5億だ。これ以上にはならない。
だが、3億人以下には出来ない。……どう計算してもそれ以下にはならない。
今直ぐに動かなければならなかった。一刻も早くしなければ。
最悪の場合、改造人間だらけになるかもしれない。
こうなると電気や水道は一時的な延命でしかない。……長距離通信はもう駄目だった。
通信阻害に関してはEMP、電子パルス対策の延長で整備していた。
然し、地球全土の通信網根絶は間に合わない。今偶々気付けたが遅過ぎた。
有線ならば一応可能の様だが、短距離はどうなのか。私は急いで考えた。
その時、私は誰かからの返信を確認した。……アスランからだった。
アスランは今までずっと返信して来なかった。
私は開発したゲームを度々アスランに送ったが大多数は破壊されていた。
ゲームの起動と破壊だけは分かるようにしていた。
序でにと試しに送ってみたアスハ家のウズミ・ナラ・アスハ代表の娘は『お好み焼きVSモダン焼きVSもんじゃ』だけを残して全て破壊していた。……何故そのチョイスなのか、私にも分からない。
この起動と破壊はキラであろうが本気で調べないと分からないだろうと思う自信作である。
アスランにメールを一方的に送り付けてもいたが、その度にセキュリティが強化されていた。
私はラクスとの会話とゲームの扱いでアスランの生存を確認していた。
手慰みで作ったブロック崩し『破牢鬼帝』等は遣っている様だった。アスランは遣り込むタイプだった。
恐らく父のパトリックが私と絶交するように言っていたのだろう。それを律儀に守るのはアスランらしい。
……私の無理矢理な明るい脳内はメールの内容で消し飛んだ。
「大丈夫ですか!?」
ベラが慌てて私に駆け寄って来た。……私はそれに大丈夫だと言う事が出来ない。
『母が亡くなった』
アスランのメールを読んだ私は椅子から転げ落ちた。
私は此処で漸く地球連合軍によって核攻撃されたプラントのコロニーが民間人の農業用コロニーである事を知った。
アスランの母のレノアさんは農学博士だ。……居るとすれば農業用コロニーだ。
30分後、ユニウスセブンに核ミサイル命中のニュースが世界中に駆け巡っていた。
最悪にも底値が過ぎた。私は目の前が暗くなって行くのを感じた。