極めて善良かつ中立的な私から見た後に英雄とか言われる奴らに関して   作:kohet(旧名コヘヘ)

41 / 107
閑話 脳破壊

 

コズミック・イラ70年2月16日、地球連合軍は月面基地プトレマイオスに帰還していた。

第1次連合・プラント大戦は地球連合軍の大敗であった。それは誰の目から見ても明らかだった。

 

 

地球連合軍の圧倒的物量による攻勢は大失敗した。

挙げ句の果てに詳細不明の核ミサイルがプラントに放たれた。

この愚行によりザフトの兵士達は激怒、地球連合軍の捕虜も取らぬような殺戮が発生した。

一部は捕虜となったが味方の愚行に唖然とする他なかった。

 

真っ当な軍人ならば核を使えば敵から核で報復されると考え、躊躇した。

この時は未だコズミック・イラの始まりである『最後の核』への誓いが機能していた。

捕虜となった軍人の中には自分の命は良いから地球への核攻撃だけはと懇願する者まで居た。

……ナチュラルと一緒にするなとコーディネイターの兵士がキレた話まで残っている。

この頃までは未だ最低の底では無かった事例である。もう底を下回っていたが気が付いていない者も居た。

 

指揮系統がままならない上に核攻撃の事後報告すらなかった地球連合軍の兵士達は復讐に燃えるザフトの兵士によって蹂躙された。

当然だが自己判断で撤退したら敵前逃亡として死刑である。

指揮官が撤退を命じた時には大多数が戦死していた。地球連合軍は史上稀に見る壊滅的被害を出していた。

それでも局所的にみれば現場の兵士達は奮戦した。

 

この戦役は大敗北であるのに関わらず戦史に残す戦闘が幾つも発生していた。

『プトレマイオスの撤退』と呼ばれる快挙を成し遂げたユーラシア連邦軍所属の現場指揮官(詳細不明)の活躍。

ユーラシア連邦軍の一部が徹底支援で数多くの兵士達を救っていた。

優秀な個は居ても総体が機能していなければ意味の無い典型例として後世で引用される事になる。

ザフト側は混戦していた事もあり、地球連合軍は大敗北で散り散りに逃げたとした。

ユニウスセブンへの核ミサイル攻撃、血のバレンタインでそれ所では無かったのも大きかった。

 

 

地球連合軍の大敗北の原因は幾つもあった。……有り過ぎて書き切れないくらいである。

 

一つ目は戦闘はあれども大規模な戦争が70年間無かった事にあった。

これはプラントも同様であったが、優秀なコーディネイター達が戦争の為に準備していた。

明確な軍事組織ザフトの発表こそ69年であるが、その前身の黄道同盟以前からコーディネイターの軍属を招く等して準備していた。

コズミック・イラ60年の時点でプラントではニュートロンジャマーとMSの組み合わせによる戦術を考案し、極秘裏に研究して来た。

未だニュートロンジャマー、NJは戦争に直接使用していないが既に完成していた。

……核動力主体のプラント理事国を無力化する為の奥の手であった。

使えばプラントへの不信感や脅威が増す。時間経過で対策もされる事は必然であった。

プラント側としてはNJを使わないに越した事はなかった。

ザフトは戦争前に発生した小規模な戦闘データを分析していた。

独立戦争においてはMSの機動力のみで十分と判断されていた。

その為、NJは地球連合軍が徹底抗戦した場合に使用される筈だった。

長期戦に持ち込めばザフトも物資が足りなくなる。

何でも作れると評されるプラントでも材料が無ければどうにもならない。

プラントは物資調達の為に地球への侵攻を行う必要があった。

 

当然、ザフトとしては万が一に備えた地球への侵攻計画は立てられていた。

圧倒的戦果を見せ付ける事で地球連合をプラントの独立の為にテーブルに着かせる予定だった。

政治と軍事の分担である。シビリアンコントロールが機能する組織として振る舞う事で独立交渉を円滑に進められるという算段を練っていた。

コペルニクスの悲劇などが発生していたが、未だ交渉出来る余地はあるという前提である。

……だが、コズミック・イラの暦号が誓った筈の核ミサイルを地球連合軍は使用した。

プラントとしては秘匿する意味が完全に霧散した。核ミサイルが発射された以上は積極的に使用すべきであった。

 

プラント最高評議会はニュートロンジャマーの戦争への利用を承認した。

地球連合軍に致命的な損害を与える機会にNJを投入する事をザフトは決めた。

ザフトは実践に向けての実験を血のバレンタイン当日の14日から開始した。

……プラントへコンタクトを取ろうと必死だった一人の少年にはNJの大凡を推測されたが全体に影響は無かった。

 

二つ目に挙げるならば軍隊内での指揮系統の混乱である。

これまでは大西洋連邦宇宙軍、ユーラシア宇宙軍、アジア共和国航空宇宙軍の合同軍でプラントに圧力を掛けていた。

合同軍時代はプラント理事国内の軋轢もあったが指揮系統は軋轢を回避する形で纏まっていた。

地球連合軍となり軍別で分散していた軋轢が表面化した。

 

もうこうなればシビリアンコントロール所では無い。軍としての機能が危うかった。

命が懸かっている状況で政争を持ち出す事態が頻発していた。現場からの有益な進言も何もかも拒否され続けていた。

大軍であったが故に押せば勝てるという見積もりや楽観視を含めても最悪だった。

 

 

これまでの戦闘の敗戦から得た経験や知識、有効な兵器やMS用の装甲も全て無意味だった。

進軍から漏れ出た軍艦の情報はザフトにより分析され、簡単に攻略された。

メビウス等の兵器も指揮系統の乱れからMS用に編み出した戦術は無に帰した。

集団で各個撃破する戦術は完全な現場判断によって運用されていた。

ジンと交戦し、生き残ったメビウスを他部隊に合流させる等は初歩的な指示だ。

然し、現場指揮官は先ずメビウスのパイロットに命令して後に影響が無いかその場で確認し出す始末であった。

指揮官が機能不全に陥った結果、地球連合軍はMSを各個撃破する筈が各個撃破される側になっていた。

これも遊軍であった現場の兵士(詳細不明)が現場指揮官から言質を取って無理やり指揮権を確保する等の対処が為されていた。

 

尚、この戦役においては指揮系統の乱れからか詳細不明が多過ぎた。

何処の誰が活躍したのかすら把握出来ない始末であった。

……後に活躍する軍人や戦死した軍人かなどと議論される事になる。

戦記ものの創作活動においては極めて自由に出来る空白となった。当事者達からすれば憤慨する事間違いない。

 

プラント戦役という公式名称よりも『名無しの戦争』という俗称が軍事関係者の間で通用した。

大体の場合、ユーラシア連邦軍の所属という事だけは分かっていた。

だが、功績により表彰された者は殆ど居なかった。

何ならユーラシア連邦軍の誰かに功績を押し付ける事すら無かった。

敗戦の際にはプロパガンダの為に戦果等を誇張する事の多い軍隊でこの有様であった。

……この件だけで現場の混乱が歴史でも抜きん出ている事が誰の目にも明らかだった。

その為、この戦闘で数多くの英雄が無名で戦死してしまったと嘆かれる事になる。

 

……後に地球連合軍側の詳細を知ったザフト側の軍人の一人は自分の立場は別としつつ、名も無き英雄達に黙祷を行った。

血のバレンタインという悲劇で当然だがナチュラルには憎しみを抱いている。

だが、戦史に刻まれる程の偉業を成した人物達が無名のまま散っていった。

……戦士としてどれ程の無念かと言葉が添えられていた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

当事者からすればそのような後世の評価など知る由も無い。

後に勝手に戦死したとか語られる事になる名も無き英雄は見るも無惨な状況だった。

 

確かに撤退で地獄を見た。生き残った仲間も多いが死んだ仲間も多い。

その感情が全く無い訳では無い。だが、それはそれとして彼女は割り切る事が出来ていた。

つまり、完全に個人的な想いから来る憂鬱であった。

 

「はぁ……」

歴史の当事者である傭兵部隊Xのカナードは溜め息を吐いていた。

 

体育座りを崩した姿勢で年頃の少女は落ち込んでいた。

何時もならば情けない自分を見た者に蹴りを入れている頃合いである。

然し、今は自分がコソコソと誰かに見られている事にも気が付いていない。相当である。

 

「カナードちゃん、どうしちゃったのよ。……いや、落ち込むのは分かるんだけど毛並みが違うっしょ、アレ?」

地球連合軍のマッド少尉、否、マッド中尉は傭兵部隊Xの隊員であるウィッグに話し掛けていた。

 

マッド中尉は撤退戦の功績により昇進が決まっていた。

マッド中尉は自分よりもカナードをと推し活をしたらコーディネイターを表彰しろというのかと上層部から激怒されていた。

勝手に結成されたカナード親衛隊も半壊し、生き残り達は同様の事をほざいて中には独房に放り込まれた者も居た。

 

マッド中尉は普段の言動はキモいが立ち回りは上手い人物だった。交渉術のみならば並のコーディネイター以上はある。

マッド中尉は気が付いていないがパイロットよりも弁論の方が才能があったりする。

コーディネイターであるカナードを表彰出来ないにしても彼女の貢献を何らかの形で評価しないと救われた兵士達が暴走して勝手に公表しかねないと主張した。

 

マッド中尉をキモいと思っていた上層部も発言によりカナードの事実上の上司であるザナドゥ代表・クシーを思い出してゾッとした。

 

……アイツならば遣りかねないという認識は末端は兎も角、軍上層部に浸透していた。

現状唯一MSジンに対抗出来ているメビウス開発の功績すらもどうでも良いと考えている。

それを彼らは身をもって知っていた。

 

コーディネイター云々で追求すると煩い、お前らなんか知らないと子供の様に駄々を捏ねる。

実際、子供だから性質が悪い事この上ないクソガキである。

そんなクソガキであるクシーはメビウスやスピアヘッドに関する権利の一切合切を持っていた。

軍部は発展形を作る際にクシーにお伺いを立てなければならない立場であった。

然もクシーに政治的に圧力を掛けるには最低でも大統領に準ずる程度の権力に頼らなければならなかった。

 

……ロゴスからすれば若造で済むかも知れないが、ザナドゥ代表・クシーは軍高官程度ではどうにも出来ない程度の権力があった。

暗殺するにしても無駄に戦力を保持して、本人も生存能力が異常であった。

国の高官達や国連首脳陣が全員死亡したコペルニクスの悲劇で生還したのは最早人外だった。

何度検証しても絶対死んでいた。クシーへの異能生存体としての認識はこれ以上ない程だった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

機密であるがプラントに核ミサイルを放ったあのサザーランド大佐すらクシー関連には触れたくなかった。

コーディネイターを排斥する方針は変えないし、自分の支持基盤で押し通せる。

だが、サザーランド大佐ですらブルーコスモスの盟主であるムルタ・アズラエルに頼らなければならないと思っていた。

 

……アズラエルからすれば現状の舵取りをする為にクシーを排除出来る訳が無かった。

アズラエルは当然だが、ロゴスに今回の件はブルーコスモスの身内が勝手に遣りましたと明かせる訳が無い。

クシー関連においてアズラエルとロゴスは認識にかなりの齟齬があった。

 

ロゴスからすればアズラエルにほぼ真正面から逆らうクシーに見えていた。

実際にはアズラエルはどうやってクシーを引き止めるか必死であった。

 

アズラエルからすれば核を使われたらクシーがキレるのは当然だった。

環境保護という点において一番忌避するのが核である。アズラエルは環境保護の観点からブルーコスモスに加盟していたと考えていた。

因みにアズラエルの認識そのものはクシーの思想だけ見れば完全な誤解でも無かったりする。それ以外では大分違うが。

 

……再構築戦争での核の放射能汚染は酷過ぎた。

以前からクシーは核を仄めかすだけでキレていた。アズラエルが幼少期に初めて彼に会った時からそうだった。

アズラエル側からすればプラントの決戦は宇宙なので核もあり得るという論法で懐柔を考えていた。

その矢先にサザーランド大佐が遣らかしたという認識であった。アズラエルの戦略は初っ端から破綻した。

 

……実際にクシーに通じるかは別としてアズラエル視点では成功の見込みがあった。

プラントよりも地球の方がコーディネイターは4倍以上居るのだから優先すると見積もっていた。

ブルーコスモス・穏健派には地球に居るコーディネイターは別枠で考えている者が多く居たのでアズラエルの認識は常識的だった。

宇宙のバケモノをどうにかしたい、地球で極めて悪質な犯罪者のコーディネイターをどうにかしたい等、穏健派のスタンスは様々だった。

 

宗教が壊滅したからブルーコスモスに移籍した者も多い。多種多様な考えの人間達が所属していた。

その中でもザナドゥは犯罪者のコーディネイターを一部勧誘するが積極的に牢屋にぶち込んでいた。穏健派ではクシーの行為を称賛する者達も居た。

戦争に反対するのは別だが、ザナドゥ代表・クシーはコーディネイターの犯罪者共を駆逐する気概に満ちている。そう見る者も多かった。

ユーラシア連邦のブルーコスモスとは対立しがちな大西洋連邦のブルーコスモス・穏健派ですらザナドゥとクシーを評価する者もそれなりに居た。

 

というか、クシー自ら先陣を切ってガンガン逮捕して行くのである意味では過激派より過激である様にすら見えていた。

尚、クシーは意図的にその様に行動していたが、7割くらいは趣味だった。

犯罪者でも勧誘出来るならしている時点で大分破綻しているが、成果が成果なので誰も違和感を持たなかった。

良くブルーコスモスの過激なテロリストも晒しているが、アズラエルとしても組織の自浄作用として何とか許容出来る範囲だった。

 

アズラエルとしてもコーディネイターの子供に爆弾を括り付けて親の所に送り返す奴らに勝手にブルーコスモスを名乗られて困ってもいた。

そういう人質作戦を遣るなら事前に相談されないとアズラエルとしても有難迷惑だった。

……色々認識に齟齬があったりするが、アズラエルは穏健派への交渉としては真っ当に対処する予定だった。認識の齟齬はクシーが意図的に行っている。

 

アズラエルが居なくなれば今度は本気で会話が成立しない奴だらけになってしまう。

クシー視点では緩衝材としてアズラエルが遥かにマシであった。

ブルーコスモスは最早思想であり、延々と湧いて来るとザナドゥ代表・クシーは察していた。

 

アズラエルは現時点でクシーに死なれるなど、とんでもなかった。

ロゴスの考えと合致しているがアズラエルはそれが分かったとしてブルーコスモスの盟主としてそれは公言出来なかった。

完全に破綻している様に見える組織の盟主などどうなるか分からない。

 

だからこそ、今はサザーランド大佐達の舵取りに奔走していた。

……クシーという劇薬をチラつかせれば多少大人しくなるのだ。

同時にサザーランド大佐の様な連中がアズラエルに伺いを立ててから行動する様に思考を誘導する事が出来た。

 

そんな重要なザナドゥ代表・クシーの暗殺などアズラエルにとって論外である。

 

最悪だが、ブルーコスモスが崩壊するだけなら未だしも地球が滅茶苦茶になる。

アズラエルは地球人としては極めて真っ当な感性を持っていた。

コーディネイターを滅ぼさなければ地球が危ないなら問答無用で核ミサイルのスイッチでも何でも押す。

後にアズラエルが検討する事はあっても今では無かった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

話は落ち込んでいるカナードに戻る。彼女はこの機会にクシー直々の教育を活かしていた。

叩き込まれたいざという時の弁論術により自分の戦功を主張し、救援した敗残兵達からの支持基盤を固めていた。

 

パイロットは軍内では尉官以上である。……つまりは未来のエリートであった。

パイロットから出世して艦長やそれ以上の階級に成る者達は確実に居た。

カナードは傭兵としてのコネクションだけでなく、ザナドゥへ還元出来る人材との人脈を築いていた。

カナードは出来る女であった。副官のメリオルも後方で自慢気にカナードを見つめていた。

 

 

カナードはザナドゥ、クシーに救助される前からスーパーコーディネイターへの劣等感から凄まじい努力をしていた。

クシーが誰かと自分を重ねた事に気が付いた時にはスーパーコーディネイターと決め付けて更なる研鑽を積んでいた。

 

尚、その様に健気なカナードを見ていたベラは努力の方向音痴が面白かったので自らの主に黙っていた。

そんな努力をするならば迫れとベラは思っていた。主従共に結構な畜生であった。

 

 

因みにクシーはカナードを飼い殺しにする様な真似はしたくないと思っていた。

ザナドゥから独立しても良いと思っている。才能は惜しいが、クシー視点ではカナードが流れで入ったのがザナドゥである。

その為にザナドゥとは別組織として傭兵部隊Xの設立を承認していた。

関連組織なのは間違いないが傭兵組織として何時でも独立出来る様になっている。

 

『未知を切り開くという意味でX、傭兵部隊Xと名付けたい』

カナードは当時のクシーにこの様に説明していた。クシーも成る程上手いなと納得した。

カナードは嘘を吐いていなかったが、実はもう一つ別の意味があった。

 

……クシーは『Ξ』又は『Xi』と書く。カナードは『X』iの兵士という意味で付けていた。

クシーもまさか自分の教えた詭弁論理学をカナードに使われるとは思っていなかった。

 

クシーも彼女が此処まで入れ込んでいると気付いていたら流石に対応を考えたが、カナードはそれを直接言わない。

大体はカナードとクシーの横に居る畜生ベラはカナードも直接言えば良いのにと思っていた。

我が主も万能ではない子供だとスナック菓子を食べながらコントを見ている気分で観察していた。

 

 

そんなカナードがどうして落ち込んでいるかはザナドゥの関係者ならば余裕で分かった。

……関係の浅いマッド中尉を初めとした有象無象のカナードちゃん親衛隊は分からなかった。

 

 

「クシー……済まない……」

カナードはクシーに謝罪していた。

プラントへの核攻撃、事案Xを防げなかった挙げ句に何をしたかといえば自分の戦果をひけらかす様な行為である。

 

カナードはクシーに叩き込まれた技術という事を忘れて自分の意地汚さに自己嫌悪していた。

……カナードは誰かに見られているとは思っていない。気付いていないので本気で凹んでいた。

 

 

だが、

「……えっ?あれ、そういう事?ちょっとタイム。脳破壊は慣れているんだ。僕はこんなにブクブク肥えた豚だからね……アハハ……アハ……」

地球連合軍のマッド中尉はカナードの様子から諸事情を察した。

 

……そして、脳が破壊されていた。

マッド中尉としても年頃の女の子なんだし、想い人くらい居るよねとは理性では分かっていた。

 

然し、今まで自分達を導いてくれた姫騎士みたいな少女がガチ泣きで誰かを想って呟く光景を見てしまった。

流石にマッド中尉のこれまでの経験で培われたキャパシティを超えていた。

 

「……マッド中尉……その、何だ、その内良い事あるって。……彼女だとほら、犯罪だし」

カナード親衛隊の仲間はマッド中尉にそう声を掛けていた。

……彼らも幾らかはショックだったが、マッド中尉が脳破壊された光景を見て冷静になっていた。

 

「…………」

ウィッグは何と声を掛ければ良いか分からなかった。いや、マッド中尉は善人である。

 

ウィッグはコーディネイターでもメンタルはナチュラルと変わらないとクシーから聞いていた。

……この様な光景を見ると別の意味で疑ってしまった。

 

マッド中尉を慰めているのは理解出来る。ウィッグは自分の人生の経験値が不足していると考え直した。彼は物事を大分前向きに捉えていた。

 

「……ほら、アンタ達、散りなさい。……散れ!」

メリオルはカナードに集るハエの様にマッド中尉達へ命令した。

最早正規兵と雇われの傭兵の関係を超えた気安さである。命懸けの地獄を体験した者同士だというのもあった。

 

メリオルはカナードが落ち込んでいるとクシーが悲しむと発破を掛ける為に思案していた。

一番美味しい所は譲らない。……メリオルは副官としての地位を最大限活かしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。